本栖高校野外活動サークル△   作:園田那乃多

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実際にキャンプ場で途中参加が認められるかも、挙句の果てに宿泊が認められるかも、ちょっと分かりません。たぶんダメなんじゃないかな……
よい子は事前に伝えた情報をきちんと守りましょう。土壇場での仕様変更は誰も幸せになりません、まじで。

※少々手直しして再投稿しました。紛らわしくて申し訳ありませんでした。




二十六話

 

「「「いただきますっ!!」」」

 

なでしこ達のキャンプサイトでは所狭しと並んだキャンプご飯を前に、三人が舌鼓を打っていた。

 

「ジャンバラヤおいしい!!」

「これが本物ってやつか……」

「んー、おにくもおいひいよぅ!」

 

(うまそうに食うなぁ)

 

にこにこと嬉しそうに料理を頬張るなでしこに、思わず目じりが下がるリン。

これはコウタロウが甘やかすのも分かる気がする。

 

「三つ葉の香りが何とも言えねえや……!」

「三つ葉なんか入ってないだろ」

 

劇画チックにコウタロウが何か言うが、華麗に切り捨てなでしこ達のために追加で肉を焼き始める。

 

「お肉適当に焼いてっていいから」

「わかりまひたっ!!」

 

焼けた肉をコウタロウに配ると、自身は鱈鍋に口をつける。

はふはふと熱を冷まし、飲み込めばお次は出汁。

 

(鱈にさっぱり昆布つゆ合うな……)

 

「お前の次のセリフは、『染みる……』と言う」

「染みる……はっ」

 

いつの間に人の心を読めるようになったのだろうか。いくら身体能力が人間やめてるとは言え、超能力まで身に着けるのはやめて欲しい。そのうち波紋とかスタンドとか言い出しそうで怖い。

そんな感情をこめてじとりと見れば、彼の苦笑が返ってくる。

 

「いやそんな顔してたから、ついな」

「む……」

 

顔に出てたのか。確かに油断してたかも。

それに、この鱈鍋が美味しいのが悪い。私は悪くない。

 

「本当はポン酢があるともっとおいしいんだけど、忘れちゃって……」

「いや十分うまい」

 

なでしこがそう言ってたははと笑うが、これだけでもおいしいのに、さらにおいしくなったら私は味覚の暴力にやられちまうかもしれない。むしろ無くてよかったまである。

 

「守矢、ポン酢とか持ってないの?」

 

無くても全く構わないが、なんかこいつに聞けば大抵のことは何とかなる印象が強くて、冗談半分で訊ねてみた。

普通に「あるぞ」って言ってぽんと出しそう。ポン酢だけに。

 

「いやあるわけないだろ。俺はドラえもんか」

 

そもそもちょっと寄っただけだし、と豚肉をぱくつきながら続ける。

予想に反して、至極真っ当なことを真顔で言われた。いや当たり前なんだけど、なんかムカつく。まったく、肝心な時に役に立たないやつだ。

 

「はあ……肝心な時に守矢はだめだな」

「むむむ……よろしいならば戦争だ。ゆけ、豚たち!」

 

やれやれと首を振ってそう言ってやれば、これでもかという量の豚串(串から外したやつ)を取り分けてきた。

が、そんなもんは効かん。私はそれを豚串のせご飯として頬張った。

 

うまい……うますぎる……。

 

「守矢、おかわり」

「なん、だと……!?」

「リンちゃん、カルビじゃんじゃん行くよーっ!!」

「「乗せすぎ」」

 

もさっといった具合に焚き火グリルに乗せられたカルビを前に、私と守矢の声が重なった。

 

 

 

 

日はすっかりと暮れ、キャンプ場には夜のとばりが下りる。

 

私たち3人は、シメの炭火焼ハンバーグを平らげ(平らげたのはほぼなでしこだが)、残った備長炭で焚き火を囲んでいた。

 

原初の叡智なだけあって、火というのは見ているだけでなんだが心が休まる気がする。

夜の湖畔のゆったりとした時間の中で、薪が時折はぜるぱちぱちという音だけが辺りにこだましていた。

 

少し瞼が重くなってきた。

となりで、守矢が動く気配がする。

あ、そうか。そういえば、今日あいつは泊まらないんだっけ……。

帰る準備してるのかな。もうお別れか……。

なんか、やだな……。

 

「……ねえ」

 

気付けば口が動いていた。

 

「二人はさ、山梨来る前はどこに住んでたの?」

 

守矢が浮かした腰を再び沈める。

よかった。大した話題じゃないけど、それでももう少し時間を稼ぐことは出来そうだ。

 

「浜松の西の方だよ」

「浜名湖のすぐ近くだな」

「天気がいいと、あそこからでも富士山が見えるんだー」

「ちっちゃいけどな」

「ふふ、うん。だから、本栖湖で初めて大きな富士山見れたときは嬉しかったなぁ」

 

二人が、懐かしむように話し出す。

きっと、思い描く景色は同じなんだろうな。同じ場所で生まれて、同じ場所で育って。二人はずっと、同じ場所にいる。

……それがちょっと、羨ましい。いや自分で振った話題なんだけどさ。

 

「ん? なでしこ富士山ちゃんと見たのって本栖湖が初めてだったのか?」

「え、うん。そうだよ?」

「山梨来るとき、清水の辺りで見えなかった? 俺はそこで見た記憶あるけど」

「……寝てました」

「なるほど」

「……だから頑張って自転車こいで見に行ったんだよー」

 

眠気でぼうっとしてきた頭で、何となく二人を見つめる。

二人の会話を聞いて、思った。

来るときに富士山を見ていたら、私と本栖湖で会うことも無かったのかな。

なでしこと会っていなかったら、こうしてキャンプに一緒に行くことも無かったのかな。

守矢との関係も、違ってたのかな……。

 

……いいや。

かぶりを振った。

 

初対面がどうであれ、きっとわたしとなでしこは何処かで会っていただろうし、私と守矢の関係も、今とさほど変わっていないだろう。

何でもない話をして、笑いあって、からかいあって。休みの日に偶に遊びに行くような、そんな関係。

 

今はまだ、この感情に名前を付けるのが怖いけど。いつかきっと……。

 

再会時のことについて何やら話している私の友人と、私の……友人を見ていると、そう思えて仕方が無かった。

 

そんな視線に気づいたのか、柔らかい表情でなでしこが声を掛けてきてくれた。

 

「リンちゃん、眠そうだね」

「うん……だいぶ」

「もう休んどけ、肩貸してやるから。ほら」

「うん……」

 

もういい加減瞼が重い。寝たい。

眠気の時特有のぽやぽやした頭で、なんだか安心するような匂いに包まれながら、自分のテントに潜り込み始める。

 

「リンちゃん、私もそっちのテントで寝ていいですか……?」

「やだ。せまい」

「牛のお化け出たらこわいよぅ……」

「そんなのファンタジーだファンタジー」

「FFだな」

「うるさい」

「ごめん」

 

寝袋を引っ張り出してもう寝る準備に入っていると、外から守矢の声が聞こえてきた。

 

「なでしこが志摩のテント行くなら、俺もうなでしこのテントで寝ようかな。今から帰るのだるいし、つかれたし………」

「ほんと!? やたっ、コウくんと一緒っ! ……あ、でもコウくんバイトあるんじゃないの? 大丈夫?」

「早起きしてそのままバイト先行くわ。幸い制服とか向こうのロッカーにあるし、冬場だから汗もそんなにかかないだろうし」

「私は一緒に居られたら何でもいいよー」

「じゃあ俺、管理人さんのとこ行ってお金払ってくる」

「いってらっしゃーい」

 

そう言って、守矢は足早に去って行った。

……なんかすごいこと言ってた気がする。なし崩し的に、守矢も泊まることになったみたいだ。別にそれはいい。むしろちょっと嬉しいくらい。

 

でも、待て。

 

重たい頭を何とか回して考える。

守矢も一緒にキャンプするってことは、怖がりなでしこは当然一緒に寝ようとするだろ。一つのテントで。まあ怖がりじゃなくてもそうするだろうけど。

 

それはだめだ。

 

テントから首だけ出して、眠気でしょぼしょぼの目のまま何とかテントの前にいるなでしこに話しかける。

 

「なでしこ。一緒に寝よ」

「えっ、いいの?」

「うん。……あー、そういえば、キャンプで誰かと寝たことなかったから」

「……っ、リンちゃん!!」

 

嬉しそうに抱き着いてくるなでしこを適当にいなし、なでしこが寝袋を並べるのをぼんやり眺めた。

化粧水をぱしゃぱしゃとつけ、いざと寝袋にくるまったあたりで守矢が戻ってきた足音がした。

 

がばりと跳ね起きてテントから顔だけ出すなでしこ。ぶんぶん揺れるしっぱを幻視した。

 

犬だ。なでしこ犬……。

 

「なでしこ。管理人さんの許可とれたし、こっちのテント使わせてもらうな」

「うんっ。どうぞお使いください!」

「おう。そんじゃ、おやすみ」

「おやすみ!」

「志摩も、おやすみ」

「……おやすみ」

 

なでしこが戻ってくる。

大好きな人と寝る前に話せたのがそんなに嬉しいのか、幸せそうな顔で寝袋に潜り込んだ。

 

……まあ、分かるけど。

おやすみって言ってもらえるのって、なんかいいな。

……えへへ。

 

 

 

 

もぐりこんで即行寝たのか、隣のテントの明かりはもうついていない。

夜の静寂と暗さと、隣で感じるなでしこの息遣い。そして、直ぐ近くにいる守矢の存在が無性に心地よかった。

 

恐らくまだ起きているであろうなでしこに語り掛ける。

 

「なでしこ」

「んー?」

「キャンプ誘ってくれて、ありがと。……今度は、私から誘うよ」

「……うんっ」

 

 

 

 

深夜。

ぱちりとリンの目が覚めた。

 

もぞもぞと寝袋から這い出し、そういえば隣に人がいたと思い出す。

なでしこを起こさないよう慎重にテントから出ると、目的地までの夜道を歩きだす。

 

(水分摂りすぎた……。トイレトイレ)

 

目的を済ませて、改めて夜の四尾連湖に見入る。

本栖湖よりは大きくないぶん、一目でその全貌が見渡せる。山間に囲まれ、照らすのは夜空の月明かりのみ。おぼろげに雲が薄くたなびき、まさしく夜景といえた。

 

「キレイ……」

 

思わずほうとため息が漏れる。

 

「麓も高ボッチもよかったけど、やっぱり湖畔のキャンプが好きだな……」

 

初めて本栖湖でキャンプした時を思い返す。

あの時はまったく勝手がわからず苦労ばかりしたが、それでも今はいい思い出。

そんな思い出も、いい意味で景色が似ている湖畔キャンプ場だからか、臨場的に思い起こされた。

 

と。

 

ヴォオオオオ……

ヴォエエエエエェェ……

 

直ぐ近くから、不気味な、そうまるで腹の底から何かがせりあがってくるような、そんな苦し気なうめき声が聞こえてきた。

 

思い出すのは、ご飯の時に聞きだした、コウタロウの話。ここ四尾連湖にまつわる民謡である。二人の兄弟武士が、命を犠牲にして討伐したという牛鬼のお話。

 

(……ま、まさか)

 

いまだに苦悶の、そう怨嗟の様な呻きが聞こえる。

ゆっくりと音の方を振り返るリン。

 

「ヴェ…!!」

「ッ!!??!?」

 

そのシルエット。

2足歩行で、角が大きく突き出たそのシルエットを見た瞬間、リンは声にもならない叫びと共に、脱兎の如く逃げ出した。

 

 

 

「……んぉ?」

 

無論、そこに居たのは木の陰に重なるような位置で胃の内容物をリバースしていた鳥羽美波教諭(予定)であったが、それはリンには知る由もない。

 

 

 

「はぁ…っ、はぁっ……!」

 

テントの前までダッシュで戻ってきたリン。

肩を上下させ、荒い息と共に呼吸を整える。

 

(ほ、ホントに出たッ! ホントに出たッ!!)

 

生まれてこの方そういったものについて人並みに興味を持ってきたリンであったが、それはそんなもの居るわけが無いという前提の上。今まで面白半分で触れてきた。

が、今日「本物」を見た。見てしまった。

 

今、こうしている間にも、その夜闇の向こうから牛鬼のお化けが自分を追って来ているかもしれない。そう思ってしまえば、途端にすべてが怖くなる。風で揺れる水面も、打ち寄せる波の音も、がさがさと音を立てる木の葉も、全部全部。

 

底なしの沼の如くずぶずぶと思考は沈み、震え涙目になりながらも、リンの頭は正常に働いていた。

 

「……っ!!」

 

リンは寝袋をひったくるようにして鷲掴むと、蹴破るような勢いで隣のテントに飛び込んだ。なでしこへの心配とか最早そんな余裕は無かった。

すなわち、コウタロウの隣に。

間違いなくこの場で最も安全な場所に。

 

「ふーっ……! ふーっ……!」

 

彼に赤子のようにしがみつき、無理矢理目を閉じてリンは眠りについた。

 

 

 

 

翌早朝。

 

「すぅー………」

「なんでいんの???」

 

目が覚めたらリンに抱き着かれていたコウタロウの困惑は、想像に難くない。

 

 

 

 

 

 

 

へやキャン△

 

『コウタロウくん、こないだの件なんやけど』

『何の件だっけ? 歴史の田原先生が電撃結婚からの産休のコンボ決めた件?』

『いやそれもビックリしたけどちゃうわ。サイクリングの件』

『あーはいはいなるほど。そんで、どうした?』

『身延駅前に、アウトドアショップできたやん? そこに下見がてらサイクリングどうかなって思って』

『お、いいじゃん。犬山ん家からもそんなに距離ないし、ちょうどいいと思う』

『ほんま? なら今度行こ?』

『おっけー。予定空けとくわ』

『あ、でもうちの自転車あんま触ってないからちょっと心配やわ。大丈夫かな』

『なら軽く整備がてら、犬山ん家行くわ。そっから行こうぜ。駄目っぽかったら電車で行けばいいし』

『助かるわー。ありがとなコウタロウくん』

『なんのこれしき』

 

 

 

 

当日。

 

約束の通り犬山家の前まで来たが、そういえば俺犬山ん家来るの初めてだな。

……ん? というかなでしこと綾乃以外の女子の家が初めてでは?

 

「あかん緊張してきた……」

 

なんか意識すればするほど緊張してくる。

変な関西弁が出てくるくらいには緊張してきた。

 

ま、まずは、ノックしてもしもーし。

 

「……」

 

じゃねえわ。

インターホンを押さねば。

 

ぴんぽーん

 

小気味いい音が響き、しばしの後にぱたぱたと家の中から音が聞こえてきた。犬山だろうか? 別に見られて困るでもないが、何となく居住まいを正した。

続いてガラガラと玄関の引き戸が開き、

 

「はーい……誰?」

 

顔をのぞかせたのは、犬山を一回り小さくしたような少女だった。

 

……ふむ。一瞬なにか超常的なパワーで犬山が小っちゃくなったのかと思ったが、そんなことはあり得ない。キャンプ中に謎の煙に包まれて25年前にタイムスリップするくらい荒唐無稽である。

この子は噂に聞く犬山の妹さんだろう。噂にしか聞いたことないけど。主に大垣からの。

 

「俺は君の姉ちゃんのクラスメイトでな。お姉ちゃん呼んでくれるか? 今日約束があってな」

 

しゃがんで目線を合わせそう言う。

が、犬山(妹)が何か言う前に、慌てた様子の犬山(姉)が奥から現れた。

 

「ち、ちょっとあかり! 出んといてって言うたやろ!」

「えー? だってあおいちゃんお化粧してて出られんかったやんかー。そういえば何でいつもより気合も時間も掛けてん?」

「そ、そういうことは言わんでええの! ごめんコウタロウくん、もうちょっと待っててっ!」

 

そう言って、また慌ただしく奥に引っ込んでいく犬山(姉)。

 

「コウタロウくん……? もしかして、兄ちゃん守矢コウタロウくん?」

「その通り。そしてそういう君は、ジョナサン・ジョースター」

「うちは犬山あかりですよ?」

「マジレスやめてよ」

「まあまあ。で、ほんとのほんとにコウタロウくんなん?」

「ほんとのほんとにコウタロウくんだぞ」

「なるほどなあー……」

 

俺が守矢コウタロウだと分かると、何故だかにやにやと笑みだすあかりちゃん。物珍しさからか、その表情のままと俺の周りを回って観察しだす。

……その顔には非常に見覚えがある。人をからかう時の犬山と同じ顔だ。姉妹だからやっぱ似てる、そんな思考のよそで、俺の目線ははあかりちゃんをとらえて離さなかった。

 

人が言葉を発する前、意識的にせよ無意識的にせよ、一呼吸入れることが多い。

そしてそれは、目の前の少女も同じであり。

 

――この先を言わせたらまずい。非常にめんどくさいことになる。

そんな直感が走ったのと、少女が目いっぱいの笑みを浮かべて口を開くのは同時だった。

 

家の中の方にくるりと反転する少女。

慌てて追いかける俺。

 

果たして。

 

「ばあちゃんばあちゃん! あおいちゃんが彼氏連れて来たーーっ!!!」

 

家の中からものすごい音がするのを聞きながら、俺はただ立ち尽くすことしか出来なかった。

 

 

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