本栖高校野外活動サークル△   作:園田那乃多

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家が火事になってて遅れました。



三十九話

日がすっかり傾き暗くなった南部町は各務原家では、なでしこと千明がお菓子をぱくつきながら部屋で駄弁っていた。

夕飯には千明特製(笑)のほうとうが振舞われ、二人のお腹は充電完了である。

 

「……で、さっきは何となく有耶無耶になっちまったけど、コウタロウの好きな人について聞かせてもらおうかぁ!」

 

メガネを爛々と光らせ興味津々といった様子で身を乗り出す千明とは対照的に、なでしこはたははと苦笑を漏らした。

 

「う、うーん……そ、そうだあきちゃん! 今度のキャンプの作戦会議しなきゃじゃない!?」

「そんな露骨な話題逸らしに乗るあたしと思ってか? いやまあそれもするけど」

「うぅ……」

「ようし分かった! コウタロウの好きな人を言ってくれたら、あたしの好きな人も暴露しようじゃないか! 出血大サービスだ!」

 

同級生の恋バナという青春イベントを前に千明のテンションは上がっており、恐らく後から後悔する系の交換条件まで提示し始める始末。ベッドの中で悶える姿が目に浮かぶ。

そんな様子に逃れられないと悟ったのか、はたまた千明の好きな人に興味があったのか、なでしこはこくりと頷くとぽしょぽしょと話し出す。

 

「わかったよぅ……」

「ならばよし」

「……中学生の時にね、コウくんが同級生の女の子から告白されてるとこを偶々見ちゃったことがあって」

「ほうほう」

「もちろんその子と付き合ったりはしてないんだけど、その時『好きな人がいるから』って言ってて」

「ほー……」

 

それはお前のことでは? と千明は言いかけるが、話の腰を折らないためそのまま聞き入る。

 

「でね、その後で私さり気なく聞いてみたの。『コウくんって好きな人とかいる?』って。そしたら……」

「そ、そしたら?」

「『未だに初恋を引きずってる』って」

 

ほうと物憂げに息を吐くなでしこ。

 

「コウくんの初恋って幼稚園の時だってのは知ってたし、私たち小さい時からずっと一緒だったから、もしかしてもしかしたら私のことなのかなって思ったんだけど。……違ったの」

「ごくり……」

 

そんな彼女の様子は普段のぽわぽわしたものとは打って変わっていて、ギャップに吞まれそうになる。思わず固唾をのんで続きを促す。

 

「いたんだよ。私以外にも、ずっと一緒だった人が。そういえば小さいときはべったりだった人が!」

 

ぽつりぽつりと明らかになる事実に、千明はもう飲み込んだつばを反芻する勢いでいた。過去最高に嚥下している。明日は筋肉痛だ。

 

「その人ってまさか……」

「お姉ちゃんだよ」

「………………う、おー……」

 

今明かされる衝撃の真実に、言葉が出ない。

千明は眼鏡を取って目頭を揉むと、一息つくように天井を仰ぎ見た。

 

思い返してみればコウタロウには年上好き的な気配はあった。

 

なでしこをはじめ、コウタロウの周りには可愛い女子が多い。しまりんだって斉藤だって、イヌ子なんか勿論のこと同じ女子目線で見ても可愛い。イヌ子の破壊的ともいえるおっぱいに靡いてないと確信した時はホモ説を疑ったが、そうかと思えば新任の鳥羽先生には妙にテンションが高い。鳥羽ちゃんとか呼ぶしやたら美人美人言うし。流石に本人の前じゃ言わんが。

 

奴がなでしこの可愛さにもしまりんのクールさにも斉藤のからかい上手にもイヌ子のおっぱいにもうんともすんとも言わないのは、つまり年上が好きだったから……?

 

「だ、だけどさ、少なくともそれは中学までの話だろ? 今の時点でどうかは分からないぞ!」

「そうなんだけどね。だから多分って言ったんだけど、コウくん一途だから……!!」

 

何年とため込んできたもどかしさや、姉とコウタロウに対する感情がないまぜになって語勢が荒ぶるなでしこ。

 

「ほんっとにあの人はもう! 私の気も知らないで今日なんかリンちゃんと二人でキャンプ行っちゃうし!! ……行って来てって言ったのは私なんだけど! もお……もうっ!」

 

語勢につられテンションも高ぶり、内心とは裏腹の行動をしてしまった自分への感情を持て余す。でも乱暴なことは出来ないので枕に顔をうずめてベッドにダイブするにとどまった。

なでしこの体重分、ベッドがぽふりと揺れる。

そうしてしばし足をバタバタさせて鬱憤を発散させたかと思えば、ぱたりと糸が切れたように動かなくなり、しばしの沈黙。

 

「……でも好き」

 

枕に伏していたが、その声は十分に聞こえるもので。

 

「……何かこっちまで恥ずかしくなってくるんだけど。……というか、コウタロウの好きな人だけ聞ければよかったんだけど」

 

まあ知ってたけど。とは口が裂けても言わない。

 

「……」

「……」

「……あきちゃん」

「……なんだ?」

「……誰にも言わないでね」

「……うん」

 

思った方とは違う方向に着地した恋バナ。

なでしこの心の内をこれでもかと聞かされた千明までも、顔を赤らめて押し黙ってしまうのだった。

 

 

 

 

「守矢ほんっとごめん!」

 

同時刻。

17時を少し回った長野県は駒ケ根市のとあるコンビニ駐車場では、焦った表情を浮かべたリンがコウタロウに頭を下げていた。

 

「私が寝落ちしちゃったばっかりに……」

「まあそれは全然いいが、コンビニ寄る時は言ってくれな。ウインカー出さずに曲がるもんだから俺AKIRAみたいになったわ。多分効果音ギャアアアアとか出てた」

 

車線とは垂直方向に急旋回し駐車場にダイナミックエントリーしたコウタロウ。

いやそれはイニシャルDかとぼやく彼とは対照的に、リンは半分涙目で再び頭を下げる。

 

今回のキャンプは計画の段階から自分が一任すると宣言しており、旅慣れしている自分を見てもらいたかったのに、夜叉神峠では冬季通行止めに引っかかるし、駒ヶ根でもこうして寝坊して大幅に時間をロスしてしまう羽目になってしまった。情けなくて泣きそうだ。

 

「ほんとごめん……」

「あー……ほんと気にしてないし。俺のせいでもあるんだけどな」

 

お代わりしまくってたし、目の前ですやすや眠りこけるリンを眺めていたらついつい時間を忘れてしまったのだ。つまりは自分も悪い。そんなことは恥ずかしいので言わないが、どうやら彼女は罪悪感を感じているようだ。

 

どうしたものかと首に手をやると、ふと妙案が思いついた。

 

「よし分かった! 汝の罪をすべて許そうではないか。我に肉まんを捧げよ」

 

あんまり事態を重くさせ過ぎてもめんどくさいし、ふざけ半分で荘厳に告げてみた。

彼女が何を思ってコンビニに寄ったのかはまだ分からないが、どうせ寄ったならホットスナックでも食べたいところだった。

 

「そ、そんなことでいいの……?」

「もちろんだぞよ。俺肉まん好き。汝、我に肉まんを捧げよ」

「は、ははーっ」

「くるしゅうない。ほら、さっさと買って行こうぜ」

 

気にしてないと言うようにポンとリンの背中を叩くと、強張っていたリンの表情も心なしか緩んだ気がする。

そのまま二人並んで自動ドアをくぐれば、目当ての物はすぐそこにあった。

 

「お、あったあった。ジューシー豚まん。一個しかないけど」

「仕方ないか……すいません、ジューシー豚まん一つ下さい」

 

他の種類の肉まんはまだまだあるが、ジューシー豚まんだけ狙ったように一つしかない。

なぜだか残念そうにリンが呟くが、意を決して献上用に一つ注文した。

 

「150円です」

「丁度で。……ほら守矢行こ」

「あ、すいませんこっちの普通の豚まん一つお願いします」

「えっ」

「130円です」

「交通IC…は俺ナイスパスしか持ってねえわ。現金で」

「まいどー」

 

コンビニを出た二人の手には、それぞれ豚まんが握られている。

 

「なんで守矢も買ったし。1人で二つも食う気かよ」

 

さっきあんだけ食ったのにと、リンがジト目を向ける。

 

「まあまあ。これを、こうするだろ」

 

そう言って、互いの手に持つ豚まんを交換した。

リンの手にはコウタロウが買った普通の豚まん(130円)。コウタロウの手にはリンが買ったジューシー豚まん(150円)。

 

「お前の買った高級豚まんは俺への供物としてささげられた。俺はそのお礼に普通の豚まんを下賜した。はいこれで互いの罪は消えた! 以後俺もお前も気にする必要なし!」

 

にやりと微笑むコウタロウ。恥ずかしかったのか隠すように肉まんにかぶりついて――

 

「あ待って食うな」

「――っとぉ。ど、どうして?」

「向こうで食べよ。てか元々そのつもりだった」

「そうだったのか。ならばよし」

 

そう納得し、一枚豚まんの写真を撮るとさっさとバイクに向かっていくコウタロウ。

 

「守矢」

「ん――痛っ。何でぶったし」

「……内緒!」

「え、理不尽」

 

その背中を見てリンはふっと微笑み近づくと、彼の背中を小突くのだった。

 

 

 

 

『バイト終わったー』

『お仕事お疲れ様ー!』

『ありがとー、なでしこちゃんカゼ大丈夫なん?』

『もう治りましたっ!』

『よかった~、強い子なでしこやー』

『そんで今あきちゃんとキャンプの作戦会議してるよー』

『カゼ引きなでしこにほうとうアタック食らわせてやったぜ!』

『なんやあき見舞いにいっとったんか』

 

白い息が冬の夜空に消えていくのをぼんやり眺めながら歩く。

バイト終わりに歩くこの道にも、もうすっかり慣れたものだ。最初のころは街灯りもなく街灯もまばらで暗いこの道はちょっと怖かったが、千明やコウタロウと帰っているうちにいつの間にか平気になった。千明はまだしも、何も言わず彼が一緒に帰っていてくれたのは嬉しかった。だって、彼の家は反対方向だ。

 

コウタロウと言えば、今日はリンと二人で長野までキャンプに行っているらしい。

先ほど肉まんを自慢する旨のメッセージが来て事の顛末を知った。

誰にも聞こえないあおいの呟きが夜に消える。

 

「……ええなあ」

 

メッセージアプリの彼のアイコンを指で軽く弾く。

トーク履歴は先ほどで止まっており、既読が付かない。恐らくバイクに乗っているのだと推測できた。

 

未送信のまま残っている文字入力欄。

送信ボタンをタップするだけで、この文は彼に送られてしまう。何度も逡巡し、指を出したり引っ込めたりを繰り返して。

 

「……はあ」

 

やっぱり勇気が出なくて、彼とのトーク画面を閉じて先ほどのグループチャットを開いた。

 

『せや、今度のキャンプにええもん持ってけるかもしれんで』

『何っ!? 新しいキャンプ道具買ったのか!?』

『んー、道具ではないんよねー』

『なになにー??』

『詳しくは休み明けに教えるわー! またなー』

 

暗くなったスマホの画面に、街灯に照らされた自分の輪郭がうっすらと映った。

スマホを閉じると、急に寒さが顔をもたげたように感じられ、思わすぶるりと身震いしてしまう。

 

「うー、寒ぅーー……」

 

何となく、肉まんが頭に思い浮かぶ。

思うところはあるけれど、やっぱりこの気持ちに嘘はない。

 

「せや、肉まん買って帰ろ」

 

それはきっと、あの人のせいに違いなかった。

 

 

 

へやキャン△

 

それはとある月曜日の四限目のチャイムが鳴った頃だった。

 

「すいません遅れました!!」

 

がらりと教室の扉が開き、慌ただしくコウタロウが現れた。珍しく息を切らしており、その様子に歴史を担当していた鳥羽教諭も心配そうに声を掛ける。普段優等生で通っているため尚更だった。

 

「守矢君、何かあったんですか?」

「すいません。昨日諏訪の山奥で遭難しかけちゃって……」

「何があったんですか!?」

「今日の朝ようやく山から下りれたので、ダッシュで学校来ました」

「諏訪から走って今着くんですか!?」

「いやほんと、すいませんでした。すぐ席着きます」

 

尚も事の顛末を追求したげな鳥羽女史の視線を背中に受け、コウタロウは自分の席に着席した。新任の彼女は半ば冗談なのかと追及をあきらめ授業を再開するが、クラスメイトは慣れたもので「いつものことだ」と言わんばかりだ。

 

「……~っ」

 

最も隣の席のあおいは、聞きたくてしょうがないという風にそわそわしているが。

 

その後もつつがなく授業は進行し、あっという間に放課後。

 

 

 

 

「――ってことがあったんよ」

「へえ、珍しいなコウタロウが遅刻なんて」

 

野クルの部室では、今現在いない黒一点のコウタロウを除く女子三人が肩を寄せ合って先の件について話していた。

 

「訳を聞いてもはぐらかすし、なでしこちゃんならなんか知ってると思ってな」

「お、そうだな。コウタロウのことなら基本的に何でも知ってるでお馴染みなでしこ。そこんとこどうなんだ? 理由聞いてたりしないか?」

 

二人の視線を受け、うむむと眉根を寄せるなでしこ。

 

「昨日一昨日家にもいなかったの。理由聞いても、探し物だーって」

「あ、そうそうそう言っとった。何を探してるかは教えてくれんかったけど」

「私もだよー。何してたんだろうね?」

「なでしこも知らないんじゃお手上げだなー。……あいつのことだし、また違う女のとこだったり――」

 

千明がそう茶化して言うのと、なでしこが口火を切るのは同時だった。

 

「それはないよ」

「お、おう……」

「んー、じゃあ親戚とかは? 法事とか。…でもせやったらそう言うか」

 

なでしこのかつてない剣幕に若干気圧される千明の横で、あおいの案が降って消えた。

法事であるならば、わざわざごまかしたりする必要はない。それに、探し物と言っていたのは嘘ではないのだろう。何をかは言わないらしいが。

 

「コウくん諏訪に親戚なんていたかなぁ……聞いたことないけど」

「案外忘れてるだけかもしれないぞー」

「それはないよ」

「お、おう……」

 

千明がそう茶化して言うのとなでしこが口火を切るのは同時以下略。

 

三人娘の談義は続く。

 

 

 

 

一方そのころコウタロウ。

 

「失礼しまーす。大町先生……っていない」

 

職員室を見渡し、目当ての人物がいなかったことに肩を落とし、踵を返そうとした時。

 

「守矢君。どうしました? 何か御用ですか?」

 

振り向けば、新任で男子人気抜群の鳥羽美波教諭がこちらを呼んでいた。

 

「鳥羽ちゃん……でも大丈夫かこの際」

「鳥羽先生です。何回言ったら分かるんですか……」

 

何度目になるか分からないやり取りに、ため息を吐く鳥羽教諭。とは言うが、なんだかドラマの教師と生徒のやり取りっぽくて実はまんざらでもなかったりするのは内緒だ。

二人は鳥羽教諭のデスクまで向かう。

 

「それで、何か用があったんですよね?」

「実は、校庭でキャンプ道具使う許可が欲しくて。いつもは大町先生に言ってたんですけど」

「キャンプ道具?」

「はい。あ、でも全然危なくないですよ。火とかも使わないし、校庭の隅っこの方で邪魔にならないようにするんで!」

「うーん……まあそれならいいですけど……」

「やった、ありがとう鳥羽ちゃん! これで遅刻せずに済みます」

「遅刻……?」

 

疑問符の残る鳥羽教諭を残し、許可が下りたとコウタロウは足取りも軽く職員室を出て行く。

その勢いにしばらくフリーズしていた鳥羽美波女史だったが、自分に対する言葉遣いを除けば普段優等生の彼の言う事だし、危なくないならばと考えるのをやめた。

 

 

 

 

次の日。

 

「守矢君! 何であんなことをしたんですか!?」

 

朝から呼び出されていたコウタロウの姿は職員室にあった。

HR前の鳥羽教諭のデスクには、昨日の放課後と同じようにコウタロウが直立していた。昨日と違うのは、温厚な鳥羽教諭が珍しく声を荒げていることくらいだ。

 

「だって鳥羽ちゃんがいいって言うから!」

「いくらなんでも校庭にテント張って一晩明かすなんて思わないでしょ!! しかも見つかりにくい校舎裏で!」

「で、でも遅刻しなかったじゃないですか」

「そういう問題じゃありません!!」

「ひえ、すいませんでしたァ!」

 

以後コウタロウは、温厚で優しい鳥羽先生をキレさせた唯一の生徒として語り継がれることになるが、それは別のお話。

 





主人公が諏訪まで言ってたのは、とある親戚を探してたからです。諸事情あって彼女のことは誰も覚えてません。学校にテント張ったのはわざわざ家から行って帰って学校行くよりも早いからですね。

まあ全く本編には関係ないです。
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