仮面ライダービャクア外伝~仮面ライダーソウテン~   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回はゲツエイver.紫の戦いから始まります。
黄泉の前にゲツエイとして戦っていた彼女の戦いをどうぞご覧ください。


第8話:健の始まり

 紫が変身したゲツエイを前に、ソウテンは穿空の弓矢を構えて警戒していた。

 

 変身しているのは黄泉ではないが、それでも目の前に居るのは紛れもないゲツエイ。見た目に多少違いはあれど、それでも黄泉が変身したゲツエイと似た姿の御伽装士を前にソウテンはどうしても攻撃を躊躇してしまっていた。

 何より、彼が普段相手にしてきたのは化神であり同じ御伽装士を相手に戦う事は想定していなかった。その予想外の事態が、彼に攻撃と言う選択を躊躇わせていたのだ。

 

「来ないのか? であればこちらから行くぞ」

「ッ!?」

 

 一向に攻撃してこないソウテンに焦れたのか、ゲツエイが音もなく駆けてソウテンに接近した。その際に放たれた明確な殺意に、ソウテンは反射的に身を守る為矢を放ってしまう。

 

 風を纏い、音を置き去りにして放たれた矢。

 

 だが紫のゲツエイは、それを軽く体を捻るだけで回避してしまった。

 

「なっ!?」

「フン!」

 

 まさかこんなあっさりと避けられるとは思っていなかったのか、そのまま固まってしまったソウテンに接近したゲツエイの掌底が放たれる。掌底は狙い違わずソウテンの胸板に炸裂し、彼を大きく吹き飛ばした。

 

「うわぁぁぁぁっ!? ぐぅ?!」

 

 重く鋭い一撃を胸板に喰らい、さらに背中から地面に叩き付けられ一瞬呼吸が止まってしまった。倒れたソウテンは、空気が抜けた肺に酸素を送り込もうと必死に呼吸をしようと喘いだ。

 

「がはっ!? く、はぁっ!? はぁ、はぁ――――!」

「ほれ早く立て。化神はお主が回復するまで待ってはくれんぞ」

「がはっ?!」

 

 呼吸がようやく安定してきたと思ったら、いつの間にか傍に来ていたゲツエイが容赦なくソウテンを蹴り飛ばす。またしても地面と抱擁するソウテンだったが、今度は何時までも喘ぐと言う無様は晒さず即座に立ち上がり再び矢を番えて放った。

 今の殺気と二度の攻撃で漸く彼の覚悟も決まったのだ。

 

 その一撃はまたしても容易く避けられたが、今の一撃に籠った覚悟はゲツエイにも伝わった。

 

「ほぉ? やっとその気になったか。遅すぎると言いたいところだが、まぁ良い。ではもう少し本気を出してやるかの」

 

 ゲツエイは胸の前でパンと音を立てながら手を合わせると、そのまま印を結び小さな声で呪文を唱えた。

 

 何をするつもりなのか知らないが、今のゲツエイは隙だらけだ。攻撃するなら今が好機。

 

「そこだ!」

 

 狙いを定め、ゲツエイに向け矢を放つ。狙うと言っても流石に急所は狙わない。当たっても大事には至らない、肩の辺りを狙いに定めた。

 

 だが次の瞬間ソウテンは我が目を疑った。何と矢がゲツエイに当たった瞬間、彼女の姿が霞の様に消えてしまったのだ。

 

「えっ!?」

「こっちじゃよ」

 

 突如として消えたゲツエイを探すソウテンの背後から、声が響いたかと思うと衝撃が走り前方に吹き飛ばされる。何時の間にかソウテンの背後に回っていたゲツエイが、無防備な彼の背を蹴り飛ばしたのだ。

 

「うわっ!? くっ!」

 

 ソウテンは地面を転がりながらも、勢いを利用して立ち上がり自分の背後を取っていたゲツエイに再び矢を放つ。だがゲツエイはまたしても矢が当たると姿が消え、ソウテンは困惑し周囲を見渡した。

 

「また!? く、何処に!!」

 

 見つけた瞬間直ぐに矢を放てるようにと、次の矢を番えながらゲツエイの姿を探す。

 

 その時、出し抜けに横から振り下ろされた手刀に弓を叩き落された。ソウテンがそちらを見ると、同時に放たれたゲツエイの回し蹴りが彼を蹴り飛ばした。

 

「ハッ!」

「ぐあっ?!」

 

 全くゲツエイの姿を捉える事も出来ず強制的に距離を離されたソウテンに、ゲツエイがさらなる追い打ちをかける。ソウテンの手から叩き落した弓矢を拾い、それをソウテンに向けて矢を放ったのだ。

 蹴り飛ばされたばかりのソウテンには、それに対応するだけの余裕がない。

 

 結果、ゲツエイによって放たれた矢は弓矢の持ち主であるソウテンの腕を貫いた。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁっ?!」

「……ふん」

 

 矢に貫かれ膝をつくソウテンを前に、ゲツエイは手にした弓を放り捨てゆっくりと近付いていく。

 

「ぐぅ、くっ!!」

 

 近付いてくるゲツエイに気付き、ソウテンは矢に貫かれて血が滲む腕から手を離すと鎌鼬の双剣を手に取り斬りかかった。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ソウテンはゲツエイに向けて何度も刃を振り下ろした。度重なるダメージにより動きに切れが無くなりつつあるが、それでもその素早さは完全に失われてはいない。目にも留まらぬ斬撃を身軽さも活かして何度も放つが、ゲツエイはそれを悉く躱して反撃の掌底や手刀、蹴りを叩き込み逆にソウテンを追い詰めていく。

 

 回転を交えてゲツエイを切り裂こうとするが、ゲツエイは蹴りでソウテンの剣を持つ手を蹴り上げると彼の攻撃の軌道をずらし空振りさせた挙句掌底を叩き込んできた。

 

 2本の剣を交差させてハサミの様に断ち切ろうとすれば、手首を押さえられ攻撃が不発に終わらされ腹を蹴られて地面に倒された。

 

 剣に風を纏わせ離れた所から真空刃を放てば、斬撃はゲツエイの姿を霞の様に散らし何時の間にか背後や真横に移動していた彼女に叩き伏せられた。

 

 そして遂に、ソウテンの体力が限界に近付き立ち止まるとその場に双剣を落とした。

 

「ぐ、うぅ……はぁ……はぁ……」

 

 ふら付きながら尚も立ち続ける、その根性だけは一丁前だとゲツエイは評価した。だがそれ以外が彼女の目から見て落第点だ。

 

「駄目じゃな、お主の戦い方は。その怨面の力を十全に発揮できておらん」

「な、に――――?」

「その怨面、見たところ真骨頂は力ではなく技と速度じゃろ? 本来であれば素早い身の熟しと目にも留まらぬ速さ、そして鋭い技巧で相対する者を打ち倒す。それが本来のお主の戦い方じゃろうな」

 

 ゲツエイの言う通り、ソウテンの戦い方は力に頼らぬ柔の戦い方だ。黄泉の変身するゲツエイの様な、力で相手を叩き伏せる剛の戦いとは真逆である。

 

 だがゲツエイ――紫から言わせれば、今のソウテンに柔の戦いが出来ているとはとても言えなかった。今の彼の戦い方は、感情に任せて我武者羅に力を振るっているだけ。子供が癇癪を起して腕を振り回しているような、拙いと言う言葉ですら上等な戦い方であった。

 

「愛弟子も確かに力任せと言えば力任せの戦い方じゃ。だがお主と愛弟子では、同じ力任せでも決定的に違うところがある」

「何処が……どこが違うって言うんです!?」

 

 もったいぶる様なゲツエイの物言いに、ソウテンが急かす様に声を荒げた。その様子に彼女は溜め息を吐く。

 

「落ち着きがないのう。愛弟子も、こんな小童のどこが良いんだか」

「話を逸らさないでください! 僕の戦いの、何がいけないって言うんですか!!」

「簡単じゃ。お主は敵を見てはおらんのよ」

 

「お主、一体誰を見て戦っておる? 何処を見て戦っておるのじゃ?」

 

「お主の目にワシは映っておらん。相手も見ていないのに、攻撃が当たる訳がないとは思わんか?」

 

「怒りに目が曇り、感情のままに力を振るうだけでは雑魚程度しか倒せぬよ」

 

 ゲツエイの言葉一つ一つが、ソウテンの心に突き刺さる。

 否定したかった、そんな事はないと。今の戦いで、自分は相手の事を見ていたと叫びたかった。

 

 だが今も脳裏に浮かぶのは涙を流す黄泉の顔だった。こんな時でも、彼が考えているのは黄泉の事だけ。故に、今の彼にゲツエイの言葉を否定する事は出来ないでいた。

 

 言葉に詰まるソウテンの姿に、ゲツエイは何度目になるか分からない溜め息を吐いた。ここまで言って、ここまでやって、やっと言葉が届いた事に呆れても居た。

 

(だがまぁ、悩む余裕を持っているだけまだマシか)

 

 本当にどうしようもない奴は、彼の様に悩む事すらしない。ソウテンがそんな輩であれば、ゲツエイは容赦なく彼を叩き伏せて再起不能にしていただろう。そんな盲目的な奴が御伽装士を続ければ、確実にロクなことにならない。

 

「今一度、己の始まりに思いを馳せてみよ」

「僕の、始まり?」

「これまでのお主の戦いも見ておった。頑なに他者を守ろうとするお主の戦い。それは成り行きで戦いに身を置いた者では持ち得ぬ心構えじゃ。今は忘れておる様じゃが、お主の中には戦いを始める切っ掛けとなった何かがある筈。それを思い出してみるが良い」

 

 ソウテンにそう告げながら、ゲツエイは一本の杖の様な物を取り出した。

 

「退魔道具、稲荷の炬火」

「ッ!? 退魔道具、白虎の具足!」

 

 ここで漸く退魔道具を取り出したゲツエイに、ソウテンは咄嗟に白虎の具足を装着しその場を離れた。あれは今まで見た事もない退魔道具だ。黄泉のゲツエイが使わない、未知の退魔道具。どんな攻撃が飛んでくるか分からない。

 

 その予想は直ぐに正しい事が証明される事になる。

 

「ほれ」

 

 ゲツエイが杖を振ると、その際に杖の先端に紫色の怪しい火が灯る。その火が振るわれた事で無数の火の粉が散り、火の粉は膨れ上がり火の玉となってソウテンに飛んで行った。

 

「くっ!?」

 

 飛んでくる火の玉を、ソウテンは速度を活かして回避する。幸い誘導性はないのか、火の玉はソウテンが居た場所に命中して弾けた。

 これなら何とかなる……そう思っていたのだが、それは次の瞬間裏切られる。

 

 続いて放たれた火の玉は、最初のと違ってしつこくソウテンを追いかけてきたのだ。

 

「なっ!?」

 

 誘導性を持たせることが出来たとは意外だが、それでも火の玉の速度は白虎の具足で充分振り切れる程度だった。

 

 幾つも放たれた火の玉を、ソウテンは駆け回って回避していく。時折命中しそうになるが、それらは回し蹴りで充分叩き落す事が出来た。

 

 しかしそれはゲツエイの策だった。ソウテンが誘導性のある火の玉から逃げている間に、ゲツエイはソウテンを倒す必殺技の準備を終えてしまっていた。ゲツエイは自分の足元に、魔法陣の様な紋様を描いていた。

 

「退魔覆滅法、幻燈爆葬送」

 

 杖の石突で紋様を突くと、それが広がり周囲の足元が怪しく光る紋様で彩られる。

 

 その紋様がソウテンの足元に達すると、突如としてソウテンの周囲に紫色の火の玉が出現した。

 

「何ッ!? くっ!!」

 

 周囲に出現した火の玉は見る見るうちに膨らんだ。次の瞬間どうなるかはすぐに分かった。

 

 慌ててソウテンが速度を活かしてその場を離れると、直後に先程まで彼が居た場所が無数の火の玉の爆発で包まれる。

 難を逃れる事が出来た事に一瞬安堵するが、次の瞬間にはまたしても火の玉が出現した。それを再び回避するが、その先でも火の玉が出現。

 

 ソウテンが何処に逃げても火の玉は出現し、彼が立っていた場所を吹き飛ばす。この火の玉の出現条件がこの足元の紋様にあるのだろうという事は分かったが、逃げようにも紋様は既に遠くまで広がっており逃げるのは容易ではない。

 そうこうしていると、遂に火の玉が彼の行く手を塞ぐように出現した。思わず足を止めると、後ろと左右にも次々と火の玉が出現し完全に逃げ道が塞がれる。

 

「な、あ――――」

「…………終わりじゃ」

 

 ゲツエイがオーケストラの指揮者の様に、先端に火の灯った杖を振り下ろすと火の玉が一斉に爆発。ソウテンの姿が炎に包まれる。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 無数の火の玉が一斉に破裂した事による爆発は凄まじく、爆炎が晴れた時にはソウテンの姿はボロボロになっていた。

 

「ぐぅ、あぁ……」

 

 ズタボロになったソウテンはその場に力無く崩れ落ち、倒れると同時に変身が解除される。倒れた健の傍に、ソウテンの怨面が軽い音を立てて落ちた。

 健の手は無意識の内に落下した怨面を掴んだ。

 

「分かったか? これが今のお主の力じゃ」

「ぐっ――――!?」

「今よりも強くなりたいのであれば、思い出せ。己の始まり、戦いへの想い。お主にはお主に最適の戦いがある。それを思い出せた時、お主は本当の意味で強くなれる筈じゃ」

 

 ゲツエイはそう言うと怨面を外し、紫の姿に戻った。

 

「ではの、若き御伽装士よ。精々精進せよ」

 

 紫はその言葉を最後に踵を返してその場を去っていく。

 

 倒れた健はその背に向けて手を伸ばすが届く筈もなく。

 体力も限界に達し、健は紫の背を見送って意識を手放すのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

――思い出せ……――

 

(え?)

 

 不意に健の脳内に響くような声が聞こえてきた。目を開け、周囲を見渡すと、近くのベンチの上に一羽の鳥がとまっている。

 

 見た事のない鳥だ。何処となく隼に見えなくもないが、その割には全身がまるで金属の様に光沢を放っている。

 何とも奇妙な鳥だが、健はその鳥に対して不審とかそう言うのを感じる事はなく、逆に興味を引かれあろう事か痛む体を引き摺ってその鳥に近付こうとすらした。何故近付こうと思ったのかは、健自身にも分からない。何故だか引かれる様に近付きたくなったのだ。

 

――思い出すんだ。あの時に抱いた”想い”を……――

 

 もう少しで鳥に触れられると言うところまで近づいた時、再び脳裏に声が響いた。その時になって健は気付く。この声の主は、あの鳥だという事に。

 

「思い出す? それって、一体――――?」

 

――私は何時でも待っている――

 

 鳥は健の問いには答えず、翼を羽搏かせて何処かへと飛んで行ってしまった。

 

 遠くへ離れていく鳥に手を伸ばし――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――あっ……」

 

 ふと目が覚めると、そこには見慣れた天井が広がっていた。周囲を見渡し、そこが自分の部屋であることを確認すると健はゆっくりと上半身を起き上がらせる。

 

「ここは、僕の部屋? 僕は……一体何を……?」

 

 記憶が混濁していて、意識を失う前の事がはっきりと思い出せない。確か化神出現の報告を受け、討伐に向かったところまでは覚えているのだが……

 

 頭を抱えて悩んでいると、部屋の扉がノックされる。健は反射的に顔を上げ、扉の向こうにいる人物に声を掛けた。

 

「あ、はい?」

 

 健が声を掛けると、扉が開かれ彼の両親が入って来た。2人とも心配そうな顔を健に向けている。

 

「健、大丈夫か?」

「心配したのよ? 何時まで経っても帰ってこないから、心配になって探したらボロボロの状態で倒れてるんだから」

「辺りも滅茶苦茶だったし、一体どんな化神とやり合ったんだ?」

 

 2人からの質問攻めに、しかし健はそこで漸く思い出した。自分は確かに化神と戦って勝利を収めたが、その後にやって来た紫が変身したゲツエイとの戦いに敗れたのだという事を。

 

 この事を思い出し、健はどう説明するかで悩んだ。まさか紫が変身したゲツエイと戦って負けました、何て話せばややこしい事になる。最悪、黄泉にまで在らぬ嫌疑が掛けられるかもしれない。そう思うと素直に話す事はどうしても気が引けた。

 

 悩みが顔に出たのか、険しい表情になった健を見て裕子は傷が痛むと勘違いし、彼を1人にすべく晃と共に部屋から出て行こうとした。

 

「まだ本調子じゃないみたいだし、今はゆっくり休みなさい。学校にはもう連絡入れてあるから」

「あ…………うん」

 

 結局何も言えぬまま、健は両親が部屋から出て行くのを見送る。だがどうしても気になる事があったので、健は扉が閉まる直前晃に向けて声を掛けた。

 

「ねぇ、お父さん――!」

「ん?」

「その…………僕、最初にソウテンに変身したのってどんな時だったっけ?」

 

 実は先程から頭の片隅で最初にソウテンに変身する事を決意した時の事を思い出そうとしていたのだが、どれだけ頑張っても思い出せないのだ。何か切っ掛けの様な物がある筈なのだが、それが何なのかがどうしても思い出せない。

 

 このままだと気持ちが悪いし、何より紫と、先程夢の中で言われた事がどうしても引っかかる。

 

 突然の健の問い掛けに、晃は何故いきなりそんな事をと首を傾げかけた。だが健の真剣で必死な表情に、そんな疑問は無粋かと考えを改めた。

 何がどういう事なのかは分からないが、健は今必死に足掻きその答えを掴む為に自分のソウテンとしての始まりを必要としていた。ならば、それに答えてやるのが父でありまた、先代ソウテンであった自分の役目だ。

 

 晃は健の傍に近付いて腰を下ろすと、健のソウテンとしての原点を話した。

 

「健……お前が初めてソウテンになったのは、今から数年前だ」

「数年前…………」

「あぁ。その頃、百鬼夜行が確認されてな。俺もそれに駆り出された」

 

 百鬼夜行とは、端的に言えば化神の大量発生である。実に百体に近い化神が一斉に出現する事象が定期的に日本では起こっているのだ。当然そんな数の化神を1人2人の御伽装士で対処出来るものでもないので、発生が予測されると総本山からの要請で発生予測地点に御伽装士が複数人集められる。

 晃も数年前に発生した百鬼夜行で、要請を受けて駆り出されたのだ。

 

「もしかして、その時に何か?」

「いや。百鬼夜行は当時の御伽装士達と協力して事なきを得た。問題はその後だ」

 

 百鬼夜行を収束させ、晃は健と裕子の元へと戻った。大きな仕事を終わらせ、愛する家族との再会に晃は胸を躍らせていた。

 

 それが彼の運命を変えた。戻った彼と、少しでも早くに再会したくて健と裕子は家ではなく道中で出迎えたのだが、偶然にもそこで化神が出現したのだ。

 幸いな事に2人が化神と遭遇した直後に晃が現場に到着、ソウテンに変身して応戦するも、百鬼夜行での疲れがまだ残っており本調子が出せず苦戦を強いられた。おまけに背後には守るべく家族が居る事もあって、逃げる事も出来ず。

 

 最終的には疲労による不調と一瞬の油断により化神に重傷を負わされ、晃は変身を解除されてしまう。

 

 倒れた晃に、裕子と健は必死に声を掛ける。晃を倒した化神は、3人を纏めて始末しようとした。

 

 その時、健が動いたのだ。健は倒れた晃と彼を抱きしめる裕子の前に立ちはだかり、化神から2人を守ろうとした。

 

『お父さんとお母さんには、指一本触らせない!!』

 

 御伽装士でもない子供が何を馬鹿な事をと、裕子は止めるように言い化神は健を嘲笑った。実際、化神の前で両手を左右に広げて立ちはだかる健の足は恐怖で震えていたのだ。こんな様で守るなど、無様にもほどがある。

 

 実際当時の健は化神に対して只管恐れを抱いていた。化神が腕を振り下ろせば、自分の命が容易く失われるだろう事は簡単に想像できた。

 だがそれでも、健は退く事をしなかった。晃が戦えない以上、家族を守るのは自分の役目だと…………使命感に近いそんな気持ちだけで、健は化神の前に立ちはだかったのだ。

 

 その時、ソウテンの怨面が独りでに動いた。晃から落ちたソウテンの怨面は、弾かれるように飛ぶと一直線に健の顔に装着し彼をソウテンへと変身させた。

 

「あの時俺は意識が朦朧としてたけど、それでも驚いたよ。まさか怨面が健を自分から選ぶなんてな」

 

 晃の話を聞いて、健は漸く思い出した。自分はあの時初めてソウテンに変身し、そして化神と戦ったのだ。

 

 化神もまさか健が変身するとは思っておらず、しかも何だかんだで晃との戦いで体力を消耗していたのもあってこの時点で既に弱っていた。結果、健は無我夢中で戦い辛勝だったが化神を討伐する事に成功した。

 

 だがその代償と言うべきか、健はその日から一週間ほど高熱を出し寝込んだのだった。

 

「その時の重傷で後遺症を負った俺は、御伽装士を引退せざるを得なくなった。代わりに健、お前を鍛える事にしたんだ」

「そっか……そうだった。そうだったんだね。僕は、あの時…………」

「私は本当は反対だったんだけどね。ただ、御伽装士も数が多い訳じゃないし、一度なってしまったのならって事で、健には引き続き御伽装士をやってもらうって事になっちゃって」

 

 とは言え当時の健は即戦力と言うには程遠かったので、安定するまでは別の場所から御伽装士が派遣される事となった。

 

 以上が健のソウテンとしての始まりである。話を一通り聞いた直後、健は一つ大きな欠伸をした。

 

「ふぁ……ふぅ」

「ふむ、病み上がりに少し長話が過ぎたみたいだな」

「とにかく今はゆっくり休みなさい。今の健に出来る事は休む事よ」

「うん……分かった……」

 

 健は布団の上に横になり、掛布団を被って目を瞑る。もう眠気が限界だったのか、物の数秒で眠りに落ちると晃と裕子は顔を見合わせ安堵の笑みを浮かべると、部屋の電気を消して今度こそ部屋から出たのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「…………ん?」

 

 一方、隠れ家のアパートでは黄泉が健が目覚めたのとほぼ同じ時間に目覚めていた。紫の呪術により強制的に眠らされていた黄泉は、何時の間に寝てしまったのかと寝ぼけ眼で部屋の中をぼんやりと見渡していた。

 

(あれ?……私、寝てたの? 何時から?)

「愛弟子よ」

「んぇ?」

「ほれ」

「わわっ!?」

 

 まだ脳が完全に目覚めていない状態の黄泉に紫が声を掛ける。黄泉が重い瞼を擦りながらそちらを見ると、紫は黄泉から借りていた怨面を放り投げて渡した。これには流石に眠気も吹き飛んだのか、黄泉が慌てて怨面をキャッチする。

 

「っとと! ふぅ……あれ? 何で師匠が怨面を?」

「ちと借りておった。お主が好いておる小童、健と言うたかの? ソウテンに変身する奴に会いにな」

「え!?」

 

 紫が健と会っていたと聞き、黄泉が驚愕に息を飲む。彼女からすれば、紫が健に会いに行く理由が分からなかったのだ。

 黄泉の表情からその疑問を読み取ったのか、紫は急須から湯呑に茶を淹れ一口飲んでから答えた。

 

「ふぅ……ま、お主が気にしておったでの。ワシもちいと気になったから見に行ってみたのよ。正直、期待外れだったがの」

 

 感情の制御も出来ず、腕は未熟とくれば紫にとって失望するには十分な理由だ。だが好いている男子が第三者である紫から批判されたとあって、黙っていられるほど黄泉も大人しくはなかった。

 

「それでも……健君は、私なんかよりもずっと凄い子です。誰かを助ける為に、常に全力を出せるなんて……私には、出来ません」

 

 黄泉の戦いの目的は結局のところ化神への復讐だ。だから戦いに際しては、周りへの被害など一切考えない攻撃を頻発し、戦いが終わった後は周囲が瓦礫の山だったりする事もザラである。

 今までは気にした事もないが、健と出会い彼の想いと戦いを見てからというもの、黄泉は自分の戦いを顧みて反省する様になっていたのだ。

 

 弟子のその変化を見て、紫は僅かに目を細めた。これが良い方向での変化なのか、それとも悪い方向での変化なのか。

 それを見極めようとしているのだ。

 

「一つ聞くが、愛弟子よ。お主はこれからどうしたい?」

「どうしたい……って?」

「これまで通り、ワシについてきて化神と戦うか。それとも、あの小童の元へ行くかだ」

「ッ!?」

 

 その問いは黄泉にとって死刑宣告に近く、同時に甘美な響きを持っていた。

 

 今の黄泉にとって紫は世界の全てだ。彼女と共に居るから人間で居られると言っても良い。彼女から離れるなど考えられない。

 

 しかし同時に、未だ黄泉の心の中には健への想いが残っていた。今でも黄泉は鮮明に思い出せる。健と共に過ごした楽しいと言える時間の数々を。

 健に左目を見られ、更には彼が御伽装士であると知ってしまった時は頭の中がぐちゃぐちゃになっていた所為で彼から離れてしまったが、今は再び彼ともう一度会いたいとすら思っていた。

 

 会って、八つ当たりの様な事を言ってしまった事を謝りたい。そして出来る事なら、彼から離れたくはない。

 その気持ちが黄泉の中で強くなっていた。

 

 結局、黄泉が歩む道は修羅ではなく人の道なのだ。紫は黄泉の僅かな変化からそれを読み取り、僅かながら寂しい思いを感じつつ彼女の背を優しく押した。

 

「どうするかはお主の自由じゃ。じゃがの、話すなら早めにしてやれ。あの小童相当迷っておるぞ」

「…………はい」

 

 再び健と会う覚悟が出来たのか、黄泉がはっきりと答えを口にした。

 

 その様子に紫はふっと笑みを浮かべ、そして気付いた。自分が黄泉だけでなく健の事までも気に掛けている事を。

 

(何で、態々あの小童の事までワシが気に掛けてやらねばならんのじゃ。全く……)

 

 内心では愚痴る紫だったが、その理由には直ぐに気付いた。ゲツエイに変身してソウテンと対峙した時に、彼女自身が言っていたのだ。

 

 先達として手解きをしてやる…………と。

 

(やれやれ、ワシも歳かの……足掻く若人を前に、老婆心を出さずにはいられなんだとは……)

 

 紫のそんな自嘲に黄泉は気付く事無く、布団から出ると空腹を訴えた腹を鎮めるべく台所へと向かっていた。どんな時でもしっかり食事はとる、そんな弟子の姿に紫は小さな笑みを浮かべずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が君、そろそろ機は熟したかと」

『そうか。では、参るとしようか』

 

 将之の言葉にバケヨロイが頷き立ち上がる。その背後には4体の化神が続き、バケヨロイの後に続き動き出した。

 

 必死に足掻く健と、前に進みだした黄泉。

 

 2人の若き御伽装士に、災厄が牙を剥こうとしている事に、気付いた者は誰も居なかった。




という訳で第8話でした。

紫が変身したゲツエイはゲツエイとしての能力だけでなく、紫自身の呪術も用いて戦います。ソウテンの攻撃を喰らっても消えてしまうのは、呪術で幻術を見せているからです。ゲツエイの本来の強さは、ゲツエイ単体の強さという訳ではなく紫の呪術も併せての強さという事です。
因みに設定上、紫のゲツエイが使用した稲荷の炬火も幻術を操る能力持ちですが、紫自身が幻術を呪術で使えるので専ら攻撃専門でしか使っていません。
尚黄泉は稲荷の炬火を使えません。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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