仮面ライダービャクア外伝~仮面ライダーソウテン~ 作:黒井福
突然の黄泉への告白で、日向食堂の店内は軽く騒ぎになった。健は黄泉を男から引き剥がして自分のものだと主張する様に抱きしめると、男は黄泉を横から掻っ攫われたと健に敵意を剥き出しにして飛び掛かろうとする。あわやと言うところで修二が男の脳天に杖を叩き付け無理矢理大人しくさせると、近くの椅子に放り込む様に座らせてから引っ叩いて意識を取り戻させた。
「全く、来て早々騒がしい弟子じゃ。ほれ、とっとと起きんかい」
「う、ん……? はっ!?」
脳天を杖で殴られて気を失っていた男は、頬を引っ叩かれて起きるなり黄泉の姿を探した。そして健の後ろに隠れるようにしながら自分を見ている彼女の姿に、立ち上がって近付こうと足を踏み出す。が、礼儀を弁えない弟子を修二は許さず、杖で鳩尾を突く様に押して強制的に椅子に座らせた。
「おいお前、その子から――」
「待たんか馬鹿者」
「おげっ!?」
鳩尾を突かれて痛みと吐き気におかしな悲鳴を上げ椅子に座った男に、修二は彼の頭を杖で小突きながら挨拶と自己紹介がない事を責めた。
「お前な、来て早々騒ぎを起こす馬鹿が何処に居る? ここはお前の家じゃないんじゃぞ? 挨拶や自己紹介も無しに自分の主張ばかり宣いおって。そんなんで女子が惹かれると思っておるのか? ん?」
「イテッ、イテッ!? んな何度も殴るなよッ!」
「殴られるような事をしとるのはお前の方じゃろうが。全く、親の顔が見てみたいわ」
「俺の親はジジィの子だろうがッ!」
どうやらあの2人は師弟であると同時に祖父と孫の関係でもあるらしい。道理で距離感が近かった筈だ。
男の方も修二の行動に不満はあるものの、言う事は尤もだと思ったのか大人しくなると健の事を睨みつけながら改めて自己紹介を始めた。
「ったく……んんっ! 夜分遅くに失礼します。俺、嘉島
「……日向 健、御伽装士ソウテンです。よろしく」
「す、皇 黄泉……御伽装士ゲツエイよ」
男……乾司が自己紹介すると、礼儀として健と黄泉も自己紹介を返した。ただ健は明らかに彼に対して強い警戒心を向けていた。それも当然か、いきなりやって来たかと思えば黄泉に告白してくるような男だ。健からすれば十分に警戒するに当たる、下手をすると化神よりも危険な相手である。
一方黄泉の方も彼に対して警戒心を向けていた。彼女の場合は初対面でいきなり告白してくるような相手に対する、苦手意識の方が強いと言った方が良いかもしれない。既に健の事が好きな彼女にとって、いきなり出てきたかと思えば告白してくる乾司は存在として異質過ぎる。近付きたい相手ではなかった。
だが乾司本人は、そんな黄泉の心情を無視したかのように彼女の名を聞くなり立ち上がって近付こうと足を前に踏み出した。近付いて来る彼の姿に、黄泉は慌てて健の後ろに隠れ健は彼女を守ろうと手を広げた。
「皇 黄泉……! 名前も綺麗で可愛らしい……!」
「ひぅっ!?」
「……」
「む……?」
黄泉に一目ぼれした乾司は彼女に少しでも近づこうとするが、それを阻む健の存在に忌々しさを感じ、黄泉に向けていた笑みから一転して敵意剥き出しの顔を健に向けた。
「何だ、お前……?」
「それはこっちのセリフだよ。いきなり来たかと思えば黄泉さんに近付いて……」
「俺の勝手だ、お前には関係ない。俺は皇さんに用がある。邪魔だ、退け」
「そうはいかない。黄泉さん嫌がってるじゃないか。それなのに君の好きにさせる訳が無いだろう」
健がここまで他人に対して敵意と嫌悪を向けるのは珍しい事であった。基本誰に対しても丁寧に敬意をもって接する彼だったが、乾司に対しては話が別なようだ。それも当然か、彼は健にとって明確な敵だ。愛する黄泉を横から出てきた掻っ攫おうとする不届き者。しかも黄泉本人の気持ちを無視した態度は、ただ単に自分以外に黄泉を狙うと言う以上の嫌悪感を健に抱かせた。
珍しい健の姿に面食らいながらも、頼もしい彼の姿に密かにときめきを抱く黄泉。彼女が健に熱い視線を向けている事も乾司には気に入らないのか、彼は静かに嫌悪する健とは対照的に荒々しい怒りを向けた。
「テメェ……ヒョロガリのクセに……!」
「ほれ落ち着かんか馬鹿者」
「ぐほっ!?」
今にも健に飛び掛かって黄泉を強奪しようとする雰囲気を纏う乾司だったが、修二が杖で頭を殴る事で強制的に意識を逸らされる。脳天に叩き落された杖に乾司は目の中に火花が散るのを感じながら、容赦なく殴って来る師に標的を変え文句を口にした。
「何しやがんだクソジジィッ!」
「落ち着けと言うとろうが。お前、あの2人がどういう関係か見て分からんのか?」
言われて乾司は改めて黄泉と……忌まわしいが健の事を見た。麗しい黄泉は健の後ろに隠れ、健は黄泉を守る様に手を広げている。黄泉は少しでも健に触れることで安心する為か、彼の背に胸を押し付けるように身を委ねていた。背中に彼女の胸の感触を感じて顔が緩みそうになるのを、健は乾司に対する敵意と嫌悪感で塗りつぶし表情を引き締めていた。
「この2人? この2人が…………!?」
修二に言われて乾司は改めて2人の事を見る。そして気付く。健と黄泉、2人の距離が――乾司にとっては――恐ろしい程近い、近すぎる。健は黄泉を包む様に守り、黄泉は健に己の全てを委ねるように。
それはただの男女と言うにはあまりにも親密であり、それを見せつけられては乾司も2人の仲がどういうものなのかを認めない訳にはいかなかった。
「ま、まさか……まさか、皇さん……!?」
「気付くの、遅すぎ」
愕然となった乾司を、黄泉がジト目で睨み付ける。一方の健は、やっと乾司に自分と黄泉の関係を理解させる事が出来た事に勝ち誇ったように彼女を抱き寄せる。
「悪いけど、もう黄泉さんは僕のだから」
「!?!?」
健に改めてそう宣言され、乾司は遂に膝から崩れ落ちる。敗北感に打ちのめされた彼を前に、晃と裕子はどうしたものかと顔を見合わせ肩を竦め、師匠であり祖父でもある修二は呆れた様子で眺めていた。そして健と黄泉は互いに顔を赤くしながらも抱きしめ合い、親密さを見せつける。正直趣味や性格が悪いと思わなくも無かったが、話も聞かずに黄泉に告白した挙句健の事を敵視する位突っ走りがちな彼にはこれくらい思いっきり見せ付けなければ理解されない。
とは言え、根が善人の健は衝撃を受けた乾司の様子にやはり罪悪感を感じずにはいられなかった。
(ちょっと可哀想だったかな?)
(いいのよ、こういう奴にはこれ位で)
乾司に対してちょっぴり申し訳なく感じる健に対し、黄泉は一切の容赦なく断じ、これで付きまとわれるような事も無いと安心して健の体に身を委ねる。押し付けられる彼女の胸と漂う体臭に心臓の鼓動が早くなるのを感じながらも、それを受け入れる健の姿を乾司が床に両手両膝をつきながら見上げていた。
次の瞬間、乾司は弾かれた様に立ち上がると健に指を突き付け勝負を挑んだ。
「勝負だ日向ッ! 俺と勝負しろッ!!」
***
激動の一夜を明け、時間が経って翌日の夕方。健は黄泉の呪術によって人払いをした公園で乾司と対峙していた。
昨夜は健も黄泉も化神との激しい戦いを終えたばかりであり、兎に角休息が必要であった。だが乾司はそんな事情など知った事かと健に勝負を仕掛け、あのまま放っておくと場所も弁えず暴れ出す一歩手前までいっていた。それは流石に看過できないと、修二が今度は強めに殴って引き摺り宿泊先へと向かっていく。
そして宿泊先の宿で目覚めた乾司は、修二に文句を言いながらも再び日向食堂へ向かおうとした所を引き留められるとあの時の健が戦える状態ではない事を告げた。正確には戦えない訳ではないが、修二との修行で疲労を溜めていたことに加えて化神と全力で戦った為あれ以上戦える状態ではなかった。戦えたとしても全力の半分どころか五分の一も出す事は難しかっただろう。
修二は言う。そんな全力を出せない相手と戦い勝って、それで本当に勝利と言えるのか? そんな勝ち方をして、女が振り向いてくれるかと説教すれば彼も黙らざるを得なくなる。既に十分醜態を晒してしまった訳ではあるが、恥の上塗りをこれ以上続けては黄泉に振り向いてもらえないどころか拒絶される可能性が高い。
ならばと乾司は一旦落ち着くと、翌日改めて日向食堂を伺い健に勝負を挑もうとした。生憎と彼が向かった時には既に健は黄泉と共に学校に向かっていた為、またしても出鼻を挫かれながらも晃に言伝を頼みその場は引き下がる。
そして健が学校を終え自由になる夕方、改めて乾司は健の元に向かいそこで勝負を挑み今に至る。
「さぁ、覚悟は良いかッ!」
「ねぇ、本当にやるの? 御伽装士同士がこんな……」
正直、健はこの戦いに対して乗り気ではなかった。それは黄泉を懸けてとでも言うような戦いで彼女を賞品の様に扱う事に納得できないのと同時に、そもそも御伽装士同士で戦うと言う事に不満があった。彼ら御伽装士は化神と戦う事が目的であり使命。なのにこんな生産性のない戦いをする等間違っていると思えてならなかった。
戦いに対し消極的で渋る健を前に、乾司は彼の事を戦いを恐れる臆病者と見くびった。
「なんだ、怖いのか? やっぱり見た目通りのヒョロガリじゃねえか」
「ち、違うっ! 僕が言いたいのは、御伽装士同士でこんな戦いをするのは間違ってるって話で……」
必死に弁明する健であったが、ここで修二が乾司の肩を持った。
「あ~、健君や。言っておくと、別に御伽装士同士の戦いは禁止されてもいないからそんなに気にする事ないぞい」
「えっ!? そうなんですか?」
「ま、組手と言う形でなら、という感じではあるがな。それに儂も、若い頃は何度もセンちゃんに挑んどったし」
修二が何気なく口にした人物の名前に、黄泉は心当たりがあった為確認すればやはりと言うか彼が昔何度も挑んだ相手と言うのは御伽装士マイヤこと、夜舞 薫の祖母である夜舞 センの事であった。
「センちゃん……って、もしかして夜舞 センさんの事ですか?」
「おぉ、黄泉ちゃん知っとるんか?」
「まぁ、ちょっと……」
「昔センちゃんは婿探しで挑戦者を募集しとっての。若い頃の儂は今より血の気も多かったから、戦える上に勝てばセンちゃん嫁に出来るってんで何度も挑んどったのよ」
若い頃のセンちゃんはピッチピチで美人だったしの~……等と当時を思い出してだらしない笑みを浮かべる修二を黄泉が冷たい目で睨み付けると、それに気付いたのか修二も咳払いを一つして顔を引き締めた。
「んんっ……ま、結果は散々で、腕に覚えはあったが毎回返り討ちにあっとったがの」
「みたいですね。嘉島さん位の人でも一度も勝てなかったって、センさん相当強かったんですか?」
「儂が知る限りじゃ、負け無しだったの」
黄泉が知るセンは薫の祖母であり、目に力はあり実年齢よりは若く見え雰囲気も引き締まっており、老人なのだが老人らしく無いと言う印象が強かった。そんな彼女と修二が何度も戦い、その全てで彼が負け越していると言う事実は素直に興味深かった。何だかんだで黄泉も彼の強さは認めているのだ。同時に変態でもあり、そこはどうにかならないかと頭を悩ませていたが。
「ちゅう訳じゃから、今回の事も組手って事で儂が立ち会ってやる。遠慮せず、全力でやれい」
「へへっ! そう来なくっちゃな」
許可さえ下りればこちらのものと言わんばかりに、乾司は意気揚々と拳をぶつけ合わせて怨面を取り出す。対する健も、もう戦いは避けられないと分かると諦め溜め息を吐きながら怨面を取り出した。正直に言えばまだこの生産性のない戦いに納得しきれていない。だがこれ以上渋るのは、何と言うか男として負けた気になりそれはそれで嫌だった。
それに、化神ではなく御伽装士を相手とした組手は決して無駄と言う訳でもない。自分と異なる戦いをする御伽装士との戦いで、いい刺激を受け今後の戦いの糧となる可能性もあった。
と、健は思う事にして自分を納得させた。そうしなければ戦いに身が入らず負けてしまう。
「オン・マイタラ・ラン・ソウハ。羽搏け、蒼天。――変身ッ!」
まず健がソウテンに変身し、穿空の弓矢を召喚し構える。乾司が変身する御伽装士に関して、彼は何の情報も持っていなかった為、遠近両方の戦いに対応できるこの装備を選んだのだ。
弓に矢を番えて構えるソウテンを前に、乾司は小さく鼻を鳴らすと親指と人差し指で挟んだ怨面を顔の前に翳し呪文を唱えた。
「オン・コンゴウ・ハタ・スグルッ! 駆けろ、流狼ッ! 変身ッ!」
乾司が変身した御伽装士ルロウは、狼を模した怨面の御伽装士であった。全身を黒いボディースーツと灰色の鎧で包み、首からは赤いマフラーが伸びている。中身が荒々しい性格である事に反し、鎧は決してゴテゴテではなく寧ろソウテンに近い軽量な見た目であった。ただ変身者である乾司が筋肉質だからか、ボディースーツを押し上げる筋肉の上に動きを阻害しない鎧が張り付いているような印象を受ける。
ソウテンの前に佇むルロウは、弓矢を構える彼に対抗する様に自身の退魔道具を取り出した。
「退魔道具、山削りの撃爪ッ!」
取り出した退魔道具は爪の付いた籠手であった。鈍色の籠手の手甲部分から鋭い爪が3本伸び、それを両手にそれぞれ装着している。両手に装着された籠手から伸びる爪を擦り合わせ、小さく火花を散らせるとルロウはその爪を地面に突き刺す様に構え腰を下ろした。
「行くぜ、ヒョロガリ……!」
「!」
瞬間、ソウテンは考えるよりも先に弓に番えた矢を放っていた。本能的にルロウの危険性を察したのだ。
その直感は正しかったらしく、放たれた音速の矢はルロウを射抜く事無く彼が居た場所を通り過ぎただけであった。あの一瞬で移動していたのである。
一瞬で視界から消えたルロウ。何処に行ったと視線を左右に彷徨わせたソウテンは、背筋にゾワリと悪寒を感じて咄嗟に弓を捨て横に転がる様にその場を離れた。直後何時の間にそこに居たのか背後に回り込んでいたルロウの振り下ろした爪が、ソウテンが手放し瞬間的に浮遊していた弓を弾き飛ばし地面を抉り衝撃で彼の前に3本の爪痕を刻み付けた。
衝撃だけで地面を抉る威力に、ソウテンが冷や汗を流す中それを行ったルロウは地面から爪を引き抜き土を払う様に腕を振った。
「へっ、よく避けたじゃねえか。だがまぐれは何度も続かないぜッ!」
「くっ!」
その後もルロウは素早く動き回り爪でソウテンを切り裂こうとしてきた。動きは荒々しいが狙いは正しく、ソウテンは何度も爪が鎧の表面を掠る感触に内心で冷や汗を流した。
「た、健君……!?」
冷や汗を流しているのはソウテンだけではなかった。勝負の行方を見届ける為傍から見ていた黄泉は、ソウテンの鎧が火花を散らす光景に不安を感じ祈る様に手を組んだ。確かに少し前までの健……ソウテンであれば苦戦どころかあっさりと敗北を喫していたかもしれない。修二の弟子と言うだけあって、ルロウは素早さと力強さを兼ね備えた若くして強い御伽装士だ。
だが、健だって負けてはいない。乾司ほど長い期間ではないが彼もまた修二に手ほどきを受け、そして彼の教えを糧に強くなった。
「退魔道具、白虎の具足ッ!」
穿空の弓矢を失ったソウテンは、落とした退魔道具には執着せず即座に次の退魔道具を取り出した。どの道素早く動き回るルロウを相手に、剣としても使えるとは言え弓では分が悪い。それと比べれば、ルロウに匹敵する速度で動けるようになる白虎の具足は有効な装備であると言えた。
足に装着する退魔道具、そしてソウテンが防御とパワーを犠牲にした外見の御伽装士であるという点から、ルロウはあの退魔道具の効果を速度を上げる者である事を見抜くと彼はソウテンの判断を浅はかと鼻で笑った。
(ケッ、馬鹿がッ! ちょっと速さが上がったからって、俺の動きに付いて来れると思ってんのかよッ!)
ルロウの速度は自前のものである。速度的にはソウテンの白虎の具足よりも僅かに素早い程度。だがそれだけの速度を出せながら、更にパワーにおいてはソウテンを上回る。素早さとパワーを両立したルロウは、防御とパワーに劣るソウテンが最も苦手としているタイプの存在だ。以前のままのソウテンであれば、一時的に速度に追従する事は出来てもパワーで圧倒されて負けていただろう。
しかし…………
「ふっ!」
「うぉっ!?」
ルロウが思っていた以上の速度で鋭い蹴りを放ってくるソウテン。咄嗟にそれを回避したルロウは、持ち前の素早さを生かしてソウテンの背後に回ると籠手の爪で切り裂こうと飛び掛かる。完全に死角になっている方向からの攻撃に、ルロウは勝利を確信するも次の瞬間振り下ろされた爪は吸い寄せられるように放たれたソウテンの回し蹴りにより弾かれてしまった。
「何ッ!?」
「ハァッ!」
「ごはぁっ!?」
渾身の一撃を弾かれ晒した隙をソウテンに突かれ、突き刺す様な蹴りがルロウの体をくの字に曲げさせ後ろに向け吹き飛ばされた。
「ぐあぁぁぁっ!?」
「ふぅぅぅ……」
「えっ? えっ?」
「ほほっ、やるのう」
ソウテンとルロウの戦いは、2人の体感ではそれなりの時間が経っているように感じられたが実際には数秒と経っていない。正しく一瞬の出来事であり、傍からその様子を見ていた黄泉からはルロウがソウテンに襲い掛かった次の瞬間には彼が吹き飛ばされている様にしか見えなかった。何があったかを正確に理解しているのは当事者2人と修二の3人だけであった。
「クソ、何だ今のはッ!」
「セイッ!」
「うぉっとッ!?」
思わぬ反撃に浮足立つルロウに、ソウテンが容赦なく追撃する。ギリギリでそれを回避するルロウだったが、その回避の動きを読んでいるかのようにソウテンは攻撃を命中させた。
「ハァァッ!」
「がふっ!? くっ、チクショウッ!」
気付けば攻守は入れ替わり、鋭い蹴りを連発するソウテンの攻撃を必死に防ぎ回避しようとするルロウと言う構図になっていた。
スペック的に劣っている筈のソウテンがルロウを圧倒出来ている秘訣は、修二に鍛えられある能力を研ぎ澄ませたことが切っ掛けだった。
その能力とは所謂”観の目”。端的に言えば相手の動きを見抜く力であり、武術においては重要な要素となる。健はソウテンの特性である風を感知する能力を研ぎ澄ませることで、相手の次の動きをいち早く察知して先を読むように動く事で攻撃を防いだり命中させたりしているのである。
修二はソウテンが風を力に変えられる御伽装士であると知った瞬間から、健には観の目をモノにする素養があると見抜いていた。どれだけ複雑な動き、力強い動きであろうとも、風を起こさずに動く事は出来ない。健のソウテンはその風の僅かな動きを感知し、そこから相手の次の動きを察知して先読みするような行動をしてみせたのだ。
それが修二により鍛えられ、秘められていた力を発揮した健のソウテンなのである。
「ハァァァァァァッ!」
「ぐはぁぁぁぁっ!?」
素早さで翻弄し、技巧を駆使してルロウをソウテンが圧倒する。ソウテンと同等かそれよりも僅かに素早く動けるはずのルロウは、彼の動きを捉える事が出来ず蹴り飛ばされて地面に叩き付けられた。変身前の見た目で侮った相手に一方的に蹴り飛ばされた事に、ルロウはプライドを刺激されたのか痛みに体が軋むのを感じながら起き上がると、苛立ちをぶつけるように地面を爪で引っ掻いた。
「クソがッ! ふざけやがって……!」
「まだやる?」
「ったりめえだッ! 舐めんじゃねえッ!」
「分かった……ならッ!」
ソウテンはルロウに降伏を促したが、これは決して相手を侮ったり馬鹿にした訳ではなく純粋にこれ以上御伽装士同士で戦いたくないからであった。これが純粋に互いに切磋琢磨する為の組手であるのであれば吝かではないが、今回の戦いは黄泉と言う1人の少女を巡る争いと言う意味合いが目的の大半となっている。組手なんて物は戦う為の理由付けでしかない。そんな戦いは本来ソウテンが忌避するタイプのものであった。
とは言え、相手の心意気を汲み取れない程ソウテンも傲慢ではない。どんな理由であれ相手が己のプライドを懸けて戦っているのであれば、それに全力で応えるのがせめてもの礼儀と言うもの。ソウテンもまた覚悟を決めると、ルロウのプライドを正面から受け止めるべく身構え全力の一撃を放とうとした。対するルロウもまた、残された力を振り絞り渾身の一撃を放つ。
「喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
ルロウが両手の爪に神通力を込めそれを振るい飛ぶ斬撃を放つ。迫る神通力の斬撃に対し、ソウテンも具足に神通力を込め蹴り飛ばす事で粉砕する。ソウテンの一撃に砕かれた斬撃は四散し彼の背後のあちこちに被害を齎し――――
「ッ!?」
「んっ?」
「えっ!」
不意に何を思ったのか、ソウテンは後方に大きく跳んで四散した斬撃を更に蹴って完全に砕いた。その斬撃は戦っている2人の近くにある木に直撃する寸前で、ソウテンが斬撃の欠片を蹴り砕いていなければ何の変哲もないその木を砕き倒していただろう事が予想出来る。
黄泉の目から見て、彼の行動はただ周囲への被害を少しでも減らす為のものに見えた。ソウテンは元々周囲への被害を気にして戦う方であり、今回もそれだと漠然と思っていた。が、それはあまりにも迂闊であり傍から見ると無用な行動であるように思えた。
その認識はルロウも同様に抱いており、彼は明らかな隙を晒したソウテンに嬉々として接近すると無防備な彼の背を爪で切り裂いた。
「何やってんだよッ!」
「うあぁぁぁぁぁっ!?」
「健君ッ!? 待ってッ!?」
一気に窮地に立たされたソウテンの姿に黄泉が悲鳴のような声を上げる。だがルロウは彼女の声には耳も傾けず、爪で切り裂かれて動きを止めたソウテンを何度も滅多切りにして動きを鈍らせていく。
元々ソウテンはパワーと防御には劣る方の御伽装士だ。故に彼の戦いには基本的に防御は無く、敵の攻撃は極力回避で対処しなければならない。一度でも攻撃を喰らい動きを止めてしまえば、待っているのは今黄泉の前で繰り広げられているような一方的な蹂躙であった。
「フンッ!」
「ぐ、あ……がはっ!?」
何度も爪で切り裂かれ、ボロボロになったソウテンをトドメとばかりにルロウが蹴り飛ばした。倒れたソウテンは自力で起き上がる事も出来ず、ルロウは倒れたソウテンを踏みつけると右手の爪を彼の顔のすぐ傍に突き立てた。
「うっ……!?」
「俺の勝ちだな」
「――ッ!?」
黄泉を懸けた漢と漢の戦い、安易に敗北など認めたくは無かった。だが隙を晒したのは自分の方だと言う事は理解しているし、この状況から打開するのは不可能に近い。何より黄泉を前に無様に足掻く姿を見せたくは無かった。
悔しくはあるが、負けを認めるしかないとソウテンは敗北感を堪えて変身を解いた。それを見てルロウも勝ち誇り、変身を解くとこれ見よがしに健の前でガッツポーズをとってみせた。
「っしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
人の居ない夜の公園に、悔しそうに俯く健の前で乾司が上げる勝鬨の声が響き渡る。
その光景に黄泉はショックを受けた様に目を見開いて口を手で押さえ、修二は伸びた眉毛の下から2人の様子を眺め腹から深く溜め息を吐くのであった。
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