本栖高校野外活動サークル△   作:園田那乃多

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ゆるキャンSS界隈が活気づいてきてますね。嬉しい限りです(満面の笑み)






二十四話

 

時刻は夕方。

だんだんと日が沈みかけ、湖畔にも暖色の色が落ち始めた頃。

着火剤に火がつかず難航するリンに、なでしこが隣のキャンパーを呼びに行ったのと同時刻。

 

二輪免許を持つ者は誰もが教習所で聞いた重厚なエンジン音が、四尾連湖キャンプ場の駐車場で止まった。

 

「ふいー、着いた着いた」

 

ヘルメットを取って現れたのは、コウタロウ。

親戚から譲り受けたホンダの名車、CB400SFから降り、そのまま湖畔まで移動する。

 

「なでしこ達のテントは…あれだな」

 

遥か前方を見て友人たちのキャンプサイトを特定すると、いたずらな笑みを受けべて歩きだした。

 

 

 

 

そのころ対岸では。

 

「むむむ……。着火剤全部使ったのに全然つかん……」

 

リンが眉間にしわを寄せて、中々ついてくれない着火剤と炭を睨みつけていた。

動画だと簡単に出来ているのに、実際やってみると全く思い通りに行かないなんてよくあること。それも初めて使うものであれば尚更である。

 

と、そんな風にずもももも…と負のオーラがにじみ出るリンに近づく影が一つ。

 

「動画とかだとすぐついてるのになぜ――」

「だーれだ!」

「わひゃうっ!!?」

 

聞き覚えのある声と共に、唐突に自身の視界が何か人肌の様なもので真っ暗になった。

思わず変な声が出て、手に持っていたコンパクト焚き火グリルを取り落としてしまう。

 

その声の人物に心当たりをつけつつ、いやでもまさかとは思い(違ったら違ったでそれこそ事案だが)、恐る恐る背後の人間の名前を呼ぶリン。

 

「…も、守矢?」

「……ファイナル、アンサー?」

 

あーこの声と態度で確信した。守矢で間違いない。

安心と共に、強張っていた体から力が抜ける。そして急に始まったミリオネアごっこ。

 

ため息交じりに付き合ってやることにする。

 

「ファイナルアンサー」

「ライフラインを使うなら今ですよ?」

「使わんし使ったとしてどうやるんだよ。オーディエンスいないしそもそも選択肢ないし電話しても伝わらんから意味無いし! 守矢コウタロウでファイナルアンサー」

「っ~~~~……、正解!」

 

長い溜めと共に正解を告げられると、視界が明るくなる。

 

ジト目と共に振り返れば、いたずらが成功した子供のように無邪気に笑うコウタロウの姿があった。

その視線が既に物語っていたのか、リンが何か言う前にコウタロウが口を開く。

 

「サプライズで来ましたー。びっくりした?」

「急に目隠しされたらびっくりするでしょ、驚かせないでよほんと……」

 

ほうっと胸をなでおろすリン。

ともあれ、相手がコウタロウでよかった。不審者であったら恐らく抵抗する間もなく事件になっていただろう。まあ誘拐する前にだーれだをしてくる不審者がいるとも思えないが。

 

「で、何してたんだ? 落ちてるそれから察するに、火熾しの最中か?」

 

リンが取りこぼしたコンパクト焚き火グリルを指さしてコウタロウが訊ねる。

 

「まあそんなとこ」

 

正確には、火熾ししようとして全くつかずに途方に暮れていた最中なのだが、何となくコウタロウの前で正直に白状するのが躊躇われて、リンは少し強がった。

へえと感心しながら、リンの周囲と焚き火グリルの中を覗き込んでコウタロウ。

 

「この賽銭箱使う時は着火剤要らないんだな。こないだの時は使ったけど、使わないタイプもあるのか」

「うっ……」

 

コンパクト焚き火グリルを賽銭箱呼ばわりしていることはさておき、早速虚勢がばれそうな気配に思わずどもる。着火剤が要らないシーンなんてほぼ無い。

 

どう言い繕ったものかリンが思考を巡らせていると、

 

「リンちゃん! ベテランさん呼んできt――コウくんっ!!?」

「ど、どうも、隣の者です」

「」

 

誤魔化しが通用しない状況に王手が掛かり、リンは白目をむいた。

 

 

 

 

「なるほど。炭に火がうまくつかなかったんだ?」

「…………はい」

「ぜ、全然よくあることだよ! だから気にしないで!?」

 

結局コウタロウに火がうまくつけられなかったことがばれてしまい、凹むリン。

 

そんな様子を見て火が熾せなかったのがそんなにショックだったのかと、慌ててフォローを入れる隣人キャンパー。黒髪をショートカットにしており男性的な見た目をしているが女性である。名を鳥羽涼子という。

流石ベテランだけあって、コンパクト焚き火グリルの炭を見聞すると、直ぐに火がつかない原因が判明する。

 

「チクワ炭使ったんだね。この備長炭は普通の炭より火がつき難いんだよ」

 

備長炭は日本最高峰の炭と呼ばれるだけあって、炭の密度が高く火がつきにくい。その反面、一度火がつけば長時間安定して燃え続ける。他にも、浄水効果、空気清浄効果、調湿効果、消臭効果、マイナスイオン効果、遠赤外線放出効果、電磁波吸収効果がある。

なんだそのてんこ盛り効果は。後半はいらんだろ……。

 

ちょっと待っててと言い残し、涼子は自身のテントの方に走って行く。

 

「まあまあ、火がつきづらい炭っぽいし、しゃーなしだ。気にすんなよ」

「そうだよ! 私なんか普通の炭でも火熾しできないもん!」

 

涼子と同じく火が熾せなかったことで凹んでいると思っている二人が落ち込むリンを励ます。実際はちょっと違うのだが、コウタロウは理解していない様子。

考えてみれば、本人が分かってないならそういうことにしておいた方がいいと思い直す。

 

リンの復活は早かった。

 

「うん。これは仕方ない。だって初めて使うやつだし。しょーがない」

「お、おうともさ!」

「そうだよ仕方ないよ!」

 

とここで、涼子が何やら手に持って戻って来た。

 

「お待たせ、これ使えば簡単に火がつくから」

 

そう言って取り出したのは、成形炭。

おが屑や炭の粉末を固めた炭で、ライターやコウタロウの指パッチンで簡単に火がつく。火持ちは流石に備長炭には及ばないが、成形炭のみでのバーベキューでも十分である。そして安い。

 

早速リンの焚き火グリルに成形炭を置き、ガス式のチャッカマンで火をつける。

 

「ホントだ! すぐついちゃったよ」

「確かに。しかし、このタイプは流石に俺じゃ火は点かんな……」

「俺じゃ、ってどういうこと守矢?」

「あとで見せたげる」

「……?」

 

言葉通りにあっという間に火が燃え移り、三人から感嘆の声が漏れる。

 

「しばらくすると…ああ、こんな風に全体が赤くなるから、火ばさみで砕いてまんべんなく広げる。あとはその上にこの備長炭を並べて、火がつくのを待つだけだよ」

 

打って変わってスムーズに行われる火熾しに、身を乗り出して見入ってしまう三人。

涼子はそんな初々しい様子に微笑みながら、火がつくまでの間三人に話しかける。

 

「三人でキャンプしてるの? 中…学生かな?」

「そうですっ!」

「いや高校生です」

「虚をついて小学生です」

「いやそれは無理があるだろ」

「あ、あはは……」

 

三人が三人ともてんでばらばらのことを言っている状態に、思わず苦笑い。

 

「あの、本当に高校生です」

「へえ、この季節に珍しいね」

「キャンプって夏のイメージですよね」

「そうそう。それに、冬用の装備ってどうしても高くなっちゃうし」

「でもっ、私、冬キャン大好きです!」

「冬にしかしたことないけどな」

「あはは、分かるよ……っと、火がついたね」

 

と、成形炭の中心部の空洞を火が通る独特の音をあげながら、コンパクト焚き火グリル内ではきちんと火が熾っていた。

 

「ほんとだついたー!」

「一時はどうなることかと……」

「あの、本当にありがとうございますっ」

 

リンに続いて、三人がぺこりと頭を下げる。

あははと笑いながら、お礼を受け取る涼子。

 

「じゃあ、これで。……三人で仲良くキャンプ楽しんで」

 

そう言って笑いかけると、手を振って自分のテントに戻って行った。

そのクールな様と、仕事の出来を感慨深げに振り返る三人。

 

「出来る男だ……」

「必殺火熾し人だねぇ」

「え? 女の人だったろ」

「「え?」」

 

涼子の姿や態度から、見事に男性だと勘違いしていた女子二人が信じられないといった顔でコウタロウを見つめる。

 

「いやいや、男の人でしょ。何言ってんの守矢」

「そうだよ! だってカップルで来てたんだよ?」

「いーや、あれは女の人だったね。俺のセンサーがそう言ってる。こないだトイレのスリッパに反応して絶望しかけたけど、まだまだ大丈夫なはずだから間違いない」

「何言ってんだこいつ」

 

リンのツッコミが飛ぶ。

 

「ま、訳分からんこと言ってる守矢は置いといて、早速肉焼くか」

「絶対女の人なのに……!」

「うん、焼こーーっ!!」

「ていうかさっき何で中学生って噓ついたんだ?」

「若く見られて嬉しかったんじゃよ」

「出たな田舎のおばあちゃん」

 

リンががさごそとスーパーの袋から串物のパックを取り出したのを見計らって、コウタロウは席を立ちあがる。

 

本来彼は、あおいと千明とキャンプ場の下見に行った帰り(二人は女子同士一緒に帰ってしまった)にちょうどいいからと顔を出しただけに過ぎない。もちろん泊まることはしないし、せっかく二人が買い込んだ食料を自身に割くことも無いと思っていた。

 

「じゃ、俺はそろそろ帰るわ。…二人とも楽しんでな」

 

彼としても若干名残惜しそうにそう言う。

が、そうは二人の問屋が卸さなかった。

 

「えー、コウくんも食べていきなよぅ」

「そうだよ。せっかく来てくれたんだし。なでしこが冗談みたいにたくさん買ってたから、量のことは心配しないで」

 

なでしこがコウタロウの腕を引き、リンもこちらに手招きをする。

二人の言葉が無理を言っているものではないと分かると、コウタロウも息を一つ吐いて喜色を露わに座り込んだ。

 

「お言葉に甘えて、ご相伴に預からせてもらうわ。……楽しみだったんだよこれー!」

「ふふん、コウくんの好きなネギまたくさん買ってあるんだよー」

「流石なでしこ分かってる!」

「守矢。この世に興奮すること色々あるけど、私、一番はこうして友達と一緒にキャンプご飯食べることだと思う」

「間違いないね」

「「「えへへへへ」」」

 

 

 

 

 

へやキャン△

 

とあるキャンプ場

 

「それでさー、マジでダンディな大人の男、略してマダオに肉分けてもらったんだよ。『肉、食うかい?』って。美味かったなー」

「へえ、そんな親切な人おったんやね」

「今時そんな気前のいい人がいるんだな」

「行く先々で飴ちゃん配ってるコウタロウくんが言うんそれ?」

 

大垣と無事に合流し、三人でぶらぶらキャンプ場を見て回っていたら、あっという間に一周回り切れてしまった。

各所写真も撮ったし、十分に下見は出来ただろうと今は帰路の途中である。そろそろ駐車場だ。

 

「あ、そだ。行きはイヌ子が乗ったんだし、帰りはあたし乗っけてくれよ」

「おー。いいz――」

「あき止めとき」

 

バイクが見えてきた辺りで、大垣がそう言って来た。もちろんこちらはOKである。

が、妙に強い口調で犬山に遮られる。

 

「どうしてだよ?」

「バイク乗ってヘルメット被るとな……髪型めっちゃ崩れる! めっちゃ崩れる!!」

「まじか」

「……大事なことだから二回言ったな」

 

アニメの世界とかだと、いくらヘルメットを被っても髪型が崩れることは無い。コナンの平治とか和葉しかり。というかヘルメット以前にどうなってんのあの髪の毛は。

多分やつらの髪の毛は形状記憶合金でできてる。

 

しかし残念ながらここ現実では、髪が圧迫されれば髪型はヘタるし高校生探偵も高校生怪盗もいない。

事前に犬山には言っていたので、いま彼女は持ってきていたキャスケット帽で誤魔化しているが、ヘルメットを取って手鏡を覗き込んだ時の表情は凄かった。顔真っ赤にして見るなって言って、普通に殴られたからね俺。

やっぱ女子なだけあって、身だしなみには敏感なんだと思った。

 

「せやから、コウタロウくんの後ろに乗っけてもらうのは全くおすすめせんわ」

「そっかー……。まあ確かに、あのイヌ子がそこまで言うなら、そうだよなぁ」

 

人一倍女の子らしい犬山が鬼気迫ってそう言う姿に感化されたのか、大垣も「なら止めとくか」と諦めムードである。

 

「帰りは私も一緒だし、大人しく電車とバスで帰ろか」

「そうだな、そうするか。……コウタロウ、すまんけど――」

 

そう言って、申し訳なさそうに謝ってくる大垣。

 

「全然いいって。女子なんだから、髪型とか気にして当然だよな。むしろこっちもその辺気配れなくてすまんかった」

「ありがとな。……じゃ、また学校で!」

「おー! またな」

「もう後ろに女の子とか乗っけたらあかんよ? 私ならともかく」

「おう、気を付ける。犬山も気を付けて帰れよ」

「うん。またね」

 

そう言って手を振って帰っていく二人を見送る。

普通に二人乗りを拒否られた俺は、思いのほか余った時間をどうすべきか暫し考え。

 

「……そうだ!」

 

マップアプリで四尾連湖キャンプ場が意外と近い距離にあると分かると、にやりと笑みを浮かべたのだった。

 

 

 






主人公の乗っているバイクに深い意味は全くなく、私の好きなバイクというだけです。


また、本作に違法行為を助長する意図は決してありません。
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