仮面ライダービャクア外伝~仮面ライダーソウテン~   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回はちょっと執筆が難航したので何時もより投稿が遅くなりました。
ラストにはちょっとしたサプライズも……


第7話:迷う者、違える者、諭す者

 目の前で健がソウテンに変身した瞬間、ゲツエイは思考が停止してしまった。まさか度々相対してきた御守衆の御伽装士の正体が、彼だとは思わなかったのである。

 

「嘘……健君が、ソウテンだったの――!?」

 

 ゲツエイの驚愕に、ソウテンは心が苦しくなるのを感じた。本当の事を言わなかっただけとは言え、彼女を騙していたような気になってしまったのだ。

 とは言え彼の方だって、ゲツエイの正体が黄泉である事は知らなかったのだから御相子と言えば御相子である。しかし彼も彼女も、この事態をそんな簡単に割り切る事は出来なかった。

 

『フンッ! 空色の御伽装士も現れたか。相手にとって不足無し、纏めて相手してやる!!』

 

 しかしバケニュウドウにとって、2人の驚愕など知った事ではないのか槍を構え直すと躍りかかっていった。振り回す槍の圧で風が巻き起こり、その迫力に2人は互いを意識する間もなくバケニュウドウへの迎撃に臨んだ。

 

「くっ!?」

 

 ソウテンは穿空の弓矢を取り出すと、バケニュウドウの槍を下を潜る様にして回避し、隙を晒したバケニュウドウの背中に向けて矢を射る。しかし背後から迫る矢を、バケニュウドウは振り回した槍の風圧で吹き飛ばして防いでしまった。力技だが有効な手段に、ソウテンは思わず歯噛みする。

 

 だがソウテンの方に意識を持っていかれた為にゲツエイへの注意が逸れてしまった。それを見逃さず、ゲツエイは大太刀を手にバケニュウドウに斬りかかった。

 

「ハァァッ!」

『甘い!』

 

 だがゲツエイの動きは読まれていた。バケニュウドウは振り返ることなく、ゲツエイの進行ルート上に槍の石突きを置いた。その結果、ゲツエイは自分からバケニュウドウが突き出した槍の石突きに突っ込んでいく形となり、穂先ほどではないが鋭い石突きがゲツエイの鳩尾に突き刺さった。

 

「おぐぇっ?!」

 

 自分の突撃の威力をそのまま自分で受け、ゲツエイは背後に吹き飛ばされる。特にゲツエイは胴体の装甲が皆無なので、この手の攻撃が特によく効くのだ。

 鳩尾への大きなダメージに、ゲツエイは吹き飛ばされその場に倒れる。

 

「げほっ!? うげ、ぇぇ……」

「黄泉さん!? このぉ!」

 

 ゲツエイが倒れたのを見て、ソウテンは激昂し白虎の具足を装備し高速でバケニュウドウに接近した。バケニュウドウは見た限りパワーファイター、高速での戦闘には対応が難しい筈だ。

 

『ぬぅっ!? 小癪な!!』

 

 案の定バケニュウドウは目で追うのがやっとと言った感じだ。一応目で追いながら槍で攻撃を繰り出すのだが、白虎の具足を装備したソウテンを捉える事は出来ない。時々掠ったりはするが、バケニュウドウの攻撃は全て紙一重で回避される。

 

 ソウテンはそのままバケニュウドウの周囲を素早く動き回り、翻弄して隙を作らせる。

 

 そして遂にバケニュウドウが大きな隙を作った。ソウテンを狙って放った突きが外れて地面に突き刺さった。

 

「貰った!」

 

 バケニュウドウに槍を引き抜く余裕は与えない。地面に突き刺さった槍を引き抜こうとした瞬間に、ソウテンはバケニュウドウの顔面に飛び蹴りを放った。目が一つだけのバケニュウドウの顔面に、ソウテンの足が炸裂する。

 

『ごぁっ!?』

「まだまだぁっ!」

 

 立て続けにソウテンはバケニュウドウの顔面に蹴りを叩き込む。力自体は確かに弱いソウテンだが、鍛えようのない顔面を何度も蹴り飛ばされればバケニュウドウとて堪ったものではない。

 見る見るうちにバケニュウドウの顔がボロボロになっていく。

 

 このまま行けば倒せるのでは? ソウテンがそんな希望を抱き始めたその時、バケニュウドウがソウテンの足を掴んで受け止めた。

 

「なっ!?」

『調子に乗るなよ、小僧がッ!!』

 

 バケニュウドウは掴んだソウテンの足を振り上げて地面に叩き付ける。叩き付けられる直前までソウテンは自由な方の足でバケニュウドウの手を蹴って抵抗していたが、ただでさえ力が弱いのに踏ん張りの効かない状態では大したダメージを与える事も出来ずそのまま地面に叩き付けられた。

 

「がはぁぁっ?!」

『まだまだぁっ!!』

 

 一度地面に叩き付けられただけで全身がバラバラになったかと錯覚するほどのダメージを受けたソウテンだったが、バケニュウドウは容赦しない。その後も何度も振り上げては地面に叩き付けるを繰り返した。

 

「ぐあっ!? がっ!? あぐっ!?」

『貴様如き! 非力な御伽装士が! この程度でこのバケニュウドウをどうにか出来ると――』

 

 感情に任せて何度も地面にソウテンを叩き付けた所為で地面はコンクリートが粉々に砕かれる。

 

 トドメとバケニュウドウが一際大きくソウテンを振りかぶって地面に振り下ろした、その瞬間ゲツエイが大太刀でバケニュウドウの腕を切り落とした。

 

「させるかぁ!!」

『ガァァァァァッ?!』

 

 激昂してソウテンにばかり意識を向けていたのが悪かった。その隙にゲツエイは体力を回復させ、取り落とした草薙の大太刀を回収しバケニュウドウの腕を切り落としたのだ。

 

『こ、のぉ! 小娘がぁ!?』

「健君!」

「うん!」

 

 ゲツエイが隙を作ってくれた。この間にソウテンは痛む体に鞭打って体勢を整えると、先程落とした穿空の弓矢を回収し矢を番えて弦を引き絞る。

 狙うは一点、的とするのに十分な大きさのバケニュウドウの頭部の眼球だ。

 

 バケニュウドウは片腕を切り落とされた痛みに震え、ソウテンの動きにまで意識が向いていない。

 

 その間にソウテンは狙いを定め、バケニュウドウが動きを止めた僅かな瞬間を捉え矢を放った。

 

『ぐぅ……はっ!?』

「――――遅い」

 

 バケニュウドウが気付いた時には矢は眼前に迫っており、回避も防御も不可能な状態だった。ソウテンが呟いた通り、もう遅い。

 

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ?!』

 

 眼球に矢が突き刺さり、視界を潰されると同時に激しい痛みを感じバケニュウドウがその場にのたうち回った。もうバケニュウドウは満足に戦う事も出来ないだろう。

 

 仕留めるなら今が好機!

 

「退魔覆滅法、碧空疾風脚!!」

 

 ソウテンが構えを取り、マフラーを靡かせながら飛び上がりバケニュウドウに向け飛び蹴りを放つ。

 

 それと同時に、ゲツエイもまた同様にバケニュウドウに必殺の蹴りを放っていた。

 

「退魔覆滅法、偃月劫火撃!!」

 

「「ハァァァァァァァッ!!」」

『おのぉぉぉぉぉれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!』

 

 風を足に纏ったソウテンと、炎を足に纏ったゲツエイが同時にバケニュウドウに跳び蹴りを放つ。視界を潰されたバケニュウドウにこれをどうにかする事は出来ず、2人の必殺技を喰らい断末魔の叫びを上げて爆発四散した。

 

「はぁ……はぁ……」

「ふぅ……ふぅ……」

 

 バケニュウドウを倒し脅威を取り除いたソウテンとゲツエイは、暫し互いに背を向け合っていた。本当は直ぐにでも振り返り、聞きたい事が山ほどあった。

 だが何を、どう聞けばいいのか? それが分からず、ソウテンは後ろを振り返る事が出来なかった。

 

「――――嘘をついてたの?」

「ッ!?」

 

 先に口を開いたのはゲツエイの方だった。微かに震える声で問い掛けてきたゲツエイに、ソウテンが振り返るとそこでは彼女が既に彼の方を見ていて仮面越しに分かるほど困惑と恨めしさを感じる視線を向けているのが分かった。

 

「ち、違う! いや……違わない、のかな? 君に黙っていた事は事実だし……。でも、僕も君がゲツエイだなんて知らなかったんだ。それは本当だよ!」

「ッ!…………そう」

 

 確かにソウテン――健は真実を伝えなかった。だがそれはゲツエイ――黄泉の方も同様だった。お互いに相手に自分が御伽装士である事を伝えず、言ってしまえば互いに騙し合っている状態だった。御相子である。

 

 再び重苦しい沈黙が2人の間に漂う中、今度はソウテンの方が口を開いた。

 

「何で……黄泉さんは、御伽装士をやってるの? 御守衆に入らず……」

 

 ソウテンからすれば、御伽装士は御守衆が管理している戦士と言う認識だ。故に、逸れの御伽装士と言うのが今一ピンと来なかった。それは今もだ。彼は何故、黄泉が御守衆に属さずに御伽装士をやっているのかが理解できなかった。

 

 その問い掛けに、ゲツエイは視界が赤くなったような気がした。

 

「何で? 何でって言うの? そんなの、化神が許せないからに決まってるじゃない!?」

「よ、黄泉さん?」

 

 激昂するゲツエイにソウテンは思わず後退るが、ゲツエイはそんな彼に詰め寄る様に言葉を続けた。

 

「私の家族はね、皆化神に殺されたのよ! おまけに生き残った私も、その場に居た人間にこんな目を無理矢理植え付けられて!?」

「に、人間? 人間が、どうして化神と一緒に!?」

「知らないわよそんなの!? これのおかげで、私はもう普通に生活する事が出来ない! 正真正銘、一人ぼっちで生きて行くしか出来なかったのよ。それなのに、御伽装士は来てくれなかった!? 私を助けてくれたのは、この左目の所為で自我が薄れてた時に偶然出会った師匠だった!」

 

 初めて紫と出会った時の黄泉は酷い有様だった。衣服はボロボロで行動も殆ど獣同然。紫が呪術で左目の化神を押さえてくれなければ、黄泉の自我は完全に崩壊していた。

 

 そして自分を取り戻し、改めて紫から化神の事を聞かされた時同時に知ったのが、化神と戦う御伽装士と彼らの所属する御守衆と言う組織であった。

 その存在を知らされた時、彼女が真っ先に抱いたのは怒りである。

 

「何で? 御守衆って、化神から人を助けてくれる組織なんじゃないの? それなのにどうして私の家族は助けてくれなかったの!? どうして私はこんな目に遭わなきゃいけないのよ!? 私こんな目に遭わなきゃならないほど、悪い事何かした!?」

「そ、それは……それ、は…………」

 

 ソウテンには何も言えなかった。彼は、彼女の事を知らな過ぎたのだ。出会ってまだ数日、その中で彼は想うだけで彼女の事を知ろうとしなかった。

 その事実は彼の心に罪となって重く積み重なっていく。

 

 気付けば2人は互いに変身を解いていた。再び素顔で対面する2人だったが、互いの顔を見る2人の顔には先程までの笑み等欠片も存在しない。

 健は顔を青くして目を泳がせ、黄泉は両目から涙を流している。

 

 健が何も言わない事に、黄泉は顔を俯かせて彼に背を向け立ち去ろうとした。

 

「あ……よ、黄泉さん、待って――!?」

 

 立ち去ろうとする黄泉の背に、健は掠れた声で呼び止め手を伸ばした。しかし彼の手は黄泉を掴む事無く、伸ばした手は空を掴むだけにとどまった。

 それだけでなく、勢い余ってバランスを崩して健はその場に転んでしまった。

 

「うぁっ!?」

 

 転んで倒れた健に、黄泉が先程と打って変わって弱々しく問い掛けた。

 

「どうして…………助けてくれなかったの?」

「ッ!?!?」

 

 黄泉からの問いに健は呼吸も忘れ、固まって彼女の事を見ることしか出来ない。

 

「…………さよなら」

 

 それだけを告げて、黄泉は今度こそ健の前から姿を消した。健には最早、彼女の後を追うだけの気力は残されていなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌日、健は何時も通り学校に顔を出していた。表面上は、いつもと変わらぬ様子を少なくとも本人は貫けていると思っていた。

 

 だが彼を知る友人達は、週末を挟む前後で健の雰囲気が変わっている事に気付いていた。何時もに比べて、今の健には見るからに覇気がない。まるで抜け殻の様に、ただ存在しているだけと言った様子だ。

 

 その姿を、健の友人である3人娘が遠目に見ていた。

 

「あれどう思う?」

「どうって、見れば分かるでしょ?」

「日向君、やっぱりフラれちゃったのかなぁ?」

 

 遠巻きに眺めながらぼそぼそと話し合う3人。実はこの3人、健を遊園地デートに焚き付けた後、こっそり尾行して出羽亀するつもりだったのだ。だがそれは戸田により阻止された。戸田曰く、そんな無粋な真似を許す訳にはいかない、だそうだ。

 

 女子3人対男子1人という絶望的な戦いを何とか制し、健の幸せを願い送り出した戸田だったが、その結果があまり芳しくなさそうだという事に責任と心配を感じ、そっと健に近付き悪いとは思うが先日のデートの結果を問い掛けた。

 

「よぉ、日向」

「あ……戸田君?」

 

 戸田が声を掛けると、健は見た目通り覇気のない声で答えた。そのどんよりとした雰囲気に得も言われぬ威圧感を感じた戸田だが、ここで退く訳にはいかないと己を鼓舞し思い切って健に何があったのかを問い掛けた。

 

「随分と元気なさそうじゃないか? 悩みがあるなら力になるぜ?」

 

 心優しい友人からの申し出に、健は一瞬縋ってしまいそうになる。

 だが内容が内容だけに、おいそれと無関係な彼らの力を頼る事は出来ない。

 

「うん……ありがとう。でも、大丈夫だから……」

 

 健はそれっきり口を噤み、彼の纏う雰囲気もあって戸田はそれ以上問う事も出来なかった。

 

 そのまま健はこの日誰とも会話することなく帰宅した。

 彼の異変には両親も当然気付いていたのだが、健は全てを拒絶する様に誰とも何も話さず店の手伝いもせず只管に鍛錬に励むのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 遊園地に行ってから早数日。黄泉は半ば無気力に日々を過ごしていた。

 当時は酷く憔悴した様子で戻って来た彼女を、紫も流石に心配したのだが黄泉は何も語らず。触れれば壊れそうなほどの黄泉の様子に、紫も強く出る事は出来ず仕方ないので暫くは様子見をする事にしていた。

 

 が、数日経っても何も語らない黄泉に流石に焦れたのか、それとも一見無気力の様に見えて内面が僅かながらも回復したのを見抜いたのか、紫はこの日遂に黄泉に事情を尋ねる事にした。

 

「弟子よ、愛弟子よ。いい加減そろそろ何があったかワシに話してみせい。と言うか話せ」

「師匠……」

「正直何時までもそんなうじうじされてはこっちも困る。何か悩みがあるならさっさと話してみい」

 

 一見乱暴なように見えて、その実黄泉の悩みの存在に気付きそれを吐き出させることで彼女の心の負担を軽減させようと言うのだ。

 

 それを察したのか、それとも単純に黄泉自身抱えてる悩みを吐き出したくて仕方がなかったのか、黄泉は紫からの問い掛けにゆっくりとだが話していった。

 

 最近、1人の男の子を好きになった事……

 

 本格的に恋を自覚したその日に相手の少年に、左目の秘密がバレてしまった事……

 

 男の子が御伽装士だった事……

 

 そして、健が御伽装士であると知った時、自身の身に降りかかった不幸を彼が見過ごしたと言わんばかりの言い方で責めてしまった事……

 

 それらを話し終えた頃には、黄泉の目からはポロポロと涙が零れ落ちていた。もう十分過ぎるほど泣いたと思っていたのに、まだ涙が出た事に彼女自身驚いている。

 

「私、何であんな言い方しちゃったんだろ――――! 健君は、何も悪くない。健君に言ったって、どうしようもない事なのに――――!?」

 

 気が動転していた……等言い訳にもならない。彼が他者を守る為、多少自分が不利になろうとも守る為の戦いを徹底していた事は黄泉も良く知っている。その彼に対し、『何故助けてくれなかったのか』など残酷にもほどがある発言だ。

 大体、黄泉の家族が化神に奪われた当時、健と黄泉はお互いの存在を知りもしなかった。それなのに助けてくれなかった事への恨み言を言うのは間違っている。

 

 改めて自身の行いと発言を思い返し、黄泉は自分がどれだけ最低な事を口にし、彼の心を傷付けてしまったのかを自覚して激しく自己嫌悪していた。

 

「私、最低だ……健君、ごめん…………私――!?」

 

 ボロボロとなく黄泉の頭を、紫が優しく撫でていた。

 家族を全て失った黄泉にとって、紫は最早親代わりと言っても過言ではない。気恥ずかしいので普段は黄泉にもそんな姿は見せないが、黄泉が辛そうにしている時には心から心配し慈愛の心を持って接していた。

 

「気に病むでない、愛弟子よ。人の心は時に理性の鎖を引き千切って暴れる事が往々にしてある。此度も、お主の心がお主の意思を振り払って無作為に暴れてしまっただけよ。故に気に病むな」

 

 勿論八つ当たりを全てその言葉で片付けて良いと言う道理はないだろう。だがしかし、黄泉は嘗て化神により家族を無慈悲に奪われ、更には化神の目を植え付けられると言う理不尽を経験している。その時の心の傷が、健の正体を知った動揺で開き、その痛みの悲鳴が八つ当たりと言う形で健に放たれたのだ。

 

 彼女の心は、彼女自身が思っているよりもずっと脆い。それを思えば、今回の事は黄泉に全ての責任があるとは言い難いだろう。

 かと言って彼女が無罪という訳でもないので、結局紫に出来る事は彼女の涙を受け止め、気休め程度の慰めの言葉で壊れそうになる彼女の心を支えるだけであった。

 

 室内には黄泉がすすり泣く声だけが静かに響いていた。その時、窓の外から入って来た影狐が紫の陰の中に入り込む。すると次第に紫の表情が険しくなった。影狐から化神発見の報告が入ったのだ。

 正直、今の黄泉に化神の相手は荷が重すぎる。満足に戦えず餌食になってしまう危険が高かった。

 

「愛弟子よ……暫し眠れ」

 

 紫が手を黄泉の額に翳すと、黄泉の体から力が抜けて眠りに落ちた。呪術で眠らせたのだ。

 眠った黄泉を紫は敷いた布団の上に寝かせて、自分は彼女の懐から怨面を抜き取り部屋を後にした。

 

 これが少し前であれば、黄泉の状態が戦えないとなればソウテンに任せて高みの見物をしても良いのだが、今回ばかりはそうも言っていられなかった。

 

 理由の一つは、ソウテン――健と少し詳しく話をする事。彼は黄泉と深く関わり過ぎた。そこに他意や真意があるにせよ無いにせよ、一度しっかりと話をしておく必要性を感じだのだ。

 

 そして理由の二つ目は…………今のソウテンの異常な戦い方にあった。実は紫は影狐を町に放ち、ソウテンの戦いを逐一観察してきた。だからこそ分かる、今のソウテンの戦い方が明らかに異常である事が。

 

「お主は何故、そんな修羅の如き戦いをする? 若き御伽装士よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 日も沈み、夜の帳が下りた町の中で健が変身したソウテンが一体の化神と戦っていた。鎌鼬の双剣を手に持ち、化神・バケイナゴの周囲を縦横無尽に動き回り切り刻んでいた。その姿はまるで修羅の如くであった。

 

『ぎゃぁっ!? ま、待て?! 降参! 降参する!?』

「あぁぁぁぁっ!!」

『うわぁぁぁぁぁっ?!』

 

 バケイナゴの両脚は既に切り裂かれており、自慢の跳躍力が殺されている。満足に動けないバケイナゴを、ソウテンは情け容赦なく切り刻む。

 これまでも健は決して化神を相手に容赦などしなかった。だが今の彼の戦いはそれとは根本的に何かが違う。まるで我武者羅に力を振るう様な、技術もへったくれもない戦い方。押さえる事無く力を振るっている為、周囲に余計な破壊が広がっている。

 

 ズタボロになったバケイナゴを前に、ソウテンは鎌鼬の双剣の柄頭を連結させるとそれをバケイナゴに向けて投擲した。投擲された双剣は回転しながらバケイナゴの周囲を回り、バケイナゴを風の檻に閉じ込めた。

 その状態で双剣は風の檻の中を縦横無尽に飛び回り、四方からバケイナゴを滅多切りにする。

 それを見ながらソウテンが掌を風の檻に向け、何かを握りつぶす様に拳を握ると檻となっていた風が刃と化し、一斉にバケイナゴに殺到した。

 

「退魔覆滅法、龍怒風刃!!」

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ?!』

 

 ミンチにするのではないかと言う程全身を細切れに切り刻まれ、バケイナゴは死体も残さず息絶えた。その技の威力はバケイナゴを仕留めただけでは飽き足らず、収まりきらなかった威力が周囲にも無用な破壊を齎す。

 

 しかし今のソウテンの目にその被害は映らない。化神を倒したという達成感もない。

 

 今の彼にあるのは、力への渇望と焦燥感だけであった。

 

「こんなんじゃ、ダメだ。……もっともっと、強くならないと――!」

 

 最早強迫観念に似たそれに突き動かされ、我武者羅に力を求めるソウテン。

 

 その彼に突如として声が掛けられた。

 

「なんとも酷い戦いじゃの。正直、見るに堪えん」

「ッ! 誰だ!?」

 

 声のした方を見れば、そこには点滅する街灯の上に佇む紫の姿があった。

 

 黄泉が師と仰ぐ紫の登場。そして今し方の彼女の物言いに、ソウテンは彼女に向け警戒心を露にする。

 

「あなたは……河南 紫さん」

「その通り、よく覚えておったのう?」

「調べましたから。あなたが昔、御守衆で御伽装士として活躍していた事も。そして数年前に、化神討伐中に殉職した筈だという事も」

 

 一通りソウテンが紫について調べた事を述べると、紫はケラケラと笑い出した。

 

「くひひひ! 意外と早かったではないか。ま、知られた所で別に痛くも痒くもないがの」

「何故、あなたは死を偽ってまで御守衆を抜けたんですか?」

「それは簡単じゃ。甘いからじゃよ」

「甘い?」

 

 首を傾げるソウテンを見て、紫は街灯の上から飛び降りた。それなりの高さがある街灯から飛び降りたと言うのに、その速度は異様なまでに遅く羽や花弁が落ちる様にふわりと地面に音もなく降り立った。

 

「あぁ、お主ら御守衆は甘い。そんな事では、化神の被害から守り切れない者が出るのも然りじゃ。故にワシは御守衆を捨てたのよ」

 

 紫の言葉にソウテンの心がずきりと痛んだ。救えない者と言う言葉に、黄泉の姿が重なったのだ。

 

「黄泉さんを……御伽装士にしたのもその為ですか?」

「まぁ、半分正解と言ったところかの。ワシ1人が頑張った所で出来る事など高が知れている。後進の育成は必須じゃからな」

「もう半分は?」

「お主にそこまで話す義理はない。それより問題なのはお主の方じゃ」

「僕が、何です?」

 

 訳が分からないと言いたげなソウテンを前に、紫は軽く周囲を見渡した。地面は抉れ、壁は崩れ、街路樹は薙ぎ倒されている。何も知らなければ台風が通った後と見紛う光景だが、これらは全てソウテンの攻撃によって齎された被害だ。化神が暴れてなったのではない。

 

 酷い有様となった町の光景に、紫は堪らず溜め息を吐いた。

 

「改めて言うが、酷い戦い方じゃったな。技もへったくれもない力押しのだけの醜い戦い。これで誰かを助けようなど片腹痛い」

「ッ!? あなたに何が分かるんですか!? 僕は強くならなくちゃいけないんだ! どんな化神にも勝てるような力が!! そうしないと……そうしないと、黄泉さんが…………」

 

 侮蔑を含んだ紫の言葉に、ソウテンが憤る。彼自身、この戦いの結果には思うところがないでもない。

 しかし、今の彼に必要なのは今よりさらに強い力であった。どんな化神をも倒せる力、全ての化神を倒し、黄泉が戦わなくても良いようにする為の力…………黄泉を救う為の力が欲しかった。

 

 それを否定するような紫の言葉は、ソウテンから冷静さを奪った。言葉一つで我を失い、噛み付いてくる彼に紫は今一度溜め息を吐く。

 

「今時の若者は、どいつもこいつも全く…………仕方がないの」

 

 紫は溜め息を吐くと、持ってきたゲツエイの怨面を取り出し呪文を口にした。

 

「オン・アリキャ・コン・ソワカ……」

「な、何で!? 何で河南さんがゲツエイの怨面を!!」

「これは異なことを。ワシの事を調べたと言うなら、知っているのではなかったのか? 愛弟子の前にゲツエイであったのは、このワシ……河南 紫だったという事を。…………変身」

 

 驚愕に動きを止めるソウテンの前で、紫はゲツエイの怨面を装着し変身した。黄泉が変身する時とは違う模様が怨面を中心に血管の様に紫の体に浮かび上がる。

 

「ん! あぁぁ……ふぅ、はぁぁぁぁ――――!」

 

 紫の姿が変化し、ゲツエイとしての姿になっていく。だがその姿は黄泉が変身した時とは大きく異なっていた。

 

 全体的に歪であった黄泉のゲツエイに対して、紫の変身したゲツエイは全体的に振袖を着た女性の様な姿になっていた。黒と紫を基調とし、頭には花嫁衣裳の様なフードを被り、両腕は裾が大きく広がり下半身も足元まで着物の裾の様なスカートで殆ど隠れている。

 身を守る鎧の様な物はほとんど見当たらず、唯一胸元だけは小さな胴当てを身に付けていた。

 

 紫が変身したゲツエイは、変身が完了すると体を解すように首や肩を大きく回した。

 

「ふぅむ……弟子にゲツエイを任せてからとんとご無沙汰だったせいか、ちぃとキツイのう。まぁ、小童を相手取る程度ならこれで十分か」

 

 ある程度動かして体を慣らすと、ゲツエイはソウテンに向け指先で軽く手招きをした。それはどう見ても、どこからでも掛かってこい、である。

 

「来い、若き御伽装士よ。先達として、道を見失いつつあるお主をワシが手解きしてやる」




という訳で第7話でした。

今回ラストで登場した、ゲツエイ紫バージョン。外見はモンハンのミツネ装備をベースに色を黒と紫にしているものをご想像ください。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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