本栖高校野外活動サークル△   作:園田那乃多

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今年のゴールデンウィークは雨ばっかりですね。ほんとじめじめしてて洗濯物干せないし外出たくなくなるし、嫌になります。


二十二話

(……斉藤、あの件はどうなった?)

(フフフ。抜かりなく、だよ)

(流石過ぎる! ありがとう!)

(どういたしましてー)

 

そんな不穏な会話がコウタロウと恵那の間で交わされる。

何のことは無い。お土産の件である。

 

かねてよりリンからのお土産に対しその正気を疑っていたコウタロウだったが、先日の【お土産覚えとけよ】発言を受け、これはまずいと恵那に助けを求めていた。

リンとしても本気で変なものをあげるつもりは無かったが、いつも通りでいいかくらいの気持ちでいた。しかしそこに恵那からのメッセージ【お揃いのお守りとかどう?】である。リンの決断は早かった。

 

今回お土産がきちんとお土産しているのは、恵那のおかげなのだ。……もっとも、今までのお土産もこれ以上ないくらいの「お土産」ではあるが。

 

なお、コウタロウは具体的な品物は分かっていない。前と同じようなものではないとだけ聞いていた。

 

「それ。まだなでしこちゃんに渡してないの?」

 

カウンター越しに恵那がリンのカバンを見て呟く。

リンと恵那はクラスが同じだし、二人の仲なので事情は把握している。

 

「ん……。意外と会うタイミング無くて」

 

どこかで会うだろうと思っていたが、そうならずに結局放課後である。

何となく前髪をいじりながらリンが言った。

 

「コウタロウくん、なでしこちゃん部室にまだいた?」

「あー、どうだろ。先帰ってって言って来たからな。まあいるとはと思うけど……」

「だってリン、行ってくれば?」

「あそこはノリが苦手」

「うん知ってる」

 

その辺りが勧誘を断った理由でもある。ノリが苦手というか、苦手なのはほぼ千明なのだが。お労しや千明……。

 

「あ、そだ守矢。はいこれ」

 

まるで今思い出したかのように、手でいじっていたお守りを無造作に手渡す。

リンからのお土産は、いつもだいたいこんな感じで手渡される。そして、その中身を見たコウタロウが微妙な顔をするまでがセットである。

しかし、今回は違った。

 

「お。諏訪大社のお守りか。しかも交通安全」

「……いやなら返してよ」

「んなわけ。ありがとな、志摩。大事にする」

「…………ん」

 

こっ恥ずかしくてふいとそっぽを向くリンと、初めて実用的な(?)お土産を貰えて感動しているコウタロウ。早速バイクのカギに付けようと決めた。

恵那はリンの様子を見てひたすらニヤニヤしている。奥手な親友のフォローをするのが楽しみなのだ。人の恋路は応援してなんぼである。

 

「守矢さ、ついでにこれ、なでしこに渡してきてよ」

「「いやいやいや、志摩(リン)が渡してあげなよ」」

 

そのままの流れでずいと生チョコまんじゅうを差し出してくるリンに、他二人の声が重なる。

 

「折角長野に行って買って来たんだから」

 

と恵那。

 

「志摩が直接渡した方が喜ぶって。ソースは俺」

 

とコウタロウ。

 

二人の意見に、むうと考え込むリン。

直接渡した方がいいのは分かる。が、何となく自分から会いに行くのは恥ずかしい。

うむむと唸り、リンが出した答えは、

 

「今年中には渡す」

「「いや賞味期限」」

 

生菓子だろと息の合ったツッコミが入る。

……本当に相性がいいのはコウタロウと恵那なのかもしれない。

 

「じゃ、私そろそろ帰るよ」

 

空気が弛緩し始めた気を見計らって、恵那が席を立つ。

このままダラダラしていれば、帰ると言い出しづらいし、そんな空気にはならなかっただろう。彼女はこういった空気を読むのもうまい。

 

「うい」

「またな、斉藤」

「うん、じゃあね二人とも」

 

そう言って扉に吸い込まれていく恵那。

と、言い残したことがあるのか、最後に顔だけ出して二人に向いた。

 

「そうだ、明日のお昼はそれ使ってここで焼き肉やろうね。お肉買ってくるから」

「大惨事だわ」

「やるなら校庭行こうな」

「…そういう問題でもないだろ」

「えー、学校で焼き肉とか憧れないか?」

「わかるわかるー」

「お前ら割と思考回路似てるよな……」

 

二人の反応に、くすりと微笑む恵那。

今度こそ最後に、お土産を早く渡すようにリンに告げると、去って行った。

 

残された二人。

後には、一人分抜けた熱量の残滓が漂っているようで、しかしどことなく寂寥感がある。

何とはなしに沈黙が下りる中。

 

「さて、それじゃ俺らも帰るか」

「うん。この本だけ片してくるから、ちょっと待ってて」

 

りょうかーいと気の抜けた返事を背中で聞きながら、リンは数冊本を抱えて図書室の奥の棚へと進んでいく。

今日は久しぶりに二人で帰れそうだと、その足取りは軽かった。

 

(お土産、日持ちするやつにすればよかったな。クッキーとか――

――な”っ!?」

 

人が倒れている。

 

倒れている女子生徒の下半身を発見したリンは、驚愕のあまり変な声が漏れた。思わず持っていた本を取り落としそうになる。

 

よく見れば別に切断されているわけはなく、上半身は本棚の陰になっていて見えないだけだ。まあこの高校でそんな凄惨な事件が起こるはずもないのだが。

 

恐る恐る近づいてみる。

 

(……なでしこ)

 

それは寝ているなでしこだった。どうしてこんな所に? 心配させやがって。というか、なでしこがいたら二人で帰れなくなるのでは?

 

「……」

「zzz……」

 

自身の様々な想いとは裏腹にぐーすか眠りこける彼女をジトッと見つめ、

 

「ふがっ」

 

げしりと蹴づいた。

 

 

 

 

「いやー、皆が楽しそうに話してたからなんか入っていけなくて……」

 

そういってえへへと笑うなでしこ。

カウンターの定位置にて、3人が膝を寄せている。

先ほどまで帰る雰囲気だったが、なでしこの登場によりそれは霧散していた。ほがらかなでしこである。

 

「コウくん、さっきは何話してたの?」

「……」

「コウくん?」

 

そう訊ねられるが、コウタロウはリンを見つめるばかり。

 

(……渡せってことか)

 

アイコンタクトで通じ合ったリンは、はあと一つため息をつき、カバンからお土産を取り出した。

 

「なでしこ。これ、長野のお土産」

 

少し恥ずかしそうに頬を染め、生チョコまんじゅうを手渡す。

これにはにっこり顔のコウタロウ。

 

「えっ! おみやげ!? 私に!?」

「生菓子だから早く食べなよ」

 

ふおおおおとあからさまに喜ぶなでしこ。

これにはコウタロウも満面の笑み。

 

「ありがとうリンちゃん! 大事にするよー!!」

「いや食えよ」

 

お守りとかじゃないんだからさ。心中ツッコむリン。

 

「見て見てコウくん! リンちゃんからお土産もらっちゃったー!!」

「よかったなぁ」

「うん!」

 

コウタロウは横でずっと見ていたし、なんならずっと前からお土産について知っていたが、それでもなでしこは嬉しそうに目を輝かせていた。

 

その想像を寸分たがわぬリアクションに、リンは頬が緩む。……何となくコウタロウの気持ちが分かった気がする。

 

一方そのコウタロウは、常時頬が緩みっぱなしだった。

 

「うわー、おいしそうだなぁ……。リンちゃん、ちょっと食べてみていい!?」

「え? うん」

 

リンがそう答えるや否や、早速開封にかかる。

そして個装を剥がし、一口頬張るなでしこ。

 

「ん~~~~~~っ!!」

 

そのおいしさに感動する中、ふと見た視線の先に気になるものが。

 

「む、なにこれ? ミニ賽銭箱?」

「お前もか」

「見えるよなーそれ。分かる分かる」

 

 

以下同じ流れで本来の用途を教える。

 

 

「へぇー! これで料理とか焼き肉とかできるんだ……!」

「あと焚き火もな」

「焚き火も!」

 

この辺りの思考回路はやはりコウタロウと似ているようで、まずは食べ物関連のものであるとインプットされたようだ。間違ってはいない。

 

「焼き肉とか聞こえたけど、このことだったんだね。確かに火の国のやつみたい」

「こんな感じので焼いてたよな」

「浜松民の中では最早定番なのかそれ……」

 

うんうんと頷き合うコウタロウとなでしこに、呆れ顔のリン。

そこまで焼き肉と言うならと、ある提案をしてみる。

 

「あのさ、それで今度肉焼いてみる?」

「ここ(図書室)でか?」

「斉藤の言ったことは忘れろ」

 

余計な茶々が入ったが、なでしこは元気よくうなずいた。

 

「うん! やる!! やろうよ、焼き肉キャンプ!!」

「あ、いやキャンプという訳じゃ……」

 

流石に図書室でやったりはしないが、どこか焚き火ができる場所でデイキャンプなりピクニックなりと思っていたリン。

その言葉はなでしこによりあえなく遮られる。

 

「そうだ!! リンちゃん今週の土日ひま!?」

「まあバイトは無いけど……」

「今度は私がいいキャンプ場探してみるよ! 野クルの名にかけて!!」

 

目を輝かせて、そう決意するなでしこ。

彼女の中ではもう決定事項のようで、さっそくがんばるぞーと気合を入れている。

 

(もうすぐ期末試験だって分かってんのかな……)

 

二週間後はもう期末試験である。忘れているのか自信があるのか、心配する様子を見せず何の肉にしようかなとうきうき顔で悩みだすなでしこを見ていると、リンの中で諸々の心配が霧散していく。

 

(まあ、いいか)

 

と、先ほどからスケジュール帳を開いて固まっているコウタロウが目に入る。

そう言えば、彼は参加するのだろうか? ……え? 参加するの? 一緒に?

 

(よ、よくない可能性でてきたかも……)

 

「もちろんコウくんは参加だよ? けってーい!」

「まってなでしこ心の準備させて……!」

 

スケジュール帳の日曜の欄には、赤文字で「バイト9時~17時」の文字が映える。

さわがしい二人をよそに、コウタロウはスケジュール帳をぱたりと閉じた。

 

「………………店長に相談してみっかぁ」

 

 

 

 

 

へやキャン△

 

【店長。今週の日曜休ませてください】

【無理! その日こないだ入ったばっかの子と守矢君だけだから絶対無理!】

【ちょっと、日曜の最繁期にバイト二人に任せるとか大丈夫なんですか?】

【大丈夫よ。うちお客さんとか殆どゼブラに吸われて来ないし。いざとなったら薬剤師の方いるし】

【でももう一人は新人さんなんでしょ? 会ったことないし。それは流石に駄目じゃないですか? 駄目に決まってる】

【何としてでも休みたいという意思を感じるわね……。大丈夫よ、守矢君いるし何とかなるなる! ……休ませないわよ?】

【ぐぐぐ……わかりました】

【よろしくねん】

 

スタンプが続いて、会話が途切れる。

暗くなったスマホの画面には、顔をしかめた自分の顔が映っていた。

 

「OH……。どうしようキャンプ行けねえじゃん」

 

だが、こればっかりは仕方なしだ。死ぬほど無念だが、なでしこと志摩に残念だったとお祈りメールを送ることに。

 

と、ぴこんとそれぞれ別の着信が入る。

 

「ん……。大垣と犬山か」

 

【聞いたぞお前バイク乗ってるんだって? 土曜暇ならあたしをキャンプ場に連れてけー!!(下見)】

【土曜日にあきがキャンプ場の下見に行く言うてるんやけど、もしよかったら私のシフト終わったらそこ連れてってくれへん? バイクの後ろ乗りたーい】

 

「ええ……」

 

どちらを選んでも角が立つんじゃないのかこれ……?

助けてなでしこ……。

 

 

 

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