仮面ライダービャクア外伝~仮面ライダーソウテン~   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は僭越ながら、マフ30様が連載されている仮面ライダービャクアの外伝作品を手掛けさせていただくことになりました。

楽しんでいただければ幸いです。


第1話:月下の咆哮

 月が雲で隠れた暗い夜。とある森の中を、何かが駆けていた。獣ではない。獣にしては素早く、そして何よりも大きい。

 

『はぁ! はぁ! はぁ!』

 

 森の中を疾走する”ナニか”は、背後から迫る追跡者を振り切るべく唐突に大きく跳躍した。森の木々の遥か上まで飛び上がる筋力は、人間どころか動物のそれを大きく超えている。

 

 その時、雲が晴れて月が顔を出した。太陽に比べると弱く、それでも暗い夜では頼もしい明りが夜の森を照らす。

 同時に飛び上がった存在が照らされた。その姿は明らかな異形。異様に細長い手足に、不釣り合いな太い胴体。何より目を引くのは頭から生えた二本の長い耳。

 

 それは極めて異形だが、外見的特徴で判断するなら兎の化け物と言うのが一番だろう。

 

 その兎の化け物――バケウサギは、着地し小さなクレーターを作った。

 そしてその際の勢いを殺さず次の跳躍に活かそうとした、まさにその時――――――

 

 後方から飛んできた幅広の大剣がバケウサギの両脚を切り飛ばした。

 

『うぎゃぁぁぁぁっ?!』

 

 予想外の攻撃と痛みにバケウサギが悲鳴を上げる。自慢の両脚を絶たれては、逃げる事は勿論攻撃すらままならない。

 

 跳んで逃げようと力を溜めていた最中だったので、バランスを崩し無様に地面を転がる。

 

 そこに新たな異形が襲来した。黒い狐の仮面の様な物を身に付け、両腕と両脚は鋭い爪のある鎧で覆われている。だがその手足に反して、体は紫のボディースーツで覆われているだけであり胸と腰に布を巻いているだけだ。体型から察するに、新たに現れた異形は女性であるようだ。

 

「フゥーッ、フゥーッ――――!!」

『あ、あぁぁ……来るな。来るな――!?』

 

 仮面の女性はゆっくりとした足取りでバケウサギに近付いていく。バケウサギは必死に距離を取ろうとするが、両足が欠如している為思う様に動くことが出来ない。

 

 そしてバケウサギの目前に迫った時、仮面の女性は爪のついた手甲を振り上げた。手甲の先端に取り付けられた爪がまるで手の指のように動き、血の様に赤い爪が月明りに照らされキラリと光る。

 

 その爪が、無慈悲にバケウサギに振り下ろされた。

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!』

 

 けたたましい断末魔の叫び声をあげ、直後にバケウサギの頭がぐしゃりと音を立てて叩き潰された。

 

 仮面の女性は物言わぬ骸となったバケウサギの残骸を、足で踏み付け勝鬨の様な声を上げた。

 

「ウォオォォォォォォォォォッ!!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 春先で気温も暖かくなってきたその日、街を1人の少年が歩いていた。見た目はいかにも人畜無害と言った様子で、温厚そうな見た目をしている。

 

 その少年の名は、日向 健(ひゅうが たける)と言う。

 

 時刻は夕方。健は高校生だが、部活には入らず彼の両親が経営している大衆食堂・日向食堂の手伝いをする為、毎日学校が終わると真っ直ぐに帰宅していた。

 

「あら健君、今日もお店の手伝い?」

「はい!」

「毎日大変だねぇ」

「大丈夫です!」

 

 道すがら、近所の商店街の人達が声を掛けてくれる。健はその一人一人に笑顔で答えていた。これだけで彼の人となりが知れるというものだろう。

 

 商店街を抜け、自宅兼店が近付いてきた。街は平和そのもの、昨日と何も変わらない。悪く言えば代わり映えがしないが、意識しないでいられると言うのが何よりも尊いのだと健は理解している。

 

 だから現状に不満はない…………とは、一概に言えなかった。彼もまた男の子。時には刺激や新しい出会いの一つにも憧れていた。

 何事もない事が一番の幸せであるとは、分かっているのだが。

 

「――――ん?」

 

 さて帰宅だ。帰ったら手を洗って店の手伝いを……と思っていた時、不意に店のすぐ横の路地に何かを見つけた。

 壁に寄りかかる様に倒れ、両手足を投げ出している人影だ。

 

「え、ちょっ!?」

 

 健は驚き路地に入り、その人影に近付きまた驚いた。その人影の主は、自分と同年代だろう少女のものだからだ。

 

 所々破れたジーンズにシャツの上にノースリーブのパーカーを身に付けフードを目深に被っている。その為顔は見えないが、それでもシャツの胸元を押し上げる胸が女性であることをアピールしていた。

 

「もしもし! 大丈夫!?」

「う……うぅ……」

 

 健が声を掛けるが、少女は小さく呻き声を上げるだけ。声も満足に出せないほど弱っているのかと焦り、健は兎に角救急車を呼ぼうとスマホを取り出した。

 

 瞬間――――

 

 ぐぅ~~……

 

「…………へ?」

 

 少女の腹からなる独特な音。それは健も時々発した事のある、人間の生理現象の音だった。

 よく見ると、音の発信源である腹を持つ少女の、フードの陰から見える顔の一部が赤く染まっているような気がする。

 あまり聞くのはデリカシーに欠けるかもしれないが、少女の容態を詳しく知る為には必要な質問なので、健は意を決して問い掛けた。

 

「君、もしかして……お腹空いてるの?」

 

 健が問い掛けると、少女はゆっくりと、だがハッキリと首を縦に振った。それを見て、健は大事には至らないと分かり安堵の表情を浮かべる。

 

「そっか……それなら大丈夫!」

 

 笑みを浮かべて健は少女の膝下と背中に手を入れて抱き上げた。抱き上げられた少女は空腹で意識がやや朦朧としているのか、あまり反応が無い。今自分が所謂御姫様抱っこをされている事を気にしている余裕まではないらしい。

 

 健はそのまま少女を店の中へ連れて行った。幸い今は夕方と言う中途半端な時間である為、他に客は居らず従って健が少女をお姫様抱っこして店に入ってきた事を知る者はいない。

 

 とりあえず健は適当な椅子に少女を座らせた。少女は椅子に座らされると、体を起こしておく元気もないのかテーブルに突っ伏する。

 その少女の姿に健は苦笑を浮かべ、トレーを持つと料理を取りに向かった。

 

 この店、日向食堂は所謂ビュッフェ形式に近い食堂だった。基本的に料理はどれも作り置きであり、客はトレーに好きな料理を取って会計をしてから食べる。唯一注文が必要なのは飯の量だ。

 

「ん~、お腹凄く空いてるみたいだけど、でも女の子だしな。う~ん……よし。お母さーん、ご飯小で一つ!」

「え~? お客さん来てるの?」

「ちょっとね」

 

 因みにこの店で言う小は普通盛りである。これより少ないのはミニ、大盛りは中となる。

 

 健はトレーに適当にオカズを取り、味噌汁とご飯を乗せて少女の所へ向かった。空腹で動けない少女は未だ机に突っ伏している。

 その少女の前に、健はオカズを満載したトレーを置く。

 

 最初、少女は特に反応を示さなかった…………が。

 

「――――ん? スンスン……んん?」

 

 匂いに釣られて少女は顔を上げ薄っすらと目を開く。その視線の先に、湯気を立てる飯と味噌汁、そして様々なオカズを見ると目の色を変え体を起こした。

 

「ッ! あ――――」

 

 咄嗟い本能の赴くままに料理に飛びつこうとする少女だったが、ここでギリギリ理性が働いた。箸に伸ばそうとした手を止め、健の方を見る。ここで漸く健と目を合わせた少女は、()()()()()()を泳がせながら健の事を見た。

 

「あの……ゴメン。私、お金持ってない……」

「ん? あぁ良いよお金の事は。気にしないで食べなよ。お腹、凄く空いてるんでしょ?」

「え? でも……」

「困った時はお互い様ってね。遠慮しないで食べなよ」

「そ、それじゃ……いただきます」

 

 改めて少女は箸を手に取ると、味噌汁を一口飲んだ。程よい塩気と出汁の旨味が口に拡がり、同時に温かさが心まで満たしてくれる。

 

「美味しい――――!」

 

 一度刺激された食欲はもう止まらない。特に倒れるほどの空腹だったのなら尚更だ。

 少女はめまぐるしく箸を動かし、飯にオカズにと次々口に運んでいく。

 

「美味しい、美味しい!」

 

 飯を一口食べ、味噌カツを齧り、サンマのかば焼きで更に食欲を刺激される。

 

 少女はあっという間にトレーに乗っていたオカズを食べ終え、飯も味噌汁も完食した。

 だがその顔はまだどこか物足りなさそうだ。女の子という事で少し量を加減したが、見た目に反してよく食べる方らしい。

 

「お代わり、要る?」

「……良いの?」

「勿論」

「えっと、それじゃ……」

 

 少女は健に、今度はもっと多い量の飯をとお代わりを頼み、自分は次のオカズを取りに向かう。

 

 健が飯を、今度は中で盛って戻るとそこには最初よりも多くのオカズを取った少女の姿があった。あれよりさらに食べるのかと健が思わず目を丸くしていると、彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめ顔を俯けた。

 

「あの、ゴメン。あんまりにも美味しかったから、その……」

「……ぷふっ! いいよ、気にしないで。たくさん食べて」

 

 健に笑われて恥ずかしさとかでムッとした顔になるが、それでも空腹には勝てなかったのかこれも平らげた。

 

 ここで漸く満腹になったのか、少女は満足そうに腹を摩りながら椅子の背凭れに体重を預け麦茶を飲んだ。

 

「はぁ~、美味しかった。ご馳走様」

「お粗末様。良かった、元気になってくれたみたいで」

「ありがとう、助かったわ。ただ、本当に良かったの? 私、本当に一円も持ってないけど?」

「いいのいいの。さっきも言ったけど、困ってる時はお互い様だよ。だから気にしないで」

 

 そうは言うが、それだと彼女が納得できない。一方的に無償で助けられたままでハイさよなら、など彼女のプライドが許さなかった。

 

「そう言う訳にもいかないわ。私、皇 黄泉(すめらぎ よみ)って言うの。あなたの名前は?」

「日向、日向 健だけど」

「日向君ね、覚えておくわ。この借りはいつか必ず返すから」

 

 黄泉はそう言って立ち上がると、食器を片付け出入口に向かった。

 

「それじゃ、今日は本当にありがとうね日向君。また会いましょう」

 

 そう言って黄泉は店から出ていった。残された健は、彼女が出ていった出入口をじっと見つめる。

 

「皇 黄泉……か」

「な~に黄昏てるのよ健」

 

 健が1人黄泉の名を口にしていると、背後から彼の母である裕子(ゆうこ)が背中を叩いて来た。その痛みに健は思考を現実に引き戻される。

 

「いった!? いきなり何するのお母さん!!」

「何って、1人青春してる我が子を現実に戻してあげただけよ。それで? 惚れたの?」

「ほ、惚れたって――!?」

「だって、あの子が出ていった後をずっと見てたじゃない?」

「そんなんじゃないよ! ただ、ちょっと気になっただけで……」

 

 そう、気になったと言うのは本当だ。

 

 先程彼女が顔を上げた時、健は確かに見た。黄泉の顔の左半分が包帯で覆われているのを。

 

 そもそも彼女は何故空腹で行き倒れていたのか? 親や家族はどうしているのか? 彼は何も知る事が出来なかった。

 

 余計なお世話かもしれないが、もし何か力になれるなら少しでも手助けしたい。それが、健が黄泉に抱いた印象であった。

 

「…………何でも良いけど、とにかくこれから夜のお仕事なんだからね。手伝うならそこはしっかりしてもらわないと困るわよ」

「うん、分かってるよ」

 

 とは言え、名前しか知る事が出来なかったのであれば再会の機会があるかは難しいところだ。向こうは健の居場所を知っているが、健は黄泉の居場所や連絡先を何も知らない。健の方から接触を図るのは難しいだろう。

 

 健はそう考え、気持ちを切り替えると夜の営業に向けて店を手伝うべく店の奥へと向かうのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、店を後にした黄泉は少し離れてから一度店を振り返った。

 その視線はどこか名残惜しそうで、少し見つめてから目を伏せた。

 

「また会おう、か。……どの面下げて言ってるんだか」

「腹は膨れたかの、愛弟子よ?」

「ッ!」

 

 不意に背後から少女の声が響き、黄泉は弾かれるようにそちらを見た。

 そこにはあまりにも異様な、黒いローブにフードを被った少女が居た。一見すると黄泉と同年代か、下手をすると年下にも見える少女。だがその佇まいは少女では出せない貫禄の様な物を感じさせた。

 

「師匠!?」

「全く、愛弟子よ。お主、勝手に”ジュウケツ”を使いおったな? 許可なくあれを使うなと言っておいたであろうに」

「す、すみません。逃げられちゃいそうだったので……」

「……まぁ良いわ。おかげで新しい狩場に来られた」

 

 最初委縮していた黄泉だったが、少女の口にした狩場と言う言葉に顔を引き締めた。

 

「という事は、この近くにも?」

「うむ。この辺も化神が増えてきておる。狩場にはもってこいじゃろう?」

 

 試すような少女の言葉に、黄泉は拳を握り締め歯を食いしばる。怒りと憎しみを滲ませるその姿に、少女――河南 紫(かなん ゆかり)は口を三日月の様に歪めて嗤った。

 

「はい……化神は、一匹残らず……潰す――――!」

「では行こうかの、愛弟子よ。早うせんと、この辺りの御守衆に先を越されてしまうでの」

「はい、師匠」

 

 紫に連れられ、黄泉はその場を離れた。もう彼女は、日向食堂を振り返る様な事はしなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 夜、閉店後に店を片付けた健は家族と共に遅めの夕飯を囲んでいた。父、母と共に息子が食事をとる日常風景。

 

 なのだが、ここで行われる会話は普通の家庭とは少し……いや大分異なっていた。

 

「え? 逸れ御伽装士?」

 

 健の口にした御伽装士……それは、化神と呼ばれる怪異に対抗する御守衆と言う集団の戦士の事。

 そして健は、その御守衆の若き戦士の1人なのだ。

 

 その健に、彼の父である(あきら)が告げた。

 

「あぁ、最近そうとしか言いようのない御伽装士の存在が確認されていてな」

「具体的に何が違うの?」

「何処の管轄にも所属していないんだ。化神が現れたとみて現場に急行してみたら、既に化神は倒された後でしかもその場には見慣れない御伽装士の姿が確認される。現場に到着した御伽装士が接触を試みた事もあるみたいなんだが、大抵の場合は逃げられるか攻撃してくる場合もあるらしい」

 

 夕食を突きながら健と晃はこの近くの御守衆で話題となっている異変について話し合っていた。裕子はそれを呆れた顔で見ている。

 

「健、晃さんも。ご飯の時くらいもっと明るい話出来ないの?」

「あ、あはは……ごめんお母さん」

「そうは言ってもな、結構大事な事だぞ。つい最近も隣の管轄でその逸れ御伽装士が出たって話だし」

 

 話題に普通に入ってくるが、裕子は御守衆とは何の関係もない。彼女はあくまでも一般人。なので健が御守衆の御伽装士として戦うと決めた時は、あまりいい顔をしなかった。今は息子の選択として、受け入れてはいるが。

 

 とは言え裕子の言う事も御尤も。食事は明るく楽しい雰囲気でとる方が断然旨い。なのでキナ臭い湿気た話は一旦中断し、健と晃は純粋に夕食を楽しんだ。

 

 そして食後、食器を片付け裕子が洗っている間に、2人は食後の茶を飲みながら先程の話の続きを行った。

 

「そもそもそれ本当に御伽装士なの? 化神を見間違えたりしたとかじゃなくて?」

「過去には化神同士が争ったという話も聞くからありえなくはないな。だが複数ある目撃情報はどれも御伽装士で間違いないと言っている。という事は、化神ではなく御伽装士である可能性の方が高いだろう」

「でも逸れの御伽装士なんて居るの? 怨面とかは御守衆で管理してるんじゃないの?」

「ん~、まぁ一概にそうとは言い切れない。情報によると、少し前にある御伽装士が殉職した上に怨面を奪われて悪用された事がある。今回の逸れ御伽装士が同じような経緯で生まれた可能性もなくは無いだろうな」

 

 晃の言葉に、健は眉間に皺を寄せながら緑茶を口に含んだ。

 

 その時、晃のスマホが着信音を鳴らした。刹那、晃と健の雰囲気ががらりと変わった。この時間に掛かってくる連絡の内容など一つしかない。

 

「はい、日向です。はい……はい、分かりました。健、化神が出たらしい。場所は隣町だ。直ぐに向かってくれ」

「分かった、行ってきます!」

「健、気を付けてね?」

「大丈夫だって」

 

 春先とは言え流石に夜は冷える。健は軽く一枚羽織ると、表に停めてある自転車に乗って隣町まで向かう。流石に距離がある時はまた別の移動手段を使うが、隣町位なら自転車で充分だ。

 

 人気の少ない夜の街を、自転車で健が駆け抜ける。数分ほどで隣町に入り、健は周囲を注意深く警戒しながら化神を探した。化神によっては派手に破壊活動をするので見つけやすい場合もあるが、今回の化神はそんな簡単な奴ではないようだ。出現の情報までは掴めたが、具体的にどこに居るのかまでは不明。

 となると、ここからは地道に探す他はない。

 

 まぁそこはあまり心配する必要はないだろう。化神は基本的に人を襲う事に躊躇が無い。それが、相手が年端も行かぬ少年であれば猶更だ。

 何が言いたいかと言うと――――――

 

『ヒャハァァァァァッ!』

「おっと!?」

 

 夜、人気の少ない街中を1人で居る健は、化神からすれば絶好の獲物であるという事。

 出し抜けに襲い掛かって来た一体の化神――外見から察するにバケグモだろう――の攻撃を、健は自転車から転げ落ちるように回避した。結果、バケグモの一撃はコンクリートの地面を粉砕するだけに留める。

 

『ちっ! 避けたか、勘のいい奴』

「お前か、この町に逃げ込んだ化神ってのは」

『ん? お前、俺達の事を知ってるのか?』

「知ってるさ。何せ僕らは、君ら化神を倒す為に居るんだから」

 

 そう言いながら、健は鍵からお面のようなキーホルダーを外した。

 

「オン・マイタラ・ラン・ソウハ」

 

 健が何か呪文の様な物を唱えると、キーホルダーが空色の隼の顔を模したお面となった。そのお面を健は躊躇なく被る。

 

「羽搏け、蒼天。――変身!」

 

 お面を被った瞬間、健の体に赤い血管の様な模様が浮かび上がる。それは見ただけで分かる様に痛みを伴うようで、模様が広がっている間健は堪える様に呻き声を上げた。

 

「ウ、ウゥゥ……ハァ!」

 

 苦痛を気合で跳ね除け、一瞬健の背中に空色の鳥の翼が広がり羽根を舞い散らせながら消えていく。

 

 舞い散る羽根の中、そこに居たのは最早先程までの何処にでもいる人の良さそうな少年ではなかった。空色の仮面と鎧、黒いアンダースーツの戦士がそこに居た。

 

『貴様、御伽装士か!?』

「御伽装士ソウテン、ここに見参!」

 

 空色の御伽装士、名をソウテン。高らかに名乗りを上げた彼は、自分達にとっての天敵である御伽装士の登場に慄くバケグモに戦いを挑んだ。

 

「行くぞ! タァッ!」

 

 首の後ろから伸びる空色のマフラーをはためかせながら、ソウテンがバケグモに飛び掛かる。見た目装甲が薄いソウテンは、防御力を代償に速度が自慢の戦士。素早い動きでバケグモに接近すると、その勢いを乗せた跳び蹴りを叩き込んだ。

 その速度は予想を遥かに超えており、バケグモも反応が遅れ防御が間に合わず真面に蹴りを喰らってしまう。

 

『うぐぉあっ?!』

「まだまだ!」

 

 奇襲にも等しい高速での跳び蹴りで体勢を崩したバケグモに、ソウテンの更なる追撃が繰り出される。多彩な足技が次々とバケグモに突き刺さり、バケグモは空中に固定されたような状態になっていた。

 

『ぐぐぐっ!? ち、調子に……乗るなぁ!!』

 

 しかしバケグモの方も何時までもやられてばかりではない。攻撃の合間の一瞬の隙に、糸を近くの建物に向けて吐きそれを手繰り寄せることでソウテンの攻撃から逃れた。攻撃を空振り、僅かに隙を晒すソウテン。

 

 ソウテンの連続攻撃から逃れたバケグモは、彼が体勢を立て直すよりも早くに次の行動に移った。

 

『プゥッ!』

「うわっ!?」

 

 バケグモは、ソウテンに向けて糸の塊を吐いた。丸く束ねられた糸の塊を、ソウテンはギリギリ回避する事に成功。

 外れた糸の塊は、地面にぶつかると解れて広がりその辺りを糸塗れにする。

 

 あんなものを喰らっては自慢の身動きが封じられてしまう。直ぐにその事に気付いたソウテンは、これ以上糸を吐かせない為に弓矢を取り出し反撃に移った。

 

「退魔道具、穿空の弓矢!」

 

 取り出したのは銀色の一見シンプルな弓。ソウテンは取り出した弓に矢を番えると、弦を引き絞りバケグモに向けて矢を放つ。

 高速で矢が飛んでくるのを、バケグモは壁から離れることで回避した。

 

 そのまま糸と矢で応酬するソウテンとバケグモ。

 

 彼らが激しく戦っていると、近くの建物の屋上に黄泉と紫が姿を現した。

 

「おぅおぅ、化神の気配を感じて来てみれば、既に御守衆の御伽装士が来ているではないか。なかなかにフットワークの軽い輩じゃのう?」

 

 素直に感心した様子の紫に対し、黄泉はかなり面白くなさそうだ。バケグモの糸を回避しながら矢を放つソウテンの戦いに不満そうに鼻を鳴らす。

 

「ふん、あの程度の化神さっさと倒せばいいのに」

「どうやら周りへの被害も考えて戦っている様じゃのう。その証拠にあれだけの戦いをしている割には街への被害が少ないように見える」

「……下らない」

 

 紫の分析に黄泉は吐き捨てる様に言うと、懐から健が取り出したのと同じような小さなお面を取り出した。

 

「オン・アリキャ・コン・ソワカ」

 

 黄泉は小さなお面を取り出すと、健が口にしたのと似てはいるが異なる呪文を口にする。するとこちらもお面が見る見るうちに大きくなり、黄泉の顔を覆い隠せるほどの大きさの黒い狐面に変化する。

 そのお面を黄泉は被った。

 

「力を寄越せ、月影。――変身!」

 

 瞬間、健が変身した時とは比べ物にならない禍々しさの赤い模様が黄泉の全身に広がった。模様が広がるだけでなく、その模様から赤黒い正気の様な物が放たれ黄泉の体を覆い隠していく。

 

「うぐぁ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!? ぐぅぅぅぅぅっ!?」

 

 その禍々しさに違わず、黄泉の口から零れる声は健が変身する時の比ではない。激痛を必死に堪えるような声に、しかし黄泉は耐え抜き変身を完了させた。

 

「はぁぁぁぁぁぁ…………」

 

 紫色のアンダースーツに、両肩には黒く大型の肩当が装着されている。両脚も同様に黒い鎧を纏い、両腕も僅かばかりの装甲が取り付けられていた。

 だがそれに反して胴体は装甲が一切なく、体に密着する事により分かりやすくなった黄泉の発育のいい胸と腰は黒い布が巻かれただけである。

 

 頭部は黒い狐面に覆われ、赤い双眸が怪しい光を放っていた。

 

「化神……化神は、潰す!」

 

 黄泉が変身した御伽装士・ゲツエイは、その赤い双眸でバケグモの姿を捉えると、一気に突撃し横合いから思いっきり殴り飛ばした。

 

「ハァッ!」

『何!? ぐあぁっ?!』

「えっ!?」

 

 突然の奇襲に、バケグモは防ぐ間もなく殴り飛ばされ地面に倒れる。

 

 一方、予期せぬ乱入者にソウテンは仮面の奥で目を見開きゲツエイの姿を見た。

 

「き、君は……?」

 

 呆然と問い掛けるソウテンだったが、ゲツエイは彼を一瞥しただけで視線をバケグモに向け飛び掛かった。

 

「あぁぁぁぁっ!!」

 

 まだ体勢を整えていないバケグモに飛び掛かり、殴る蹴るの攻撃で追い詰めていく。ソウテンに比べて、ゲツエイは動き自体はそこまで素早くはない。だがその分パワーがあるのか、一撃が重くソウテンが攻撃した時に比べ明らかに大きなダメージを受けている様子だ。

 

「ハァァッ!」

『ごはぁっ!?』

 

 ゲツエイのアッパーカットがバケグモの顎を砕き、大きく吹き飛ばし地面に叩き付けられる。

 

 地面に叩き付けられたバケグモに、更なる攻撃を加えようと接近するゲツエイ。だが彼女が接近するよりも早くに、バケグモが立ち上がり彼女に向けて糸の塊を吐いた。

 

『来るんじゃねぇ! カァッ!』

 

 吐き出された糸の塊が、真っ直ぐゲツエイに向けて飛んでいく。ゲツエイはそれを避ける素振りを見せず――――

 

「退魔道具、草薙の大太刀!!」

 

 取り出すと同時に振りぬいた赤い刃の大剣で迫る糸の塊を切り裂いた。

 

『何だとッ!?』

「ハァァァァァァッ!!」

 

 自慢の糸の塊が容易く切り裂かれた事に、バケグモは思考が停止し動きが止まる。

 その瞬間にゲツエイは高く跳躍し大上段に構えた大剣をバケグモ目掛け振り下ろした。

 

「退魔覆滅技法! 激昂一閃!!」

『よ、止せッ!? うぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

 叩き付ける様に振り下ろされた大剣は、命乞いするバケグモを容赦なく脳天から股下まで一撃で切り裂き真っ二つにした。

 左右で両断されたバケグモの体は僅かな時間差を付けつつ倒れ、同時に爆発してゲツエイの姿を不気味に照らす。

 

 バケグモが完全に死んだのを確認し、ゲツエイは大剣を一振りして背中に担ぐとその場を立ち去ろうとした。

 

 その背にソウテンが声を掛ける。

 

「待って! 君、もしかして最近噂になってる逸れ御伽装士って奴? もしそうなら、話を聞かせてくれないかな?」

 

 ソウテンの声に、ゲツエイは全く反応を示さない。自分を無視して立ち去ろうとするゲツエイに、ソウテンは諦めずに近付き肩に手を置いて引き留めようとした。

 

「ねぇ待って! お願いだから話だけでも――」

「触るなッ!!」

 

 肩に手が触れた瞬間、ゲツエイは怒声を上げながら振り返りソウテンの手を払った。その気迫にソウテンは言葉を飲み込み押し黙ってしまう。

 

「ハッキリ言っておくわ。私はアンタ達と慣れ合うつもりはない。今日だって別にアンタを助ける為じゃない、化神を倒す為に来たんだから。それを間違えないでよね」

 

 ゲツエイはそれだけ言って、足に力を籠めると跳躍してビルの屋上を伝いその場を離れてしまった。

 

 残されたソウテンは、夜闇に消えていくゲツエイの後ろ姿を何時までも見送っていたのだった。




という訳で第1話でした。

本作は健と黄泉の2人の主人公による物語となります。ボーイミーツガールな話を目指していきますので、どうかお付き合いください。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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