本栖高校野外活動サークル△   作:園田那乃多

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200000UA超えました。すごいですね。これがどのくらい凄いのかというと、静岡市駿河区の人口と同じくらいです。駿河区民全員がこのSSを読んでると思うと…スゴイです。
目標は浜松市民全員にこのSSを読ませることです(無理)




三十二話

ありがとうございましたという店員の声を背中で聞きながら、四人はカリブーを後にする。

西の空はすっかり茜色に染まっており、時刻はもう夕方。

 

「身延まんじゅう食って帰るかー」

「「「さんせー」」」

 

千明の提案に一も二もなく頷くと、四人は身延駅への道を歩き始めた。

 

「銀マット持ってもらってすまんなあ」

「いや全然いいぞこんくらい」

 

丸めて広がらないようにゴムで留めた、筒状の銀マットを二つ抱えたコウタロウ。

ふと何を思ったか片方を地面に立てて、倒れないようその両サイドに自分とあおいのスクールバッグを置いた。

神妙な顔でそのオブジェを眺め始めるコウタロウに嫌な予感がしつつも、無視するわけにもいかずあおいが訊ねる。

 

「コウタロウくん…何なんそれ?」

「何って、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲に決まってるだろう。自分で言うのもあれだが完成度高いぞ」

「決まってる訳あるか! これっぽちも知らんわそんなん。しかもアームストロング二回言うたし」

 

と、後ろでなでしこと駄弁っていた千明が二人に追い付き、目の前にあるオブジェに気付くと神妙な顔で見つめだした。

 

「どしたんあき」

「こ、これネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねえか! 完成度たけーなオイ」

「何で知っとるの!? も、もしかして知らないの私だけ……?」

 

はっ、と野クル唯一の良心、圧倒的純真女子ことなでしこを振り返るあおい。

彼女ならまだ毒されていないかもしれない! 「なにこれ?」ってツッコんでくれるかもしれない!

 

「あ、これ知ってるよ。ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲! 完成度高いねー」

「ふふん、そうだろうそうだろう」

「まさかこんなところで拝めるなんてなー」

「遅かったか……!」

 

まあなでしこは浜松時代に綾乃とコウタロウの英才教育()を受けているので、当然のごとく手遅れだった。

NAS砲の写真を撮ってリンと恵那に送り付け始めた三人を見ながら、ツッコミ切れる人間がいないと、あおいは眉間に手をやってため息を吐いた。

 

 

 

 

「身延まんじゅう一個65円、出来立てですよ~」

 

身延駅の向かい、富士川のすぐ横にある昔ながらのお店にて、四人は出来立ての身延まんじゅうにため息を漏らす。

 

「じゃ三個ください」

「私も三個で」

「俺は五個くらいにしとこ」

「じゃあ私は……十個ください!!」

 

身延まんじゅうは一個65円と侮るなかれ、その大きさは一口サイズにあらず。二口サイズ程度の大きさだ。男のコウタロウを差し置いてその倍の量を注文したなでしこに、他三人が感嘆の声を上げる。

 

「「「食うねぇー」」」

「えへへ、半分は家族のおみやげだよぅ」

「だとしても五個は食うのか……」

「口の中パサパサになるぞ。その覚悟はあるか?」

「ふふ、よかったらお茶もどうぞ」

『ありがとうございまーす!!』

 

 

それぞれ身延まんじゅうを購入し、店の外に出る。店の裏手には夕焼け空をバックに富士川が流れており、その景色を一望できるベンチがあった。

そこに三人が腰かけ、当然のごとくあぶれたコウタロウは端で佇む。別に悲しくない。

 

「ほら、コウタロウくん立っとるやないの。詰めて詰めて」

 

端に座る千明に、あおいがそう言いながら真ん中のなでしこをぎゅうぎゅう押し出し始めた。つられてあーれーと楽し気になでしこが千明を押し出せば、なんとか半人分スペースができた。

 

「ん、ここ座ったらええよ」

「かたじけねえ」

 

女子三人のスペースに無理くり入り込むのはどうなんだと思わないでもないコウタロウだったが、まあ折角自分のために空けてくれたしと、空いた部分にちょこんと腰を下ろした。

当然だがスペースが狭いため隣のあおいと肩が触れ合う。

 

「……」

「やっぱ狭い」

「あたしなんか見ろこれ、もうほとんど空気イスだぞこれ!」

「コウくーん狭いよー」

 

ぎゅうぎゅうという言葉はまさにこの状態を表していた。

あおいはかつてない密着具合に顔を真っ赤にして俯いたままだし、なでしこは二人に挟まれて苦しそうだし、千明はお尻の半分が座れてなかった。

 

これは流石にということで、コウタロウは立ったままでいることにした。別に疲れないし問題ない。

 

「じゃあ気を取り直して、まんじゅう食うか。早くしないと冷める」

 

千明のその言葉に、いただきまーすと声をそろえて身延まんじゅうを頬張った。

 

『まんじゅうウマー……』

「ちょうど出来立てってツイてるよな」

「ほんのり温かくてもちもちしてて美味しいねぇ」

 

出来たててほのかに温かく、薄皮に密度の高いこし餡がよく合う。気付いたらもう一個と手が伸びてしまうような、優しさを感じながらも病みつきになりそうな銘菓だ。

 

「はーやっぱり日本人ならまんじゅうとお茶ズラ」

 

ずず、と好意でもらった温かい緑茶をすすりながら千明がしみじみ呟いた。

しれっと先ほど買ったシベリアンハットを被っているが、誰にも突っ込まれなかった。

 

「あ、このお茶は静岡のだね」

「うそなでしこちゃんそんなん分かるん?」

 

千明に同意を示しながらお茶をすすったなでしこが、確信めいてそう呟く。

極まった静岡の民は五感が共鳴することで、触れるものが静岡産か否かを判別できるのだ()

 

「ふふん、コウくんなんかもっと詳しく産地が分かるんだよ。ね?」

「んまぁかせろ!」

 

そう言うが早いかなでしこはコウタロウの背後に回り込み、抱き着くように目を隠した。

 

「準備完了だよ。あおいちゃん、お茶あげてみて」

「うん」

「むぐっ……。…手に置いてくれるだけでいいんだけど。ふむふむ、これは……掛川産茶葉『きみくらの若摘』だな」

 

特に必要のない目隠しをされた状態であおいに紙コップのお茶を飲まされたコウタロウは、一瞬抗議の声を上げるが、すぐに味に集中し銘柄を答えてみせた。

 

「「「おお!!」」」

 

正直お茶の銘柄とか全然知らないし合ってるかどうかも全く分からないが、なんかすごいことをしたのには間違いないので、反射的に手を叩いて感嘆する三人。

 

「よし、ちょっと合ってるか聞いてくるわーっ!」

 

言いながらすでに走り出しているコウタロウ。

別に合っていようがいまいが正直どうでもいいが、まんじゅうをぱくつきながら彼を見送る。

騒がしい要因その1がいなくなったことで、しばし辺りには沈む夕日に照らされて、穏やかな空気が流れる。

 

「……決めたっ! 私もバイトしてキャンプ道具買いに来る!!」

 

一体彼の何が引き金になったのか、走り去った彼の背中を見つめなでしこがそう宣言した。

そうかと思えば、一転ほにゃりとした口調でまんじゅうを口に収め言う。

 

「そんで帰りに、また身延まんじゅう買いに来るよー」

 

そして今度こそは二人でこのベンチにきちんと腰かけ、暮れる夕日をロマンチックに眺めるのだ。まんじゅう片手に。

そんななでしこの心中は二人に伝わるべくもなく、穏やかに二人は彼女を見つめていた。

 

「あ。……全部食べちゃった」

 

紙袋を逆さにしても、何も落ちてこない。

一口また一口と頬張るうちに、十個全部平らげてしまっていたようだ。ついにお土産が無くなってしまった。

 

「ちょっと買ってくるーっ!!」

 

言いながらすでに走り出すなでしこ。

そんな元気いっぱいの彼女の背を、残された二人が見送る。

 

「バイト代が胃の中に消えるタイプやぁ」

「ズラぁ」

 

 

その後あおいも身延まんじゅうをリピートし、追いかけるように四人分のスクールバッグと銀マットを抱え千明がダッシュし、結局四人全員まんじゅうを買い直すのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

へやキャン△

 

 

「「文化祭?」」

 

旭岡分校職員室にて、俺と一穂の声が重なった。

俺たち教師二人に相対する赤毛少女、夏海は快活に頷く。

 

「そうそう、今週の週末にやる予定なんだけど」

「やるのはもう決定なのか」

「えーだめなのー?」

「まあいいけど」

「やった! さっすがコータロ!」

 

ぴょんぴょんその場で飛び跳ねてバシバシ俺の肩を叩く夏海。

普通中学校でも文化祭はやらないし、高校に行ったらいずれやるだろうけど、こういった生徒の自主性を伸ばすような提案は断るべくもない。主催は自分でやるって言ってたし、いい経験になるのではないだろうか。

 

開催が許可されテンションが上がった夏海は、ぞんざいに礼を言うと足早に職員室から去って行った。

 

「コウタロウコウタロウ」

「ん」

 

ちょいちょいと一穂に手招きされ耳を寄せる。

 

「もしかしてその日、休日出勤しないとだめ……?」

 

俺はいい笑顔で頷いた。

 

「もちろん。しかも手当は出ないゾ! 完全にプライベート扱いだゾ!」

「う、うわああああ……ウチの惰眠を貪れる休日がぁ……ッ!」

「お前基本的に授業中毎日惰眠貪ってるだろ」

「う、ぐうの音も出ない」

「寝てる時はぐうぐう言ってるけどな」

 

 

 

 

どんどん、と秋晴れの空に連続して空砲が響いた。

 

「よく来てくれたな三人とも」

「いらっしゃーい」

 

『旭岡分校文化祭』という手作り感バッチリの横断幕が掲げられた入り口の前で、コウタロウと一穂が本日の招待客である駄菓子屋こと楓と、このみ、ひかげの三人を出迎えた。

 

「あ、おす」

「ここに来るのも久しぶりだなぁ」

「あたしは去年までいたからそんな感じはしないなー」

「今思えば、よくこんなぼろいとこに毎日通ってたもんだ」

 

少なくとも誰にとっても一年ぶり以上となる、自身の母校についてそれぞれが感想を漏らした。

ちなみに、コウタロウはひかげは勿論のこと、このみは受験学年である中三の時には担任だったし、楓とは幼いれんげを共に世話した仲である(ちょくちょく駄菓子も買う)ので、抜かりはない。何に対してのかは分からないが。

 

 

その後教室に通され、ケーキや飲み物のオーダーをし、小鞠とれんげの余興()を受けた四人。

ホストの生徒達は全員料理に取り掛かるため家庭科室に出払っており、正直暇を持て余していた。いや卓は一人イヌの格好をして隅に佇んでいるのだが。

 

「……ねえ、あれから何分経った?」

 

注文した品が一向に来ないことに不思議がってひかげが呟いた。

 

「二十分くらいだな」

「一穂さんなんかもう寝てるよ」

 

と、三人の視線が一応の責任者ということになっているコウタロウに向いた。大丈夫なのか? という眼差しだ。ちなみに今回の件は主催夏海とのことで、教師陣はほぼノータッチである。

 

「大丈夫に決まってるだろ。だって向こうには蛍がいるんだぞ」

「コウタロウくんの蛍ちゃんに対するその絶対の信頼は何なの……」

 

まあ小5とは思えないくらいしっかりしてるけど、とこのみがため息を吐いた。

だが、その場にいた全員が「確かに」と納得してしまったのは事実。もう少し待ってみることに。

 

「暇だなー」

「そうっすねー」

「ねえねえコウタロウくん、そんな暇だったら彼女さんの話してよ。毎週来てる人いるよね?」

「は? いや彼女なんて――」

「――はあッッ!!? か、彼女!? ど、どどどどういうことだよお前!!」

「うわうるさ」

 

突然差し込まれたこのみの爆弾発言に、血相を変えたひかげがコウタロウに飛び掛かるように詰め寄った。もうほとんど涙目で肩をゆさゆさ揺さぶる。

 

「あーあの東京ナンバーの車の人っすか」

「と、東京の女!? な、なんで…そんな…私だって……!!」

 

狭い地域なので、毎週のように見慣れない車が行き来していれば噂も知れるもの。

しかもそれはコウタロウの家に停まっており、乗っているのは女の人とくれば、色恋沙汰に乏しい若者の間ではいやでも耳に入ってくる。

まあそれが(にわかには信じがたいが)本当に恋人ではなく、仲のいい友人だと真実を知る者も少なくないし、このみはそっち側の人間なのだが、ひかげをからかうために敢えて煽ったようだった。

 

「こ、コウタロウ…っ、やぐぞく、したじゃんかぁっ……! ぐすっ……忘れたのかよぉ」

 

涙目というかマジ泣きである。

彼に飛び掛かり膝の上に着地すると、ギャン泣きしながらぽかぽかと胸板を叩きだした。

 

「あーもう泣くなって、覚えてるから。あれだろ、お前にイケメンで優しくて頼りになる年上の彼氏ができるまで誰とも付き合わないってやつだろ? 中学上がるときにした」

 

子供をあやすようにひかげの背中に手を回し、優しくさすってやる。

両手にすっぽりと収まった彼女は幾分落ち着きを取り戻し、すんすんとしゃくりを上げる程度には治まった。

 

(え、それって)

(まあ、そういうことだろ)

「ならなんでぇ……」

「だから、彼女じゃないってば。いねーよ恋人とか」

「…え、本当?」

「本当本当。そうだよな、このみ?」

「あはは、ばれちゃったか」

 

そうしてやっと騙されたと分かると、今度は逆の意味で顔を真っ赤にしてこのみを追いかけ始めた。

きゃーと嬉し気に叫び教室内を走り回るこのみ。

 

「はあ……疲れた」

「まあまあ、でもほんとに彼女いないんだったら、ひかげと付き合っちゃえばいいじゃないっすか。絶対いけますよ」

「アホか、高校生と付き合えるわけねーだろ。歳の差考えろ」

「えー? 一回りくらい全然ありじゃないっすか」

「なしだなし。そもそもあれは周囲に男がいなさ過ぎて感覚麻痺ってるだけだ。今は東京にいるし、そのうちちゃんと好きなやつの一人二人できるって。……じゃあ俺ちょっと料理見てくるから、頼んだぞ」

「うーい」

 

教室内の喧騒を背に去って行くコウタロウを見つめ、もしかしてあれで気付いてないのかと呆れつつ、宮内家の内部崩壊を危惧してれんげだけはあいつの毒牙にかからないよう気をつけないと、と決意を新たにする楓だった。

 

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