赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです 作:書鳳庵カルディ
結論から言ってしまうと、ゲブラーの予想に反して、盤星教自体は特に何もしていなかった。
しかし、その裏側では、盤星教が直々に星漿体の暗殺を依頼した男。
術師殺しの異名を持つ伏黒甚爾の計画が、いよいよ最終段階に突入していた。
星漿体の所在が発覚してから、削りに使ったこれまでの手間賃を、清算するときがついに来たのである。
高専の結界内に入って、気を抜いて術式を解いた五条悟の胸を、伏黒甚爾は不意打ちで一突きしてみせた。
それに対して、負傷を最小限に抑えた五条は、夏油、黒井、天内の三人を先に行かせると、甚爾との一対一の戦いを始める。
だが……やはり今の五条悟では、天与の暴君に勝利することは叶わなかった。
似たような戦闘スタイルのゲブラーと模擬戦をしても、彼女が夜中の護衛を代わったとしても、この結末は変わらなかったのだ。
それから、甚爾は夏油たちの臭跡や足跡を追い、その道のりで黒井を殺して薨星宮に辿り着く。
そこで、甚爾に天内も殺され、夏油も決死の戦いを繰り広げたが……彼もまた、奮闘虚しく重傷を負って敗れた。
その後、甚爾は天内の死体を武器庫呪霊で回収し、盤星教本部にいる依頼主の下へ持ち帰ろうとする。
ところが、その道のりで彼は、赤い長髪の女と鉢合わせた。
「止まれ。お前、血の匂いがするな。何をやらかしてきた?」
「……お前には関係ねぇだろ」
そう言って、甚爾はゲブラーを軽く突き飛ばそうとするが、彼女はそれをひらりと躱す。
そして、ゲブラーは今度はミミックを取り出し、甚爾にその切っ先を向けて口を開いた。
「悪いが、関係大有りなんだ。もう一度聞く。何をやらかしてきた?」
「あ~あ、分かった分かった。答えりゃいいんだろ? 星漿体のガキを殺してきたんだよ」
「護衛はどうした」
「五条悟は殺した。呪霊操術の奴は死んでねぇはずだ。実のところ、俺はお前のことも知ってるよ。あいつらと一緒に、星漿体の護衛やってた女だろ? こんな所にいたんだな。けど、仇討ちには付き合わねぇぞ」
情報の開示による能力の底上げのためにも、甚爾はゲブラーの質問にそう答えた後、金にならない戦闘を避けるべく、その場から逃亡しようとする。
しかし、ゲブラーは甚爾の逃げ足に先んじてミミックを振り下ろし、その動きを牽制した。
これによって甚爾は、ゲブラーを倒さない限り、自らの逃亡が厳しいことを悟る。
何せ、これまでの相手とは違い、身体能力に大した差がないのだから。
「何故だ? こんな平和な世界で、人々が奪い合う必要のない世界で、何故奪う力を振るう?」
「ハッ。次はどんなことを聞くのかと思ったら、そんなことか。単なる仕事だよ。それ以上に何がある?」
甚爾の言葉に、ゲブラーは久しく思い浮かべていなかった、都市の有り様を思い出していた。
他人の窮状から目を背け、何よりも自分を優先するのが常識だった。
その癖、自身の窮状を無視した者には、呪いの言葉を吐く人ばかりだった。
誰もが、相手の痛みに背を向けたまま進んでいた。
そうしなければ、あのくそったれな世界で生きていくことなど出来なかったから。
だが、それは都市での話だ。
殆どの人々が、相手の痛みを直視できるこの世界で、自尊心と共に他人を尊ぶ心をも捨てた甚爾を、ゲブラーは逃がすつもりはない。
「私も、仇討ちは好きじゃない。怒りと復讐が受け継がれるだけだからな。だが、お前はこれからも仕事で人を殺して、苦痛を繰り返し生み出すつもりなんだろ? ……なら、誰かが止めないとな」
「そうか、残念だ」
「ああ、本当に」
そうして、甚爾は武器庫呪霊から五億円の刀を取り出し、ゲブラーと同様に武器を構えて戦闘態勢をとる。
呪いに満ちた世界で、呪力に頼らない者同士の戦いが今、幕を上げた。