本栖高校野外活動サークル△   作:園田那乃多

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映画観てきました。
マジで尊過ぎて、一人感じ入っていたら一緒に行った友人のこと忘れて家に帰って来てました。最高。さいこうすぎてなんもいえねえです。みんなみろ

というわけで映画になぞらえて10年後の主人公の姿を描いてみました。映画のネタバレは(ほぼ)含みませんのであしからず。
まあ端的に言えば主人公inのんのんびよりです。のんのんびよりを知らない方は、申し訳ありませんが本編に戻るまでしばしお待ちください。

春夏秋冬の四部作の予定です。またこの予定は急遽変更するかもです。


【挿絵表示】

イメージ図




幕間 10年後の彼は 春

 

ここは小中併設校「旭丘分校」。

全校生徒5名、一面の緑、道路には牛横断注意の標識、バスは五時間に一本というど田舎にある、小さな学校だ。

 

そして。

 

「あ、カタカナなのん。にゃんぱすー」

「コータロおはよー」

「宮内先生と違ってコウタロウは早くていいね」

「おはよう、先生と呼べ先生と。……ってれんげ、入学式は明日だろ」

「なんかれんちょん予行演習したいんだってさ」

「……なるほど。まあとりあえずれんげは教室入っちゃダメだからな」

「なんでなん?」

「明日のお楽しみ」

「ふふ、帰るとき呼びに行くから遊んでて」

「分かったのーん」

 

教師となった俺の勤務先である。

 

 

 

 

山梨の大学で教師の資格を得た俺は、母校での教育実習を終え、そのままそこに勤めることに――はならず、なぜだかこうして超ど田舎の分校に赴任してきていた。

 

なんでも、男手が必要らしいとか、過疎改善の一環だとか、とにかく人手が足りんとかよく分からん理由を言われた気がしたが、俺の地元も身延も田舎だったしまあいいだろと思ってたらこれである。想像の5倍くらい田舎だった。まあここ、~町とかじゃなくて~村だしね。同僚の宮内先生が時速50kmで走れば1時間後にちょうど50km先に着くと言っていたので走って確かめたがマジだった。信号ないってヤバすぎだろ……。

 

「あ、コウタロウ。おはよ、早いね~」

 

とそこに、どこかゆるい雰囲気をまとった糸目の女性、宮内一穂こと宮内先生が出勤してきた。ちなみに余裕で予鈴の時間である。

 

「俺が早いんじゃなくてお前が遅いんだよ……」

 

教職員二名の我が校には職員会議や残業、モンペへの対応、部活顧問などと言った面倒事は存在しないため、とにかく緩い。この人授業中普通に寝てるからね。教師がだぞ。いくら基本自習とは言えさあ……。

 

「いやー、コウタロウがいてくれるから、ついのんびりしちゃってね。今朝なんかも大寝坊だよー、あっはっは」

「……」

「いたっ、やめれやめれ、ひっぱらないで~」

「はあ……俺は新しく入ってくる子の準備してくるから、一時間目は頼むぞ」

「は~い行ってきます」

 

そうして職員室内のハンガー掛けに掛けてあった自身の白衣を羽織ると、ゆったりとした足取りで彼女は出ていった。

行ってらっしゃいとそれを見送ると、俺はマグカップのコーヒーをすすりつつ手元の資料に手を伸ばした。

 

「どれどれ。ふーん、一条蛍、新小5、女子……」

 

事前に送付されている転校生の情報。

かれこれもう数年ここに勤めているが、正直こんな辺鄙な所に転校してくる奴がいるとは思わんかった。しかも東京から。

まあ俺も割と人のこと言えないけど。宮内先生はここが地元だけど、俺は引っ越してきたからな。彼女は俺の一個下の後輩でもあり、しかしてこの村では住人としては先輩であるのだ。

 

一条蛍の転校日はまだ少し先だが、小5の分のテキストの発注や、新しくなる連絡網の整理、学習に必要な道具をそろえないといかん。

 

それと雨漏りで腐ってる床の建て替えとか。去年は卓が一個穴開けたしな。

そんなもん業者に頼めとか思うが、金かかるし、工事で教室が使えなくなるのは困る。それに、材料となる木材は宮内先生の所有する山からいくらでも採っていいと許可を貰ってるので、もう俺がやった方がはやい。高校大学、そして今に至るまでキャンプをはじめとしたアウトドアにどっぷりはまったこともあって、こうしたことは得意なのである。

 

「キャンプかあ」

 

そう言って思い出すのは、高校の同級生たちの顔。

あいつらとも、もうずいぶん会ってないような気がする。

全員揃ったのはまだ学生の時だったから、三年位前だろうか。個人個人とはちょくちょく飲みに行ったりしてるんだけど、全員揃うのはあまりない。

逆に、あおいとは同じ大学で教職とってて、最後まで付き合いがあった。実習先も同じだったし。同じ職業だし、何かと話しやすくて俺が山梨に戻る度に会ってる。まあこっちが緩すぎて教師あるあるみたいなの俺が分からんのはつらいけど。

 

リンは名古屋の出版社に勤めてて、距離的に一番遠い。

こないだ会った時は飲み過ぎて記憶が無いが、何があったか聞いても教えてくれない。酒に弱い自分が憎い。

 

恵那は横浜でペットサロンで働いている。ちくわは実家にいるらしく、連休になるとよく帰省しているそうで、そうなれば自然会う回数が増える。あおいと三人での見に行くことも多い。

 

千明はちょっと前に東京のイベント会社辞めて山梨に戻ったって連絡あった。それきり会ってないし、久しぶりに会いたいな。今度連絡とってみるか。

 

綾乃は浜松の大型バイクショップで働いてるな。バイクを買うきっかけを与えてしまっただけに、そこまで好きが高じているのは嬉しい。長距離ツーリングに行くときは必ず顔を出してるし、ちょくちょく顔を会わせてる。

 

そして、もう一人の幼馴染だが――

 

「なでしこ……」

 

ほうと一息ついて、彼女の名を呟く。

 

なでしこは、めっちゃよく来る。

というかほぼ毎週会ってる。社会人になってアウトドアに適した四駆を購入し、暇さえあればうちに来ている。俺も軽トラ買ったのでなでしこの家はよく行く。

 

東京は昭島市のアウトドアショップで働く彼女だが、意外なことにここ旭丘からはそこまで距離は無い。たぶん山梨帰るのと同じくらいではないだろうか? でもひかげは新幹線使っても6時間かかったとかいうし、なんか飛行機使って来る距離とか言う情報もあるし、よく分からんな。本当にどこなんだここは。

 

 

 

 

数年前。宮内家にて。

 

「……ねえねえ。この人だれなん? ねえねえの彼氏なのん?」

「違うよー。この人はウチの大学の先輩。この人の恋人に立候補しようとしたら、命がいくつあっても足りないよ」

「守矢コウタロウだ。前にも会ったことあるんだが、流石に覚えてないか。…春から入れ替わりで旭丘分校の先生になる。よろしくな」

「コウタロウ、れんげはまだ三歳だよ」

「コウタロウ……お名前がカタカナなのんなー」

「まあちょっと珍しいよね」

「確かにな。まああんま深く考えられた名前じゃないし」

「じゃあこれからはカタカナって呼ぶことにしますん」

「いや別にいいけど……」

「カタカナー」

「んー?」

「……なんだか初めて会った気がしないのん。あんていかんがあります」

「れんちょんが三歳にしてナンパを……!!」

「いやただの事実だろ」

 

 

 

 

無事に蛍が転校してきて、クラスメイト…れんげ、夏海、小鞠たちとも仲良くなれたようだ。都会っ子がこんな田舎になじめるかと少し心配していたが、無用な心配だったようで安心した。さすがは子供と言ったところだろうか、心の壁が無い。たぶんエヴァに乗ったらATフィールド張れなくて人類終わる。

 

そして、今はGW。

明日、なでしことキャンプに行くための準備をしていた俺の携帯に、宮内家…れんげから電話がかかってきた。

 

 

『……――今から家でみんなで宿題するん。カタカナも来て欲しいん』

「えらいじゃんか。分かった、そういうことならすぐ行く」

『待ってるのん』

「おー、あとでな」

 

GW前のテストの結果が芳しくなかったため、多めに宿題を出したのだが、早速勉強会をするようだ。あの夏海も参加するようで、生徒の成長を窺えてすこし嬉しくなった。

あらかた準備も終わっているので、財布と携帯だけひっつかむと、俺は近所の宮内家まで足を伸ばすのだった。

 

 

 

そのころ宮内家では。

 

「れんちょん~、テレビのリモコンとってきて~」

 

とか。

 

「ケーキ食べる? あ、嘘そんなのないわ。コウタロウに買いに行ってもらおかな」

 

とか。

 

「よし、ウチは寝る! 分からないところあったらいつでも叩き起こしてくれーぃ」

 

とか。

 

れんげの姉、一穂がとにかく怠惰を極めていた。別に休みだから特別だらけているとかそういう訳ではなく、割と普段通りの平常運転だった。

いくら説得しても直らない、そんな姉の姿に呆れた目線を向けるれんげ。

 

「ねえねえ、そこで寝られると邪魔なのん……」

「あ、ここで勉強会するのね」

「…結局やる気ないんな、もうお布団行って寝てきた方がいいん」

「えぇ~、れんちょん連れてって~」

 

先は深夜まで生徒用のプリントを作っていたと知り、すこし見直したが、結局これである。

アイマスクを外すことすらめんどくさがる姉に、れんげの中で自分が皆のやる気を出させるという決意が固まったその時。

 

「お邪魔しまーす。おーい、一穂、れんげー、いるかー?」

 

物心ついた時から聞き馴染んだ声が聞こえた。

昔のことなので何故そう呼び始めたかは覚えていないが、自分がカタカナと呼ぶ人物は一人しかいない。そんなあだ名の人間が早々いてたまるかだが。

 

彼ならこの姉を何とかできるかもしれない。

そう思い、れんげが玄関に向かって何か口を開きかけ、

 

「む、その声はコウタロウ」

 

が、れんげが何か言うより早く、一穂は声のする方へ走って行った。

無論、アイマスクは外して。

 

「ねえねえ……」

 

呆れてものも言えないれんげの横で、玄関からは縋りつく対象をれんげからコウタロウに変更した一穂が、寝室に連れて行けと彼の腰にしがみついていた。

 

「お前、俺のとこに来るまでの距離で寝室行けただろ!」

「いいじゃん連れてってよ~、可愛い後輩の頼みだろ~」

「かわいい後輩は自分のことをかわいい後輩とか言わないんだよ」

「あ、なんかこの格好ケンタウロスみたいじゃない? ケンタウロス。ひひーん……あれ、ケンタウロスって馬だったっけ?」

「聞けよ」

 

そんな宮内家前の道路では、蛍、夏海、小鞠、卓の四人が並んで歩いて宮内家に向かっていた。

休日だからとお昼まで寝ており、少し眠たげな様子の夏海が口を開く。

 

「ふぁーあ、せっかくの連休なのに何で勉強しないといけないのさ。家でゴロゴロしよーぜー」

「もー、ぐーたらしてまた成績下がったらお母さんに怒られるよ?」

「でもさ、いつもだらしないかず姉もちゃんと社会人してるんだから、何とかなると思うんだよね」

「確かにそうだけどさ……」

 

何か反論したい小鞠だったが、事実その通りなので何とも言えない。

が、先生と言えば一穂と対になるような存在がいた。

二人の横で並んで歩く蛍が、手を合わせてその人物を思い起こす。

 

「で、でもコウタロウさんはちゃんとしてるじゃないですか」

 

蛍にとってコウタロウは、転校時の相談からもろもろの手続きまで面倒を見てくれた記憶が新しく、頼りになると言った印象が強い。

年若く、普段の態度も近しいものであるため、何度か「お兄ちゃんが居たらこんな感じなのだろうか」と思ってしまう。先生呼び出来ないのはそのためだ。

 

「あーコータロは割とぶっ飛んでるからなー」

「うん、まともではないよね」

 

が、先輩たちの意見はそうでもないようで。

 

「え、あの、どういう……?」

「普通の人間は直径何メートルの木を一人で伐採して一人で持ち運びして一人で加工して校舎の建て替えとかしないし」

「人間やめてるよねー、まあ畑の手伝いの時とかすごい助かるけど」

「え、ええ……」

 

まだ転校して日が浅く、彼の異常なフィジカルを知らない蛍が困惑する。そのうち嫌でも分かる。

 

「あ、噂をすればあそこにコウタロウさんと宮内せんs……」

 

そして、ケンタウロスケンタウロスと謎テンションではしゃぐ一穂たちを見た夏海たちが、知らずやる気を出すのだった。

 

 

 

 

 

 

へやキャン△

 

とある居酒屋。

 

仕事終わりの社会人たちがその疲れをいやすべくアルコールにおぼれる、そんな中で、一つの個室では、社会人となって久しぶりに顔を合わせた野クルメンバーたちが酒を片手に会話に花を咲かせていた。

 

「んにゃ~、ほんっと久しぶりだよなあこうして全員揃うの!」

「千明それ何回も聞いた」

「社会人になって、予定も合いづらくなったしねー」

 

並んで座る千明、リン、恵那がしみじみと呟いた。

特に、一番住む場所も遠くなってしまい中々会うことがないリンは、久しぶり顔を会わせる友人たち、そして向かいのコウタロウをじっと見つめた。

 

「コウタロウとあおいは、今は学校の先生やってるんだっけ?」

「せやでー。私は山梨で小学校、コウタロウくんは旭丘分校て言う小中併設校でなー」

「超がつくくらい田舎だけどな。いいとこだよ。生徒数も多くないし、のんびりやってる」

「それは……ちょっとうらやましいな」

 

出版社で編集者として多忙な毎日を送るリンが、ほうと息をついた。毎日通勤ラッシュで電車に揺られ、残業続きの毎日は、正直少しだけしんどいものがある。

もし、もしも彼と結婚すれば、田舎でゆっくり暮せたりするのだろうか。結婚を意識してもおかしくない年齢だし、相手は一人しか考えられないし……。

 

「何にもないとこだけど、休みの日はなでしこが来てくれるしな」

「えへへぇ……」

 

お酒に火照った顔で、ふにゃりと表情を崩して彼に微笑むなでしこ。嬉しそうに彼の腕を取る。酔いが回ってからは終始こんな感じだ。お酒に弱く、もう既に潰れかかっている。

本当に変わらないな、この二人は。高校生の時からずっと一緒だ。

でも、私の方が一歩リードしてるに決まってる。だってあの時……。

……まあとにかく、よゆうなのである。

 

「確かコウタロウん家は、田舎でメチャ安だったからってけっこう広いんだっけ」

「しかも元々あった家をリフォームしただけだぜ。前任のばあちゃんが丸々くれたからな」

「あと一人どころか、家族で住んでも問題ないくらいやったなー。ねえねえコウタロウくん、部屋とか余っとるん?」

「余裕で余ってる。てか持て余してる。何なら部屋の一つはもうなでしこにあげてるくらいだし」

「ふーん……」

 

前任の教師が住んでいた家を譲り受けたコウタロウは、一軒家住まいである。しかも田舎サイズなので大きい。

連休になればよくなでしこが来るので、もう部屋を一つ彼女用にしていたくらいだ。

 

「なら、もし何かあって今の家に住めなくなったらコウタロウくんの家に行けばいいね」

「「「確かにー!」」」

「人の家をシェルター扱いするのやめろ。てかまず実家に行けよ」

 

とは言いつつ、まんざらでもない顔のコウタロウ。もともとの気質と、教師という職に就いたことも相まって、頼られることが好きになっていた。

それが関係の深い友人誰であれば尚更。

 

「リンは仕事どうだ? 営業から編集部に移ったって聞いたけど」

「大変だよ、毎日凄い忙しい。企画もなかなか通らないし……。頼りになる先輩がいてくれるから、何とかなってるって感じ」

「頼りになる先輩……? 志摩隊員! それはもしかして男か!?」

 

レモンサワーを飲みつつ、漏れ出るかのようにそう吐き出したリンのその言葉に、隣の千明が食いついた。肩を組んでぐいっと顔を寄せる。酒くさい。完全に酔っ払いである。

 

「まあ、男の人だけど」

「「「!!?」」」

「リン……お前まさか」

「リンにも、新しい春……?」

「やっぱり職場なんか……」

 

そう詰め寄ってくる友人たち。それは、近くにいる男性がずっとコウタロウだけだった私への意外性だったり、驚愕だったり、職場の出会いへの嫉妬だったりするのだろうか。

 

嫉妬、か。

……ちらりと向かいを見た。

 

「……ふーん。リンの頼りになる先輩…ふーん……男なんだ……」

 

なんかめっちゃビールあおってる……!

お酒弱いからってあんまり飲んでなかったのに!

 

え、これって、そういう…嫉妬、してくれてるって、ことだよな……?

そんなのだって、……両想いじゃん!

 

「……ふへ」

 

酔いのせいで、いつもより緩めの頬、火照っていくのが分かる。心臓もいつもよりどくどく言ってるのが聞こえる。

やば、ちょっとこれ嬉しいかもしれん……。

 

言いたい!

超言いたい!!

 

安心しろって。私が好きなのはお前だけだって!

 

によによと勝手に下がる目じりや、ゆるんでいく頬をなんとか抑える。が、たぶん抑えきれてない。だって嬉しいんだもん。しかたない。

 

ふへへ、いつ言ってやろうかなあ。でも、もう少し奴のあの表情を見ていたい気もするなあ……。

 

ふふふ……

 

 

 

(リン…そんなに愛おしそうに微笑んで……そんなにその先輩のこと好きなんか)

(コウタロウくんから鞍替えかー。まあ、職場恋愛もよくあるもんね! 応援するよ、リン!)

(とりあえず一人減ったな……)

 

 

 

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