仮面ライダービャクア外伝~仮面ライダーソウテン~   作:黒井福

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ソウテンとビャクアのコラボの2話目です。

当初は前中後編の三部作になる予定でしたが、4話くらいになる可能性が出てきたのでサブタイの表記を少し変更しました。


鴉と狐、時々隼(其之弐)

 東海地方の御伽装士ビャクアへの支援に向かう事が決定した黄泉は、手早く荷物を用意すると早速新幹線で現地へと向かった。宮城県仙台市から東海はそれなりに距離がある為、気分的にはちょっとした旅行気分である。勿論向かう理由は化神に苦戦している御伽装士ビャクアを援護する為と言う事は分かっており、浮ついた気持ちで行く訳にはいかない事は分かっていた。それに健達と出会う前には、紫と共にあちこちを転々としていた為電車での移動も別に初めてではなかった。

 

 しかし今回は嘗ての移動と異なり、御守衆から手厚い支援を受けながらの移動である。道中の食費などは経費が下りる為、新幹線の中ではちょっと良い駅弁と景色を楽しむ事も出来た。黄泉は新幹線で東海地方に向かう道中、移り行く景色を駅弁に舌鼓を打って楽しみながらこれから出会う事になるビャクアに対する思いを巡らせていた。

 

(御伽装士ビャクア……望月 沙夜さん、か。どんな人だろう?)

 

 出発前、黄泉は事前にこれから出会う事になる御伽装士ビャクアこと、望月 沙夜に関して軽くだが調べていた。資料によると沙夜は1人で物部 天厳が起こしたと言う化神絡みの事件を解決に導いたと言う。健、紫と言う2人と共にバケヨロイに対峙し事件を解決してみせた自分とは大違いだと、黄泉は憧れにも近い感情を抱いていた。年齢は近く、自分より一つ年上位だと聞かされていたが、仲良くできるかと少し不安も抱いていた。

 

「私は、ゲツエイになった理由が理由だからなぁ……」

 

 ちょっぴり不安に愁いを帯びた溜め息をつきながら、黄泉は新幹線に運ばれて東海地方へと向かった。

 途中電車を乗り継ぎ、タクシーも使って黄泉が目的地に着いたのは空が赤く染まる夕暮れ時の事であった。タクシーに料金を払い、降り立った黄泉は長距離の移動で軽く凝った筋肉を解す様に思いっきり全身を伸ばす。

 

「ん、くぅぅ~~……はぁ、着いた。ここ……だよね?」

 

 黄泉は心を落ち着ける意味も込めて深呼吸をし、目の前に建つ建物を見上げながら手元のメモ用紙と建物の看板を交互に見た。そこにはどちらにも間違いなく六角モータースと書かれていた。

 

 ここで黄泉は足踏みした。現地に到着して改めて黄泉は今自分が1人で健以外の御守衆と接触しようとしていると実感し、今更ながら緊張し始めたのである。

 黄泉はある事情から少し前まで御守衆全体に対していい感情を抱いていなかった。それ自体は今では大分解消されたのであるが、彼女が知る御守衆は健を除けば総本山の薫と隣の管轄を担当している鮎夢のみ。そして鮎夢に対しては色々と衝撃的な出会いもあったりしたので、これから接触する御伽装士や御守衆の人達がどんな人物なのかとちょっぴり不安になったのである。よしんば鮎夢の様な癖の強い人物であった場合、果たして上手く付き合う事が出来るだろうか?

 

(いやいや、大丈夫ッ! 薫ちゃん……あ、いや、君は……ちょっと変わってはいたけど、悪い人じゃなかったじゃん! 沼川さんも…………いや、あの人は…………でも、呪術の事をいろいろと教えてくれたし……)

 

 1人悶々としながら店の入り口付近で立ち往生している黄泉の姿は、傍から見ると結構怪しく時折道行く人が彼女に不思議そうな目を向けていた。黄泉の様な少女が1人、似つかわしくない店の前で時折呻き声を上げながら立ち往生していては目立って当然だろう。

 

 そのまま無為に時間だけが流れていくかと思われたその時、立ち往生する彼女を見兼ねたのか心配したのか、1人の少年が背後から声を掛けた。

 

「あの……」

「ひゃいっ!?」

 

 突然背後から声を掛けられたからか、黄泉は心臓が飛び出るほど驚きその場で小さく飛び跳ねながら背後を振り返った。黄泉が振り返るとそこには彼女と歳が近い少年……永春が目を丸くして声を掛けようと手を上げた姿勢で固まっていた。

 

 暫しそのまま見つめ合っていた2人だったが、先に動き出したのは永春の方であった。黄泉がこれ以上混乱して騒ぎ出すようであれば宥めようと身構えていた彼は、黄泉が驚きながらもその場に固まってくれた事に改めて彼女にここに来た目的を訊ねた。

 

「えっと、何か御用ですか?」

「あ、あなた、ここの人?」

「ここの人と言うか、知り合いと言うか関係者と言うか……」

 

 永春自身は御守衆ではないが、さりとて少なくとも六角モータースの人達とは無関係ではないので何とも説明が難しい。言葉を濁す永春の姿に、黄泉は彼がここに所属する御伽装士かと勘違いしてその疑問をこの場で口にしてしまった。

 

「あっ! もしかして、君がここの御伽装士の?」

 

 言葉を口にした後になって、黄泉はしまったと冷や汗をかいた。一般人には御守衆や御伽装士の事は原則秘密なのだ。勢いで御伽装士の名を口にしてしまったが、まだ彼がそうだと言う保証もない状況でその様な問い掛けをするのは無防備と言うか警戒心が薄すぎる。まだ御守衆の一員としての自覚が足らない事に黄泉が1人焦っていると、永春はその言葉で黄泉がどう言う人物なのかを察したのか店の中に半ば押し込む様に招き入れた。

 

「そうか、君が……とりあえず、詳しい話は中に入ってからって事で」

「え? あ、ちょ、ちょっと……!」

 

 抵抗する間もなく黄泉は六角モータースの中へと誘われた。中では何時もの4人が表の業務をこなしている最中で、永春が黄泉を連れて入って来ると早速囃し立て始めた。

 

「おっ! おいおい永春、何だその子は?」

「まさかお嬢が居るってのに新しい女を引っ掛けたのか?」

「かーっ! お前も隅に置けねえな?」

「一体何時知り合ったんだよ?」

 

 勿論彼らも永春が本当に黄泉を口説いてきたなんて思ってはいない。これは彼らなりのスキンシップだ。永春自身もそれを理解している為、4人からの冷やかしを適当に受け流した。

 

「そんなんじゃありませんよ。光姫さんと沙夜さん、居ますよね?」

「あぁ、奥に居るよ」

「さ、こっちです」

「は、はい……」

 

 男4人、それもむさくるしい筋肉質の男達の圧力に圧倒されながらも、黄泉は永春に連れられ待合室の奥にある事務室へと連れられて行った。カーショップではあるが、明るいカフェのような雰囲気を感じさせる内装を通り抜けて向かった先には、デスクに座った女性とその傍に立つ少女が黄泉を待っていた。

 

 2人の女性の内、妙齢の女性……表向きはここ六角モータースの経営者であり、裏では御守衆・中部支部の頭目を担う六角 光姫は永春に連れられて入ってきた黄泉に品定めするような視線を向けつつ彼女を連れてきた永春を労った。

 

「悪いね、坊や。態々連れて来てもらっちゃって」

「いえいえ、偶然外で見かけただけなので」

 

 光姫からの労いに笑顔で答えた永春は、そのまま邪魔にならないようにと脇に退いた。気を利かせてくれた永春に小さく息を吐くと、光姫は改めて黄泉を眺めつつ彼女を歓迎した。

 

「ようこそ、中部支部へ。歓迎するよ、御伽装士ゲツエイ……皇 黄泉」

 

 同じ女性でありながら、紫とはまた違う雰囲気の女性に黄泉は思わず背筋を正しながら答えた。

 

「は、はい……! 皇 黄泉です。その、暫くの間、お世話になります」

 

 緊張しながら答えた黄泉の姿に、光姫は苦笑しながら手を軽く振った。

 

「あぁ、そんな気を張らなくてもいいよ。気楽に行こう、気楽に」

「は、はぁ……」

「で、こっちが……」

 

 光姫からの言葉に黄泉が気のない返事を返していると、1人それまで言葉を発していなかった少女が一歩前に出る。前髪で両目が隠れた、一見すると暗い雰囲気の少女……望月 沙夜だ。沙夜は口元に僅かに笑みを浮かべた状態で黄泉と相対し、自己紹介の為口を開いた。

 

「初めまして。中部支部所属の御伽装士ビャクア……望月 沙夜です」

「ぁ……お、御伽装士ゲツエイの皇 黄泉です。よ、よろしく……?」

 

 沙夜の目が前髪に隠れて見えない為、相手の視線が分からず黄泉は僅かに困惑しながらもおずおずと手を差し出した。沙夜はそんな彼女の手を取り正面から黄泉の顔をしっかりと見る。数秒ほどジッと彼女の顔を見つめ、視線を感じた黄泉が思わず首を傾げると、沙夜は我に返ったように小さく首を振り先程よりはしっかりと口元に笑みを浮かべて挨拶に応えた。

 

「ん……?」

「あ、失礼しました。はい、よろしくお願いしますね!」

 

 

 

 

 挨拶を済ませると、黄泉達は場所を応接室に移し椅子に腰かけて早速バケエンマに対する対策会議に移った。

 

「それで、今回私が呼ばれたのは何でも厄介な幻術を使う化神が相手になったからって話でしたけど……?」

 

 事前に大まかな状況は聞かされたが、やはり直に相対した沙夜達に話を聞かなければ対策の立てようがない。黄泉は永春が入れてくれた緑茶で唇を湿らせながら訊ねた。それに対し、実際に何度かバケエンマと対峙した沙夜は当時の事を振り返りながら答えた。

 

「はい……コオロギの様な見た目の化神で、背中の羽根を震わせて立てられた音を聞くと、次の瞬間には幻術に……」

「因みに、どんな?」

「それ、は……その…………!?」

「?」

 

 紫の呪術指南書には、幻影や幻術に関する記述もあった。それによると幻術の中にはその内容から術の形式が分かる物もあり、そこから対策を立てる事も出来ると記されていた。なので黄泉はまず沙夜が受けたと言う幻術の内容を訊ねたのだが、それを聞かれた瞬間沙夜は物凄く居心地を悪そうにして言い淀んでしまった。言える訳がない、永春と淫らな行為に及びそうになる幻術を見せられたなど。

 

 しどろもどろになる沙夜の様子に黄泉が首を傾げ、事情を訊ねようと光姫と永春に視線で問い掛けた。しかし光姫は唇を歪めて何とも言えぬ顔になり、永春に至ってはほんのり頬を赤く染め口元を手で隠している。そして再び沙夜の方を見れば、彼女もまた頬を赤くして俯いてしまっていた。

 頬を赤くしている時点で幻術の内容に黄泉は凡その察しがついた。彼女だって健と言う彼氏が居る身だ、その手の気配には心当たりがあるしそれなりに敏感である。何より彼女はそこまで鈍感な方ではない為、この反応から沙夜が何を見せられたのかが分かってしまった。

 

「あ~……もしかして、その…………ごめんなさい、言っちゃいますけど、エッチな内容だったり?」

「!?!?」

 

 黄泉が見せられた幻術の内容を予想し口にすると、その瞬間沙夜の頭から湯気がボンと音を立てて噴き出し耳まで真っ赤になった。その様子に黄泉は乾いた笑いを浮かべながら荷物の中から紫の指南書を取り出しページを捲り役に立つ項目がないか探した。

 

「ん~、相手の煩悩に作用するタイプの幻術だったら、結界系で何とか対処できるかなぁ……」

「な、何とかなりますか?」

「何とかします。その為に来たんですから」

 

 煩悩と言われた瞬間言葉に詰まりそうになる沙夜だったが、それを堪えて訊ねれば黄泉は指南書を閉じて頷いた。そう、黄泉が健の元を離れてここまで来たのは、自分の力が必要だと言うからだ。紫から受け継いだゲツエイと、彼女が培い築き上げてきた呪術師としてのイメージを守る為には、こんな所で躓いてはいられない。

 

 こうして黄泉は沙夜と共同戦線を張る事となり、その夜早速バケエンマ討伐の為動き出す事となった。

 

 月明かりが照らす街の中、一際高い建物の屋上に降り立ったゲツエイとビャクアは周囲を見渡しバケエンマの姿を探した。

 

「望月さん、どうです? 問題の化神の姿は見えますか?」

「いえ、残念ながらまだ…………」

 

 生憎と件の化神の姿はまだ見当たらないが、しかしビャクアはそろそろ出てくる頃合いだと確信を持っていた。毎回奴はこの時間帯に姿を現し、襲う獲物となる人を探している。これまでの戦いでもビャクアと戦う前に人を襲おうとしている瞬間に出くわす事があったのだ。幸いな事にビャクアが巡回している事で被害を受ける人自体は出ていないが、それも何時まで続くか分からない。

 

 見渡しても見つからない化神。しかし最近の傾向からこの時間帯に必ず動く筈だと言うビャクアの言葉に、ゲツエイは物は試しにと数枚の御札を宙にバラ撒き念を送った。

 

「オン・アリキャ・コン・ソワカ……オン・アリキャ・コン・ソワカ……!」

 

 御札を宙にバラ撒き印を結んで呪文を唱えるゲツエイをビャクアが見ていると、空中の御札が次々と小さな狐に変化し四方へと散って行った。御札が変化した狐が散開していくと、ゲツエイは印を解き一仕事終えたと言う様に息を吐いた。

 

「ふぅ……」

「今のは……式神ですか?」

「そうです。簡単な奴で、偵察にしか使えないですけどね」

 

 ゲツエイにとっての式神の比較対象が、偵察から化神の足止めまでできる紫の影狐なので謙遜しがちだが、一度にこれだけの数の式神を同時に操るだけでも大したものである。鮎夢……ユウゲンでも一度に使役できる式神は多くても片手の指で納まる程度でしかないが、黄泉はその倍の数を一度に使役した。単純な事しか出来ない事も要因の一部ではあるが、それでもこれだけの事が出来る呪術師はなかなかいない。

 これは暗に彼女の呪術師としての隠れた才覚の片鱗が垣間見えた瞬間だったのだが、生憎とこの場でそれを理解できる者は居なかった。ビャクアは呪術を、御伽装士として人並程度にしか理解していなかった為、今ゲツエイがやった事の意味を理解できていなかったのだ。

 

 目の前の光景を前に、ビャクアが抱いたのはただ単純に便利だと言う感想だけであった。

 

「なかなかに便利そうですね。私も少しは出来るようにしておくべきでしょうか?」

「あ~、言っときますけど、結構大変ですよ? 私も学び始めた時は頭がパンクするかと思いましたし」

 

 式神が化神を見つけるまでの時間、少し手持ち無沙汰になった2人は周囲を警戒しながらも軽い雑談で互いに親交を深めようとした。

 

 その時、先程ゲツエイが放った式神の1体が体を明滅させながら戻ってきた。それは化神を発見した事を報せるものであり、式神からの報告にゲツエイは仮面の下で表情を引き締めビャクアを現場へと誘導する。

 

「ッ! 見つけたッ! 望月さん、こっち!」

「はいッ!」

 

 ゲツエイに誘導されてビャクアが向かった先には、今正に残業を終えて帰宅する途中だったと思しきサラリーマン風の男に襲い掛かろうとしているバケエンマの姿があった。悲鳴を上げて尻餅をつき、両手で顔を覆っている男にバケエンマが鋭い爪の生えた腕を振り下ろそうとした瞬間、ビャクアが退魔道具の一つである裂空の快刀を取り出し両者の間に割って入るとバケエンマの爪を受け止めた。

 

「させませんッ!」

『テメェッ!?』

「ひぃぃッ!?…………へ?」

 

 間一髪と言うところでバケエンマの凶行を止めたビャクア。またしても自身の邪魔をしに来た彼女にバケエンマは忌々し気に顔を顰め、一方で直前まで襲われそうになっていた男は覚悟していた痛みが来ない事に呆けた声を上げながら顔を上げる。

 その瞬間ゲツエイは彼の額に一枚の御札を貼りつけ意識を奪うと同時に直前までの記憶も消去した。

 

「おっと、ごめんなさいね」

「ほぁっ!? ぉ、ぁ……」

 

 目まぐるしく変化する状況に脳の理解が追い付いていなかった男は、素っ頓狂な声を上げながら意識を失う。気絶した男を安全な場所までゲツエイが引っ張っていく間、バケエンマと鍔競り合いをしていたビャクアは男が安全圏まで運ばれていったのを見ると気合と共にバケエンマの爪を押し返し距離を取らせた。

 

「はぁぁっ!」

『くっ!?』

 

 ビャクアにより押し出される形で後方に下がらされたバケエンマ。今回は彼女だけでなくゲツエイも居る状況に早々に撤退を考えたようだが、ゲツエイの方もバケエンマが逃げようとしている事を察したのか男を安全圏まで運ぶとそのままバケエンマの背後に回り込んで逃走を阻止しに掛かった。

 

「逃がさないッ!」

『チクショウッ!』

 

 ビャクアとゲツエイに挟み撃ちにされ逃げ場を失ったバケエンマ。この状況を打破すべく、背中の羽根を広げて震わせ始めた。もう何度も見てきた幻覚を見せる予備動作に、ビャクアは羽根が広がった瞬間声を上げる。

 

「皇さん、来ますッ!」

「了解ッ! オン・アリキャ・コン・ソワカ……ハッ!」

 

 ビャクアの声を合図に、ゲツエイは2枚の御札を構え呪文を唱えると1枚をビャクアの方に投げつけた。投げられた御札はビャクアの眼前で制止すると一瞬半透明の障壁を張り、その直後バケエンマが羽根を擦り合わせ強烈な音を周囲に響かせる。その威力は周辺の建物の壁を震わせ窓と言う窓のガラスを粉砕する威力であった。

 

「ぐっ!?」

「い゛ぃっ!?」

 

 脳を震わせるほどの振動に思わず耳を塞ぐ2人であったが、それも最初の内だけですぐに耳が慣れた。ゲツエイの結界が振動を防ぎ、それに紛れていた相手に幻覚を見せる効果も打ち消したのだ。今度は幻影の永春が現れない事に、ビャクアはこれなら行けると快刀を握り直しバケエンマに斬りかかる。

 

「くっ……ふぅ、よし、行けるッ! ヤァァッ!」

『ッ!? 何ッ!? な、何故……!?』

「残念ね、アンタのお得意の幻覚はもう効かないわよッ!」

 

 ビャクアが切りかかるのと同時にゲツエイも草薙の大太刀を構えて突撃する。前後から迫る2人の御伽装士にバケエンマは自慢の幻覚が通用しなかった事への動揺もあり対応が遅れ、2人にすれ違いざまに切り裂かれ呆気なく爆散してしまった。

 

「「ハァァァァァッ!」」

『ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

 2人の同時攻撃を喰らい爆散したバケエンマ。同時にすれ違い背中を向け合う形となったビャクアとゲツエイは、暫し爆炎を背に手にした剣を振り抜いた姿勢で動きを止めていたが、背後の炎が収まると警戒を解き立ち上がった。そして同時に背後を振り返り、バケエンマを倒した事を確認し合うとゲツエイは肩から力を抜きビャクアは無事にバケエンマを倒せた事に感謝するべく近付いた。

 

「やった、か…………ふぅ」

「やりましたね、皇さん! あなたのお陰です、ありがとうございました!」

「あ……いえ、こ、こちらこそ……」

 

 ビャクアからの心からの感謝に、ゲツエイは柄にもなく嬉しさと恥ずかしさに仮面の下で頬を赤く染めた。こうして健以外の者から手放しに感謝される事が無かった為照れてしまったのだ。

 

「皇さんともう1人、日向さんと言う方の仙台での活躍は聞いてます。あなたに来てもらって良かったです!」

「そ、そんな~……も、望月さんの方も、1人で大きい事件解決したって聞きましたよ。私は健君が居てこそだし、望月さんの方が――」

 

 気付けば互いに相手のこれまでの活躍などを褒め合い始めた2人。御伽装士に変身してさえいなければ、年頃の少女二人が和気藹々と話し合っている様子に見えた事だろう。

 

 息に親睦を深め合う2人だったが、先程のバケエンマの幻覚を見せる音波攻撃の影響で周囲に起こった被害に次第に周囲が騒がしくなってくる。何時までもここで油を売る訳にはいかないと、2人は早々に六角モータースに帰還しようと踵を返した。

 

 その時である。二つの黒い影が背後から2人に襲い掛かったのは。

 

『『シャァァァァッ!!』』

「「ッ!?」」

 

 突然の背後からの奇襲。危うく不意打ちを喰らう所であったが、ギリギリのところで武器を構えた事で攻撃を喰らう事だけは免れた。

 

「ぐっ!?」

「くぅぅ……! な、何者ですッ!」

 

 何者かと問うビャクアであったが、月明りに照らされたその姿は異形であり化神以外にはあり得なかった。新たな化神の出現と奇襲に、動きを止められながらも問い掛ければ相手は意外にも答えてくれた。

 

『俺達は、さっきお前らが殺してくれたアイツに呼ばれてここまで来たのさ』

「どう言う意味ですッ!」

『そのままの意味さ。奴が何故お前に隙を作るだけ作ってトドメを刺さなかったか分かるか? それは奴の起こす音で他の化身を集めて、この地を守護する御伽装士であるお前を確実に始末する為だったのさッ!』

「なっ!?」

 

 化神達の恐るべき計画。奴らは化神にしては珍しく徒党を組み、数の暴力でビャクアを確実に始末するつもりだったのだ。

 

 それを聞かされて、ゲツエイは感情を爆発させるように手にした大太刀の刀身を燃え上がらせ自身に棍の様な物を叩きつける化神……バケアンドンを力尽くで振り払った。

 

「そんな事……させ、るかぁぁぁぁぁっ!」

『くっ!』

「イヤァァァァァァァッ!」

『うぉっと!』

 

 ゲツエイに続きビャクアも気合と共に化神を払いのける。快刀を振り抜いたビャクアに対し、彼女を押さえ付けていた化神・バケホタルは両手に火の玉を出現させるとそれを次々と2人に向け投げつけた。次々と飛んでくる火炎弾に、2人は手にした得物を振り回して切り払い攻撃を防ぐ。

 

「くっ、この……!」

「セイッ! ヤッ!」

 

 2人がバケホタルの攻撃を防いでいる間に、2体の化神はそのまま2人から離れていく。ここで2人の相手をするのは少々不利と考えたのだろう。元々は数の暴力でビャクアを追い詰めるつもりだったのが、奴らにとって予想外なゲツエイの存在によりご破算となった。

 

 しかし距離を取ったバケホタル達の中に危機感は無かった。何故ならバケエンマによる布石は既に功を奏しているからだ。バケエンマの呼び掛けに応えた化神はバケホタル達だけではない。この後も化神がこの地に集まって来る。如何に御伽装士が手強くとも、複数の化神が徒党を組めば恐れる必要は無い。

 

『バケアンドン、ここは一旦退くぞ。奴らは機を見て始末すればいい』

『分かった。オォォッ!』

 

 バケホタルの言葉に賛同したバケアンドンは、頭の行燈を外すと手にした棍の先端に括りつけた。そして棍の先端の行燈を頭上に掲げ気合を入れると、行燈からは眩い光が放たれビャクアとゲツエイの目を眩ませた。

 

「うわっ!?」

「くっ、目くらまし……!? 逃げる気ですかッ!」

「逃がすか……!」

 

 化神達の目論見を見抜いたビャクアの声に、ゲツエイは咄嗟に御札を取り出し化神達が居ただろう場所に向け投擲する。投擲された御札は式神に変化し化神達に飛び掛かるが、それはバケホタルが放った火炎弾により迎撃され燃え尽きてしまう。視界が光に塞がれている中、手応えで式神が撃ち落とされたのを察したゲツエイが舌打ちをしていると唐突に光が収まった。漸く目が開けられるようになり、視界の奥に光の残滓が残る中目を開けるとそこには案の定化神達の姿は影も形も無くなっていた。

 

 まんまと逃げられてしまった事にゲツエイが悔しそうに地団太を踏む中、ビャクアはそんな彼女を宥めつつ六角モータースへの帰還を促した。

 

「逃げられた……くっそぉ……!」

「仕方がありません。まさか化神が複数居たなんて思わなかったんですから。ともかく、状況を報告する必要がありますし、一度戻りましょう」

 

 ビャクアの言葉に落ち着きを取り戻したゲツエイは、悔しさを溜め息と共に吐き出すと2人で六角モータースへと帰還する。そして帰還した2人から報告を聞いた光姫は、バケエンマがこの地に他の化身を集めて沙夜を確実に仕留めようとしていた事に表情を険しくさせた。

 

「まさか、化神が沙夜を狙ってくるとはね……」

「私を狙ったと言うより、一か所ずつ確実に御伽装士を仕留めようとしたのかもしれません。偶々最初に狙われたのが私であって……」

「最初にバケエンマと遭遇した時、アイツ慌ててたって聞きましたけど?」

「あの時の遭遇は本当に偶発的だったのかもしれません。本当は戦力を集めてから私に襲い掛かるつもり出たのが、それよりも前に私に見つかって慌てたんだと思います」

 

 しかしこうなるとなかなかに厄介な事態となる。多数の化神が出現する事象としては百鬼夜行というものがあるが、あれは事前に予兆がある為備えて周辺から御伽装士を集める事も出来る。だが今回は飽く迄バケエンマが個人的に周辺の化神を集めようと暗躍しただけであり、明確な予兆がある訳ではない。バケエンマの呼び掛けにどれ程の化神が同調し集まって来るかも分からない現状、大々的に周辺地区に救援要請をする訳にもいかない。

 

「仕方がない、皇さんには悪いけどもう暫くここに居てくれないか? 沙夜1人でどれだけ来るか分からない化神の相手をさせる訳にはいかないし」

「乗り掛かった舟です、勿論協力しますよ。このまま1人だけ帰ったら寝覚めが悪いし、それに……」

 

 黄泉はそこで言葉を詰まらせる。彼女としても化神を討伐できるのであれば大歓迎であった。そもそも彼女が戦いに臨む事を決意したのは、自分から家族を奪った化神への復讐の為である。健と触れ合った事で復讐心も大分落ち着いてきたが、化神に対する怒りは消えてはいない。こうして折角知り合えた沙夜が化神の標的にされていると聞かされて、帰るなどと言う選択肢は彼女の中に無かった。

 

 とは言えそれは自分の醜い部分でもあり、それを吐露する事には抵抗があったのか黄泉はそれを口にする事はしなかった。突然黙った黄泉に沙夜が首を傾げていると、黄泉は慌てて取り繕う様に言葉を再開した。

 

「皇さん?」

「あ、あぁ、えっと……その、せめて健君に連絡させてもらえますか? ちょっと長丁場になりそうな雰囲気ですし」

「勿論構わないよ。状況が落ち着くまでは、暫くウチに滞在すると良い」

「ありがとうございます。それじゃ、ちょっと失礼しますね」

 

 黄泉はそう言って立ち上がり、健に連絡する為その場を離れた。

 

 部屋を出ていく黄泉の背に、沙夜の視線が向けられる。彼女に背を向けている黄泉には、前髪に隠れている事もあって沙夜がどんな目をしているか分からず、そもそも視線を向けられている事にも気付く事はなく部屋を出て健に連絡すべくスマホを取り出すのであった。




ここまで読んでいただきありがとうございました!

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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