仮面ライダービャクア外伝~仮面ライダーソウテン~   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回はビャクアとのコラボの第4話。今回でこのコラボもラストとなります。

マフ30さん、ありがとうございました!


鴉と狐、時々隼(其之肆)

 黄泉が沙夜の元に援軍として六角モータースに訪れてから4日目。

 

 この日黄泉は、朝食を済ませると宛がわれた部屋でテーブルを前に真剣な表情で筆を執り御札に文字を書き呪術を込めていた。

 

 これまでの4日間で彼女と沙夜は連日の様に化神との戦いに明け暮れていた。一度に現れる化神の数は決して多くは無いが、こうも連日対応に追われてはストックしておいた御札も切れる。念の為にまっさらな御札を用意しておいて良かったと安堵しながら、黄泉は手元の御札に次々と呪術を刻んでいく。

 

 呪術はしっかりとして文字で書きながら込めなければちゃんと機能しないので、この作業が結構神経を使う。時間の経過も忘れるほど真剣になる彼女に、化神の出現に備えて学校を休んでいる沙夜も邪魔をするまいと今は1人で鍛錬していた。

 

 朝食後からたっぷり時間を使ってもうすぐお昼と言う頃、十分な量の御札を用意できた黄泉は漸く筆を置き背筋を思いっ切り伸ばした。

 

「終わ……った~~~~…………ふぅ」

 

 全神経を集中してテーブルに向かっていたからか背中が曲がり、それを伸ばした事で背骨がボキボキと音を立てる。時計を見ればすっかりお昼だ。もうすぐ昼食だろう。その事に気付けば、腹は思い出したかのように空腹を訴え腹の虫が騒ぎ始める。

 

「もうすぐお昼か~……健君、どうしてるかな……」

 

 バケエンマにより化神が呼び寄せられたこの地はともかく、あちらは普段通りの出現率だろうから健は当然普通に学校に行っている。今頃彼は午前の授業を終え、学友達と弁当をつついているに違いない。学校には黄泉の友人となってくれた人達も居るので、この数日休んでしまった事を心配させてしまっているかもしれない。

 

 そんな事を考えながら黄泉は気分転換に窓を開け外の空気を部屋に入れた。冷えたそよ風が心地良く部屋に流れ込み、その風に身を委ねるように再び黄泉は両手の指を組んで背筋を伸ばした。

 

「ん~~~~ッ! 良い風、気持ちいい……」

 

 風の冷たさに心地良さを感じ、差し込む日の光に笑みを浮かべた。

 

 次の瞬間、彼女の前に空から飛行モードのクラマトルネイダーに乗ったソウテンが舞い降りてきた。

 

「黄泉さんッ!」

「うぇぇっ!? た、健君ッ! どうしてここにッ!」

 

 まさかソウテンが空から舞い降りるとは思っても見なかったので、黄泉は驚愕に目を見開く。彼女を驚かせてしまったソウテンはともかく事情を説明しようとしたが、黄泉の()()()()()()()()に今度は彼の方が驚愕と焦りに言葉を失った。

 

「良かった、黄泉さん実は……あ゛ッ!?」

「え?」

 

 突然現れたかと思ったら言葉に詰まったソウテンの様子に、異変を感じた黄泉が背後を振り返った。

 

 そこには今さっき書き終えた御札が、ソウテンが舞い降りる際に吹き込んだ風で部屋中に舞い散る光景が広がっていた。視界を覆う宙を舞う御札に黄泉の思考が一瞬停止するが、思考が回復すると今度はその口から悲鳴が上がる。

 

「わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!?」

 

 

 

 その頃部屋の外には丁度黄泉を昼食に誘おうとしていた沙夜が訪れていた。彼女は黄泉の部屋の扉をノックし呼び掛ける。

 

「黄泉さん、お昼が出来ましたよ?」

 

 果たして室内から返ってきたのは、返事ではなく黄泉の素っ頓狂な悲鳴であった。

 

『わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!?』

「ッ!? 黄泉さん、何事ですかッ!」

 

 聞こえてきた悲鳴にただ事ではないと察した沙夜が返事を待たずに部屋に飛び込んだ。

 

 そこで彼女が見たのは部屋中に舞い散った御札を必死にかき集める黄泉とソウテンの姿であった。てっきり化神か何かが襲ってきたのかと思った沙夜は、予想外の光景に前髪の下で目を点にしてその光景を唖然と眺めてしまう。

 

「え、えぇ……? こ、これは……一体……?」

 

 最初呆然としていた沙夜だったが、何もせず見ている訳にはいかないと沙夜も参加し3人で御札をかき集める。

 

 そうして何とか御札を全て集め終え落ち着いたところで、ソウテンは変身を解くと先ず即行でその場に土下座し黄泉だけでなく沙夜にまで迷惑を掛けてしまった事を謝った。

 

「本当にゴメン黄泉さんッ!? 望月さんにも迷惑を掛けちゃって……」

「大丈夫よ健君。仕方なかったんだって」

「そうですよ、日向さん。話を聞くだに、緊急事態だったみたいですし」

 

 御札の片付けが終わった部屋で土下座する健を前に、黄泉と沙夜の2人は苦笑しながら頭を上げさせた。片付けの最中、2人は健が急遽ここに急行してきた理由を聞いていた。何でも以前鮎夢を負傷させた化神がこちらに向かっている。術に対して耐性を持つだけでなく単純な力も強いと言う化神の接近に、黄泉も沙夜も話を聞いた直後は胃袋が縮んだような気持ちになっていた。

 

「それで、健君? こっちに沼川さんを傷付けた化神が来てるって話だけど……」

「うん、沼川さんがその化神と戦った時に目印になる呪術を使って居場所を確認してたみたい。多分、怪我が治ったら自分でリベンジするつもりだったんだと思う」

「その沼川さんと言う方は、随分と血気盛んな方なんですね」

 

 健の話に沙夜は口元を引き攣らせた。話を聞く限りにおいては、鮎夢は化神討伐に闘志を燃やすタイプの人間に思えたのだ。実際には熱い人物と言うよりは掴み処の無い、真意の読めない人物と言う印象の方が強かったので彼女の言葉に健と黄泉は顔を見合わせ渇いた笑いを浮かべた。何やら意味深なものを感じさせる2人の笑いに、沙夜は2人の顔を交互に見て首を傾げる。

 

「あの、2人共?」

「あぁ、いや……望月さんは気にしないで大丈夫。こっちの事だから。本当に……」

(沼川さんだったら、沙夜さんの事も色々な意味で気に入りそうだよね~……)

 

 待ち伏せする肉食獣の様な沼川にとって、沙夜は正に小動物の様な存在だろう。もし何かの拍子に2人が遭遇するような事になれば、沙夜がどんな目に遭うか分かったものではない。そう言う意味ではこちらに来たのが健だけだったのは本当に幸いだった。少なくとも沙夜が餌食になる様な事にはならない。

 

 この話題はあまり長続きさせない方が良さそうだ。噂をすれば影が差すとも言うし、まかり間違って鮎夢がこちらに来るなんて事になればカオスな事になりかねない。

 

「と、兎に角……健君も助けに来てくれたって事で良いのよね?」

「うん。僕らの担当地区は沼川さんが一緒に面倒を見てくれるって事になったからとりあえずはね」

「正直、申し訳ないです。本来であればここは担当である私が何とかしなければならないのですが……」

 

 黄泉に続き健までもが来た事に、沙夜は少なくない責任を感じていた。自分が幻術などに惑わされずバケエンマを討伐できていれば、こんな事にはならなかったのにと思わずにはいられない。

 

 沙夜が責任を感じて思わず肩を落としていると、黄泉はそんな彼女の手を取り首を左右に振って先程の言葉を否定した。

 

「そう言うのは言いっこなし。助け合っちゃいけないなんて道理は無いし、それに沼川さんを怪我させた化神はどの道こっちに来てただろうしね」

「そうですよ。今はそれよりも、これから来る化神の事を考えないと」

「黄泉さん、日向さん……はいっ!」

 

 2人の言葉に気合を入れ直した黄泉が調子を取り戻したのを見ると、3人は情報共有と作戦会議の為頭目である光姫も交えて会議を行った。

 

「さて、仙台のソウテンだね? 中部地方の頭目をやってる、六角 光姫だ」

「日向 健、御伽装士ソウテンです。よろしくお願いします」

「あぁ、よろしく。話に聞いてた通りの少年だ。それで、状況は何処まで把握してる?」

「大まかな状況は黄泉さんと細かく連絡を取り合っていたので、大体の事はこっちでも把握してます」

「結構だ。確認だが、君がこっちに来るまでの間に件の化神らしい奴は居なかったんだね?」

「はい」

 

 夜通し仙台からここまで、クラマトルネイダーで飛んできた健であったがそれであればもっと早い時間に到着している筈であった。だが実際に彼が黄泉の元に辿り着いたのは朝日が昇り時間が経ってからであった。交通状況など関係なく移動できるクラマトルネイダーで、こんな時間になってから辿り着くのは明らかにおかしい。

 

 こんなに時間が掛かったのは、ここに来るまでの間に健も道中で発見した化神を片っ端から相手取っていたからであった。

 

「夜間にここに来るまでの間に、途中で見つけた化神を何体か倒してきましたがそれはどれも化神としては下級で大した事のない連中ばかりでした。ただ、こちらに向かっていたのは間違いないので化神がこの地に集まりつつあるのは間違いないかと」

「そうか……」

 

 それは決して良い情報とは言えないが、同時に決して悪い情報とも言い辛かった。何故なら健が道中の化神を始末してくれた事で、ここに集まりつつある化神のレベルと限界が幾分か察する事が出来たからだ。

 

 バケエンマが周辺の化神に呼び掛けてから既に数日経っている。それに応えてここを目指す化神が何体か出現したが、それも永続的な訳ではなく呼び掛けに応えなかったりそもそも呼び掛けが届かなかった化神も居る事が健の情報により明らかとなった。少なくとも仙台方面からの化神は件の鮎夢と戦った化神を除けばほぼ打ち止めと考えて構わないだろう。となれば、平装士が索敵に割ける範囲をある程度絞れる。

 

 ここまでに得られた情報と、黄泉が来てから起こった戦闘を加味して平装士の協力を得て索敵した結果。それに加えて黄泉が放った式神の活躍もあって、健達はある程度正確な化神の動きを把握する事が出来た。その結果、近日中にはバケエンマにより呼び寄せられた化神が一気に押し寄せてくるだろう事が分かり、健達はそれを迎え撃つべく予想された日の夜に戦いに臨んだ。

 

「オン・マイタラ・ラン・ソウハ……羽搏け、蒼天ッ!」

「オン・アリキャ・コン・ソワカ……力を貸して、月影ッ!」

「オン・カルラ・カン・カンラ……白鴉の怨面、お目覚めよッ!」

 

「「「変身ッ!」」」

 

 そしてその日の夜、ソウテン・ゲツエイ・ビャクアと言う3人の若き御伽装士が、街と人々を守る為夜空の下で舞い、駆け回る。

 

「デヤァァァァァッ!」

『うぎゃぁっ!?』

 

 日も暮れ夜の帳が下りた街の中で、ソウテン・ゲツエイ・ビャクアの3人は得られた情報から化神の動きを予想し、またゲツエイの式神によりリアルタイムで化神の動きを察知し先を読む形で先回りし敵が集結する前に各個撃破し迫る化神の数を着実に減らしつつあった。

 

 戦っていて分った事だが、集まってきた化神は決して手強い存在ではない。一定のレベル以上の化神は自我が強く群れる事を好まないのか、それとも純粋に迂闊に動く事を警戒しているのか呼び掛けに応える事をしなかったらしい。呼び掛けに応えたのはあまり頭の良くない個体か、あの程度の呼び掛けに応えてしまう程度には単純な程度の低い化神が殆どで本当に力のある化神は数えるほども居なかった。

 そんなバケエンマの呼び掛けに、ユウゲン程のベテランを負傷させ退けるほどの化神が応えると言うのも俄かには信じ難いものがあった。

 

 とは言え、そんな事を長々と考え議論しているだけの余裕は今の3人には無かった。今は兎に角化神の被害を減らす為に、1体でも多くの化神を討伐する必要があった。

 

「そこだッ!」

『ギャッ!?』

 

「逃がすかッ!」

『ギゥッ!?』

 

「いざ、ハイヤァッ!」

『ガァァッ!?』

 

 ソウテンの弓が化神の体を射抜き、ゲツエイが呪符で化神の動きを拘束した上で太刀で切り裂き、ビャクアが影分身をしながら化神を蹴り飛ばす。

 

 ここに居る御伽装士は何れも若手ではあるが、全員がそれなりに大きな事件の解決に尽力した将来有望な若者達。才能と活気、何より使命感と正義感に溢れた彼らの前に有象無象な化神では相手にならず、また人数が3人に増えた事で連携の幅も増えた事も関係し協力し合って次々と化神を始末していた。

 

「健君、沙夜さんッ! そっちの茂みからまた化神が何体か出てくるわッ! 動き止めるから、トドメ宜しくッ!」

「了解ッ!」

「お任せをッ!」

 

 式神が得た情報から次の化神の出現を予期したゲツエイが、化神の飛び出すタイミングに合わせて呪符を投擲し神通力で化神の動きを阻害。身動きが取れなくなったところにそれぞれ柄頭を合体させた双刃の刃を振るい切り裂き仕留めてみせた。

 

「「セヤァァァァァッ!!」」

 

 ソウテンとビャクア、2人の息の合った攻撃を前に化神は身動きが取れなかった事もあり成す術無く体を切り裂かれ、断末魔の叫びをあげる間もなく崩れ落ちた。もう何体目になるか分からない化神を倒したソウテンは、滲み出る疲労感を吐息と共に吐き出し共に戦う2人の仲間を労った。

 

「黄泉さん、望月さん、お疲れ。2人共、大丈夫?」

「うん、私は全然へっちゃら。寧ろ2人の方が……」

「いえ、私もまだまだ平気です。出てくるのは基本雑魚ばかりですし、それに……」

 

 何体もの化神を討伐してきたが、ここまでで倒した化神は何れも雑魚と称して構わないレベルのものばかり。だがある意味で本命とも言える、鮎夢を退けた化神と思しきものの姿はまだ確認できていなかった。その事が否応なしに3人の気を引き締めさせる。

 

「でも、この辺りに集まって来てる化神の数は確実に減って来てるし、このまま行けば――――」

 

 ゲツエイが式神からの情報を加味して終わりが近付いてきている事を告げようとした瞬間、3人の頭上から無数の火の玉が落下してきた。それにいち早く気付いたビャクアは、咄嗟に天狗の羽団扇を取り出し降り注いできた火の玉を突風を起こして吹き飛ばした。

 

「はっ!? くっ、退魔七つ道具が其の壱、天狗の羽団扇! ヤァァァッ!」

「うわっ!?」

「沙夜さん、これはッ!」

 

 ビャクアの咄嗟の機転で防ぐ事が出来たが、突然の奇襲にゲツエイは敵が何者であるかに気付き即座に身構えた。

 

『ちっ、防がれたか』

『まぁ良い、これだけ消耗させれば十分だろう』

 

 現れたのは先日バケエンマを倒した直後に姿を現した、バケホタルにバケアンドンだった。あれ以降この2体は姿を見せず、程度の低い化神ばかりが出てきていたので何処に行ったのかと疑問に思っていたが、どうやらコイツ等は他の雑魚化神との戦いで2人が疲弊するのを待っていたらしい。

 しかもこの時、新たに姿を現した化神はその2体だけではなかった。

 

『ん~? 何か御伽装士増えてるな?』

「お前は……!」

 

 バケホタルとバケアンドンに続き姿を現したのは、2人はこれまでに見たことの無い化神だった。

 

 一見すると蝶の様に見えるが、額から生える触角はまるで(くし)の様に枝分かれしている。背中から生えた羽根と合わせて見てみると、その姿は蝶と言うよりは蛾と言った方が適切だろうか。

 

 そんな化神の姿を見て、真っ先に身構えたのはソウテンである。彼だけは予めその化神について情報を得ていたのだ。

 

「お前か、バケカイコッ!」

「ッ! 健君、もしかしてコイツがッ!」

「そうだよ、コイツが沼川さんを怪我させたんだッ!」

 

 そう、今彼らの前に居る化神の内、新たに現れたこのバケカイコこそが鮎夢のユウゲンと戦い、相打ち同然に彼女に怪我をさせて暫くの間戦線離脱させていた化神だったのだ。術師型の御伽装士としてはベテランの域に居るユウゲンの術を跳ね除け、痛み分けとは言え彼女に怪我をさせて退けたその力は決して侮る事は出来ない。

 

 かと言って残りの化神を無視する訳にもいかない。ユウゲンを退けたバケカイコは勿論、バケホタルもバケアンドンもこれまでに出てきた雑魚化神に比べれば数段力が上の侮れない化神だ。疎かにする訳にはいかないし油断も出来ない。不幸中の幸いなのは、もう雑魚化神は居ないらしく他の化神の姿が見当たらない事だった。つまり、他の化神による妨害を受ける心配がない。

 

 この状況を把握した瞬間、ソウテンの判断は早かった。

 

「黄泉さん、望月さん、バケホタルとバケアンドンの相手はお願いしますッ! 僕はバケカイコの相手をッ!」

「えっ!?」

「日向さん、それは流石に……」

 

 ユウゲンが化神を相手に痛み分けで怪我をした事はゲツエイだけでなくビャクアも知っていた。直接会った事も戦っている所も見た事はないので彼女の実力の程を知らなかったビャクアであったが、それなりのベテランであるとは聞いていたので、そんなベテランと引き分けた化神の相手を1人でするのはリスクが高いとゲツエイだけでなくビャクアも思わず渋った。

 だが…………

 

「バケカイコは術に対して耐性が高い。となると黄泉さんは相性が悪い。かと言って黄泉さん1人でバケホタルとバケアンドンを同時に相手にするのは危ない。だから、僕がコイツを暫く引き受けるから、2人で残りの化神を早めに倒してほしいんだ」

 

 そこには多少の意地もあった。この大変な状況に、仕方がないとは言え遅れて参戦しておきながら厄介な化神の相手をゲツエイは勿論ビャクアにまで押し付けるのは、彼の男としてのプライドが許さなかったのだ。

 

「ですがやはり危険では? 相手は決して一筋縄でいく化神ではないかと……」

 

 それでも尚食い下がるビャクアであったが、ソウテンの方も引き下がるつもりはなかった。それに加えて、決して勝算が無いという訳でも無かったのだ。

 

「大丈夫。沼川さん相手に、引き分けるのが精一杯の相手なら僕なら持ち堪えられる。自慢じゃないけど、僕だって沼川さん相手に術無しで長く持ち堪えられたんだ。だから信じて」

 

 無論、手加減された上で持ち堪えたなど彼自身が言う通り決して自慢できる話ではないだろう。しかしほぼ同条件で本気の彼女と引き分けるのが精一杯だったというバケカイコが相手であれば、ソウテンの行動も決して無謀とは言い切れなかった。

 

 不安はあったしまだまだ言いたい事はあったが、ゲツエイとビャクアは喉元まで出掛かった意見を引っ込めた。これ以上議論している暇は無い。ここでゴネるくらいなら、彼の言う通りバケホタルとバケアンドンをさっさと倒して彼の援護に回る方が余程現実的であった。

 

「……分かった。健君、信じるからね」

「どうかお気を付けて。無理はなさらないでください」

「うん、分かってる。2人も気を付けて」

 

 小さく頷き合った3人の御伽装士は、それぞれ武器を構えて自分達が相手をする化神に向け突撃していく。ソウテンは宣言通りバケカイコに。そしてゲツエイはバケホタル、ビャクアはバケアンドンにそれぞれ向かっていった。

 

「デヤァァァァァッ!」

『何のッ!』

 

 ゲツエイが振り下ろした大太刀がバケホタルを切り裂こうと迫る。バケホタルは迫る刃を横に転がって回避すると、両手に火の玉を作り出しそれを彼女に向け投擲した。

 

『喰らえッ!』

 

 放たれた火の玉は分裂しながらゲツエイに襲い掛かる。だが数は多くても、速度はそこまで早くはない。ゲツエイは迫る火の玉を余裕をもって回避し、回避が間に合わなさそうなものに関しては大太刀で切り払う事で難を逃れた。

 

「舐めないで、欲しいわねッ!」

『フンッ、甘いなッ!』

「え?…………はっ!?」

 

 容易く火の玉を何とかしたと思っていたのに、バケホタルの余裕を感じさせる様子に違和感を感じたゲツエイは背筋に冷たいものが走るのを感じて咄嗟に振り返った。そこで彼女が見たのは、回避したと思っていた火の玉が意志を持っている様に反転して再び自身に迫ってくる光景であった。

 

「え、ちょっ!?」

 

 まさか誘導性とは思っていなかった為面食らったが、やはり速度が遅い為何とかやり過ごす事が出来た。だがバケホタルが放った火の玉は何度避けてもしつこく追いかけて来る。しかも数が減って来るとバケホタルは火の玉を追加で放ってくる為、ゲツエイは四方八方から迫って来る火の玉への対処に手一杯となってしまっていた。

 

「くっ!? この、しつこいッ!」

 

 早くコイツを倒してソウテンの援護に向かいたいというのに、こんな所で足止めを喰らっている事に彼女は苛立ちを感じずにはいられなかった。

 

 一方的な戦いに彼女と対峙しているバケホタルは、既に己の勝利を確信していた。

 

『ヒャハハハハッ! ほれほれ、踊れ踊れぇっ!』

 

 バケホタルは更にゲツエイを追い詰めるべく、新たに火の玉を作り出しそれを放って彼女を追い詰めた。逃げ場を無くすほどの火の玉を前に、遂にゲツエイの足が止まってしまう。

 

「くっ!?」

 

 眼前を通り過ぎる火の玉を回避する為立ち止まり体を仰け反らせる。その瞬間を待っていたバケホタルは彼女の周囲の火の玉を操り殺到させた。四方八方から迫る火の玉の囲い。これを抜ける術は今の彼女にはない。

 

「あ、あぁっ!? た、健く――」

 

 最期の言葉に健の名を呼ぼうとしたゲツエイであったが、全てを言い切る前に彼女の姿が爆炎の中に消えていく。殺到した火の玉の温度は鋼鉄すら溶かすほどであり、無数の火の玉に飲み込まれた彼女の姿にバケホタルは勝利の雄叫びを上げた。

 

『ハッハッハァァッ! ざまぁみろ御伽装士ッ! 俺の勝ちだぁッ!』

 

 自らの勝利に勝鬨を上げるバケホタル。この後はバケアンドンの手助けでもして共にビャクアを始末し、然る後にバケカイコと共にソウテンを血祭りにあげてやろうと振り返ろうとした。

 

 直後、彼は腹に灼熱の痛みを感じ思わず足を止めた。

 

『――――あ?』

 

 何事かとバケホタルが視線を下に向ければ、そこには己の腹から突き出た赤い刀身の太刀が見えた。最初それが何なのか分からなかったが、人がる痛みと背後から響く声に遅れてその正体に気付いた。

 

「だ~れが誰に、勝ったって?」

『な、何ぃぃぃっ!?』

 

 バケホタルの背後に居たのはゲツエイであった。彼女は何時の間にかバケホタルの背後に回り込み、後ろから草薙の大太刀を突き刺してきていたのだ。

 だが彼女は先程確かにバケホタルが生み出した火の玉の群れの中に消えていった筈。現に今もバケホタルの眼前では、鉄をも溶かすほどの灼熱の火柱が立ち上っている。一体どうやってあの中から脱出したのかとバケホタルが困惑していると、ゲツエイは御札を一枚取り出してそれをバケホタルの顔の横でヒラヒラと揺らしながら話し始めた。

 

「一体何時から、アンタに振り回されてるのが私だって思ってたのかしら? アンタがずっと追い立ててたのは、私じゃ無くて私の式神よ?」

『何だとぉぉぉっ!?』

 

 バケホタルとの戦いが始まった瞬間、ゲツエイは一撃で勝負を決めるべく相手に隙を作らせる為式神で自身の分身を作り出していた。幻術による幻ではない為違和感を抱かせる事なく相手の注意を引き付ける事に成功したゲツエイは、バケホタルが偽物のゲツエイを追い立てるのに夢中になっている間に背後へと移動し隙だらけとなった瞬間その背に刃を突き立てたのである。

 

 もうここまで来ればゲツエイが勝ったも同然だった。彼女はさっさとバケホタルを始末しようと、突き刺した草薙の大太刀の刀身に炎を纏わせた。傷口が焼かれる激痛とこの後自分に待ち受ける運命に恐怖し、バケホタルは叫び声を上げた。

 

『や、止めろぉぉぉぉッ!?』

 

 必死の声にしかし彼女は当然聞く耳を持たず、灼熱の刀身でバケホタルの体を真っ二つに切り裂いた。

 

「退魔覆滅技法、獄炎斬波!」

 

 刃を突き刺した状態で、ゲツエイは大太刀を円を描くように振り回す。炎の円が描かれ、その刃にバケホタルは真っ二つに焼き切られ爆散する。

 

『ギャァァァァァッ!?』

 

 断末魔の叫びを上げながら爆散したバケホタルから離れたゲツエイは、昂った精神を一度落ち着ける為立ち止まり一息つくとソウテンの援護へと向かっていった。

 

「ふぅ……よしっ!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方ビャクアとバケアンドンの戦いは、序盤はバケアンドンが優勢であった。

 

「おぉぉぉぉ……!」

「なっ!? これは……!?」

 

 マタギの頭が行燈になったような姿の、バケアンドンが手にした小さいカンテラの様な行燈に力を注ぐと放たれる光が周囲を照らした。決して目が眩むという程の明るさではないが、明らかに普通ではない行燈の光にビャクアも警戒し光を手で遮りながら警戒する。

 立ち止まったビャクアが光に照らされ、夜であるにもかかわらず彼女の背後には影が伸びた。すると突如、行燈で照らされて伸びた影が立ち上がるともう1人の漆黒のビャクアとなった。バケアンドンの方に意識を向けているビャクアは、自身の背後で何が起きているかに気付いていない。

 

 現れた漆黒のビャクアは体の調子を確かめるように肩と首を回すと、音もなく飛び掛かり無防備なビャクアの背に跳び蹴りを叩き込んだ。

 

「あぐっ!? く、なぁっ!?」

 

 出し抜けに背中を蹴り飛ばされ、隠れ潜んでいた化神の奇襲かと警戒するビャクア。だが彼女が見たのは自身と全く同じ姿の影であった事実に、さしもの彼女も驚愕に言葉を失ってしまった。

 

『はーっははははははっ! どうだ、自分自身と相対した気分は? さぁ、やれっ!』

 

 バケアンドンが指示を出すと、影のビャクアは本人と寸分違わぬ動きでビャクアに飛び掛かる。しなやかな動きで素早く接近し、しなる足で蹴りを放つ。ビャクアは影の自分が放ってきた蹴りをバク転して回避し一旦距離を取ると、呼吸を落ち着けて相手を観察した。

 

「まさか、こんな形で自分自身と戦う事になるとは思いませんでした。ですが……!」

 

 体勢を整えたビャクアは、雲薙ぎの大鎌を構えて飛び掛かった。すると影のビャクアも同じく大鎌を手に取り、同じように飛び掛かって2人のビャクアの大鎌がぶつかり合う。

 

「くっ!」

『無駄だッ! そいつはお前自身の生き写しッ! お前の全てを模倣して攻撃してくるッ! 何をしようと全て自分自身に返って来るぞッ!』

 

 姿を現した影のビャクアが無手だったのを見て、武器を出してしまえば自分の方にアドバンテージが来るかと目論んだビャクアであったが、バケアンドンの話でその計画はあっさりとご破算となった。奴の言葉をそのまま信じるのであれば、下手に技を使えばそれも返される恐れがある。一瞬退魔道具の一つ、韋駄天の鎧下駄で分身する事も考えたが、恐らくはそれもコピーされて終わるだけだからやらない方が無難だろう。

 

(となれば、やるべき事は1つ……!)

 

 コピーの相手をするのが面倒なのであれば、コピーを作り出している大本を何とかしてしまう方が手っ取り早い。流石にバケアンドンが倒れれば、コピーも形を維持できず消滅するに違いない。ビャクアは影の自分と何度も大鎌で切り結びながら、視線をチラチラとバケアンドンの方に向けて隙を伺っていた。

 

 ビャクアが自分に視線を向けてきている事は、バケアンドン自身も気付いていた。この状況、自分のコピーを相手にするとなれば、その相手が考える事は大体同じだからだ。

 

『クククッ……お前の考えは分かっているぞ? 俺をどうにかしようというのだろう? 確かに俺が倒れれば、影のお前自身も消えるだろう。だが果たして、俺を相手にしてる余裕が今のお前にあるかなっ!』

 

 意識をバケアンドンの方に向けていた事が隙となり、彼女の動きが僅かに乱れた。影のビャクアはその隙を見逃さず大鎌の柄でビャクアが持つ大鎌の柄を押し返し、さらに追い打ちで回し蹴りを放つと追撃し鎌を振るって彼女の胸部を切り裂いた。

 

「あぁぁぁぁぁっ!? く、うぅ……!」

 

 切り裂かれた部分が痛むのを堪えて、ビャクアは大鎌を構え直す。影のビャクアは自身のコピー元に容赦なく襲い掛かったが、ビャクアはそれ紙一重で回避すると石突の部分を相手の足に引っ掛ける事で転倒を誘発した。狙い通りの展開に、ビャクアは仮面の下でほくそ笑んだ。

 

「ふふっ、やはり真似る事しか能がないみたいですね……!」

 

 ほくそ笑んだビャクアに激昂したように影のビャクアが飛び掛かる。ビャクアがそれを迎え撃つと、白と黒のビャクアが大鎌で切り結ぶ。全く同じ動きで大鎌をぶつけ合う2人の動きはいっそ芸術的ですらあった。

 

 だがバケアンドンはそんな2人の舞踏を楽しむ事はしない。虎視眈々と、ビャクアの隙を突き仕留めるタイミングを狙っていた。

 

「ヤァァァァッ!」

『ッ!』

 

 そして遂に、千載一遇の好機が訪れる。影ビャクアの一撃を受け止めた瞬間、ビャクアの大鎌が弾かれ大きく弧を描くように振り回された。

 

「ぐっ!?」

『もらった! くらえぃッ!』

 

 ビャクアが明らかな隙を晒した。この瞬間を狙い、バケアンドンは頭の行燈から火球を放ちビャクアを仕留めようと力を籠める。

 

 だがこの時、ほくそ笑んでいたのは寧ろビャクアの方であった。隙を伺っていたのは彼女も同様、それどころか彼女の方が1枚上手であった。

 

「狙い、通り……!」

『なッ!?』

 

 影のビャクアにより弾かれた大鎌。それは大きく弧を描くように振り回され、彼女の体を半回転させると…………刃がバケアンドンの持つランタンの様な行燈をものの見事に切り裂いてしまった。そう、彼女はこれを狙っていたのである。

 

 普通に影のビャクアとバケアンドンの両方を同時に相手取るのは骨が折れる。かと言ってバケアンドンを潰して影のビャクアを消すのは難しい。となれば、他に取れる手段は何とかして影のビャクアを消す事であった。とは言え相手は自分自身、動きも何もかもを真似てくる相手を下すのは簡単ではないので、ならばと彼女が狙ったのは影のビャクアを作り出す原因となっているバケアンドンの持つ行燈だったのである。

 

 果たしてその目論見は正しかった。ビャクアがバケアンドンが手に持つ行燈を切り裂き、発せられる光を消すと影のビャクアは周囲の景色に溶けるように姿を消してしまった。残されたバケアンドンは、力の源である行燈を破壊された事と攻撃の要であった影のビャクアを消された事に憤り、破れかぶれになって火球を放った。

 

『お、おのれぇぇぇッ!!』

 

 頭になっている行燈の天辺をビャクアに向け、まるで砲撃の様に火球が放たれる。だが技術もへったくれも無いその様な攻撃が、ビャクアに通用する筈もなくバケアンドンは接近を許してしまった。

 

「いざ、御覚悟をッ!」

『ッ!?』

 

 バケアンドンに接近しながら、ビャクアは雲薙ぎの大鎌に神通力を込める。すると大鎌は巨大化し切れ味と重量を増していた。一目見てこれはヤバいとバケアンドンが逃げようとするが、巨大化した事で攻撃範囲も伸びた大鎌からは逃れられない。

 

「退魔覆滅技法、断邪ッ!」

『う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

 ビャクアが振るった巨大な鎌はバケアンドンの体を容易く両断し、腰の部分から上下に両断されたバケアンドンは爆散し木っ端微塵に吹き飛ぶのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ビャクアとゲツエイ、2人が化神を相手に勝利を収めている頃、ソウテンもまたバケカイコを相手に善戦していた。

 

「セヤァァァッ!」

『うぐぉっ!?』

 

 バケカイコは背中から生えた翅を使って飛翔しながら、炸裂する鱗粉を撒き散らしてソウテンを空爆しようとしていた。だがソウテンはここに来る前、簡単にだがユウゲンからバケカイコの戦い方を聞いていた。故に彼はバケカイコが鱗粉による空爆をしてくる事を予想しており、実際にそれを行ってきた時の為の対策を立ててきていた。

 

 空中のバケカイコが翅を羽搏かせて鱗粉を撒き散らす。それを見たソウテンは、鎌鼬の双剣を取り出すとそれを連結させて回転、風を起こして鱗粉を吹き飛ばし逆にバケカイコの周囲で炸裂させた。

 

『くぅぅっ、小癪なッ!』

 

 鱗粉攻撃は自分に返されるから不利になると見て、バケカイコは空中からのヒットアンドアウェイ攻撃に切り替える。どう足掻こうが相手は地面を這いつくばるしか出来ないのだから、空中に居る自分の方が圧倒的に有利な筈と考えたのだ。

 だがバケカイコは知らなかった。ソウテンには空を駆ける為の力もあるのだという事を。

 

「クラマトルネイダーッ!」

 

 ソウテンが一声かければ、彼の愛車であり相棒でもあるクラマトルネイダーが無人で颯爽と登場。主人の意思を汲んで飛行形態に変形すると、ソウテンはサーフボードの様にそれに乗って空中のバケカイコに接近した。

 

『何だとッ!?』

「ハァァァッ!」

 

 驚愕するバケカイコに、ソウテンは一気に接近し分離させた双剣を振るい攻撃を仕掛ける。辛うじて爪で斬撃を防ぐバケカイコであったが、自身の持つアドバンテージが失われた事にバケカイコは焦りを感じていた。得意の鱗粉攻撃は通用せず、飛行可能と言うアドバンテージも失われた。しかもソウテンは術を戦いに用いないから、バケカイコが持つ術に対する耐性も意味をなさない。このソウテンと言う御伽装士は、バケカイコと相性が最悪の相手だったのである。

 

『チッ、やってられるかッ!』

 

 事ここに居たり、バケカイコは逃げる事を考えた。見れば地上でゲツエイとビャクアと戦っていた化神は既にやられている。このままでは自分が袋叩きにされるだけだと考え、翅を広げてこの場から飛び去ろうとした。

 

 勿論それを黙って見逃すソウテンではなく、彼は再び連結させた双剣をブーメランのように投擲してバケカイコの逃げ道を塞ぐと、飛行形態のクラマトルネイダーを巧みに操り後輪部分で薙ぎ払う様に体当たりした。

 

「フンッ!」

『ぐはぁっ!?』

 

 クラマトルネイダーを用いた一撃にバランスを崩し落下しそうになるバケカイコであったが、曲がりなりにもユウゲンを退けたのは伊達ではないのかギリギリのところで空中でバランスを取り戻し尚も逃亡を図ろうとした。

 

 しかしソウテンの攻撃から立ち直ろうとした時間は、バケカイコにとって致命的なタイムロスとなった。顔を上げ再び飛び去ろうとしたバケカイコの前に、無数のソウテンが現れ逃げ道を塞ぐ。

 

『これは……幻影かッ!』

 

 バケカイコはそれがゲツエイによる幻術の類であるとすぐに見抜いた。相手が術であるのならば恐れる事は何もない。バケカイコが翅を広げて鱗粉を飛ばせば、それに触れた瞬間ゲツエイの術は効果を失い、御札はただの紙切れとなって風に吹き飛ばされていく。

 

 一見すると何の意味もなさないように見えるゲツエイの幻術であったが、彼女は別にこれでバケカイコをどうこうしようとは考えていなかった。彼女が欲しかったのは僅かな時間。この彼女が作り出した時間の中で、全ての勝敗は決した。

 

「オン・カルラ・カン・カンラ! 退魔七つ道具が其の肆、山崩しの大筒ッ!」

『はっ!?』

 

 ゲツエイの幻術を解こうとバケカイコが動きを止めた一瞬の隙の間に、ビャクアは鳥面の大きな銃口を持つ長銃型の武具・山崩しの大筒を取り出した。その長い射程はバケカイコも容易く収め、マズいと思った時には放たれた弾丸がバケカイコの翅の片方を千切り飛ばしていた。

 

『ギャァァァァァッ!?』

「日向さん、今ですッ!」

「健君ッ!」

「了解ッ!」

 

 自慢の翅の片方を失い落下していくバケカイコ。ソウテンはそれに接近しながら、足に神通力を込めてクラマトルネイダーから射出されるように飛び蹴りを放った。

 

「退魔覆滅技法、碧空疾風脚・射ッ!」

『ッ!?』

 

 クラマトルネイダーによる加速を乗せたソウテンの必殺技、碧空疾風脚・射がバケカイコを捉える。爆速で蹴り飛ばされたバケカイコは、しかし見た目以上には頑丈なのか尚原形を留めていた。その状態で蹴り飛ばされていくバケカイコの先には、雲薙ぎの大鎌を構えたビャクアと草薙の大太刀を構えたゲツエイの姿が。

 

『ガハァァァァァッ!?』

「黄泉さんッ!」

「えぇっ!」

 

「「ハァァァァッ!!」」

 

 蹴り飛ばされてきたバケカイコを待ち受けていた2人は、同時に手にした得物を振るいバケカイコを×字に切り裂く。ソウテンの一撃で既に限界に達していたバケカイコは、2人の攻撃でトドメを刺され爆発四散した。

 

『が、ぁ…………!?』

 

 最早悲鳴も上げられない程消耗したバケカイコが爆散すると、その爆炎を切り裂くようにソウテンが風を伴って着地。吹きすさぶ風がバケカイコの爆発で巻き起こった炎を吹き飛ばし、後には着地し地面に片膝をついたソウテンと手にした武器を振り抜いた姿勢で固まるゲツエイ、ビャクアだけが残されるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 バケカイコを最後に、化神の出現は途絶えた。その後も暫く現地で警戒していた3人だったが、周辺で索敵していた平装士からの連絡で接近する化神の姿無しと言う報告を受ける。どうやらバケエンマが呼び寄せようとした化神はあれで最後だったらしい。力自体はそんなに大した事ないのに、なかなかどうして厄介な事をしでかしてくれたものだ。

 

 それでも3人の御伽装士の尽力により、最悪の事態は免れ迫る化神は全て討伐された。ゲツエイとソウテン、そしてビャクアの3人は互いの健闘を称え合い、その後襲ってきた疲労に黄泉だけでなく健も六角モータースで一晩を明かす事となる。

 

 そうして朝を迎え、健も交えて朝食を済ませると、まだ朝靄が立ち込める中で健と黄泉は六角モータースの前で沙夜と別れの挨拶をしていた。

 

「それじゃあね、沙夜さん。色々とありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。黄泉さんが来てくれなければもっと大変だったと思います。本当に、お世話になりました」

 

 黄泉と沙夜は互いに手を差し出し、別れを惜しむ様にしっかりと握手した。共に過ごした期間は短かったが、2人の間に出来た友情は十分に硬かった。

 健が黄泉に自分以外の御伽装士の友が出来た事を純粋に微笑ましく見つめていると、沙夜は徐に健の方にも視線を向け彼にも手を差し出した。

 

「あなたも、ありがとうございます。日向さん、あなたが来てくれて助かりました」

「そんな、僕は遅れて来ただけだし。黄泉さんと望月さんだけでも多分何とかなったと思いますよ」

「そんな事ないって。ね、沙夜さん?」

「はい。日向さんも来てくれて、本当に良かったです。改めてお礼を言わせてください、ありがとうございました」

 

 2人からの言葉に、健はこそばゆくなり頬を赤くしながらも笑みを浮かべて沙夜からの握手に応えた。

 

 御伽装士は余程の事が無ければ離れた所に居る者同士が触れ合う事は滅多にない。共に担当する地区があるからだ。百鬼夜行の様な緊急事態にでもならなければ、こんな風に交流することは無いだろう。もしかすると今後健と黄泉が沙夜と出会う事はもうないかもしれない。

 

 故に特に黄泉は沙夜との別れを惜しんだが、そんな事も言っていられない為後ろ髪を引かれる想いを抱きながらもそれを振り払い別れを告げた。

 

「黄泉さん、そろそろ……」

「うん。沙夜さん、本当にありがとうございました」

「もし仙台の方に来る用事があったら、お店によってくださいね!」

「はい、必ず!」

 

 黄泉が沙夜と別れを告げると、健がクラマトルネイダーに跨りその後ろに黄泉が乗る。ヘルメットを被りエンジンを健が噴かせ、黄泉はそんな彼にしっかりと抱き着きながら今一度沙夜に向けて手を振った。

 

「それじゃあ沙夜さん、また何時かッ!」

「はい、また会いましょうッ!」

 

 黄泉と沙夜が別れを告げ、健も手を振ってクラマトルネイダーを走らせる。沙夜は昇る朝日に照らされながら離れていく2人の姿を、見えなくなるまで見送るのであった。




ここまで読んでいただきありがとうございました!

当初は3話で締める予定でしたが、キャラ同士の掛け合いとかを入れようとするとどうしても長くなるので4話になりました。それでも4話目は普段の1.5倍くらいの文量になりましたが。
本当は健と永春君の絡みとかも書きたかったんですけど、そこまでやろうとすると何だかくどくなりそうだったので泣く泣くカット。もし機会があればその時に、って感じです。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。重ねてマフ30さん、ありがとうございました。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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