本栖高校野外活動サークル△   作:園田那乃多

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火事のこと、皆さん心配くださりありがとうございます。
幸いにも私含め誰にもけがなどさせなかったこと、本当に運がよかったです。事後処理のごたごたが収まりかけてるので、投稿も頑張ります。むん!




四十話

時刻は午後6時20分。

陣馬形山キャンプ場まで500メートルといった夜の山道。街灯も街灯りもこの辺りには無く、真っ暗な中、バイクのヘッドライトだけを頼りに進んでいたリンとコウタロウだった

が……

 

「ま、まじか……」

「ここまで来ると笑えてくるなもう。取り敢えずなでしこ達に送ったろ」

「何でお前はそんなウキウキなんだよ」

「だってこんなハプニングだらけなことあるか? 絶対後でいい思い出になるやつじゃん」

「そう思ってくれてるのは嬉しいけどさ……」

 

少しは危機感というものをだな、とリンがぼやく。

緊迫感のかけらもない彼の態度だが、おそらくこちらがあまり罪悪感を感じないようにしてくれているというのが分かるため、何も言えなくなる。というか多分性格的にもそんな焦るタイプではないし。

 

そう。二人は今、本日二度目の通行止めに遭っていた。

前回の夜叉神峠での冬季大規模閉鎖とは異なり、今回のものは看板付きバリケードがポツンと道の端に置き忘れられたかのようにあるだけだが、その意味には変わりはない。通行止めったら通行止めなのだ。

 

とはいえ、あまり深刻になりすぎても却って同行者に迷惑をかけるだけだ。リンはほうと息をつくと、気持ちを切り替えるようにコウタロウに訊ねた。

 

「ヘイ守矢、ここからキャンプ場までの迂回路を検索して」

「すいません、分かりません」

「なんでだよ。しろよ」

 

携帯の向こうでパニックに陥るなでしこをどうどうと落ち着かせていたコウタロウが、ノリよく機械じみた抑揚のない声で反応した。

 

「しょうがねえなあ(悟空)……お、でたぁ(ドラえもんバトルドーム)」

「野沢雅子と大山のぶ代上手すぎだろ……」

「キャンプ場まで29㎞、こっから大体3時間でとこだな。3時間!?」

 

自分の言葉にオウム返ししてしまうほどに、ここからの迂回路は遠かった。現在二人は正規ルートとして駒ケ根市から210号線に入り時計回りに回って来た訳だが、迂回路は一旦駒ケ根まで戻って、山の中を南下しなくてはいけないのだ。

 

「今が6時25分だから、思いっきり9時過ぎるぞ……」

 

先ほどはコウタロウにつられて楽観視していたリンだったが、迂回路の遠大さにがっくりと肩を落とす。流石にキャンプ場到着9時は前代未聞だろう。着いてテント建てて急いでご飯を食べて終りだ。ゆっくり一息つく暇もない。

 

「……」

「無言で写真撮るな」

「いやつい」

 

バリケード前で項垂れるリンをカメラに収めたコウタロウ。

ごめんごめんと謝りつつなでしこ達のグループルームに送信していた。

 

「どうする? もうここをキャンプ地とするか?」

「いやまだだ。夜叉神峠みたいにナビが間違っててほかに道があるという可能性も……」

 

一縷の望みに掛けてリンがスマホを操作するも、その結果は芳しくない様子。

 

「ない、かあ……」

 

再びがっくりと肩を落とすリン。

どうにも、残り500メートルが惜しい。約30キロを3時間かけていくくらいなら、もういっそのこと歩いて向かいたいくらいだ。

 

でも荷物重いしなあ……あ?

 

同行者を見やる。目が合った。

その何でも聞いてくれそうな曇りなき眼に吸い寄せられるように、リンは口を開いていた。

 

「……守矢さ、ここにバイク置いてもう歩いてかない?」

 

現実的にはやるべきでないことだが、山の中だしバイクは道路の隅の方に止めておけば大丈夫だろうと、疲れと焦りで思考が鈍っているリンは考えていた。

 

コウタロウはうーんと顎に手を当て考える。普通に良くないし、そうするくらいなら自分がバイクを担いで進むかなんて返そうとしていた。が、言う前にリンの携帯が鳴る。

 

「ん…大垣からだ」

「ほー、どうしたんだろうな」

 

このタイミングで電話がかかってくるということは、コウタロウが送ったメッセージと写真を見ていたに違いない。

スピーカーモードにして彼にも聞こえるように電話を取った。

 

「もしもし」

『あ、しまりん? 電波繋がってよかったー』

 

開口一番、電話の向こうからは安堵の声が漏れる。

続く千明からは、驚きの事実が告げられた。

 

『そこの通行止め多分そのまま通れると思うぞ』

「「え?」」

「通れる……って思いっきり看板あるけど」

『それ、多分置きっぱなしになってるやつだ』

「ホントかなあ(ゴロリ)」

「守矢ちょっと黙ってて」

「しゅん……」

 

今大事な話してるんだからと、子供に叱る母親のような声音でリンが無駄にうまいコウタロウの声真似をバッサリと一刀両断した。これは普通にコウタロウが悪い。

 

『ははは。まあ、騙されたと思って進んでみてよ。もし通れなくて引き返してもロスは少ないだろ?』

 

くれぐれもゆっくりなーと言い残し、電話は切られた。

 

千明のことを疑うわけではないが、仮に通行止めが本当であった場合、バイクを押して戻るのは結構な手間である。できればそんなロスは避けたいところ。しかし、自分で言っておいてなんだが、リンはもう疲れに疲れ切っていた。できれば動きたくない。

と、ここにはリンのほかにもう一人、体力を持て余した人物がいることを忘れてはいけない。

 

「守矢」

「おう、2分で戻る」

 

リンの目くばせですべてを察したコウタロウが、音もなく夜の闇に消えた。

何のことは無く、ただダッシュで様子を見に行っただけだが。

その所作はまるで忍を彷彿とさせるものがあり、多分2分で戻るというのも冗談でもなんでもないのだろう。

頼もしすぎる相棒に思わずため息が漏れた。

 

「相変わらずすご……」

 

やることも無くなったリンは、本当に二分で戻れるかスマホで測り始めるのだった。

 

 

そして。

 

 

「戻ったぞ」

「1分30秒。まじかよこいつ」

 

ストップウォッチのボタンを押してきっかり90秒後にコウタロウが戻ってきた。息を切らせた様子もなく、常人ならそのタイムから、実はすぐそこが通行止めだったのではと思ってしまう程だ。

 

「で、どうだった?」

「ああ、大垣の言うとおりまじでキャンプ場まで抜けられた。道中危険な感じもない」

 

バイクに乗って行けそうだと告げられ、リンはほうっと肩の荷が下りたように安堵のため息を漏らす。

 

「さ、そうと分かれば早速行こうぜ」

 

バイクのイグニッションを回しながら彼が言う。

リンはこくりと頷き、今度はコウタロウを先頭に二人は進み始めるのだった。

 

 

 

 

へやキャン△

 

それはとある休日の午後のことだった。

 

いつものように富士川に沿って家方面に自転車を走らせ南下していると、甲斐大島駅辺りで見知った顔を見つけた。

カラッと晴れた日曜の午後で、風も気持ちよくバイト終わりという事もあって若干気分がよかった俺は、自転車を止め何となく話しかけてみることにした。

 

「おっす、ちくわに斉藤」

「んー? あ、コウタロウくん。おっすー」

「わんわんっ……ワフッ」

 

斉藤がふわりと振り向き、主人につられ名前を呼ばれた小さき獣が一目散に俺目掛け走り出し……リードの限界がきて硬直した。

 

「あはは、ちくわはコウタロウくんが好きだねー」

 

愛犬の様子に斉藤が苦笑うと、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

リード圏内に来た愛い奴をわしゃわしゃしながら彼女に向き直った。

 

「散歩か?」

「うん、さっき家出たとこ。コウタロウくんは?」

「俺はバイト帰り。見知った犬を見つけたから声を掛けた」

「あはは、そこは私じゃないんだ」

「何を言う。いつだってわんこが主役だ。知ってるか? かの徳川幕府5代将軍は犬将軍とまで呼ばれてたんだぞ。ここだけの話、あれは犬が好きだからって訳じゃなくて、実際犬だったらしいぞ。犬が天下取ってんだこの国は。なーちくわ?」

「わんっ」

「ほら」

 

しゃがんでちくわを撫でながら顔だけ斉藤に向ける。

まあそんなわんころも俺の撫でテクの前では形無しだけどな。ほらこれ、もうお腹出しちゃってまあ! かわいいやつめ。

 

「ほら、じゃないでしょ。なでしこちゃんは騙せても私はそうはいかないよ?」

 

くすくすと微笑みながら斉藤もしゃがんでちくわを撫で始める。

くそ、騙されなかったか。こないだ犬山と頑張って考えたのに。まあ自分で「ほら」って言っちゃったしな。しょうがないか。

 

「今のウソ、もしかして犬山さんと考えた?」

「そんなことまで分かるのか。斉藤は何でも知ってるな」

「何でもは知らないよ。知ってることだけ」

 

二人並んでちくわを快楽の渦に沈めていると、ふと思い出したように彼女が口を開いた。

 

「そういえばコウタロウくん今日は暇?」

「ああ。各務原家は家族で出かけるらしくてな。予定はない」

 

なんなら各務原家と我が家の両親が出かけてる。なんでも父親たちの職場の知り合いが店出したらしく、オープン記念に行くんだと。俺はバイトがあったからハブられた。解せん。

まあ桜さんは最後まで車出してくれると言ってくれたが。さすがに悪いので断った。

 

「そっか。ならさ、乗っけてよ、それ」

 

斉藤はそう言って後方に停めてあった俺の愛機、まなみ号こと自転車を指さした。

いつもはクロスバイクことまなみ号マークⅡであちこち出掛けていた俺だが、ホイールの換装に伴うスプロケット交換がまだ終わっていないため、今日はママチャリのまなみ号でバイトまで行っていた。

そう言う意味で、今日でなければニケツは出来なかったわけだ。あれ、ちくわもいるから3人か?

 

断る理由も無いし、自然と頷いていた。

 

「いいぞ。お客さん方、どちらまで参りましょう?」

「やった。こういうのなんか青春って感じがして憧れてたんだよねー」

 

斉藤は嬉しそうに微笑むと、富士川公園まで、と告げる。

そうしてあっという間にちくわを肩掛けのバッグに収納すると、ちょこんとまなみ号の荷台に腰を下ろした。

 

富士川公園って結構距離あるんですけどそれは。

多分ここから10数キロくらいだ。

 

「あそこドッグランがあるらしくてさ、一回ちくわと行ってみたかったんだよねー」

「わふっ」

 

俺がジト目を向けていると、ほわっと笑ってそんなことを宣った。ちくわも嬉しそうに鳴いた。

 

あ、確信犯だこれ。完全に都合のいい足として利用しようとしてる。

にこにこ顔の斉藤を見てそう思った。

 

「コウタロウくんなら余裕でしょ?」

「まあそうだけど」

「ならよし。れっつごー!」

「わんわんわーん」

「……」

 

まあこんな日もあるか。

時間はあるし、いい暇つぶしになる。そう思い直した俺はまなみ号にまたがると、ぐいとペダルを踏みこむのだった。

 

流石斉藤、同級生男子を足に使うなんて、恐ろしい子……!

 

 

 

 

富士川公園のドッグランに着いた俺たちは、ちくわを解放。はしゃぎまわるモフモフを、二人並んでベンチに腰掛け眺めていた。

 

「そうだ。ずっと気になってたんだけどさ、コウタロウくんって好きな人とかいるの?」

 

今思い出したかのような声音に、顔だけ振り向いて彼女を見つめる。斉藤の目には迫真さが見て取れた。うーんと考え込む。

 

実は俺と斉藤はそこまで仲良くない。というか、あまり接点がない。勿論会えばあいさつくらいはするが、そもそも志摩を挟んだ時くらいしか会話が無いのだ。時折メッセージアプリで何事か話すときはあるが、大体志摩関連である。

 

そんな奴と普通恋バナするだろうか。いやしないだろう。

 

「あー……まだ自分でもよく分かってないんだけど、初恋を引きずってる感はずっとある」

「そっかー」

 

と思っていた時期がありました私にも。

なんか斉藤の持つ独特の雰囲気と言うか、まあこいつは誰かに吹聴するような奴ではないと分かっているのもあってか、それとも単に俺の口が軽いだけか。

何故だかするすると言葉が出てきていた。もしかしてこいつ新手のスタンド使いか?

 

「なでしこちゃんのことはどう思ってるの?」

「これ以上ないくらい大事に思ってる」

「うわーすげーストレート」

 

なでしこのことに関しては自分でもびっくりするくらい即答できてしまった。恥ずかしい。

 

斉藤は頬を赤らめて手でパタパタ顔を扇ぐと、三度質問を繰り返してきた。

 

「じゃあ、好き?」

「うーーーーん……」

 

長考。

彼女が俺に向ける感情は分かり易いくらい分かり易いため、流石に分かっているつもりだが……。もちろんなでしこは大事だし好きである。それでも、恋愛感情なのかといわれると自分でもよく分からない。そもそも、桜さんに対する気持ちがまだはっきりしていない。時間が解決してくれると言うが、十数年腐らせてきたこの感情はたぶん振られでもしないとすっきりしないのではと思ってしまう。というか何故さっさと告白しないんだ俺は。

 

「フラれるの分かり切ってるからなぁ……」

 

はあと長いため息を吐いた。

怖いんだきっと。それがどんなものにせよ、「結果」が出てしまうのが。どう転ぶにしたって、俺と「彼女」の関係が変わってしまう。その事実が。

 

(なでしこちゃん……のことではないよねきっと。フラれるわけないし。なら例の初恋の人ってことか。誰なんだろ……?)

 

「「はあ……」」

 

リンも大変だなあと、恵那は恵那でため息を吐く休日の午後だった。

 

 





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