赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです 作:書鳳庵カルディ
(さて、どうしたもんかな。イオリ*1に面倒を見てもらった経験はあるが、弟子をとった経験はないからなぁ)
一行が高専のグラウンドへと向かう中、ゲブラーは一人脳内でそんな事を考えていた。
しかし、特に思いつく事もないので、仕方なく彼女はおぼろげなイオリとの記憶を頼りに、何とか役割を果たそうとする。
「取り敢えず、訓練の前に軽くそれぞれの戦闘スタイルについて聞いておく。まずは真希から」
「呪具を使って戦う。いつも使ってるのは薙刀だ」
「私と似たようなスタイルだな。次、パンダ」
「基本的には肉弾戦が得意だ。メリケンサックも使うぞ」
「巨体を生かした戦い方をするわけだ。最後、狗巻」
「おかか」
「……ああ、語彙がないんだったな。五条、説明しろ」
初回の訓練ということで、付いて来た五条に対し、ゲブラーは雑にそう聞く。
「呪言っていって、言葉に呪力を込めて放つことで、相手に言葉の内容を適用させる術式が使えるよ。格上には使いづらいけど」
「音を使う中距離タイプか。喉を消耗するのは痛いな、呼吸の管理が大変そうだ」
そう言いつつ、ゲブラーは本からとあるE.G.Oを取り出した。
十字架の中央に、いばらの冠を被った頭蓋骨が付いている不気味な見た目のメイスだ。
それを見て、真希はゲブラーに質問をする。
「何だそれ? 呪具の類か?」
「"懺悔"という名前のE.G.Oだ。E.G.Oっていうのは、呪霊にも効く特殊な武器程度に覚えておけばいい。これは相手の肉体ではなく、精神にダメージを与えるタイプのE.G.Oでな。大して強くはないんだが、相手を傷つけたくないときには使いやすい。最初にお前たちの実力を測る。三人まとめてかかってこい。遠慮はいらないぞ」
グラウンドに到着し、懺悔を右手に構えてそう話すゲブラーに対して、真希と狗巻は正面に、パンダは後方に陣取る。
あの誰もが認める最強の術師である五条悟が、その強さを認めた人なのだ。
出し惜しみができる相手ではない事は、全員が理解していた。
「合図は無しだ。好きなタイミングで始めろ」
ゲブラーがそう言って、少し間が空いた後に、三人は攻撃を仕掛けた。
『動くな』
真希がゲブラーの胸に突きを繰り出した瞬間、狗巻は呪言で彼女の動きを止めようとする。
しかし、ゲブラーは一瞬止まった後すぐに動き始め、重心の低い前傾姿勢になり、攻撃を躱すと同時に真希の懐に突っ込んだ。
これによって、ゲブラーの背中に放たれていたパンダの殴打も自然と回避されてしまう。
真希は右手で薙刀を引き戻しつつ、左足の蹴りでゲブラーと距離をとろうとするが、ゲブラーは逆に左手で薙刀を掴んで引き、真希の体勢を崩した。
さらには、後方のパンダに引き戻した薙刀の穂先が迫っており、パンダは追撃を中止するはめになる。
狗巻は予想以上の反動に、呪言を連発できない状態だ。
続いて、姿勢を崩した真希の脇腹に、ゲブラーは右手の懺悔を一撃叩きこむと、すぐさま反転してパンダの追撃に応戦する。
パンダは両手を使った殴打のラッシュで、ゲブラーに攻撃しようとしていたが、右手のパンチは彼女の左手で掴まれ、左手のパンチは懺悔によって弾かれた。
(この人、本当に人間なのか? パワーもスピードもおかしいだろ!)
『止まれ』
パンダが内心で文句を言う中、狗巻はなんとか二回目の呪言を使用する。
これによって、ゲブラーはまたしても一瞬停止するが、やはり効果はほんの一時だ。
この間に、パンダは掴まれていた右手を抜く事しかできなかった。
ここに来て、攻守の立場はついに逆転し、パンダにゲブラーの懺悔が振り下ろされる。
咄嗟に、パンダは両腕をクロスさせてそれを防ごうとするが、この武器相手にそれは悪手だ。
懺悔は、肉体ではなく精神にダメージを与える武器。
身体で受けてしまえば、その防御に意味は無い。
最後に、反動で動けなくなっていた狗巻を、ゲブラーが懺悔で軽く一打したところで、この模擬戦は終了した。
「最初はこんなもんだな。流石に、そこまでひどくはない」
精神ダメージの影響で、頭を押さえながら倒れこんでいる三人を眺めながら、ゲブラーはそう話す。
一方で、それを見ていた五条は真希の方に近づくと、善意100%の顔でこう言った。
「ね? 強かったし学びがいあるでしょ?」
この空気を読まない