仮面ライダービャクア外伝~仮面ライダーソウテン~   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は本作の原作とも言えるマフ30様の仮面ライダービャクア(https://syosetu.org/novel/257215/)とのコラボとなります。


鴉と狐、時々隼(其之壱)

 中部地方に存在するある町…………人々が寝静まる時間となったその町の、月の光に照らされた建物の上を飛び跳ねるように移動する1体の異形とそれを追う人影があった。

 

 前を行く異形の姿は、まるでバッタか何かを歪な人型にしたような生理的嫌悪を感じる外見の異形だった。その発達した足で建物の屋根や屋上を蹴り、飛び跳ねながら動くその姿はもし見る者が居れば我が目を疑う光景だっただろう。

 

 一方それを追う人影は、しなやかさと美しさを感じさせる姿をしていた。赤い双眸を持った翼を広げた白い鴉の意匠を持つ仮面に、青みのある黒いアンダースーツ。身に着けている鎧は動きを阻害しない最低限のサイズで山伏を思わせる軽鎧で、真白に金の装飾が施され両腕には青色の大袖が靡いている。腰に巻かれたベルトのバックルはヤツデの葉を模り、腰からは両端に深いスリットが入った白い垂れ布が膝ほどまで前後に覆われている。

 

 逃げる異形は古来よりこの日本で人々を脅かしている存在、化神……そしてそれを追うのは、そんな化神を討伐する為に存在する御伽装士と呼ばれる戦士であった。

 

 今、出現した化神・バケエンマをこの中部地方を担当する御伽装士の1人である御伽装士ビャクアが追跡していた。

 

「待ちなさいッ!」

『待てと言われて待つ奴が居るかッ! こんな所で御伽装士に殺されてたまるかよッ!』

 

 ビャクアからの警告を聞かず尚も逃走を図るバケエンマ。このままでは埒が明かないと、ビャクアは唸りながら周囲を見やる。先程までは寝静まっていたとは言え人の営みのある町中であったが、逃走するバケエンマを追跡している内にオフィス街へと入っていた。ここもあまり派手に暴れて良い場所ではないが、寝静まった人々の居る家屋が軒を連ねる住宅街などに比べれば被害を受けたり巻き込まれる人の数はずっと少なく済む。

 

「よし、ここなら……!」

 

 意を決して、ビャクアは真紅の柄を持つ白銀の羽団扇を取り出した。

 

「オン・カルラ・カン・カンラ! 退魔七つ道具が其の壱、天狗の羽団扇!!」

 

 取り出した羽団扇は、ビャクアの専用武器の一つ。一見すると戦闘に役立つとは言えないそれは、しかし力を振るえば彼女を助けてくれる非常に頼もしい装備の一つであった。

 ビャクアはその力でもって、バケエンマを無力化するべく団扇を振るう。

 

「カンラッ!」

『ぬっ!? ぐぉぉぉぉぉぉっ!?』

 

 ビャクアが羽団扇を振るえば、羽団扇が淡く光り小規模な白い竜巻が発生する。竜巻は一直線にバケエンマを巻き込むと大きく振り回した。竜巻に巻き込まれたバケエンマはまるで洗濯機の中に放り込まれたかのようにしっちゃかめっちゃかに振り回された挙句、解放された時には竜巻の中に巻き上げられた小さな礫などに全身を切り裂かれてボロボロの状態で近くのビルの屋上に放り出される。

 

『グハッ!?』

「退魔七つ道具が其の参、雲薙ぎの大鎌!!」

 

 ビルの屋上に叩き付けるように放り出されたバケエンマの傍に、ビャクアが武器を武骨な大鎌に持ち替えて優雅に降り立つ。ズタボロになったバケエンマと、大した傷一つなく降り立つビャクア。どちらがこの戦いの勝者となるかは火を見るよりも明らかであった。

 

 ビャクアが空を見上げれば、月も大分高くなっている。もうとっくに深夜だ。明日も学校があると言うのに、何時までも起きている訳にはいかない。

 早々にこの戦いに決着をつけるべく、ビャクアは大鎌を持つ手に力を籠め構えた。

 

「いざ、御覚悟をッ!」

 

 大鎌を振り被りバケエンマを両断すべく突撃するビャクア。だがその瞬間、バケエンマはニヤリと笑うと背中の羽根を広げて不快を感じさせる音を響かせた。

 

『嫌だね、ブワァァァァカッ!』

「うあぁぁっ!?」

 

 突然脳を揺さぶられるのではと言う程の不快な音に、ビャクアは思わず怯み手に持っていた大鎌を落とし耳を塞いでしまう。

 不愉快な高周波のような音が止んで、耳の奥に残る音が脳を揺さぶる様な感覚に耐えながらビャクアが顔を上げると、そこにバケエンマの姿は影も形も無くなっていた。逃げられたのだと理解したビャクアは、悔しそうに歯噛みしながらも大鎌を拾い上げ急ぎ追跡しようとした。今からならまだそう遠くまで逃げられてはいない筈だ。

 

「まだです、逃がしません……!」

 

 意気込み大鎌を手に足に力を込めようとしたその時、不意に彼女は背後から声を掛けられた。

 

「沙夜さん……」

「!? え、永春君ッ!」

 

 そこに居たのは沙夜にとって愛しい存在である、常若 永春であった。何時も彼女に向けている柔らかな笑みを向けながら両手を広げて近付いて来る永春は、ビャクアが持つ大鎌ごと彼女の事を優しく抱きしめる。

 

「あ、えっ!? 永春君、何でこんな所に……!?」

 

 ビャクアは何がどうなっているのか分からず困惑した。こんな時間に彼がこんな所に居る訳がないと頭では分かっている。だが、どう言う訳か心は目の前の永春の存在を受け入れてしまっている。

 

 異変はそれだけではなかった。永春に抱きしめられてから、気付けばビャクアは変身が解け元の姿である望月 沙夜の姿となっていたのである。しかも全裸で、だ。勿論永春も全裸となっており、更には周囲も町中から何処かも分からぬ何処までも続く光に包まれた空間となっていた。

 もう明らかにおかしな状況なのだが、沙夜の脳はそれを異変と捉える事が出来ない。ただただ愛しい彼に包まれている状況に身を委ねてしまっていた。

 

 全身に永春の温もりを感じていると、彼の手が沙夜の前髪をそっと退かす。普段両目を隠すほど伸びている沙夜の前髪がかき分けられ、その下に隠されていた双眸が露わとなって彼の目と合う。目の前の永春は沙夜の両目に愛おしそうに目を細めた。

 

「可愛いよ、沙夜さん……」

「は、はわわわ……! え、永春君……!」

 

 永春以外には絶対に許さない前髪を書き上げ素顔で対面する状況に、沙夜は顔を真っ赤にしながらもそのままされるがままに彼に抱きしめられ、そして顔を近付けてくる彼に応えるように沙夜も目を瞑ろうとした。

 

 その瞬間、冷たい風がすぐ傍を吹き抜け彼女の意識を引き戻した。ハッとなって目を見開けば、永春の姿は何処にもなく視界には先程の夜の街の光景が広がっていた。

 暫し呆然としていたビャクアだったが、思考が復活すると自分がどう言う状況だったのかを理解し仮面の下で顔を真っ赤にさせた。

 

「や、やられた…………!?」

 

 幻術か催眠か、いずれにしても彼女はバケエンマの能力に見事に嵌り、完全に出し抜かれて取り逃してしまったのだ。その事もそうだが、よりにもよってそれが愛する永春の姿を利用して仕掛けられ、そしてまんまと嵌ってしまった事が彼女にとっては何よりも衝撃であった。彼を利用され、戦いを忘れてしまった事はある意味で彼を侮辱するにも等しい。

 

「~~~~~~~~ッ!!」

 

 怒り、羞恥、後悔……ビャクアは様々な感情を綯交ぜにした、声にならない叫びを上げながらその場に崩れ落ちて頭を抱えた。

 

 空に輝く月の明かりは、そんな彼女を慰めるように優しく照らすのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その後も沙夜はこのバケエンマを何度も追跡し、あと一歩で倒せそうと言うところまで追い詰めた事が何度かあった。ところが決まって毎回幻術や幻影で翻弄され、肝心なところで取り逃がしてしまうのである。

 

 下に恐ろしきは、バケエンマの操る幻術の精度だった。来ると分かっていても何故か必ず喰らってしまう。最初の戦闘から学んだ沙夜は、その後の戦闘で彼女なりに幻術に対し対抗しようと試みた。例えば痛みで正気を保ち、幻術を振り払ってみようとした事もある。

 が、結果としてそれは全て失敗に終わった。どうも化神の方も沙夜が自分をつけ狙っていると気付いたのか、あの手この手で幻術を仕掛けてくるのである。場合によっては遭遇した時点で幻術を仕掛けられ、逃げられた事もあった。

 

 不幸中の幸いは、バケエンマはこの幻術を煙幕程度にしか使ってこない事であった。何らかの制約があるのか、バケエンマは幻術に嵌ったビャクアを積極的に攻撃してくる事が無かった。もし幻術に囚われた状態で攻撃をされていたら一巻の終わりだろうからそれは本当に幸いだった。

 

 しかしそれは沙夜からすればある意味で屈辱だっただろう。何しろ同じ方法で何度も出し抜かれているのだから。

 

 最近沙夜の様子がおかしい事に違和感を感じていた永春は、六角モータースで光姫から詳しい話を聞いていた。

 

「な、なるほど……そう言う事でしたか」

 

 一通り話を聞いた永春が視線を向けた先に沙夜が居たのだが、彼女は彼と顔を合わせる事が出来ないのか普段から前髪で両目が隠れているのにこの上更に両手で顔を覆ってしまっていた。

 

「永春君、ごめんなさい……私は、ふしだらな女です……」

 

 バケエンマの幻術では高確率で永春が出てくる。二度目以降は沙夜もそれが幻術である事を頭では理解しているのだが、それに反して心は簡単に騙されてしまい幻術の永春を前に心を許して油断してしまう。そして毎回その隙に逃げられてしまうのである。

 永春の幻術を見せられて毎回敵を逃がしてしまう。まるで色狂いかの様な己の不甲斐無さと、何よりも偽りの永春に骨抜きにされてしまい本物の彼に申し訳なくて沙夜は穴があったら入ってしまいたい気分だった。

 

 そんな沙夜に対し、永春は近付くと彼女の肩にそっと手を置き、顔を覆う両手諸共彼女の事を優しく抱きしめ慰めた。

 

「分かってる、分かってるよ沙夜さん。沙夜さんは本当はそんな弱い人じゃないって事、僕は分かってるから」

「え、永春君……」

「それに……仮に沙夜さんがふしだらだったとしても、僕は気にしないから。ふしだらな沙夜さんも、それはそれで……!」

「永春君……!」

 

 こんな無様な自分でも受け入れてくれる永春の優しさと懐の深さに沙夜が感激し、精神的に救われていると2人の世界に入ってしまった2人を現実に引き戻す為光姫が一つ咳払いをする。

 

「ん゛ん゛ッ!」

「「あっ!?」」

「全く、仲が良いのは結構だけどね? 盛るのは夜とか2人っきりの時にしてくれないかい?」

「さ、盛っ……!」

「光姫さんッ!」

「はいはい。で、話を戻すよ」

 

 光姫が言いながら手を叩けば、流石の2人も真面目に話を聞く姿勢になる。先程まで熱々の雰囲気を放っていた2人を、六角モータースの従業員にして沙夜を支える平装士である安、杉、中、梶が指笛を吹いたりして茶化していたが、その4人も光姫が一睨みして黙らせた。

 

 場が静かになった所で、光姫は現状を簡潔に纏めて説明した。

 

「で、今回の化神だが……端的に言えばかなり厄介な存在だ」

「そうですね。単純な力はそうでもないでしょうけれど、何よりもあの幻術が危険です」

 

 実際に何度か体験した沙夜だからこそ分かる。あの化神、今は逃げる事にのみその幻術を利用しているからこの程度で済んでいるが、あれが本気で幻術を使ったらどんな被害が出るか想像もつかない。可能な限り早急に倒す必要があるのだが、それが出来ないからこそ今こうして頭を悩ませていた。

 

 一通り話を聞いて、永春はある疑問を抱いた。今回の敵は術的な攻撃をメインに据えているような感じに聞こえるが、術と言えば沙夜も永春が初めてビャクアの姿を目撃した際に記憶消しの術を使っていた筈だ。それも術であるのなら、他にも何か術を使って対抗できるのではないだろうか?

 

「ねぇ、沙夜さん? 沙夜さんは、そう言う術に対して対抗する事って出来ないの? 僕が初めて沙夜さんが変身したのを見た時、僕に対して術を使ってたと思うんだけど?」

 

 永春の疑問に対する答えは至極単純であった。

 

「あの記憶消しの術は、謂わば御伽装士全員が覚えるべき基礎的な術として習得させられるんです。御伽装士に変身する際の技術の延長で教えられるので、覚えるのは比較的簡単なんですが、それ以上の術となると私でも……」

「御伽装士にも武闘派と術師派が居るからね。大体の御伽装士は武闘派で、術をメインに戦う術師派の御伽装士はそんなに多くない。何せ呪術は習得に時間が掛かるから」

 

 沙夜の言葉に光姫が補足を加える。2人の説明に永春も自分なりの納得をすると、改めて現在直面している問題がなかなかに厄介である事を理解した。

 

「今回の敵は今までに無いくらい、沙夜さんが苦手にしてる化神だって事ですか。こういう場合ってどうするんです?」

「私でどうしても力不足となる場合、取れる手段はシンプルです。敵の術に対抗出来る平装士の方達の助力を受けるか、呪術を扱える御伽装士の応援を受けるかです」

 

 実を言うと、前者はもう既に一度試している。化神が沙夜の技量を超えて幻術を扱ってくる厄介な相手であると分かった時点で、光姫は応援に呪術を扱える平装士を呼び寄せた。

 が、結果は悲惨なもので応援に来てくれた平装士達は揃ってバケエンマの幻術により正気を失わされてしまい、互いに殺し合いに発展してしまう寸前だったのである。あわやと言うところでビャクアが力尽くで全員を気絶させたから最悪の事態にはならなかったが、この一件で応援に来てくれた平装士達が全員負傷してしまった。

 

 こうなると困ってしまう。何せ平装士では力不足であると言う事が証明されてしまった。この化神に対抗する為には、御伽装士で呪術を使いこなせる人物でなければ無用に被害が拡がるだけで終わってしまう。

 

「そんな御伽装士って居るんですか?」

 

 そもそも御伽装士に武闘派と術師派が居ると言う事を知らなかった永春は、何とはなしに呪術を得意とする御伽装士について訊ねてみた。特別誰に対して訊ねたと言う事はないので、真っ先に沙夜が顎に手を当てて記憶から呪術師であり御伽装士でもある者をピックアップしていく。

 

「えっと確か……私が覚えてる限りだと確か仙台の方にユウゲンって言う呪術師の御伽装士が居るって――」

 

 数は少ないが何人か居る御伽装士の中から沙夜がその御伽装士の名を口にした瞬間、光姫はこれ以上ない位渋い顔になってその御伽装士を呼ぶ事に対して難色を示した。

 

「残念だが、ユウゲンは無理だ」

「え?」

「何でですか?」

「少し前の戦いで、化神との戦いで負傷したって話だ」

 

 ユウゲンは呪術の使用に特化した御伽装士である。それ故直接戦闘に対しては難があり、基本は相手から距離を取りつつ呪術や幻術で相手を翻弄し倒す事を戦いの基本としていた。

 

 が、少し前の戦いで運悪くユウゲンは術に対して耐性を持つ化神と遭遇してしまい、辛うじて退ける事は出来たが彼女自身も負傷し今は療養中で戦えなくなっていたのだ。

 

「幸い、怪我自体は大した事ないって話だから復帰までそんなに時間は掛からないらしいけど、少なくとも今回の一件には絶対間に合わない。だから頼る訳にはいかないね」

「そうですか……それなら仕方ないですね」

 

 他所の御伽装士も大変だと、沙夜と永春が神妙な顔になり肩を落とす。2人の様子を見ながら、光姫はユウゲンの支援に乗り気でない()()()()()()()を胸中で呟いた。

 

(それに、ユウゲンに変身する奴は生粋のレズビアンだって話だしね。そんな奴を沙夜に会わせる訳にはいかないからな~)

 

 光姫としても沙夜を獣に差す出す様な事に対しては気が進まない。ユウゲンに変身する鮎夢には悪いが、彼女が負傷で動けずにいる事はある意味で幸運と言えた。

 

 光姫がそんな事を考えているとは露知らず、永春が他の手か人材は居ないかと問い掛けた。

 

「他に頼れそうな御伽装士って居ないんですか?」

「う~ん…………」

 

 光姫は他に頼れる御伽装士が居ないかと脳内リストをピックアップしていく。真っ先に思い浮かんだのは中部地方の森久保 圭太と言う御伽装士だが、彼は彼で別任務で中部地方を離れており直ぐには呼び戻せない。他にもちらほら居る事は居るが、何れも自分が担当している地区が忙しかったりでおいそれと応援に呼びたくても呼べない者ばかりであった。

 

「う~~~…………あッ!」

 

 永春からの問いに真剣に頭を悩ませる光姫。最早万事休すかと半ば諦めかけたその時…………天が味方したのか、光姫の脳裏に1人の心当たりが浮かんだ。

 

「そう言えば居たな。若手で将来有望だって話の、呪術の使い手の御伽装士が」

「本当ですかッ!」

「どんな人です?」

 

 声を上げた光姫に沙夜が縋る様に詰め寄り、永春が訊ねれば彼女は1人の御伽装士の存在を口にした。

 

「ちょっと前に言わなかったか? 頭目会合で、仙台の方に筋が良い御伽装士が居るって」

 

 確か、潮と初めて会った時だったかと永春が思い出す。そう言えばあの時、自分と沙夜が付き合っていると聞き驚愕と絶望に泣きじゃくる彼女に向けて、光姫がそんなような事を言っていた事を思い出す。あの時は正直光姫の話よりも、いい歳した大人が泣きじゃくる姿の方が印象的だった為あんまり詳しくは覚えていないが。

 

「あ~~……潮さんが来た時ですよね? ごめんなさい、あの時は潮さんの姿が、その……印象強くて……」

「僕も……」

「…………ま、しょうがないね」

 

 思わず頭を抱えたくなりながらもそれを堪えた光姫は、頭が訴えてきた痛みを堪えて話を続けた。

 

「まぁ、その仙台の御伽装士ってのが、丁度運よく呪術を得意としてる御伽装士でね。と言っても本人も呪術に関してはまだ勉強中って話なんだけど、その子の師匠が元々御守衆でも優れた呪術師で、本人も筋が良いって話なんだ。つい最近も総本山付きの御伽装士と呪術で事件を解決したって話だし」

 

 総本山付きの御伽装士と言う部分で、沙夜と永春の脳裏には薫の姿が浮かんだ。まぁそんな偶然は無いだろうと思いながらも、応援に来れる御伽装士が居ると言うのであれば是非とも頼りたい。光姫の話を聞く限りでは、そちらの御伽装士は性格と言うか性癖にも問題はなさそうだし。

 

「その、御伽装士と言うのは?」

 

 俄然その相手が気になった沙夜は、呪術師の卵の御伽装士について訊ねた。

 

「その御伽装士の名は、御伽装士ゲツエイ。昔、御守衆でも名が知れた呪術師、河南 紫の弟子だって話だよ」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「え? 私が、東海の援護に?」

 

 黄泉は突然の報せに口の端に米粒を付けたまま目をパチクリとさせた。即座に健が口元の米粒を教えてくれた為、それを急いで取り改めて報せを齎した晃に確認する様に問い掛ける。

 

「何で私が、東海地方の援護に行くんです?」

 

 晃にその報せを受けたのはその日の夜の営業を終えて夕食を囲んでいる時であった。この日も学校でしっかり学び、夜には多くの客の腹を満たし、そして何事もなく終われた事に感謝しながら夕食に舌鼓を打っていると不意に晃が思い出したようにそんな事を言ってきたのである。あまりにも唐突だった事と、そもそも自分にそんな話が来る事が意外過ぎて理解が追い付かなかった。

 

 そんな彼女に、晃は事の経緯を詳しく説明する。

 

「実は東海の方で厄介な化神が出たらしくてね。現地の御伽装士だけでは持て余すみたいなんだ」

「そんなに強い化神なの?」

「強い弱いと言うよりは、幻術でこちらを惑わしてくるような奴らしい。平装士の術師も対処に当たったが、相手の術の方が強くて返り討ちに遭ったって話だ」

「それで、私に……でも私で相手になるかな……」

 

 術を得意とする化神が相手ならば、本来であれば鮎夢が対処に当たるのが筋だろう。ところが彼女はつい先日、術に耐性を持つ化神との戦いで負傷し療養で動けない状態であった。お陰で先日のバケアリの事件の時は彼女の助力を得る事も出来ず、総本山から夜舞 薫……御伽装士マイヤの援軍を受ける事となった。

 

 そして現在、動けない鮎夢に代わり彼女が担当していた地区の守りを健と黄泉がカバーしている状況であったのだ。ここで黄泉が抜けたら健の負担が大きくなる。その事もあって、黄泉は今回の救援要請にあまり乗り気ではなかった。

 

「……どうしても、私じゃなきゃダメなんですか?」

「呪術の事を心配してるなら、私見だけどそこまで心配する事はないと思うよ。最近の黄泉ちゃんはよく頑張ってる」

 

 実際、今の黄泉の呪術は下手な平装士よりも上であった。ゲツエイの怨面を使っている影響なのか、それとも紫の見る目があって黄泉には呪術の才覚があったのか、真面目に呪術を使うようになってから彼女はそっち方面の力をメキメキと上達させていた。本人的にはまだまだと言う評価であるようだが、晃を含め御守衆としては彼女の呪術は十分頼れるものとなっていたのだ。

 

 それに何より、御守衆と言う組織からすれば黄泉はハッキリ言って動かしやすい立ち位置に居たのも大きい。

 

 御伽装士は基本的に各地区に1人ずつと言うのが通例だ。何分御伽装士の数自体がそう多い訳ではないのだから。

 そんな中で健と黄泉が担当している地区は特別であった。ここは2人の御伽装士が居る。それは黄泉が特殊な事情で御守衆に参加した事が関係しており、彼女の心理的事情も考慮した結果健と一緒に行動させた方がいいと言う判断からであった。天涯孤独な彼女を、漸く心安らぐ事が出来るようになった場所から無理矢理引き剥がす様な無情な真似は出来ない。

 

 しかしそれはそれとして、一つの地区に御伽装士2人と言うのはやはりイレギュラーな状態でもある。それはある意味でこの地区は戦力的に余裕があり、そしてそんな余裕があるなら積極的に他所への援軍に向かわせても大丈夫だろうと言う判断があっての事でもあった。特定の管轄地区を持たない総本山付きと言う特殊な立ち位置の御伽装士も居るが、今回の様に呪術的な援護が必要となると黄泉に白羽の矢が立つ。

 

 黄泉自身自分が御守衆の中で特殊な立ち位置に居ると言う事は理解していた為、健と離れ離れになる事に多少の不満は感じながらも要請を個人的理由で拒絶するような事はしなかった。正直な話気は進まないが…………

 

「分かりました。どこまで力になれるかは分かりませんけど」

「ありがとう。すまないね、苦労を掛けて」

「いえ。私みたいなのを受け入れてくれただけでも、ありがたい事ですから」

 

 当初は御守衆に対して不信感も抱いていたが、それも今では大分薄れた。健達との触れ合いもあるが、先日のバケアリの件で総本山付きの御伽装士であるマイヤこと薫と協力し合った事で、彼女も御守衆の事を信じられるようになっていたのだ。そして信じられるようになれば、今の自分がどれだけ助けられているかも分かる。

 

 助けられてばかりではいられない。自分の力が必要と言うのであれば、今度は自分が助けなければ。

 

「黄泉さん、頑張って……!」

「うん、ありがと。あ、それで? 助けに行く御伽装士って、どんな人なんですか?」

 

 何気なく気になって黄泉が問い掛ければ、晃は助けを待っている御伽装士の名を教えてくれた。

 

「東海で黄泉ちゃんを待っている御伽装士の名前は、ビャクア……少し前に、物部 天厳と言う男が起こした騒動を鎮めてみせた、2人と同年代の望月 沙夜と言う子が変身する御伽装士だよ」




ここまで読んでいただきありがとうございます!

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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