本栖高校野外活動サークル△   作:園田那乃多

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偉大なる先駆者兄貴に敬意を。





六話

 

「……ない。…ない。……ない。……なーいっ!」

 

数日後。

良く晴れた土曜の午前の各務原家では、次女のなでしこが庭の倉庫の中身をひっくり返して探し物をしていた。

 

これも違うあれも違うと手当たり次第にポイポイと放り投げ、辺りには何かの工具やらビーチボールやらシャベルやらが散乱している。

 

そんな倉庫で悪戦苦闘するなでしこに、近づく影が一つ。

 

「なでしこ」

 

背後から聞き馴染んだ声が聞こえる。

作業の手を止めて振り返れば、最近再会を果たした幼馴染の姿。

 

「コウくん!」

「おっと、…よしよし」

「えへへぇ……」

 

手に持っていた探し物とは異なる雑貨(なぜかブリキのロボット)を放り投げ、一目散に声の人物に走り寄るなでしこ。

喜色を浮かべて抱き着けば、幼馴染は優しく抱き留めてくれる。

なでしこはコウタロウの匂いに包まれながら頭を撫でられるのが好きだった。何となく子供っぽいと分かっているため、二人だけの時しかやらないが。

 

「…で、呼ばれて来たけど。どうしたんだ?」

 

放っておけばいつまでも撫でているし向こうも引っ付いていると分かっているので、心を鬼にして一旦引き離す。呼ばれてきたが、今日は午後からバイトがあるのであまり長くはいられない。

 

「あ、うん。あのね、お姉ちゃんが家におっきいテントがあったかもって言ってたから、探して一緒に設営しようと思ったんだ」

「それでこんな散らかってるのか」

「うん。まあ全然見つからないんだけどね」

 

なるほどと一つ頷き、コウタロウも倉庫の中を見てみることに。

 

「なでしこ、これは?」

「それは…釣竿だ」

「これは?」

「それは……釣竿だね」

「これも?」

「それも釣竿だよ」

「釣竿多くね!?」

「お父さんが釣り好きなんだよ。ほら、よく一緒に浜名湖に釣りに行ったよね」

「確かに連れてってもらったな。そうか、修一郎さんそんなに釣り好きだったのか……」

 

山梨では海釣りするのは一苦労だなと思いながら、出した釣竿を戻していく。

 

「ん…? あ。あった、テント!!」

 

とったどーと言わんばかりに獲物を掲げるなでしこ。

全部釣竿を出したおかげか、奥に立てかけてあったテントを発見できた。

 

「やったな。早速テント立ててみようぜ!」

「うん!」

 

 

そして。

 

 

「……なんか、違くね?」

「……うん。なんか違う」

 

完成したテントを前に二人は首をかしげる。

 

各務原家で見つけたテントは、三辺が大胆に空いている、いわゆるサンシェードテントと呼ばれるもので、主に川辺やプールサイドで使われる。が、二人にそんな知識は当然無い。

漠然と、数日前野クルで立てたテントとはどう見ても違うことは分かる。

 

「まあ、せっかく立てたし入ってみる?」

「賛成です!」

 

肩を寄せ合って中敷きも何もない地面にちょこんと座りこむ。

 

そんな二人に、11月の風が容赦なく吹き付ける。風を防御できる壁はサンシェードテントにはなく、二人はもろに冷たい風を浴びた。

 

「うぅ……、さむさむ」

「このテントじゃ、キャンプどころじゃねえな……」

 

寒さに身震いするなでしこに上着を羽織らせつつ、もはや疑うべくもない事実を口にした。

こんなんで冬にキャンプをしたら間違いなく凍死する。

 

…ブーンブーン

 

「あ。コウくん通知来てるよ。誰から?」

「斉藤からだ」

 

【リン、今日はここでキャンプしてるみたいだよー。】

【https://fumotocampsite】

 

コウタロウが添付されているURLをタップすると、麓キャンプ場の公式サイトが立ち上がった。

そのままキャンプ場の景色や位置情報などを見る二人。

 

「ふおー! 富士山だぁ……」

「確かにここからだと良く見えるだろうなー」

「私たち浜松に居ても山梨に来ても、お家からだと富士山見えないもんね」

「な。でもその方が特別感あっていいんじゃないか?」

「おお確かに! いいこと言うじゃないかコウくん」

「フフフ、あたぼうよ。俺の富士山にかける愛は誰にも負けないんだぜ」

「むー! 悔しいー!」

「ははは」

 

富士山、キャンプ、リンと、なでしこの頭の中で本日の予定が組みあがっていく。

と、二人の様子を見ていた各務原家の長女、桜がリビングの窓を開け顔をのぞかせた。

 

「……あんたら、見てるこっちが寒いから中入んなさい」

「「はーい」」

 

忘れていたが、二人ともアウターは羽織っておらず、普段着のままである。

なでしこはすぐそこの倉庫に用があったため、コウタロウは各務原家がすぐ近くのためまあいいかと着の身着のままで。しかも上着はなでしこに羽織らせているため、余計に寒い。

桜の言葉はもっともであった。

 

二人は手早くテントと散らかったものを倉庫に片付けると、足早に家の中に入った。

 

 

 

 

各務原家で昼飯をご馳走になった俺は、食後のまったりとした時間をリビングで楽しんでいた。あと少ししたらバイトだけど。

 

「いつもありがとうねコウタロウくん」

「鹿とマッシュルームのアヒージョ美味しかった……!」

「それは何よりです」

 

俺の趣味の一つは、なでしこに美味しいものを食べさせることだ。

美味しそうに食べるなでしこが好きだし、こっちも嬉しい。

しかし、こちとら高校生と言う身の上。高級食材だとか、遠地にある食材なんかはどうしても手に入らない。

 

そのため目を付けたのが、猟友会と食肉加工所である。

人気のあるイノシシなんかはあまり手に入らないが、可食部が少ないシカなどは意外とそのまま廃棄されることが多い。流通するのは、狩猟される全体の一割ほどだ。

猟師の方は討伐証明に尻尾だけあればいいし、こちらで解体すれば加工所も手間が要らない。二者の間に入ってちょろっと頼み込んだら、快く譲ってくれることになった。勿論解体した際に出る廃棄物なんかは加工所で処理している。

 

そんな風に、俺が各務原家に「おすそ分け」をするようになって久しい。

浜松に居た頃は漁業組合とかにもお話しにいって新鮮な魚を貰っていたが、山梨では難しいのがネックである。ぐぐぐ、なでしこに海の幸を食べさせられない……。

 

「毎度のことでもう慣れたけど、無理しないでね。普通、高校生が猟友会に口きいて分けてもらうなんて有り得ないんだから」

「いやあ、あはは。なでしこの為ですから」

 

美味しいもの食べて笑っててほしいからね。

三人分のお茶を淹れに行ったついでにお菓子を物色しているなでしこを見ながら、俺は目じりが下がり、桜さんはため息をついた。

 

「あの子ほっとくと直ぐ太るし……」

「ああ。あの時は大変でしたね……」

「コウタロウくんでも大変って言葉出るのね。まあランニングで70kmも走るのは流石に―――」

「なでしこが辛そうで俺まで辛くて大変でした」

「ああ、そういう……」

 

あの時とは、中学三年の夏休みである。

毎日食っちゃ寝してゴロゴロしていたなでしこに桜さんがしびれを切らし、強制的にダイエットが始まったのだ。その内容は自転車で毎日浜名湖を一周するというもの。コースにもよるが大体一周75kmくらい。

 

昔から体力には自信のあった俺は、自転車でひぃこら言いながら走るなでしこの後ろで原チャリに乗りながら檄を飛ばす桜さんの後ろを、走ってついて行っていた。休憩の度に差し入れをするのが俺の役割である。

 

そんな桜ブートキャンプを乗り越えたなでしこは今のようにすらっとした体形に生まれ変わり、体力もついた。俺としてはまるまるっとしてて美味しそうに飯を食うなでしこも好きだったが……。

 

「でも、アウトドアしてればリバウンドすることも無いと思います。別にしてもいいけど」

「コウタロウくんは見た目で判断しないからホントいい子よね……」

 

桜さんは何をどう控えめに言っても美人である。少なくとも俺が今まで会った中では一番。

大学生ということもあって、言い寄られることが多いのだろう。感慨深げにため息をついた。

 

「なでしこはなでしこですから」

「……あの子のこと、よろしくね」

「もちろん」

 

どういう意味かは分からないが、なでしこのことならばと強くうなずいておいた。

とそこに、三人分のお茶(多分静岡茶)と、ポテトチップスポッキー個装のバームクーヘンチョコパイエトセトラを持ったなでしこが帰ってきた。

お茶に口をつける。はーこれこれ。

 

「何の話してたの?」

「……アンタの話だよこの豚野郎!!」

「ひえー! やめれー」

 

助けてコウくんとなでしこが悲鳴を上げるが、あれは桜さんの照れ隠しである。甘んじて受け入れろ、なでしこよ。

 

仲のいい各務原姉妹の喧騒を肴に、俺はまた一口お茶を飲んだ。

 

 

 




主人公は割とフィジカルモンスターです。

判明している奇行。
・橋の上から川に飛び込む
・自転車で夜の山を片道60km走る
・表情一つ変えずにマラソン大会優勝
・なでしこの乗る自転車に合わせたペースで浜名湖一周走れる←NEW!

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