仮面ライダービャクア外伝~仮面ライダーソウテン~   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は後日談。大ちゃんネオさん作のマイヤ(https://syosetu.org/novel/261255/)とのコラボでもある、河南 紫と夜舞 センの再会を描くお話です。

三次創作元のマフ30さんに大ちゃんネオさん、ありがとうございました!


後日談
旧知の再会


「――――何?」

 

 センは最初、その情報を耳にした時何かの聞き間違いかと我が耳を疑った。

 

 事の発端は、平装士が持ってきた情報に始まる。曰く、仙台のある町で化神による大規模な被害が発生したとか。

 幸いなことに死者は1人も出ず、また事件を起こした化神は現場の御伽装士により解決へと導かれた。それ自体は喜ばしい事なのだが、逆に言ってしまえばその程度であればセンの興味を引く事はない。

 

 彼女が興味を引かれたのは、その事件解決に尽力した御伽装士の名を聞いた時だった。

 

「……すまないがもう一度言ってくれないか?」

「は? はぁ、仙台で化神による「そこじゃない。その後、化神討伐を行った御伽装士の名だ」あ、はい。解決に尽力した御伽装士の名は、ソウテンとゲツエイの2人だそうで」

 

 やはりそうだ。聞き間違いではなかった事に、センは眉間に皺を寄せた。

 

(ゲツエイ……何故? 紫は死んだ筈……)

 

 センの関心を引いたのはゲツエイと言う名の御伽装士だった。

 御伽装士ゲツエイ、それに変身する者の名は河南 紫……センにとって数少ない友人であり、そして数年前に化神との戦いでこの世を去った筈の人物である。

 

 存在しない筈の人物が変身する御伽装士が、つい最近起こった事件の解決に力を尽くした。これは一体どういう事なのかとセンは考えを巡らせた。

 

「ゲツエイに変身していた者の名は?」

「はっ、皇 黄泉と言う名の少女だそうで」

 

 聞いた事の無い名だ。それも少女とは……。紫とセンは同年代だった筈なので、少女と言われる事などあり得ない。

 

 訳の分からない事態に暫し考え込むセンだったが、何時までも平装士をほったらかしにしておく訳にはいかないと下がらせ、1人思考の海に入り込む。

 

(考えられる可能性は二つ。紫が生きていて、偽名と呪術を使って別人になり御伽装士をしているか。それとも見知らぬ誰かがゲツエイの怨面を使っているか)

 

 前者であればそんな事をする理由が分からない。何故普通に戻らず別人を装う必要があるのか?

 

 後者はまだ現実的だが、紫以外の誰かがゲツエイの怨面を使いこなせている事に納得がいかない。嘗てともに研鑽を積んだからこそ分かるが、無知な少女が偶々拾っただけで扱いこなせるほどゲツエイは扱いやすいものではないのだ。

 あれは紫だからこそ扱える怨面だと、少なくともセンはそう考えていた。

 

「…………確かめねばなるまい」

 

 センは決意を胸に、静かに立ち上がった。向かうは仙台に居ると言うゲツエイの元。もし前者なのであれば別人を装う真意を問い質し、後者であればゲツエイを扱うに足る人物であるかを見極める。

 

 そんな事を考えながら部屋を出て、玄関に向かい、扉を開けて外に出た。

 

 するとそこには、まるでセンが出てくるのを待っていたかのように一匹の黒い狐がチョコンと座っていた。

 いや、これは果たして本当に狐なのか? 見た目は黒一色で目も口も確認できない。まるで影がそのまま狐の形で実体化したような、そんな存在だった。

 

「ん?」

 

 センは足元に座る狐をまじまじと見つめた。最初、これは新手の化神の攻撃かと身構えたが敵意は感じない。

 それどころか、この狐には既視感があった。そう、センはこの影の狐に見覚えがある。

 

「これは……まさか、使い魔の類?」

 

 影狐の正体にセンが気付いたのを見て、狐は立ち上がるとその場を離れ屋敷の裏手へと回ろうとする。その際影狐はある程度センから離れると、立ち止まり振り返って来た。まるでセンがついて来るのを待っているかのようだ。

 

「…………まさか?」

 

 センは疑問と期待を胸に、影狐の後を追っていく。センが後に続くのを見て、影狐は彼女からつかず離れずの距離を保ちながら屋敷の裏手に向けて歩いていった。

 

 程無くしてセンが影狐に連れられて行ったのは、屋敷の裏手にある庭だった。

 

 この時間帯、普段は誰も居ない筈のそこには、見知らぬ1人の少女が縁側に腰掛けていた。

 

「ズズッ…………ふぅ」

 

 白に近い銀髪の少女はローブの様な物を纏いフードを目深に被り、湯呑に入った茶と思しきものを啜って満足そうに息を吐いた。人の家で勝手に寛ぐ少女に、しかしセンは記憶の中にある友人の姿が重なり一瞬思考が停止した。

 

「お前、は……」

 

 センが少女の姿に呆然としていると、影狐は少女に駆け寄り彼女の足元の影の中に飛び込んだ。役目は終えたと言わんばかりに影狐が姿を消すと、少女はフードを取りセンに右目を向け笑みを浮かべた。

 

「おぅ、久しいの。そんな所で案山子の様につっ立っとらんと、こっちへ座ってはどうじゃ?」

 

 少女は外見に似つかわしくない口調でそう告げながら、自分の隣をポンと叩いた。

 

 その口調、雰囲気、自分に対する気安さはセンの記憶にある友のものと寸分違わぬもので…………

 

 自然と、センの口からはその名前が言葉となって紡がれた。

 

「ゆ、紫、なのか? その目、いやその姿は?」

 

 センが呆然となりながら呟くと、縁側に腰掛けた少女――紫は口を三日月の様に歪め心底楽しそうに笑った。

 

「クヒヒヒヒヒッ! 良い反応じゃのう、やっぱり来た甲斐があったわ!」

 

 少女が浮かべる笑いは記憶の中にある紫の物と全く同じものだった。明言はしないが、しかしセンにはそれだけで目の前の少女が紫であると言う証明になる。

 

 死んだと言われていた友が若返った姿で目の前に居る事に、本来はもっと取り乱すべきなのだろうとは思うが、いざ生存を確信すると心は逆に落ち着いていった。自分でも不思議に思うが、それは恐らく相手が紫だからなのだろう。

 

 センは落ち着きを取り戻すと、縁側に近付き茶請けの羊羹を挟んで紫の反対側に腰掛ける。紫はセンが腰掛けると、もう一つの湯飲みに急須から茶を注いで手渡した。

 

「ま、積もる話もあるだろうがまずは再会の一杯といこう。ほれ、ワシの奢りじゃ」

「何が奢りだ。家の湯飲みを勝手に使っておいて。どうせ茶も台所にあったものだろ?」

「まぁの♪」

 

 楽しそうな笑みを崩さぬ紫の顔を渋い顔で睨みながら、湯呑を受け取ったセンは一口飲んだ。それを見て紫も茶を飲む。

 

 2人は暫しの間無言だった。互いに何も言わず、茶を啜り、茶請けの羊羹を口にする。

 

 決して居心地が悪い訳ではない沈黙の中、先に口を開いたのはセンの方だった。

 

「……生きていたとはね。てっきりくたばったかと思ってたよ」

「薄情じゃのう? ワシがそう簡単に死ぬタマではない事はお主も知っておろうに」

「全くだ。今回はまんまと騙された。それで? 今の今まで連絡も寄越さず何してたんだ?」

 

 紫の生存は正直に言ってセンにとって喜ぶべきことではあるが、それを表に出すと絶対調子に乗るので努めて冷静さを装いつつ身を隠していた真意を問う。

 

 すると紫は湯呑を縁側に置き、足をブラブラさせながら答えた。

 

「御守衆に居っては動き辛かったからの。死んだという事にしてこそこそと動いておったのじゃよ」

「…………その姿、変若蓬莱の術だね。それも手を加えてある」

「分かるか?」

「その術をお前に教えたのは誰だと思ってる。それくらい分かるわ」

 

 若かりし頃、親交のあった紫にセンは割と軽い気持ちで若返りの秘術・変若蓬莱の術を教えた事がある。紫はその術を独自に改良し、本来であれば制限時間付きで若返るそれを永続的に若い頃の姿を維持できるようにしたのだ。

 

 だがよりにもよって少女の姿になっているとはセンにとっても予想外であった。紫が死んだと聞いた時、それを素直に信じる事の出来なかったセンは紫の行方を探させはしたが、若返りの秘術を使って少女の姿になっていてはそりゃ見つかる訳がない。

 

「何だってそんな姿になってまで、今まで何してた?」

「……ワシは御守衆のやり方を甘いと考えておった。陰に潜み、人知れず化神を討伐するなど効率が悪いとな」

 

 紫の言葉をセンは眉一つ動かさず聞いていた。黙って茶を啜りながら話を聞く姿勢を見せるセンに、紫はそのまま話を続ける。

 

「じゃから、ワシはワシの考える退魔の為の組織を作ろうと思ったのよ。死を偽装したのは怨面を持ち出して出奔する為じゃな」

「随分と大きく出たじゃないか。御守衆に替わる組織を作ろうだなんて…………それで? その退魔組織とやらは出来たのか?」

 

 訊ねはしたが、センには紫が返す答えが分かっていた。もし本当にそんな組織が出来たのであれば、態々こんな所に来たりはしない。

 何より、穏やかな紫の雰囲気が何よりも否と言っていたのだ。それを証明する様に、紫は溜め息と共に縁側に倒れそうになるのを腕で支えた。

 

「止めたよ。無理じゃ無理じゃ、今更御守衆に替わる組織なんぞ出来るものではないわ」

「随分とあっさり諦めるじゃないか?」

「若者に色々と教えられたのよ」

 

 そう口にする紫の顔は、計画が潰れたと言うのにどこか清々しそうなものであった。何があったのは知らないし聞くつもりも無いが、それでも紫の中で何かしら良い変化があったのだろう事は察する事が出来た。

 

「若者か……なるほどね」

「そういうお主も、何かあったようじゃの」

「聞かないのか?」

「別に……あぁ、バケゲンブの事は知っとるよ。そっちも大変じゃったの」

「お互いにな」

 

 お互い相手の深いところまでは必要以上に踏み込まない。昔から続く関係が、今再び再現されている事に2人は互いにこの瞬間を楽しんでいた。同時に茶を啜り、同時に羊羹を食べ、同時に小さく息を吐く。

 

 方や見た目少女の姿だが、その姿は間違いなく共に激動の戦いを潜り抜け戦いから解放された老人の姿だった。

 

「そういえば仙台にゲツエイが出たと聞いたが?」

「そりゃワシの弟子じゃ。将来有望な愛弟子じゃよ、大事にしてやってくれ」

「そうかい、お前の手ほどきを受けたんなら納得だ」

 

 何気ない会話だが、その会話の裏にある言葉にお互い気付いていた。

 

――自分達の時代は終わった。

 

――これからは若者達が新しい時代を作っていく。

 

――自分達はそれを静かに見守ろう。

 

 確かな言葉に出さずとも、2人はそのように言葉を交わした。

 

「紫……」

「ん?」

「お前、これからどうするんだ? 御守衆に戻る気か?」

「今更戻ってものう。怨面は弟子にくれてやってしもうたし、今更御守衆に戻る気にはなれんよ」

「そうかい」

 

 分かってはいた答えだが、改めてその言葉を口にされるとセンは心なしか残念そうに肩を落とす。

 それを横目で見ていた紫は、羊羹を口にしながら言葉を続けた。

 

「……ただまぁ、お主らの手助けくらいはしてやるわい」

「手助け?」

「お主ら御守衆が取りこぼした連中を助け、先へ進む道を案内してやると言うとるのよ。生きる道を見つけてやるも良し、お主ら御守衆を紹介して新しい御伽装士とするもよし、じゃ」

「……そうかい」

 

 先程と同じ返答の言葉。だがそこに込められた感情は、先程と違い晴れやかなものであった。

 

 紫とセンが同時に茶を啜り、そして羊羹を口に運ぶ。色々と疑問や懸念が晴れたからか、先程よりはどちらの味も鮮明に分かるようになっていた。

 そして鮮明に分かるからこそ、気付いた事がある。

 

(ん? この茶は……)

 

 紫と再会した時は、驚いてそこまで考えてはいなかったがこの屋敷には出す相手や時に応じて茶葉にもグレードがある。使用人などがちょっとした休憩時間に飲む程度の安物の茶葉もあれば、重要な客に出す為の高級な茶葉もだ。

 

 そしてよくよく味わってみると、その茶は屋敷にある茶葉の中でもかなり高級な物であることに気付いた。味もそうだが、何よりも香りが違う。

 であれば、この羊羹は――――

 

「……おい紫、一つ質問に答えろ」

「ん? 何じゃ?」

「今淹れてる茶葉と羊羹、これお前が買ってきたんじゃないのか?」

「買う訳なかろう。こちとら文無しじゃからの」

「じゃあ、これ何処にあった?」

 

 センがそう問うと、紫は羊羹の最後の一欠けらを口に含みニヤリと笑みを浮かべた。それだけでセンは全てを察した。察してしまった。

 

「いやぁ、流石名家じゃのう。良い茶葉と羊羹を置いてあったわい」

「!!」

 

 直後、縁側から物凄い音が聞こえてきた事に屋敷中の人間が度肝を抜かれる。

 

「な、何だ!?」

「庭から!?」

「まさか、化神!?」

 

 薫や真姫を始めとした者達が身構える中、屋敷の中を何かが慌ただしく掛けていく音が聞こえる。

 

 そちらを見ると、そこには変若蓬莱の術で若返ったセンが紫を追い掛け回しているのが見えた。

 

「待て紫!? 貴様そこに直れ!!」

「ウヒョヒョヒョヒョ! 隠居生活長くて体鈍ったのではないか? ほれこっちじゃこっちじゃ!」

 

 憤怒の表情で追い掛け回すセンと、楽しそうに逃げる紫の姿に屋敷中の誰もが目を丸くした。

 

「お、御婆様?」

「先々代? あれは、一体?」

 

 誰もが理解及ばぬ追いかけっこは結局、2人が揃って体力に限界が来るまで続いたと言う。




読んでいただきありがとうございました!

紫とセンの友情と言うのは、ウチの紫が呪術で若返っていると言う設定が出たのが始まりでした。そこから大ちゃんさんからも「センは秘術で若返る事が出来る」と言う話を聞かされ、マフ30さんからの要請で両者の術に関する擦り合わせをしていたところ生まれた設定になります。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

それでは。
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