本栖高校野外活動サークル△   作:園田那乃多

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ついでに評価とここすきもしてくれると嬉しすぎて死にます。




十七話

『完成ーー!!』

 

四人の前に二つのテントが並ぶ。

 

「コウくんのテント一番乗りー! わはーーーっ!」

「あたしもあたしもー!!」

 

コウタロウのテント設営に当たり難航したが、付属している説明書を見ながら何とか完成した。

物珍しさもあってか、早速なでしこと千明がテントの中に突っ込んでいく。なお主はまだ足を踏み入れてない模様。

持ち主を差し置いて足を踏み入れた二人は、テント内で大の字になったり転がったりとはしゃぎまくる。

 

残る二人はその様子をレジャーシートに並んで腰を下ろしながら見守っていた。

 

「ちょっと手間取ったな。夕日が出てる」

「せやね。まー、コウタロウくん家で一回練習してればスムーズやったけどなー?」

 

にやにやと皮肉気にあおいが語り掛ける。

うっ、と苦い顔をしながら答えるコウタロウ。

 

「テントなんて全部同じだろうと思ってたから……すまん」

「えーよえーよ。責める気なんて無いし。それより、しょんぼりコウタロウが見れてラッキーやわ」

「くっ、なでしこにしか見せたことないのに……!」

「なら私はレア顔見た二号さんやな」

「そうだけれども……言い方よ」

「え? 言い方??」

「分かってなかったのか……」

 

二号さんとかお二号とか、色々誤解を招く言い方にドキリとするコウタロウ。しかも別になでしこが正妻ではないし。

が、何のことか本当に分からないといった表情で小首をかしげるあおいを見て、安堵の(?)ため息が出た。

 

 

と、そこに作務衣のナイスミドル管理人が大きめのウォーターサーバーを抱えて現れる。

 

「水はここに置けばいいかい?」

 

林間キャンプ場などでは、共用の水道が通っていないことがある。

そのため必要に応じてこうして管理人が運んでくれるのだ。

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

並んで座る二人と、二つのテントを見て然り顔の管理人。

 

「カップルで来たのかい。仲いいねぇ」

「いやちが――」

「そうなんですー! 私の友達も一緒に」

 

コウタロウが普通に訂正しようとした瞬間に、がしっと腕を組まれ二の句が遮られる。

あおいの意味不明な行動に、眉と顔を寄せて話しかけた。

 

(おいどうしたんだよいきなり)

(よう考えてみコウタロウくん。うちらの男女比ぶっ壊れてんで? 男一人と女三人って変に邪推されるより、カップル一組とその友達って思ってもらった方がええやん?)

(た、確かに……)

 

思わずコウタロウが納得しかけ、でもそれなら別になでしこでいいよなと思う間に、管理人の声に反応した千明となでしこがぱたぱたとテントから出てくる。

組んでいた腕がぱっと離された。

 

「あ、水ありがとうございます! ここにお願いします!」

「わあ、ここから水使うんだー」

「うん、よいしょ…。これが、飲料水と火消し用のじょうろね」

 

管理人は転がっていた膝丈ほどの丸太に飲料水のサーバーを置く。高低差ができたことにより、コックをひねれば水が入れ易くなった。

 

「焚き火は寝る前に必ず水をかけて完全に消すこと。直ぐそこが森だから危ないからね」

 

簡単な注意事項の説明に、ふむと頷く四人。

ガイダンスは続き、薪の説明へ。

薪置き場まで移動していく一行。

 

「薪は自由に使ってもらって構わないけど……」

 

(やっほう! 使い放題だぜー!)

(全く気前のいい伊達男、略してマダオだな)

(サングラスも掛けてたら完ぺきだったね!)

(作務衣は割と惜しいよな。衣装的に)

(マダオいじりは流石に管理人さんが可哀そうや。そろそろやめたげて…)

 

無料の大量の薪を前にはしゃぐ四人。特に千明となでしこ。

 

「……キャンプファイヤーじゃないから丁寧に焚き火してね」

『はい……』

 

マジでダンディな大人の男、略してマダオに注意を受けてしまった一行だった。

 

 

 

 

その他もろもろの注意事項を説明し終えたマダオはリビングスペースに戻っていった。

 

どのくらい薪が必要か分からないので、一行は取り合えず薪を一抱え分コウタロウに持たせてテントの場所へ戻る。

 

「なあ、管理人さん去り際に意味深な視線送って来てたけど、どういうことだ?」

「私も思ったー。なんか、コウくんとあおいちゃんの方見てたよ?」

「それはな。『テントの中でも薪のとこでもはしゃいでた二人をしっかり見とけよ』って意味の視線やで」

「「うっ…」」

 

心当たりのある二人は声を詰まらせる。

まあ実際は先のあおいの発言が原因だろうが、何となく空気を読んでコウタロウもそれっぽいことを言っておく。

 

「……俺らのしっかり者オーラがそうさせたんだろうな」

「オイ待て。お前はどっちかと言えばこちら側だろ??」

「裏切るなんてひどいわコウくん! そんな子に育てた覚えはありませんよ!」

「なでしこは誰目線なんだよ」

 

千明からしたらコウタロウは基本ボケキャラという認識なのか、納得がいかない様子。

しかし、彼がはっちゃけるのは気心の知れた相手であることが多い。年上相手やあまり知らない者相手では割と常識人である。外面がいいとも言う。

 

「ちょうどテント着いたし、早速火起こししよ?」

「お、そうだな」

 

コウタロウが抱えていた薪を地面に下ろした。

薪を一本手に取り感慨深げにつぶやく。

 

「火起こしかー。なでしこ、小学校の林間学校以来だな」

「かわな野外活動センター行ったよねぇ……」

「地元民にしか分からんようなネタはやめろ」

「なんや、二人は火おこしの経験あるん?」

 

確かにキャンプの経験は無い二人だが、林間学校やバーベキューで火起こしや飯盒炊飯などの経験はあった。小学生時代をしみじみと思い出しながら二人が答える。

 

「ふっ、火起こしのコウくんなんて呼ばれていた時期もあったな……」

「なんやそれ」

「お前やっぱこっち側だろ」

 

コウタロウの要領を得ない説明では分からんと、千明とあおいの二人はなでしこを向いた。

 

「あのね、私たちの班、コウくんが火を担当して、私が料理を担当したんだけどね。いちばん早くカレーを作り終わったんだー」

「へー、それは凄いな」

「で、どのくらい早かったんだ?」

「んー……、私たちが食べ終わったころに、他の皆の火が点いてたかなあ?」

「多分そんな感じだった」

「「ええ……」」

 

それカレーちゃんと火通ってたかとツッコみたくなる二人。

何のことは無く、コウタロウが鉈で薪をスライスして火をつけやすくしただけである(なおスピード)。なでしこはそれを見越して早め早めで下ごしらえをしただけだ(なお信頼感)。

他の班員は見る間に仕上がっていく薪とカレーの具材と二人の連携を見ているだけだったという。

 

「そんな訳で、火起こしならお任せあれって訳だ」

 

よほど自信があるのか、そう言ってドヤ顔コウタロウがサムズアップ。

 

「あ、でも今日は着火剤あるから必要ないかも」

「えっ」

「鉈も無いしなー」

「えっ……」

 

着火剤があればライターで火をつけるだけでいいし、鉈が無ければ薪を割ることは出来ない。

 

「俺の存在意義……」

「こ、コウくん!?」

 

と膝から崩れ落ちネガティブ入ってしまうコウタロウに、慌ててなでしこがフォローに入る。

別にいつものことだと、そんな二人は放っておいて千明は何やら薪に細工を始める。

 

「あき、何やっとるんそれ?」

「ああ。せっかくだしウッドキャンドルやろうと思って」

「ウッドキャンドル?」

 

ウッドキャンドルとは、輪切りにした丸太に切り込みを入れ着火剤を詰めて、蝋燭のように燃やす焚き火の方法だ。『スウェーデントーチ』や『木こりのろうそく』とも呼ばれる。

 

「薪をこうやってまとめて、針金でぐるぐる巻くだろー。そして、中に着火剤を入れれば、ほれ」

「ほんまや! それっぽいそれっぽい」

 

確かに見た目はほとんどそのものだ。

むしろ、薪になっているおかげで空気の通りがいいため良く燃えるかもしれない。流石野クルの部長なだけある。あおいはちょっと見直した。

 

「あとは着火剤に火を……ってあれ?」

「どしたん?」

 

ポケットの中身をごそごそやり出す千明を不審がって、あおいが訊ねる。

冷汗を流しながら千明が答える。

 

「ライターわすれちった」

「ええ……」

 

まあ最悪ライターは無くても何とかなる。他のキャンパーに借りるなり、カセットコンロの火を移すなりと方法は取れる。

が、肝心なときに欲しいものが無いげんなり感があおいを襲った。上がった千明の評価がフラットに戻る。

 

「「お困りのようだね(な)二人とも!!」」

 

二人の様子を見ていたなでしことコウタロウが、この時を待ってたと言わんばかりの表情で戻って来た。何故かジョジョ立ちで。

二人は生粋のジャンプっ子であった。

 

「なんだ二人ともそのポーズは」

 

ゴゴゴゴ…と効果音が付きそうなそのポーズに、思わす千明がなんだと聞いてしまう。

欲しいセリフが聞けたと、浜松コンビが頷き合う。

 

「なんだかんだと聞かれたら!」

「答えてあげるが世の情け!」

「あっこれ長くなる奴や」

「…せ、世界の破壊をふせぐためっ」

「…世界の平和を守るため」

「愛と真実の悪を貫く!」

「ラブリーチャーミーな敵役」

「なでしこ!」

「コウタロウ!」

「キャンプ場をかけるわれらが野クルの二人にはっ」

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

「「……」」

「「……」」

 

少しの間沈黙が下りる。

何かが足りない。最後の締め的な何かが。

例えるならそう、鍋をやったのに最後雑炊にしないで終わるだとか、こってりしたものを食べた後にアイスを食べないで終わるとか、そういう何となく後味の悪い感じが場を支配していた。

 

「……なでしこ、これあれだ。三人いないと駄目だやっぱ」

「そういえば今はアヤちゃんいないんだったね……」

 

(なあ、あの口ぶりだと静岡には最後の「にゃーんてにゃ」だけを言う奴がいたってのか……?)

(流石魔境静岡やな……)

 

山梨っ子の二人の中で、静岡がどんどん魔境と化していってしまっている。実際はちょっとしかヤバくないので安心してほしい。

 

「なんか変な空気になっちゃったし、もうちゃっちゃと火点けるか」

「わあ、私あれ見るの久しぶりだよー」

 

そう言ってスタスタウッドキャンドルに近づいていくコウタロウ。

その一挙手一投足を、ワクワクした目で見守るなでしこ。

 

そして。

 

バチィッッッ!!!

 

「「!!?」」

 

焚き木で木が一際爆ぜるような音が聞こえたかと思うと、着火剤には火がついていた。

思わずわが目を疑う千明とあおい。

 

「相変わらずすごいねー」

「多分だけど世界でこれ出来るの俺だけだと思う」

「……は? えっ?」

「コウタロウくん、今何やったん……? 私には指パッチンで火が付いたように見えたんやけど……」

 

千明は目の前で起きた出来事に理解が追い付かず、あおいも自分が見た光景が信じられなくて、恐る恐る訊ねてみる。

 

「「指パッチンだよ」」

 

まるで当たり前のことを言っているかのような二人の表情。

 

「コウくん指パッチンで火が起こせるんだよ」

「数ある特技の一つだな。全く使う機会無いけど」

「「ええ……」」

 

普通のことみたいに言うが、普通指パッチンで火は点かない。そう普通は。……普通?

あれ、とふと二人は思う。

 

こいつ(コウタロウ)、最初から普通じゃなかったと。

普通の人間は75kmを自転車と同速で走り続けられないし、車で30分かかる距離を自転車で15分では移動できない。今まで実際その所業を目の当たりにしたことは無かったが、こういうことなのかな、と。

 

そこまで思い返して、考える。

 

コウタロウならまあ……あり得るか。

 

「あー、そう思えば納得やわ」

「確かにな。なんだかんだ火も点いたし…って、つまりコウタロウいればもうライター要らねえじゃん! 便利!」

「これからはライター(コウタロウ)やね」

「コウくんなんでもできるもんね」

「人をびっくり人間扱いするな」

「いやお前は十分びっくり人間だろ」

 

その時は突然やって来た。

 

ばかっ……

 

『あっ……』

 

綺麗に四方に倒れる燃えた薪。

幸い四人とも少し離れた場所でしゃべっていたため、誰にも被害は無い。

 

原因は巻いていた針金が細いアルミ製だったこと。

本来丸太でやるウッドキャンドルは、その上に鍋を乗せることもできるのだが、ここでそれをやっていたらあわや大惨事になるところだった。夕食が無くなる的な意味で。

 

辺りには、燃え続ける薪と、微妙な空気だけが残った。

 

 

 

 

 

へやキャン△

 

 

【犬山、頼みがあるんだが】

【どしたん?】

【通学の電車でさ、とある人物から俺の上着を受け取って欲しいんだよ】

【ええけど……、どういうこと?】

【深くは聞かないでくれ……】

【まあいいわ。で、誰から貰えばいいの?】

【ああ、その人物の特徴はだな。首後ろのホクロから――】

 

 

数日後。

 

通学電車。

 

(……あの子やな)

 

コウタロウくんから頼まれた女の子の特徴に合致した子はすぐに見つかった。

というか、うちの学校の制服じゃない子がうちの学校の男性生徒の制服を抱えていれば嫌でも分かる。

 

きょろきょろと辺りを見回している彼女。きっとコウタロウくんを探しているのだろうが、残念ながら彼は最近なぜか電車の時間をずらしてしまったためこの電車にはいない。

 

(まあどんな理由があってこんなよう分からん事態になったのかは知らんけど、取り合えず制服は貰ってこないとまたコウタロウくんが先生に怒られるし)

 

世話の焼ける人である。

さっさと声かけて貰ってこなきゃ。

 

「……あの」

「っ!!?」

 

私が声をかけると、相手の少女は目を見開き驚愕の表情を浮かべこちらを見てくる。どことなく睨んできてるようで、ちょっと怖い。

……何かしてしまったのだろうか。

 

「あの、その制服、返してもらっていいですか?」

「!!?!? か、返しってって、あなたのじゃないですよね……?」

「まあそうなんやけど、持ち主に頼まれて」

「……やっぱり、そうだったんだ」

 

きっ、と睨んだかと思うと、すぐに肩を落としてしょんぼりとした様子になる。

情緒が安定しない子だなあとぼんやり思っていると、手に軽い重さの感触。

 

「……これ。守矢さんにお返しします。本当は、直接渡したかったけど」

「あれ、名前知っとったんや」

「……刺繡入ってますし。彼、一人だけ上着着てなかったし。私にやさしくしてくれるの、あの人だけだし……」

 

だんだん言葉はしりすぼみになっていくが、その表情や仕草から何となく察せられた。

 

(あー、なるほどなぁー……。そういう……)

 

何があったかは分からないけど、あのすけこましのことだから、まあそういうことなのだろう。何があったのかは知らないが。教えてくれないし。

 

「こんなかわいい彼女さんがいるのに、私、舞い上がっちゃってばかみたい」

「…え? 彼女?」

 

聞き覚えのない単語に思わず聞き返してしまう。別に私は彼と付き合ってない。

が、相手には聞こえなかったようで。

 

「それでは確かに渡しましたので。失礼します」

「あ、ちょっと……」

 

折よく電車のドアが開き、降りて行ってしまう彼女。

 

……彼女が誤解しているのは確実だ。

 

「どうしよ……」

 

 

 

 

学校。

 

「コウタロウくん、これ」

「おー!! ありがとな犬山!」

「いや、うん……なんかごめん」

「え? なにが??」

「何でもない……」

「ん、なんか内ポケに入ってんな」

「!? な、何が!?」

「クローバーの栞だ。…何故」

「……」

 

 

 

 

 

クローバーの花言葉:私のものになって

 

 

 

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