本栖高校野外活動サークル△   作:園田那乃多

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感想来ないどころか評価が右肩下がりだけど投稿するんだぜ。



三十八話

 

光前寺からほど近い、「駒ケ根の湯」。国民宿舎と併設されており、宿泊者は割安で温泉に浸かることができる。今回二人は温泉のみの利用だが、公営施設なだけあって、太田川沿いの一等地を広く占めており、耳をすませば清流のせせらぎが聞こえ来る、閑静な雰囲気のナイスな温泉である。

 

「はぁーーー……」

 

そんな駒ケ根の湯の女湯側の露天風呂では、広いお湯を独り占め状態のリンが大きく伸びをして気持ちよさそうにため息をついていた。

内湯には数人人影があるが、冬という事もあってか外の露天風呂にはリン1人。誰に気兼ねするでもなく、温泉で火照った表情と共にほうっとリラックスできる。

 

(凍えてた体が一気にふやける感じ……)

 

個人的には、露天風呂の神髄は冬にこそあると思う。体の外気に触れる部分は冷たく、温泉に浸かっている部分はあたたかいというコントラストがたまらない。

 

(寒い日にわざわざ出かけて凍えといて、温泉で温まる……)

 

姿勢を直そうと膝立ちになると、ざばりとお湯が落ちる音ともに、リンの白磁を思わせる白い肢体からつうとお湯が伝う。火照った躰は扇情的ともいえる色気に満ちているが、誰もいないこの場所。リンはその体を惜しげもなくさらしている。というか見られたら羞恥で死ぬ。

 

座りやすいポジションで再び浸かると、頭の中を空っぽにしてただお湯の感触を味わいつつ、熱にあてられたようなふやけた表情で何気なしに空を見上げた。

 

(マッチポンプマッチポンプ)

 

そのまま目をつぶり、しばしその雰囲気を楽しむ。

と、

 

『うおー! 誰もいねえ貸切風呂だぁー!!』

 

隣の浴場からものすごく聞き覚えのあるそんな声がして、思わずため息がこぼれた。

 

「はあ……台無し」

 

 

 

 

流石にわきまえたのか最初の一声以降隣の浴場から声が聞こえてくることも無く、安心してリンはしばしの間雪を被った駒ヶ根連峰を眺めていた。

 

(あんなのに登る人もいるんだよな。すごいよなぁ……)

 

遥か先にそびえる山々はどれも標高が高く、3000メートル級が続くという。ロープウェイを使えば初心者でも十分に挑戦できると言うが、ロープウェイなしで臨もうとすると相応のレベルが要求される山々だ。

 

なんて思っていると、

 

『あんなのに登る人もいるのか……すげえな』

「ふふっ。同じこと言ってる」

 

自分と全く同じ反応をしているのが聞こえてきて、図らずも頬が緩んだ。何となくそれが嬉しくて、誤魔化すようにぱしゃぱしゃとお湯を顔に掛ける。

気が緩んでいるのは向こうも同じなのか、それとも声が響くからか、彼の声は続く。

 

『登山といえば、さっきのお姉さん綺麗だったなー……』

「む」

 

聞き耳を立てていたリンの耳に、聞き捨てならない声が届いた。十中八九、先のお茶をくれたお姉さんのことだろう。確か菊川昴さんという名前だった。確かに綺麗な人だったけど……。

むっとして柵越しに男湯の方を睨みつける。

 

『やっぱ登山は男のロマンだよなぁ。夢と山はデカければデカいほどいい……』

(何言ってんだこいつ)

 

独り言とは得てしてそういうものだが、思うままに口から言葉が出ているらしい彼に心の中でツッコミつつ、ふと目線を自身の胸のあたりに持ってくる。

 

「……」

 

山というか、丘がそこにはあった。

 

(デカければデカいほどいい……)

 

何となく胸に手を当てると、先のコウタロウの言葉がリフレインしてきた。

別に彼は胸の話はしていないのだが。

 

(やっぱり男子って大きい方がいいのかな……。犬山さんとかスタイル良いし……)

 

言わずもがな、あおいは男子に人気がある。基本的に誰にでも優しく話しやすい性格もさることながら、その抜群のスタイルの良さのためだ。

そしてそんなあおいは、コウタロウと一緒にいることが多い。

 

「……」

 

再び自身の丘を見やる。

 

(……やめよう。むなしいだけだ)

 

これ以上あれこれ詮索しても無益だと判断したリン。

まだ何か言っているだろうかと聞き耳を立てるが、もう何も聞こえる気配はない。ならばと当初の目的通り温泉をじっくり楽しむことにして、肩までお湯につかり出した。

 

(あーーヤバい。本格的に動きたくなくなってきたぞ……)

 

リンとコウタロウが温泉に浸かっている間、彼らの携帯のメッセージアプリではなでしこと千明の二人がリンたちの昼ご飯についてあれこれ紛糾しているが、それは知る由もない。

 

そうして一人静かに温泉を楽しんだ頃。

だんだんとのぼせ始めてきたかなあと自覚しはじめたリン。

 

(そろそろ出るか……)

 

自分は髪を乾かすのにも時間がかかるし、コウタロウをあまり待たせるのもよくないだろうと、ガラガラと引き戸を開け脱衣所に向かう。

 

露天風呂には人の気配が消え、静けさだけが残った。

 

と、隣の浴場から声が聞こえてくる。

 

『あー……桜さんと登山とか行きてえなぁ……』

ぽつりと、誰に聞こえるでもなくそう声が響いた。

 

 

 

 

「あれ。守矢がいない」

 

早すぎたかとぼやくリンの姿は、併設される食堂スペースにあった。

ならば適当なところで待っていようと、湯上りで火照り若干ぽやぽやした思考のまま、流されるように奥の座敷に座り込みスマホを開くと、尚も侃々諤々の昼ご飯論争の他に、コウタロウからも連絡がきていた。

 

『今出た』

 

送られてきた時間を見るに、リンよりも先に上がったようだ。

 

「なんだもう出てるのか。どこにいるんだよ」

「お、志摩も上がったな」

「うわ、びっくりした。守矢いたのか……」

 

リンが辺りを見回すのと、そう声がかかるのは同時だった。

声の主を見れば、なんだかしたり顔でピースサインを送っているコウタロウの姿。

 

「どしたの」

「いや、さっきまで食堂のおばちゃん達と話してたんだけどさ」

「いないと思ったらそんなことしてたのかよ」

「食券のとこに居たら、何食べるのって聞かれたからその流れでな」

 

そんなことあるのかと思うリンだが、今の食堂内の自分たちしかいないという閑散ぶりと、コウタロウのマダムキラーぶりが合わさればそう言うこともあるのかもしれないと納得した。

私なら絶対出来ないけど、とぼやく。

 

「そしたらさ、ソースカツ丼食べるならおまけしてくれるって! 味噌汁とご飯のみならず、千切りキャベツもおかわり無料券を勝ち取って来たぜ」

「まじかよすげえな」

「へへん」

 

ドヤ顔でコウタロウが後ろにサムズアップすると、カウンターから顔をのぞかせていたおばちゃんもそれに返してきていた。満面の笑みで。というか私はそんなに食えんのだが……。

一体何を話せばそうなるのか気になるところだが、まあ別にそれほど興味は無かったのであいさつ程度にリンも会釈を返し二人して食券売り場まで向かう。

 

「私はミニソースかつ丼にしよ」

「げ、これ入浴セット券だとミニサイズしか頼めないのか」

 

リンが迷いなくボタンを押す横では、大盛サイズのソースかつ丼を頼む気満々だったコウタロウが愕然と項垂れていた。悔し気に声を漏らす。

 

「ぐぬぬ……」

「いやお代わりできるんだからいいだろ」

「う……まあそれもそうか。これ以上を望んだら罰が当たる」

「そういうこと」

 

そうして二人して同じものを頼むと、先の座敷に戻ってくる。

メッセージアプリを開くと、相も変わらずなでしこと千明が言い争っていた。

 

『伊那のローメンだ!!』

『駒ケ根のソースかつ!!』

『『ぐぬぬ』』

『なでしこのくせに生意気な!』

『あきちゃんのがんこー!』

 

「おいあの二人まだ揉めてるぞ」

「ローメンもおいしそうだけどもうここから動きたくない」

「な」

 

そうしてしばし二人の論争に見入っていた二人のもとに、お待ちかねの物が運ばれてくる。湯上がりでぼうっとしていると、時間が経つのはあっという間だ。

 

「はいお待たせ。こっちがコウタロウ君で、こっちはお友達の分ね」

 

と、先のサムズアップおばちゃんがミニとは名ばかりのサイズのソースかつ丼を置いて行く。明らかに大盛サイズだ。

怪訝な顔を返す二人。

 

「あの、これ」

「お、おばちゃんこれ……」

「いいのいいの! 若いんだからいっぱい食べないと。それに、今日お客さん少ないし、余ったら捨てなきゃなんだから!」

 

どうやら食券売り場での二人の会話を聞いていたらしく、少々のリップサービスをしてくれたようだ。

おばちゃんはそう言ってウインクを返した。

 

「あ、ありがとうございます」

「いいのよー」

「ありがとうございます! おばちゃん愛してるぜ!」

「あら嬉しい。私もよ」

「厨房のおばちゃん達も愛してるー!!」

「「「私もよー!」」」

(なんだこれ……)

 

リンはマダムたちとコウタロウの茶番に引きつつ、コウタロウってすごい、改めてそう思った。

 

その後二人してひとしきりお礼を言うと、にこやかにおばちゃんは戻って行った。

思わぬ気遣いにほくほく顔のコウタロウと、目の前に置かれた大盛りのミニソースかつ丼をパシャリと写真に収めるリン。

 

『ミニソースかつ丼(ミニとは言ってない)きたー』

【写真】

『『えっ!?』』

『守矢が食堂のおばちゃん達を落として大盛りになった』

『『えっ!!?』』

 

「おいなでしこに変なこと言うのやめろ」

「事実だろ。愛してるとか言ったし返ってきたし。もうおばちゃん達と結婚しろよ」

「それは捨てがたいが、俺の愛は全ての女性たちに注がれるものだからな」

「ルパン三世か」

 

なら私にも分けろよとリンはジトっと彼を見つめつつ割り箸を割った。

いただきますと手を合わせてソースかつ丼に口を付ける。

 

「ん、ウマい……」

「うマーベラス!」

「サンドのネタやめろ。ソースかつ丼とサンドウィッチごっちゃになるだろ」

「いやそうはならんだろ……」

 

とはいえ美味しいのは確か。ソースの染みたしっとり目のカツがご飯としんなりめのキャベツにめちゃくちゃ合う。名古屋でもソースカツは有名だが、こちらのソースは名古屋のものほど主張が強くないのがグッドだ。キャベツがあるのも高ポイントである。

湯上りのほかほか状態で、温かい室内で小川のせせらぎを聞きながらうまい飯を食べる。リンは今ソースカツだけでなく、最上級の幸せもかみしめているのだ。

 

「大盛食べきれるか自信なかったけど、これならいけそう」

「おばちゃんおかわり!!」

「早えよ」

 

爆速で一杯目を平らげたコウタロウがお代わりを貰いに厨房まで駆けて行った。

まあコウタロウだし仕方がないと半ば諦め、リンはもう一口カツを頬ばる。

 

(普通のとんかつソースよりまろやかで甘い……。ソースだけ売ってないかな)

 

コウタロウがおばちゃんに頼めば購入できそうな気がしてならなくて、やっぱソースはいいやと思い直す。おばちゃん相手でもいちゃいちゃされると嫌だ。

というか、口説くならおばちゃんじゃなくてまず私だろ。二人きりでキャンプ来てるのに、何とも思わないのかあいつは。私はこんなに意識してるってのに。

もしや熟女好きとかそんなことないよな流石に……。ないよ、な……?

 

と、さっきからがつがつうるさい彼の方をちらと見て……

 

「……わう?」

(い、犬!? 犬が、私のサラダを……!)

 

気付けばコウタロウの姿はなく、白い犬が無我夢中で自分のサラダを頬張っていた。がつがつ食ってたのはこいつか。

一瞬コウタロウが犬に化けた!? と錯覚するが流石にそんなことは無い。が、厨房の方を見ても彼の姿はおろかおばちゃんたちの気配もない。

一体どういう事かとリンがいぶかしんでいる中、

 

「コウタロウや、腹ごしらえは済んだかのぅ?」

「ワフッ」

 

と、どこか聞き覚えのある声に振り返れば、旅僧の装いのなでしこが立っていた。白いちょび髭まで着けて。というか犬の名前。

 

「……何やってんだなでしこ」

 

よもやコウタロウを追ってここまで来たかと戦慄するが、そう思うにはいささか様子が違うし犬の名前。

なでしこ(?)は答える。

 

「ワシらはこれから静岡の磐田に行くんじゃ」

「磐田?」

「磐田に村人を苦しめるたいそう悪い化け猿がおってな、そいつをこのコウタロウと懲らしめに行くんじゃよ」

「そこは早太郎じゃないのかよ」

「何を言う。コウタロウはコウタロウじゃ。ねーコウくん」

「わふ!」

「おい素が出てるぞ」

 

というかコウタロウは本当に犬設定なのかよ。そいつにサラダ食われたと思うとなんかムカついてくるんだけど。

 

「ほいじゃワシらはこれで。またのうリンちゃん」

「ワフッ!」

 

そういってなでしこ(?)とコウタロウ(?)は踵を返し歩きだす。

 

「何、エビかつ丼を食わせろ? もう、さっき大盛りソースかつ丼食べたばっかりだよ? …あっ、こらコウくん! だめだよそんな今は……! 磐田まで我慢してで豚足カレー食べよ? ねっ?」

 

あれ、待てよ。コウタロウ(?)が行っちゃうのはおかしいだろ。だってあいつは私と一緒に来てるんだから。いくらなでしこでもそれはだめ……!

 

手を伸ばす。

 

待って。待ってよ守矢! 私を置いてかないでよ! 

 

手を伸ばす。

何で行こうとするの? 私よりなでしこがいいの!? やめてよ! 私以外のところに、行かないでよ……!!

 

「待って、待ってってば! 守矢!! ねえっ!!」

 

声は、届かない。

 

 

 

 

「………あ」

「お、やっと起きた」

 

ぱちりと目を開けると、困ったような笑みを浮かべたコウタロウが視界に写った。

寝ぼけ眼のまま両手を伸ばし彼の頬をムニムニといじる。

 

「……ちゃんと人間だ」

「まあ生憎生まれた時から二足歩行だな」

 

あれでもはいはいの時は四足歩行なのかとコウタロウが悩みだす横で、ほっとした表情を浮かべるリン。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

自分の前におかれた食器が空になっているところを見るに、どうやら食べ終えた後満腹の余り眠気が来たのだろう。

 

「寝ちゃってたのか。守矢、今何時……」

 

言い終わる前に、すっかり暗くなっている窓の外が視界に入り、冷汗が流れ始める。

思わずごくりと唾を飲み、祈るように彼の二の句に聞き入るリン。

 

「17時少し前ってとこ」

「……!?」

 

残念ながら神はいなかったようだ。

リンの体から、血の気がさあっと引いてくるのが分かった。

 

今17時。

外、暗い。

まだ、キャンプ場、着いてない。

キャンプ場、遠い。

 

「守矢……!」

「荷物ならここにある」

 

焦るリンに、コウタロウは一纏めにしてあった二人分の荷物から、彼女の分を手渡した。謎の手際の良さを発揮する彼だが、今はナイスと言わざる得ない。ナイス!!

リンはむんずとひったくるようにそれを掴むと、一目散に駆けだした。

 

「守矢ダッシュ!! 全速!!」

「おうともさ!」

 

そして過去最速でバイクに乗る準備を済ませると、後ろをついてくる彼への合図もそこそこにアクセルをぶん回した。

 

「思いっきり寝過ごしたーーーっ!!!」

(わんこそばみてえにお代わりし続けてたら時間経つの忘れてたとは言えないよなあ……)

 

リンの魂の叫びともいえる今日一番の大声の裏では、抗えない食欲による罪悪感にかられるコウタロウがいたのだった。

 

 

 

 

へやキャン△

 

私には、仲の良い男の子が一人いる。と言っても、親戚の子ではあるんだけど。

 

守矢神社の当代の風祝として、少々人とは違った力を持つ私とは打って変わって、そういった力は持たない彼だけど、その代わりか身体能力はずば抜けている。

神奈子様が言うには、現人神としての器の片割れらしい。巫女としての能力面では私が、肉体面では彼が、というように私たちはそれぞれ別の側面で文字通り人間ではない。

 

「おー諏訪子ちゃんそんなことまで知ってんのかー。すごいなあ」

「えへへーでしょー?」

 

最も、彼にその自覚は一切ないんだけど。というかこないだまで神奈子様や諏訪子様を認識できてなかったし。

何故急に見えるようになったのかは謎だ。成長期だからかな?

 

「じゃあそんな偉い諏訪子ちゃんには飴ちゃんをあげよう。一昨日早苗に弁償させたやつ」

「わーいコウタロウ大好き!」

 

翻って私は、幼い頃から人と違った能力があることを自覚していたし、神奈子様達両柱も知覚できていた。今やお二人ともすっかり家族だ。

とはいえ、建御名方神たる神奈子様と、土着神の頂点たる諏訪子様という神性にあてられ続けた私は、普通の人とのギャップに悩むこともあった。ほら、見えないものが見えたりとかそういうの。

そういう悩んでた時期に、そんなの全然関係ないと言うようにこっちに踏み込んでくるコウタロウには、実はけっこう感謝していたりする。

 

「そういやその帽子の目玉って本物? なんかすげえ目が合うんだけど」

「あ、気になっちゃう?」

「私、気になります!」

 

する、のだが……。

 

「ふふ、そこまで言われたらしょうがないね、コウタロウには特別に教えてあげよう」

「お、まじかやった! さっすが諏訪子ちゃんだ――

「不敬者ーーーっ!!!」

「ぶべらっ!!?」

 

私の華麗なドロップキックが、極大の不敬を連発する愚か者の背中に直撃した。ずざざ、と前のめりに神社の境内の土とキスをする。だいぶ熱いベーゼだ。私は絶対したくない。

ちなみにけがの心配とかはしていない。大丈夫、彼 最強(フィジカル面で)だから。

 

「いきなり何すんだよ!」

「一昨日からずーーーっと言ってますけど、そこにおわすのは神様なんです! 神様! そんな諏訪子様に向かって、畏れ多くもちゃん付けしたり膝の上に座らせたり……。不敬が過ぎますよコウタロウ!」

 

最初は驚くかもと思って隠そうとしたけど、まあ主に私のボロが出過ぎたことが原因であっさり白状して既に二日。

ばれたらもう仕方ないかと開き直り、お二人について懇々と説明しても全く聞き入れようとしないのだ。というか態度を改めようとしない。

 

「だって、なあ……?」

「ん~?」

 

そう言ってぶっきらぼうに諏訪子様の頭を撫で始めるコウタロウ。

そこ! 諏訪子様も振り払ったりしてください! なすがままにされない! 気持ちよさそうに目を細めない!

 

「神奈子様も何か言ってやってくださいよ!」

 

このままでは埒が明かないと、神社の軒先に座り込んでこちらを眺めていたもう一柱、八坂神奈子様に向き直った。

 

「え? あー、まあコウタロウがそれでいいならいいよ」

「流石姐さんだぜ」

「言うに事欠いてこの男は!!」

「うわ、どうどう落ち着けって早苗」

 

お祓い棒で殴り出した私をコウタロウが止めにかかった。

くっ、流石にフィジカルじゃ勝てないか……!

 

「いや俺だって二人? 二柱? が神様だって疑ってるわけじゃない。姐さんの後ろの注連縄とか明らかに物理法則無視してるし、なんか二人とも圧が違うし」

「ならなんで」

「いやほら、諏訪子ちゃんなんか初対面が『迷子かな』だったからさ、今更態度は変えづらいって言うか」

 

一応申し訳なくは思っているのか、目線をずらして頬を掻く仕草を見せる。

ま、まあ諏訪子様に関しては見た目も相応に幼いから、分からないことも無い、けど。

 

「あたしなんて、初対面の第一声が『あの爆乳の姉ちゃん誰』だったからな! こりゃあ笑うわ!」

 

思い出してもまだ面白いのか、そう言って神奈子様が豪快に笑った。

 

「ほんとにあの時はぶっ殺してやろうかと思いましたこいつ。リアルに殺意湧きましたよ」

「あ、あん時は面と向かっては言ってなかったじゃないすか! 早苗にこそこそっと聞いただけで……」

「ぶっころ!!」

「怖いこと言うなよ! お前の殺意は割と本気で叶っちゃうかもしれないだろ」

「あー……コウタロウならフィジカルで何とかなりますよ」

「適当ぬかすな」

「まあ死なない程度に呪うくらいで勘弁してあげます」

「呪うのは確定じゃねーかふざけんな!」

「む、やりますか?」

「いいだろう、決着つけてやる」

「受けて立ちますよこのフィジカルチート! 体力お化け!」

「言ったな? 吐いた唾は吞めねえぞこの腋出し巫女! アホの子!」

「なっ、どこ見てんですか変態! えっち! 女たらし! 女の敵!」

「お前のなんか見るか! 俺は年上好きなんだよ!」

 

ぐぬぬといつもの言い争い始める二人をしり目に、二柱の神は感慨深げにつぶやく。

 

「……でも、よかったねえ。コウタロウがちゃんとあたしらのこと見れて」

「うん。これで、もう心残りはないよ」

「早苗には申し訳ないが、こればっかりはどうしようもない、か」

「ああ。最後にコウタロウと触れ合えて、本当に良かった。大切な子孫だからね、それだけが悔いだった」

「あの子が帰ったら、だったね」

「ああ……あの子が返った後、あたしらはもうここにはいない。誰の記憶にも残らないさ」

「幻想郷、か……。どんなところだろうねえ」

 

どこか寂し気な二人の会話は、終ぞ誰に聞こえるでもなく閑散とした神社の静寂に消えていった。

 

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