赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです   作:書鳳庵カルディ

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第9話 星漿体

「特に外傷は見当たらないんだがなぁ」

「一応医者診せる?」

「硝子がいればねぇ」

 

 とある建物の一室で、ゲブラー、五条、夏油の三人は、目を覚まさない星漿体の少女を前に、これからどうするべきかとそんな話をする。

 すると、ちょうど示し合わせたかのようなタイミングで、星漿体の少女、天内理子は目を覚ました。

 

「ん、起きたか」

 

 同じ女性で力持ちということで、天内を抱えていたゲブラーがそう言うやいなや、天内は反射的にゲブラーをビンタしようとする。

 しかし、持ち前の反射神経でゲブラーはそれを躱してしまうと、さっさと天内を地面に降ろした。

 

「むっ、下衆の癖にやりおるな!」

「一旦落ち着け、よくよく周りを見てみろ。お前に襲い掛かろうだなんて奴は一人もいないぞ」

「……確かに、黒井もおるな。でも胡散臭い男もいるのじゃ!」

 

 天内の言葉に対して、五条と夏油は「お前のことだよ」とでも言いたげに、お互いのことを指さす。

 しかし――

 

「変なグラサンの男も変な前髪の男も、どっちも胡散臭いのじゃ!」

 

 と、天内が続けて言ったことで、問題児二人は意気投合。

 五条と夏油が天内に襲い掛かろうとするが、そこに星漿体の世話係のメイド、黒井美里が割って入った。

 

「おっ、おやめ下さい! 悪気は、悪気はないはずなんです! お嬢様も、その方達は味方ですから安心してください!」

 

 そうして、この場の人間はようやく落ち着きを取り戻した。

 人一人が起きただけにしては、本当に大変な騒ぎだった。

 

「しかし、二日後に同化するにしてはやたら元気だな」

「当然じゃ。妾は、同化が死と同一だとは考えておらん!」

 

 そう前置きして、天内はゲブラーに天元様に同化する心構えを話す。

 だが、外面がどうあろうとも、ゲブラーにはそれが本心のようにはどうしても聞こえなかった。

 自らの身を犠牲にして研究を進め、結果的に大きな悲劇を生み出した、かつての自分の心を掴んだ人を思い出したがゆえに。

 

 もっとも、だからと言って心構えを固めている天内に口を出すような真似は、ゲブラーには出来なかったが。

 

 それから、一行は天内の要望によって、彼女が通う学校へ向かった。

 

 ところが、学校内に出していた夏油の呪霊が程なくして祓われてしまったため、ゲブラー、五条、夏油、黒井の四人は、結局すぐに学校内へと突入するはめになる。

 平穏な時間は、本当に束の間だった。

 

「天内の居場所は?」

「この時間は音楽なので、音楽室か礼拝堂ですね」

「それなら、二手に分かれてツーマンセルで行動しよう。私と黒井は礼拝堂に向かう。五条と夏油は音楽室に向かえ」

「襲撃者への対応は?」

「んなもん後回しだ。これがあくまで護衛任務だってこと忘れるなよ?」

 

 学校の廊下を走りながら、ゲブラーが夏油にそう返事をした後、一行は彼女の指示した通り二手に分かれる。

 そして間もなく、ゲブラーと黒井は礼拝堂に到着した。

 

 ついて行くのに必死で、すっかり息を切らしている黒井を横目に、ゲブラーは礼拝堂の扉を開ける。

 

「天内はいるか? 緊急事態なんだが」

 

 礼拝堂の通路を歩きながら、教師らしき人物に聞こえる程度の声量で、ゲブラーはそう呼びかけた。

 女子生徒の中からは「誰、理子知り合い!?」や「顔の傷やばっ、ヤクザ?」など、様々な声が上がり、大騒ぎになるが、女教師の一喝でそれも一旦静まる。

 

 その後、ゲブラーは女教師に事情を説明し、天内を礼拝堂から連れ出した。

 

「悪いな、呪詛師襲来だ。私の背中に乗れ、ここから離脱するぞ」

「は……え!?」

「お前の足じゃ遅いから、私が運ぶって言ってるんだ。学校の中で戦いを起こすのは嫌だろ? ……よし、このまま私は高専を目指す。黒井は行けそうか?」

 

 突然のことに混乱している天内を誘導して、背中に乗せたゲブラーは、黒井にそう声をかける。

 しかし、彼女は少々しんどそうだ。

 

「いえ、私はどうやら足手まといになりそうです。ゲブラー様だけでも、先に学校を離脱してください」

 

 黒井の言葉に、ゲブラーは少し考えを巡らせ始める。

 

 黒井を一人にするのは、彼女にとっては大きなリスクだろう。

 しかし、今の任務はあくまで星漿体の護衛だ。

 それに、黒井本人も決して戦えないわけではない。

 

 よって、ゲブラーは彼女の提案を受け入れることを決断した。

 

「分かった。それなら、出来るだけ戦闘を避けて五条たちとの合流を目指せ。私に追いつこうとするのはその後でいい」

 

 そう指示を出した後、ゲブラーは天内を背負ったまま塀を飛び越え、学校を離脱する。

 ただ、呪詛師の魔の手は、彼女を追うのを決して諦めてはいなかった。

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