赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです 作:書鳳庵カルディ
あの後、反動でダウンした狗巻を除き、復活した真希とパンダの二人は、加減をし始めたゲブラーと何回か模擬戦をした。
それで、二人の課題を概ね把握したゲブラーは、訓練時間の終わり際に生徒三人を集めると、反省会を開いた。
「ご苦労だった。取り敢えず、初回の訓練はここら辺にしておこう。私もやるべき事があるから、頻繁にとはいかないが、一週間に一度は訓練に顔を出すつもりだ。次回からは、今回の模擬戦を踏まえて分かった、お前たちの課題解決をする。最初と同じく、まずは真希から話すぞ」
「あぁ……分かった」
ゲブラーとの連戦で、すっかりへばってしまった真希は、かろうじてそう返事をした。
ちなみに、パンダも同様の様子だ。
「真希は武器の取り回しに関しては及第点だが、立ち回りが甘い。なまじ身体能力が高いからか、時々無茶な攻め方をする。薙刀を使うなら、もっと厭らしく距離を保って戦うべきだ。それと、もっと躱されたときに隙を晒さないような牽制技を増やした方がいい。勝ちを急がずとも、懐にさえ入られなければ、そう簡単には負けないはずだ。次、パンダ」
ゲブラーはそう言うが、気力が残っていないのかパンダからの返事はない。
しかし、一応話は聞いているようだ。
「根本的な話になるが、パンダは防御手段が少ないな。毛皮で打撃は防げるかもしれないが、刃物や今回使った懺悔のような武器はどうにもならないぞ。その巨体じゃ回避もキツいだろ。どうにかして、攻撃を受ける手段を確保するのを勧める。ガントレットの類を使うとかな。最後、狗巻」
二人とは違って、喉の休息をとっていた狗巻は、身体の調子自体は良好だ。
それでも、迂闊に喉は使えないため、彼は頷いてゲブラーに返事をした。
「正直、狗巻の術式は私のような相手とは相性が悪い。だが、一瞬でも私を止められたのは確かだ。タイミングさえ正確に合えば、格上にも有効だろう。呪力や術式には疎いから、あまり具体的な助言はできないが、呪言の発動タイミングの精度が伸びしろになるはずだ。……反省会はこれで終わりだ。私について気になる事があるなら、そこの五条か夜蛾、硝子に聞くといい。私は自分の役目に戻る」
そうして、訓練を終えたゲブラーは、高専のグラウンドから去って行ってしまった。
一方で、残された真希は持ってきていた水筒の水を一口飲むと、地面にへたり込んだまま五条に質問をする。
「あの人何者なんだ? いくら呪力がなくても、四級呪術師には留め置けないレベルの強さじゃん」
「異世界の人なんだってさ。……一応言っとくけど、本当だよ? 信用できないなら、夜蛾学長に聞いてもいい。自分の世界を変えるために、この世界にヒントを探しに来たって言ってたよ。向こうの世界では元特級相当の階級で、赤い霧って呼ばれてて、本当に伝説的な存在だったみたいだね」
「……マジか。呪力も術式もなしで、本当に特級レベルの強さなんだな」
真希は自分の手を見つめながら、あれだけの力が手中にあれば、禪院家を見返せるだろうかと夢想する。
どういう経緯かは知らないが、急に五条がゲブラーを連れて来たのは、まず第一に自分のためだろうというのは、真希にも想像のつく話だった。
「真希は強くなれるよ。呪力がなくても、術式がなくても。目標も先生も用意したし、あとは駆け上がるだけだ。期待してるよ?」
そう言い残して、五条もまたグラウンドから去って行く。
こうして、ゲブラーの担当する初めての訓練の時間は終わりを迎えた。
晩春の呪術高専の、とある一日の出来事だった。