赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです 作:書鳳庵カルディ
第1話 出会い
気がつくと、ゲブラーは元いた世界では見慣れない森の中にいた。
それで、まず彼女は周囲の状況を確認しようとするが、それよりも重大な異変が自身に起きていることに気づく。
記憶の一部が、自分でも気づけるほど不自然に、すっぽりと抜け落ちていたのだ。
そこで、ゲブラーは周囲に危険がないことを手早く確認すると、仕方なく記憶の整理を始める。
(本の中の世界に来たってことは覚えてる。そして、その目的とこれからの行動方針も。だが……この本の世界自体に関する記憶がすっかり抜け落ちてるな。予習は許さないってことか?)
といったように、ゲブラーが考えを巡らせていると、二人分の足音が近づいてくるのが彼女の耳に入った。
ゲブラーとしては、ロクに状況把握もできていない状態で騒ぎを起こしたくないのだが、どうやらそれは叶わぬ願いらしい。
現れたのは、上半身お揃いの黒い制服を着た二人の青年だった。
一人は、白髪で黒いサングラスを着けた美形の男。
もう一人は、長めの黒髪をお団子状にまとめ、左側に前髪を一房垂らすという特徴的な髪形をした男だ。
「呪術高専の敷地内に侵入するなんて、いい度胸してるね、オバサン。何しに来たの? 見た感じ、呪力は一般人並みだし、術式も持ってないみたいだけど」
「悟、侵入者とはいえ初対面の女性をそんな風に呼ぶのはよくないよ。敵ならともかく、まだそうと決まったわけじゃないんだから」
彼ら、つまりは五条悟と夏油傑が言うように、ゲブラーの今の立ち位置は侵入者だ。
運が悪かったのか、はたまた必然か、彼女の出現場所は東京都立呪術高等専門学校の結界内だったのである。
その為、結界の機能であるアラートが作動してしまい、たまたま授業中だったこの二人が飛んできたのだ。
「悪いが、どちらかまず私の状況を教えてくれないか? 自分でも記憶が混乱しているんだ。信じてもらえないかもしれないが、この場所の施設や人々に危害を加えるつもりはない」
二人の"侵入"という発言で、自分が何をやらかしたのかをおおよそ把握したゲブラーは、自らの意思を示すためにそう言った。
一方で、一番使い慣れたE.G.Oであるミミックをいつでも取り出せるように、彼女の左手はコートの外ポケットにあるE.G.Oがしまわれた本に伸びている。
非が自分にあるとはいえ、黙ってやられるつもりは、ゲブラーにはない。
「ん~どうしよっかな。暇つぶしで来ただけだから、侵入者への対応とか知らないし。敵ならボコボコにするだけでよかったんだけど」
「取り敢えず、拘束でもしておいたらいいんじゃない? 色々言ってるけど、顔に切り傷あるから一般人じゃない可能性の方が高いよ」
ゲブラーの顔を見て、夏油はそう言い放つ。
それ聞いて、もはや戦闘は避けられないかと、ゲブラーがミミックを取り出そうとしたその時。
青年には似つかわしくない、野太い男の声が響いた。
「コラァ! 悟、傑、補助監督もそうだが大人を置いて行くなと何度言わせるつもりだ!」
現れたのは、厳つい容姿をした壮年の男、夜蛾正道だ。
アラートが鳴り、授業をほっぽり出した二人を追いかけて来たらしい。
もっとも、主な目的は侵入者への対処であることに変わりはないだろうが。
「そこのあんた、こいつらが失礼なことを言ってすまない。進んで敵対する意思はないようだが、天元様の結界の中に出現してしまった以上、高専で最低限の話は聞かせてもらう。いいか?」
「ああ、その程度なら構わない」
敵地のど真ん中に連れていかれる可能性もあったが、ゲブラーは提案を了承した。
何せ、話を聞かれるということは、話を聞くチャンスもあるということなのだから。
「私の名前はゲブラーだ。お前らは?」
「俺は夜蛾正道だ。こいつらは……五条悟と夏油傑。俺が担任する生徒だ」
叱られて不貞腐れている二人に代わって、夜蛾は仕方なくそう言った。
こうして、五条と夏油の二人はやや不満そうにしていたものの、一行は大人しく呪術高専の校舎へと向かうのだった。