赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです   作:書鳳庵カルディ

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第ニ章 0巻編
第16話 11年後


 本の中に入ったゲブラーが目を覚ましたのは、またしても呪術高専の敷地内だった。

 

 今回は前回とは違い、ゲブラーの呪力が四級呪術師として、高専結界に登録されたままになっている。

 そのため、例のアラームは作動せず、誰もゲブラーの下にやって来ることはなかった。

 

 それで、いつものように周囲の安全確認を済ませたゲブラーは、ひとまず呪術高専の職員室へ向かうことにする。

 何よりも、まずは自身の事情を知る大人、つまりは夜蛾に挨拶をすべきだろうと考えたからだ。

 しかし、そこでゲブラーが見たのは、とある人物の意外な姿だった。

 

「お前、もしかして五条か?」

「うん、そうだけど。どなたで……は? ゲブラー?」

 

 声をかけられ、椅子に座ったまま振り向いた五条は、ゲブラーの姿を見て驚愕の声を上げた。

 目に巻いた包帯をずらし、彼女の存在を直接六眼で確認するほどには、信じがたいことだったようだ。

 

「ああ、久しぶりだな。こっちの世界はどれぐらい経った? ずいぶんと見違えたじゃないか」

「そりゃどうも。取り敢えず、場所を移そう。人目のある場所じゃ話しづらいこともある」

 

 そう言った後、五条はゲブラーを連れて、人気のない呪術高専の物置部屋に入った。

 それから、彼は改めて口を開き、ゲブラーの質問に答える。

 

「え~と、ゲブラーが消えてからどれぐらい経ったかって話だよね。確か、大体11年が経ったはずだ。いつになるか分からないとは言ってたけど、戻って来るのがここまで遅くなるなんてね。その様子だと、そっちは大して時間が過ぎてないのかな?」

「その通りだ。長く見積もっても、こっちは10日間前後がいいとこだな。先に言っておくが、私もどうしてこうなったのかは知らないぞ。何せ、この世界に来たのはまだ二回目だからな」

 

 そう話しつつ、ゲブラーは頭の中で情報をまとめていく。

 その内容は、この世界の時間の流れ方についてだ。

 

(これで、本の中では時間の流れ方が違うのはほぼ確定だな。だが、その時間の流れ方の違いはどうなってるんだ? 兎にも角にも、情報が足りなさすぎる)

 

 ここまでで、ゲブラーは一旦思考を切り上げると、五条との会話に意識を戻した。

 

「それで、あそこにいたって事は、お前は教師になったのか?」

「そっ、我ながら似つかわしくないとは思うけどね。上層部の話は昔しただろ? あそこは呪術界の魔窟、馬鹿共のバーゲンセールだ。それをリセットするために、僕は強く聡い仲間を育てることを選んだんだ。上の連中を皆殺しにして、首をすげ替えただけじゃ変革は起きないからね。悠長だと思うかい?」

 

 五条の言葉に、ゲブラーは少しの間考え込む。

 そして、結論を出すと口を開いた。

 

「かつて私たちは、世界を変えようとして、数多の犠牲を積み上げて失敗した。これは経験則だが、結局のところ犠牲を強いた時点で、いつか手痛いしっぺ返しを食らう。だから、お前はそれでいい。余裕があるならなおさらにな。……それで、他の連中はどうした? 確か、私の事情を知ってるのはお前以外だと、夜蛾、夏油、硝子の三人だったな」

 

 ゲブラーは自身の暗い記憶を誤魔化すように、五条にそう質問を返した。

 ところが、今度は心なしか五条の顔つきが暗くなってしまう。

 

「夜蛾先生は順当にここの学長になったよ。硝子は、反転術式を生かして医師をやってる。夏油は……呪詛師に堕ちた。百を超える一般人を殺して、呪術高専を追放された」

「……そうか。優しい男だったんだがな」

「術師だけの世界を作るんだって言ってたよ、術師のために。そうすれば、呪いが自然発生することは無くなるんだってさ」

「お前とは違う道を選んだわけだ」

 

 五条が口にする衝撃の事実を、ゲブラーは一つ一つ咀嚼し、飲み込んでいく。

 

 それは、ゲブラーにとってはありふれた事だった。

 優しさゆえに葛藤し、それを乗り越えた者も、結果的に狂った者も、彼女は山のように見てきている。

 ただ、都市では乗り越えた者だけが生き残り、狂った者は淘汰されるというだけの話。

 

 だから、この世界を生きる五条に、ゲブラーはうんざりした顔でこう言った。

 

「もはや争うのが避けられないのなら、その痛みから目を背けずに、夏油を殺してやろう。苦痛を繰り返さないために、痛みに背を向けたまま進まないようにな。ともかく、私はお前の夢に賭けるよ。血を血で洗うのはもう御免だ」

 

 この言葉に、五条はほんの少し安堵し、ゲブラーの珍しい表情を見てにやりと笑った。

 

 それから、二人は伏黒甚爾の息子、伏黒恵の話など、ゲブラーがいない間の話を続けるのだった。

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