仮面ライダービャクア外伝~仮面ライダーソウテン~ 作:黒井福
久し振りのソウテンの更新となります。そして今回、ソウテンの更新と言う体ではありますが、活躍するのは健や黄泉達ではありません。新たな御伽装士の活躍をどうかご覧ください。
気だるげな番犬
夜が明け、朝日が昇ると神奈川県の一画にある小さな町が明るい日の光で照らされ始めた。
その朝日が照らす家々の一つ。照明を消した部屋の中に、1人の少年の寝息が小さく響いた。カーテンからは朝日が差し込み、それが寝ている少年の顔を僅かに照らして少年はその光から逃れるように布団の中に潜り込む。
その少年の顔を覗き込む少女が居た。扉をそっと、音を極力立てないように開けて入った少女は、薄暗い中カーテンの隙間から差し込む朝日の光だけを頼りに少年が寝ている布団に近付き、まだ少年が夢の中に居るのを確認した少女は口元に笑みを浮かべると両手に持っていたフライパンとお玉を取り出した。
そして…………
「おっはよーっ!」
その二つを打楽器か何かの様に勢い良く叩きつければ、室内に甲高い金属音が響き渡る。威勢の良い少女の声と、響き渡る金属音のダブルパンチを前に流石に目も覚めたのか、少年が呻き声を上げながら布団から顔を出し薄暗がりの中に浮かぶ少女の顔を見上げた。
「
「なかなか起きてこない
少年・
それとも実は自分は異性として意識されていないのだろうかと不安を感じつつ、英樹は布団をどかして起き上がると一つ大きな欠伸をしてから犬を追い払うように明菜を部屋から追い出した。
「分かった、起きる。起きるからさっさと出ていけ」
英樹が手をシッシと振ると、明菜はお玉とフライパンを持った手を腰に当てて豊かな胸を張り満足そうに頷いた。
「うんうん、それでよし! 朝ごはんで来てるから早く来てね!」
「分かった分かった。分かったから早く行けよ…………はぁ」
やっと明菜が部屋から出ていくと、英樹は今一度大きく溜め息をついた。幾ら幼馴染とは言え距離感がバグっている。それに振り回されるのも疲れるのだが、しかし同時にそんな彼女の姿に安心感を感じているのも事実であった。
今日も朝から彼女が元気な事に…………
「ん……」
英樹は着替える傍ら、ふと部屋の片隅に置かれた写真立てに目を向ける。3人家族が写った写真だ。背が高い2人の男女と、
朝食を終えると、明菜は一旦家から出てすぐ隣の家へと入っていった。そして数分と掛らずに出てくると、手に学生鞄を持ち同じタイミングで着崩した制服と同じ鞄を持った英樹と合流し共に学校へと向かって歩き出す。
朝方英樹の部屋に侵入した時と違い、明菜は明るい茶髪を右側頭部でサイドポニーにして揺らしている。顔にもほんの少し化粧をし、靴下はルーズに着こなすなど典型的なギャルと言った見た目である。見るからに快活なその姿は自然と人を惹き寄せ、特に通学路に入ると同じ方向に向かう学友達が彼女に声を掛けた。
「おはよー、明菜!」
「おはよー!」
「明菜~、今日も彼氏同伴? いいな~、うらやまし~!」
「へへ~、いいっしょ?」
朝から英樹と並んで登校する彼女に、女子の何人かが冷やかす様に声をかける。明菜はそれに対し恥ずかしがるどころか、寧ろ誇る様に豊かな胸を張り彼の肩に頭を乗せた。片方の肩に感じる明菜の頭の重さに、英樹は一度視線を向けるも振り払う事無く逆にずり落ちたりしないよう歩幅を調整した。
そんな彼女の隣を歩く英樹は、スポーツ刈りにしたこげ茶色の髪の下で三白眼を絶えず周囲に向けている。女子から注目を集める明菜は当然男子からも注目の的となるのであるが、威嚇するようなその視線もあってか明菜に近付こうとする男の姿は皆無であった。
英樹がそんな目を周囲に向けている事は明菜も理解していたので、時折隣を歩く彼の顔を見ては苦笑をせずにはいられない。
「も~、またそんな顔して」
「あ?」
「折角男前なのに、いっつもそんな眉間に皺寄せてたら台無しだよ?」
明菜は英樹の真似をしてか、眉を八の字に曲げて眉間に皺を寄せる。これ見よがしに自分の真似をしてくる彼女に、英樹は口元までへの字に曲がった。
「余計なお世話だ」
「ま、あーしはそんな英樹も好きだけどね!」
そう言って明菜が英樹の腕に抱き着けば、柔らかい乳房の感触が彼の腕に伝わる。発育が良い方の明菜の胸の感触に一瞬英樹の体が強張るが、直ぐに平静を取り戻し動揺を悟られる事無く歩き続けた。一見すると不良の様で、ツンケンしている様に見えても自分の事を突き放したりはしない。そんな2人の姿に女子は黄色い声を上げ更に冷やかし、逆に男子は英樹に対し怨嗟に似た視線を向けるのであった。
登校し、授業が始まってから早数時間。昼食に明菜手製の弁当で腹を満たし、教室の自分の席で食後の静かな時間を英樹は1人で過ごしていた。明菜は現在女友達との雑談に夢中になっており、英樹の傍にはいない。それでも同じ教室の中なので、英樹は時折伺うような視線を彼女に向けていた。
そんな彼に、1人の男子が近付いていった。
「よっす」
「ん……」
声を掛けたのは首の辺りまで金髪を伸ばした、キツネを思わせる細目の男子生徒だった。ソバカスのある顔に楽し気な笑みを浮かべた少年に対し、英樹はため息交じりに応答した。
「……んだよ
「ツレションのお誘い。どう?」
「……ふぅ」
少年・
「ん? 英樹どこ行くの?」
「ごめんね~、明菜ちゃん。英樹ちょっと貸りるよ」
「ただの便所だ、気にすんな」
気さくに答える晴司に対し、英樹は彼女の方を見もせず気だるげに答えた。
そうして2人が向かっていったのは、教室から少し離れた所にあるトイレ……ではなく、この時間帯は使用する者も少ない体育館近くのトイレであった。耳を澄ませば校庭や体育館で騒ぐ生徒の声が聞こえる中、2人は並んで小便器の前に立ち静かに用を足している。
と、ここで晴司が思い出したように口を開いた。
「ところでさ……物部党って連中の事、知ってる?」
「あ? んだそれ?」
出し抜けに晴司が切り出した話題。それは本来、普通の高校生では絶対に知る事のない情報であった。それもその筈で、この2人はただの高校生ではないのである。
ごく普通の高校生と言うのは表の世界で生きていくための仮初の姿。その正体は、世闇に紛れて人々を襲う化神と呼ばれる怪物から世の安寧を守る守護者と言える存在、御守衆と呼ばれる集団の一員なのである。
周囲に自分達以外誰も居ないこの状況を利用して、2人は御守衆として必要な情報交換を行っていた。何しろ御守衆に関する事は一般には秘匿しなければならない情報であるが故、大っぴらに話す事は出来ない。明菜にすら、英樹は自分の所属を伝える事はしていなかった。
「えっとね、前に物部天厳って奴が猿羅の怨面を強奪したって事件があったんだけど、要はそいつに同調して化神を信奉する連中の事なんだよね」
「うん」
「何でも、仙台なんかでもそんな感じの思想を持つ奴が騒ぎを起こしたみたいだし、これからはそう言うやつが増えていくかもしれないんだって」
「へ~」
「で、今御守衆はちょっと色々警戒してるらしいよ」
「ふぅん」
晴司が次々に自分が知る物部党なる連中に関する情報を口にしていくと、英樹はそれに随時相槌を返す。だがその声はとても真剣に聞いている者のそれではなくて、話が右から左に通り抜けているとしか思えないものであった。
案の定、晴司の話が一通り終わると、英樹は一言短く言葉を口にした。
「……興味な」
「言うと思った。でも英樹は少し気にしといた方が良いかもね」
「あ?」
予想通りの答えが聞けたからか、晴司はケラケラと笑う。だがすぐにその笑いを引っ込めると、彼は少し真剣な様子で言葉を続けた。
「さっきも言ったけど、物部党は化神を信奉するような連中だ。そんな連中からすれば、明菜ちゃんはこの上なく魅力的な存在に映ると思うよ?」
どう言う事かと言えば、実は本人も自覚していない事であるが明菜は強い霊力の持ち主なのである。それでいて彼女は御守衆や化神などとは無縁な、ただの力の無い小娘でしかない。それはつまり悪意を持つ者からすればこの上なく扱いやすい存在と言う事になる。生贄にするもよし、洗脳して手駒にするもよしと利用価値の高い存在なのだ。
晴司から彼女への評価を聞いた瞬間、トイレの中の空気が冷えた。洗面台で手を洗っていた英樹の動きは止まり、コメカミには血管が僅かに浮かんでいる。分かりやすい反応を見せる英樹に、晴司は手の掛る子供を見守る親の様な視線を向け小さく溜め息をついた。
「だから、まぁ、面倒だろうけれど危険の芽は1つずつ確実に潰す様にした方が賢明かもね」
「前置きが長いんだよ。仕事はなんだ?」
英樹が敵でもないのに射殺す様な視線を晴司に向けている。常人であれば普通に肝を冷やしそうな視線を受けても、彼は柳に風と言うように涼しい顔を崩さずスマホを取り出し操作して地図を表示しそれを見せながら説明を始めた。
「ここ、古い神社があるんだけど、長年放置されたからか荒れ放題でさ。そこに最近化神が住み着きそうな気配があるんだよね。それの討伐が今回のお仕事。今日の帰りにでもどう?」
晴司からのその誘い。それに対する英樹の返答は、小さく鼻を鳴らすだけであった。
***
放課後、明菜を待たず1人先に下校した英樹は、途中で晴司と合流するとその足で街の外れにある古い神社へと向かった。日が沈むころにやっと石段の下へと到着すると、2人は周囲を木々に覆われ下草で半分隠れた石段を見上げる。
「何だよ、予想以上じゃねえか」
「こりゃ酷い荒れようだ。これじゃあ化神でなくても、何か良くないものが棲み付いてたかもね」
「とっとと終わらすぞ」
管理する者が居なくなった廃神社の荒れ様は凄まじく、石段を一段上る度に周囲の草が2人の足でかき分けられガサガサと揺れる。自分で音を立てている筈なのに、その音が何とも不気味で何時何が出てくるのかと身構えてしまいそうになるほどだった。
とは言え、怪異の類に対しては耐性のある2人は特に委縮する事無く石段を上っていく。そしてあと少しで神社の境内が見えるかという所になって、晴司は足を止めると懐から2枚の御札を取り出し片方を英樹に手渡した。
「はいこれ、気配消しの術仕込んである奴」
「ん」
受け取った御札を英樹は制服の胸ポケットに突っ込んだ。同じく制服のポケットに御札を晴司が入れると、2人の気配が途端に希薄になる。何が変わったという訳ではないのだが、もしこの場に第三者が居た場合2人の姿を一瞬見失ってしまっただろう。
その状態で2人はそっと石段を更に上り、最上段の縁から境内を覗き込んだ。予想通り荒れ放題で境内の敷地だけでなく社も壁や屋根が穴だらけとなっているのが見て取れた。
その境内の一画に、明らかな異形の姿があった。一見すると熊か何かの様に見えるが、熊にしては手足が細長く、口元は吻部が前方に伸びてその縁から牙が歪に並んでいる。腰の後ろからはしなやかな尾が長く伸び、時折吹く風に逆らってユラユラと揺れ動いていた。
そしてその異形は、蹲り何かを一心不乱に貪っている様である。ブチブチと肉が引き千切れる音と、骨を噛み砕く音がボリボリと響いている。2人が息を引締めながら目を凝らして見てみると、それはこの近くで狩ったのだろう野生の猪の様だ。
暫く動物の血肉を貪る異形の姿を眺めた2人は、一旦顔を引っ込めると簡単に作戦会議を始めた。
「ありゃバケトカゲの類だね。最近生まれたのかな?」
「何時生まれたかは関係ねえ。何時も通りだ、さっさと終わらせる」
「手助けは必要?」
「あの程度なら必要ねえ。ただ、逃げられたりしねえように結界だけは頼む」
「了解」
簡単に話を纏めると、英樹はズボンのポケットから犬の顔の様な形のキーホルダーサイズのお面の様なものを取り出した。そしてそれを右手の親指と人差し指で挟んで持ち上げ立ち上がり、口元に持っていくと小さく呪文を唱え始める。
「オン・ベルダ・ヤム・カルマ……」
英樹が呪文を唱えると、それに合わせてキーホルダーサイズのお面が見る見る内に大きくなっていき、彼の顔を覆い隠せるほどのサイズのお面となった。何処か神々しく、同時に禍々しく感じられるそのお面……怨面を、英樹は躊躇せず顔に被せた。
「裁け、
怨面を被るとそれを中心に英樹の体全体に燃え盛る炎の様な紋様が浮かび上がる。正に身を焼く様な感覚が英樹を襲うが、彼はそれを振り払うように気合の声を上げた。
「ぐ、うぅぅ……! ガァッ!」
『ッ!?』
晴司に持たされていた気配消しの御札の効果も、変身した際に英樹から放たれた威圧感と気合の声を完全に抑える事は叶わなかった。彼が声を張り上げると同時に、その存在に気付いたバケトカゲが口元を獲物の血肉で赤く汚しながら振り返る。
そこに居たのは、犬の顔の様な仮面を装着した戦士であった。燃え盛る炎の様な深紅のボディースーツの上に、鋼鉄の様な鈍い光を放つ群青色の鎧を身に纏っている。両手には拳をガードする為のナックルガード身に着け、後頭部からは犬の尻尾の様な毛が一房垂れている。
その姿を見てバケトカゲは慄くように言葉を発した。
『御伽……装士……!』
一気に警戒してくるバケトカゲを前に、対する変身した英樹は面倒くさそうに後頭部を掻きながら隣に並んだ晴司と互いに会釈し合った。
「んじゃ、よろしく」
「はい、よろしく~」
まるでやっつけ仕事にでも行くかの様な覇気の感じられない挨拶。だがそれに反して、英樹が変身した戦士から放たれる威圧感はバケトカゲを射抜き後退りさせるほどであった。
『まさか、もう御伽装士が来るとは……くっ!』
まだ生まれたばかりという晴司の評価は正しく、バケトカゲはまだ自分がそこまで強くはないという事を自覚していた。故にこの場はさっさと逃げて、力を蓄えてから改めて相対しようと2人に背を向ける。
だが境内から飛び出そうとしたバケトカゲは、見えない壁にぶつかった様に何もない空間に弾き返されひっくり返ってしまった。
『ぐぁっ!? な、何だ……?』
「気を付けて。これ即席だからあんまり長続きはしないよ。持って1分掛るかどうかって感じ」
「それくらい持てば十分だ」
晴司が張った結界により、バケトカゲは境内の中に閉じ込められた。逃げられないと悟ると、バケトカゲは腹を括り英樹と戦うべく爪と牙を剥き出しにして身構える。それに対して英樹が変身した戦士は無手の状態で対峙した。
『テメェ……舐めてんのか御伽装士ッ!』
「あ? 別に舐めてねえよ。お前程度の奴なら俺……この御伽装士サンズにとっちゃ大した相手じゃねえって話だ。掛かって来な」
『ふざけるなぁぁぁぁっ!!』
完全に舐め切っているとしか思えないサンズの物言いに、激昂したバケトカゲが一気に飛び掛かっていく。鋭い爪は先程仕留めた猪の血で赤黒く汚れ、こびり付いた血を跳ね飛ばしながら振り下ろされる。サンズはそれを避けようともしなかった。
『死ねぇぇぇぇぇッ!』
並の動物であれば容易く膾切りに出来るほどの膂力で振り下ろされた鋭い爪。サンズは見た所特別防御が堅そうには見えない。鎧はあるが、全身を完全に覆っている訳ではなく両手が特に堅固に見えるだけでそれ以外は普通だ。ならば切り裂くのは難しい事ではないと、バケトカゲが渾身の力を込めて爪を振り下ろす。
迫る鋭い爪に対し、サンズはそれに合わせるように腕を上げた。握り締められた拳を包むナックルガードが、バケトカゲの爪とぶつかり合った。
すると次の瞬間、ガキンと硬い音と共にバケトカゲの爪が弾き返された。
『うぉっ!?』
予想以上のサンズのナックルガードの硬さにバケトカゲが面食らっていると、彼は爪を弾いた拳をそのまま相手に叩き込んだ。
「ヌンッ!」
『ごはぁっ!?』
攻撃を弾き返されたばかりで体勢を崩しているバケトカゲにこれを回避する余裕はなく、反撃に放たれた鋭い拳が撃ち抜くような勢いでバケトカゲの腹に叩き込まれる。するとバケトカゲの体がくの字に曲がり、殴られた勢いで2メートルほど吹き飛ばされた。
そうして境内の割れた石畳に叩きつけられたバケトカゲであったが、サンズの攻撃はそこで終わる事無く、殴り飛ばされたバケトカゲに追いつくと倒れた相手の襟首の辺りを掴んで持ち上げ何度も拳を叩きつけた。
『うがっ!? あが、ぐ、うぐぅっ!?』
ナックルガードに守られた拳の一撃は槌で殴られたようにバケトカゲの顔の鱗を砕き、2~3発殴ったかと思うと馬乗りになって両の拳を使い眼下の化神の顔面をタコ殴りにした。当然バケトカゲも抗おうとするが、振り上げた手は爪を拳で砕かれ腕で防ぐも腕の骨がバキリと音を立てて砕けた。あまりにも一方的に殴り続けられ、遂には抵抗も小さくなっていく。
『う、うぅ……も、もう止め……た、頼む……』
完全に抵抗する意思を折られたバケトカゲは、化神としてのプライドも何もかもをかなぐり捨てて情けなく懇願した。いっそ哀れに思える有様であったが、サンズはそんな相手にも一切の容赦をしなかった。まるで親の仇とでも言うようにバケトカゲの首を掴んで持ち上げると、追加で2発殴ってバケトカゲの牙を圧し折り殴り倒した。
『ぐはぁぁぁっ!?』
「はぁ……ふぅ……」
何発も相手に拳を叩き込んだサンズも流石に疲労を感じたのか、肩で息をしていたがその目には衰える事のない闘志が宿り続けている。その視線と顔を何度も殴られズタボロにされた事で委縮したバケトカゲは手足を動かして何とかその場から逃れようとするが、ダメージが予想以上に大きかったのかそれとも恐怖によるものなのか手足が満足に動かず藻掻く事しか出来ない。
そんなバケトカゲにトドメを刺すべく、サンズはただでさえ強固なナックルガードで固められた両手に更なる装備を追加する。
「退魔道具……煉獄の
サンズの両腕に装着されたのは燃え盛る炎がそのまま固まったような形状の籠手。拳全体を覆うそれが装着されると、彼は構えを取り右腕に力を込めた。握り締めた右拳に神通力が集束していき、拳だけでは収まる事無く右腕全体が一回り大きくなったように見える。
「はぁぁぁぁ…………!」
その様子と膨れ上がった威圧感に完全に気圧されたバケトカゲは、命の危機を感じて悲鳴を上げる。
『ヒ、ヒィィィッ!?』
悲鳴を上げながら逃げようとするバケトカゲに対し、限界まで力を溜めて放たれる一撃をお見舞いした。
「退魔覆滅技法……
技を放つ瞬間、サンズの拳が地獄の業火もかくやと言う炎で覆われた。大気を焼くほどの熱を放つ炎を拳に宿し、一気にバケトカゲに接近するとその胸板を燃え盛る拳で一撃で打ち抜いた。銃弾をも防ぐだろう鱗で覆われた胸板も、灼熱の炎を宿した拳を前には意味を持たず容易く打ち抜かれ、胸に風穴を開けられたバケトカゲは断末魔の叫びをあげて爆散してしまった。
『あがっ!? あ、ぎ、があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
バケトカゲが爆散すると束の間サンズの姿が炎に包まれ見えなくなる。晴司が鳥居からその様子を静かに見守っていると、未だ燃え盛る炎の中からゆらりとサンズが歩き出てきてきた。炎を背に歩くサンズの姿は煌々と輝く赤い複眼も相まってまるで地獄からやってきたような恐ろしい印象を受けるが、当の本人は体の付いた煤や埃を手で払うと変身を解除した。それを見て晴司も彼に近付くと労うように肩を軽く叩いた。
「お疲れ~」
「あぁ、お疲れ」
晴司からの言葉に英樹も気だるげに返すと、一際大きなため息をつき肩と首を回して筋肉を解す動きをする。戦いを終え疲れを解す英樹の姿を一頻り眺めていた晴司は、今一度境内に目を向けた。先程は化神が爆発した際に発生した炎で明るく照らされていた境内であったが、火種である化神がすぐに燃え尽きれば火の勢いも直ぐに衰え今は小さい炎が燻る程度となっていた。晴司はその中で一際大きな火種を踏み潰し、足裏で擦って完全に消すとこれで仕事は終わった事を告げる。
「これでもう大丈夫だね」
「じゃあ俺はもう帰るぞ」
状況が終了したのを確認した英樹は一刻も早く帰りたいと言わんばかりに踵を返す。晴司もそれを引き留める事はせず、石段を下りていく英樹の後に続き廃神社から去って行った。
「忙しいねぇ。明菜ちゃんがそんなに心配?」
「うるせえ」
「ごめんごめん。ま、あんまり遅くなると明菜ちゃんも心配するだろうし、早く帰ってあげなよ」
「言われなくても分かってる。じゃあな、今日も助かった」
「お互い様だよ。それじゃ、また明日」
「あぁ」
途中まで一緒に歩いた2人は、それぞれ挨拶を交わすと自宅に向け別れて歩き始める。日が沈んで街灯が照らす道を静かに歩いていく。先程までは話し相手である晴司が居たが、1人になると歩く以外できなくなり道路を踏みしめる音だけが周囲に響く。
その内見慣れた家々が見えてくる。自然と英樹の表情も少し柔らかくなったが、見慣れた家屋が見えたと同時にその玄関先に人影が見えると途端に視線が鋭くなった。こんな時間に訊ねてくるなど、普通の人間とは思えない。
だが近付くにつれてその人影が誰であるかが分かってきて、英樹は腹の底から小さな呻き声を上げた。
「あ、おかえり~!」
困った様に呻く英樹の様子に気付いているのか居ないのか、玄関先で待っていた人影……明菜は彼の内心も関係なく花が咲いたような笑顔を浮かべて手を振りながら近付いてきた。こんな時間に態々玄関先で待ち受ける、彼女の行動に英樹は怒りを押し殺すように大きく溜め息をつきながら睨み付けた。
「お前、こんな時間に何やってんだよ」
「何って、なかなか帰ってこない英樹の事待ってたんじゃん」
「今何時か分かってんのか? 変な奴に絡まれたりしたらどうするんだ」
英樹の脳裏には日中に晴司と話した物部党なる連中の事が思い出されていた。連中であれば明菜を狙ってもおかしくないという話と、そうでなくても夜は化神が活発に活動する時間である事を考えると明菜の行動はあまりにも危険すぎた。家族は一体何をやっているのかと隣家を睨みつけていると、人の気も知らず明菜がくすくすと笑い始めたのに気付く。それに気付いた英樹は、怪訝そうな顔になり彼女の方に目を向けた。
「何笑ってんだ?」
「フフフッ! だって、英樹あーしの事心配してくれてるんでしょ? だからそんな風に怒ってるんだ」
「ん、ぐ……」
そりゃ彼女の事が心配だ。心配だからこそ危険な事をしている彼女に怒りもするのだ。尤も、その危険の内容を何も知らない彼女に話す訳にはいかない為、英樹は言葉を詰まらせるしか出来なかったが。
言葉に詰まる彼の姿に、事実を指摘されたからだと考えた明菜は嬉しそうに笑みを浮かべながら彼の手を引き家の中に引き入れた。
「さ、早く入って。今夜はママと一緒に餃子作ったんだ。いい出来になったから、英樹も気に入ると思うよ」
「分かった……分かったからそんな手を引っ張るな」
子供の様に手を引く明菜に対し、英樹は面倒くさそうにしながらも満更ではない様子で家へと入っていく。
飛び跳ねる様な勢いで英樹を家に引き入れ、英樹は鍵を取り出して扉を開け家に入っていく。今朝も英樹が寝起きしていた家の中へ…………
その家の表札には、住んでいる家族の名字が刻まれている。表札に刻まれている名字は…………『楠』であった。
『山田』英樹が、『楠』家に帰っていき、隣の『山田』家から手料理を持ってきた『楠』明菜が遊びに来る。そんな歪な光景であるにも拘らず、当の本人達は何の違和感も感じていないようにこの日の夜を過ごしていくのであった。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
新たに登場した御伽装士サンズこと山田秀樹。一見すると不良の様な男ですが、彼は彼で色々と抱えている物があります。言うまでも無くそれは明菜関係なのですが、どのような物を抱えているのかは次回以降明らかにしていく予定です。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。