本栖高校野外活動サークル△   作:園田那乃多

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ゆるキャン△三期制作決定しましたね!!!(クソデカ声)
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三十四話

 

朝日に照らされだした南アルプス市の閑散とした幹線道路を、県道20号線に入ってひたすら進む二人。辺りはすっかり山に囲まれる。

南アルプス街道とも呼ばれるその道は、南アルプスの山々にアタックする登山家たちにとって、同市からアクセスできる唯一の道でもある。随所に離合困難な道幅のカーブがあり、通行には注意が必要だ。

 

とはいえ、今は早朝。二人の転がすバイクの他に車の影は無く、快適に進むことができている。身を切るような寒さを除けば、だが。

 

(朝早く出て、ここまでで大体50キロってとこか)

 

マフラー持ってくればよかったと、襟が無いフライトジャケットを着込むコウタロウは、前を先導するように走るリンの小柄な背中を見つめる。ふんわりとしたマフラーが風にぱたぱたはためいていた。めっちゃうらやましい。

 

(本当、アクティブだよなあ……)

 

ほっこりとした顔でしみじみと思う。

普段学校でのリンを知る者は、彼女がまさか休日に一人でキャンプに出掛けるのが趣味だとは夢にも思わないだろう。

何を隠そう彼自身もリンと仲良くなる前は、彼女のイメージと言ったら、教室で本を読み廊下で本を読み図書室で本を読み、その合間に友達と話したり偶に奇抜なヘアスタイルをしていたりといった、おおよそアウトドアとは結び付かないという印象だった。ちなみに最後のは大体恵那のせいだし、そのせいでリンは校内でちょっと有名だった(本人の耳には一切入っていない)。

 

(ま、そんなこと言ったら、ちげーしとか言って否定しそうだけど…っと、ここは右曲がんのね)

 

リンはあくまでキャンプでまったりするのが好きなのであって、積極的に体を動かすのが好きというわけではないという。本栖湖まで自転車で行っていたという話を聞き、嘘つけと内心ツッコんだのはいつだっただろうか。

 

少し早めに右ウインカーを出し、丁寧にハンドサインでも右折を伝えてくれる同行者に苦笑しつつ、上方の青色の道路標識を見ると、「Mt南アルプス」「夜叉神峠」と言った文字が見えた。

 

リンとコウタロウの思考が重なる。

 

((夜叉神峠ってすげー名前だな))

 

 

(意外と山道の方が楽かもしれん)

 

警笛ならせの標識を横目で見つつ、リンはそう思った。

 

(ショートカットのコース選んで正解だったな。雪も全く積もってないし)

 

山梨県と長野県の間には南アルプスが南北に伸びており、伊那方面へ行くには諏訪まで迂回する必要がある。

が、昨日の夜、眠気を押して発見したこの県道20号線を通るルートは、なんと南アルプスの峰々を突っ切ることで30キロの近道に成功しているのだ。懸念されていた雪や路面の凍結も無いし、旅は順調そのものである。

 

ちょっぴり強がって任せてと言った手前なだけに、リンは若干鼻高々だった。

まあ昨日は眠すぎて具体的な周辺の観光スポットは調べ切れていないが。さっき正直に白状したら、笑って一緒に決めようと言ってくれたのでノープロブレムだ。さすが守矢。さすもり。

 

(お…頂上か?)

 

ぱっと道が開け、山中にしては広めの駐車場と「夜叉神ヒュッテ」と大きく文字の書かれた建物が見える。恐らく山荘かペンション的な施設だろう。

駐車場には既に車が何台か停まっており、如何にもここが頂上ですよ的な雰囲気が醸し出されていた。

 

ハンドシグナルで減速する旨を伝え、徐行し辺りを見回しながら進む。

 

(頂上っぽいな。…ってことは、もう折り返し地点か)

 

時計を確認すれば、時刻はまだまだ朝方。

予定では昼過ぎ頃に現地着のつもりだったが、この分だと予定より早く着くことができそうだ。

色々見て回れる時間が増えたと、自身の神がかったペース配分に頬が緩む。

 

(ふふ、どうだ守矢。この工程の順調さ……ってなんだ前を指さして)

 

思わずドヤ顔で後ろを振り返れば、前を見つめる彼がしきりに前方を指さしているのが目に入る。

 

釣られて振り向けば。

 

「何かあるn……」

 

あった。

 

道いっぱいに広がる黄色と黒のゲート。大きく張り出された通行止めの文字盤。

来るものは誰であろうと絶対に通さないマン(例外アリ)こと、冬季通行止めの皆さんだった。

 

「あちゃー……」

 

すぐ隣に止まったコウタロウからため息交じりの声が聞こえてきた。

メーターに項垂れて、絞り出すように吐き出す。

 

「……すっっっかり忘れてた」

「あーこれが雪国名物の」

「うん、冬季通行止め……」

「……お噂はかねがね」

 

「「はあ……」」

 

がっくりという音が聞こえてきそうなくらい、二人して首を垂れる。

 

(まじか、まじか……うわあぁぁやっちまったぁぁ……)

 

ことさらにリンが落ち込む。

この先はまず間違いなく来た道を引き返して、正規ルートに戻ることになるだろう。

そうなれば、ここまでの道のりにかかった時間と労力は全て無駄だったわけで。

一人だったならまだましだが、今回は違う。自身の不手際で同行者にまで迷惑をかけてしまったことに、リンは深い自己嫌悪に陥っていた。

 

「志摩、志摩ー!」

「んー……?」

 

後ろから声がするので振り向けば、携帯を構えたコウタロウ。画角が広めになっているが、パシャリと自撮り。

写真が満足いくものだったのか、画面を見て一つ頷き何やら携帯をいじり出した。

 

「何撮ったの?」

「ふ、『通行止めなう』ってなでしこに送った」

 

そういって先の写真を見せてきた。

通行止めのゲートをバックに、ピースサインのコウタロウと、ビーノにまたがり微妙な顔でこちらに振り向くリンが映っている。

 

「まあ圏外だったけどな!」

 

そう言って快活に笑った。

 

映りが悪いので正直に言えば消してほしかったが、若干傷心のリンには、気にする様子もなく明るく振舞うコウタロウの態度はどこかほっとするものがあって。

まあ送れてないならいいかと納得する。後で絶対撮り直すが。

 

そして、すうと一息ついて彼に向き合う。

 

「守矢、ごめん」

「え? すまん何が??」

「だってここ、通行止めだし……」

「あー大丈夫大丈夫。俺行き当たりばったりとか楽しめるタイプだから。むしろハプニングとか待ち望んでたまである」

「そんなもん待ち望むなよ。でも……ありがと」

 

二人並んでバイクを押して歩く。

そっぽを向きつつぶっきらぼうに放たれたリンの最後の言葉は、本人にも聞こえないくらい小さいものだったが、コウタロウはにっこりと笑みをつくった。

 

「ほれ、自販機あるし、ちょっと一息入れようぜ」

 

駐車場にバイクを置いたコウタロウが、今は開いていない夜叉神ヒュッテ入り口を指さした。

山の頂上という事もあって、稼働しているかという懸念もあったが、近寄ってみれば問題なく稼働中であった。

 

「ハプニングでちょっと精神的にダメージ受けてるメンタルよわよわしまりんには、特別に俺があったかい飲み物を奢ってやろう」

 

財布から小銭を取り出しつつ、ざあこと心なしか語尾に♡を付け、からかうように笑う。

 

「くっ、このメスガキめ! 私は屈しないぞ」

「そう言いつつしっかり紅茶花伝押すのな」

 

買った飲み物を手に、二人は夜叉神ヒュッテ入り口の階段に並んで腰を下ろす。

 

「「はぁー……」」

 

それぞれミルクティー、コーヒー片手に、ほうと息をついた。

二人分のひときわ白い息が静かな山の空気の中に弾んで、やがて一つに混ざって消えた。

 

「ミルクティーが染みる……」

「わざわざ寒い日に出かけて凍えて、温かい飲み物で温まって……」

「マッチポンプ?」

「そうそれ。些か自虐が過ぎてるけどな」

「私らに利無いしな」

「はーそんなこと考えたら温泉入りたくなってきた。温泉入ってマッチポンプしたい」

「なんだその使い方」

 

なら行くかとリンが呟き、何気なく隣を見て、あることに気付いた。

 

「あれ、そう言えば守矢、マフラーしてないの?」

「ああ、それね……忘れた。超忘れた」

「えぇ、超なになってんだよ……」

 

着ている黒色のフライトジャケットの襟を直し、首元の涼しさをアピールするコウタロウ。

彼の肉体でなかったら、恐らく我慢するのは困難だろう。そもそも冬にバイクに乗るだけでもまあ寒いのに、首元の防寒具が無いなんて正気を疑うレベルである。

 

とはいえ、いくら強靭な肉体とはいえ、寒いものは寒いようで。

 

「寒さで体調崩すとかは100パー無いけど、忘れたこと後悔するくらいには寒いな」

 

遠くを見つめそう言った。道中コンビニとかで買おうかと割と本気で悩んでいた。

 

「……はあ」

 

そんな彼をため息交じりに見つめるリン。

何を思ったか、自分が巻いているマフラーをしゅるしゅる外しだす。

 

「……ん」

 

そして、相手とは反対方向を向きながらも、今だ自分の体温が残るマフラーをずいと差し出した。

自分でもかなり恥ずかしいことをしている自覚はあるようで、かあと頬が熱を持つのが分かる。外気が低い分尚更だ。

 

「それだとお前が寒いだろ。受け取れないって」

「……私は、予備のとネックウォーマーもあるし平気だから」

「……まじ? ほんとにいいの?」

 

ぽすりと手に載せられたマフラーとリンの顔を見比べ、窺うように尋ねるコウタロウ。

 

「い、いいから使いなって! いいから!!」

 

紅潮する顔を隠すように俯きつつ、そう言って半ば無理矢理コウタロウの首に巻き付けた。

 

「俺の友達がイケメン過ぎる件について」

 

眼下で揺れるリンのニット帽を見つめながら、こういうことが自然にできるとモテるんだろうなあと、普段の自分の言動をすっぽり忘れて思うのだった。

 

 

 

 

 

へやキャン△

 

冬のある日。

 

野クルの部室では、千明たちを待っているなでしことコウタロウの二人きり。

なでしこが腰をかがめてガサゴソロッカーを漁る音と、コウタロウがロッカー上に腰かけ本のページをめくる紙擦れの音のみが、時折聞こえてきていた。

 

「お?」

「どした?」

 

ふと、あるものを手にしたなでしこが姿勢を上げて声を漏らした。

コウタロウも目線を紙の上から離し、なでしこの方を向く。

 

「……」

 

あるもの…松ぼっくりを手に載せ、ぐいと幼馴染の方に差し出してくる。もう片方の手には携帯を構えており、写真を撮る気は満々のようだ。

 

「え、なになに急に」

 

無言で差し出される松ぼっくりに困惑しつつも、ぱたりと本を閉じてそれを受け取るコウタロウ。

松ぼっくり手に当惑の表情を見せる彼をよそに、なでしこはロッカーからもう一つ松ぼっくりを手に取ると、よいしょとコウタロウの隣に腰かけた。

 

「ん!」

「んって……なに、俺も鼻に重ねればいいのか?」

「ん!」

「しりとりだったら速攻負けだな」

 

とは言いつつも、幼馴染の言うとおりに自分の鼻に松ぼっくりを重ねる。

そして互いに顔を寄せて、なでしこの携帯のカメラを見つめた。

 

ぱしゃり。

 

慣れた様子でなでしこがボタンを押し、シャッター音が部室に響いた。

画面を見て満足げになでしこが微笑む。

 

「えへへぇ」

「どれどれ」

 

撮れた写真を覗き込めば、鼻に松ぼっくりの腕を組んだ二人が仲良さげに写っている。行動は突飛だが、自撮り自体は普段通りの感じであった。

 

と、ここまで何も言わず付き合ったコウタロウだが、流石になでしこの意図が読めず、ここまでおとんしか喋っていない彼女に問いかける。

 

「で、何だったのこれ。松ぼっくりの妖精のまね?」

「ち、違うよ!? コアラだよぅ」

「なるほど……?」

 

まあ言われてみれば、鼻の感じはそう見えなくもない。

自身にもたれて松ぼっくりをぱしゃぱしゃしだしたなでしこをじっと見つめる。

 

「ふふ、キャンプの匂いする?」

 

にこにこ顔で、コウタロウの鼻に松ぼっくりを近づけてきた。

すんと鼻をならし、しばし松ぼっくりの香りを堪能する。

 

まるで一流のワインソムリエが口の中でワインの味や風味を反芻して味わうかのように、目をつむり松ぼっくりに感じ入るコウタロウ。

 

そして、ワクワク顔のなでしこを見つめ口を開いた。

 

「無臭」

 

なでしこがすてっとこける。

 

……何か月も乾燥した室内に放置されれば当然そうなる。さもありなん。

 

 

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