赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです   作:書鳳庵カルディ

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第20話 転校生

 ゲブラーが呪術世界に戻って来てから、また一か月ほどが経過し、季節が初夏に移り変わった頃。

 呪術高専に、一人の転校生が入学することになった。

 

 その名も、乙骨憂太。

 特級過呪怨霊・折本里香に呪われ、秘匿死刑が決定しかけていたが、五条悟の提案により救われた青年だ。

 

 彼は入学初日に、真希と共に呪術実習で呪霊を祓った後日。

 他の一年生たちと同様に、ゲブラーの担当する近接戦闘の訓練に参加していた。

 

「他の誰かから聞いてるかもしれないが、近接戦闘の講師をしてるゲブラーだ。五条から、お前の話は聞いてる。取り敢えず、基礎から徹底的にやる事になるだろうが、よろしく頼む」

「あ、はい。乙骨憂太です。よろしくお願いします」

 

 長身に顔の傷で、威圧感のあるゲブラーにやや怯えながら、訓練前の集合時間に乙骨はそう返事をした。

 もちろん、ゲブラーには威圧感を出しているつもりはないのだが。

 

「そういえば、今はゲブラーさん何級なんだ? 四級呪術師のままじゃなくてもよくなったんだろ?」

「一級だ。五条の奴が言うには、あと二週間以内には特級にさせるつもりらしい。別に、私は階級なんてどうでもいいんだがな。……それはさておき、今日はせっかく四人になったから、二人のペアを作って訓練をするぞ」

 

 真希の質問に答えつつ、ゲブラーは続けてそう話した。

 彼女も、五条から頼まれたこの副業にはずいぶんと慣れてきており、今や講師としての姿にもさほど違和感はない。

 

「真希は乙骨と組んで、適当に戦いながら武器の扱いについて教えてやれ。狗巻はパンダとだ。出来る限り呪言無しで、近接タイプの攻撃をいなし続ける訓練をしろ。私は気になる事があったら声をかける。以上」

 

 そう指示を出して、ゲブラーは生徒たちに訓練の開始を促すと、自身はコートのポケットから一冊の本を出して読み始めた。

 その表紙には、心理学入門というタイトルが書かれている。

 現在、ゲブラーは都市を変えるためのヒントとして、この世界で研究されている心理学に目をつけているのだ。

 

 傍から見れば、講師としての仕事をサボっているように見えなくもないが、実際には思いのほか細かく訓練を見ているのを、元居た三人の一年生はよく知っている。

 

 どこかの白髪特級呪術師とは違い、ゲブラーは仕事に厳格だ。

 先ほど話した通り、気になる事があったらすぐに声をかける。

 

「狗巻。あくまでも、逃げるんじゃなくていなすんだ。基本は逃げでもいいが、パンダが攻撃をしてきたら、時々反転して足払いとかを仕掛けてみるといい。力の差があっても、多少は体勢を崩せる事がある。一度でも通せば、相手も反撃を警戒せざるを得なくなるから、後がかなり楽になるぞ」

「しゃけ」

 

 ちなみに、狗巻の相手をしているパンダはゲブラーのアドバイスを聞いて、ここ最近は籠手を使用している。

 巨体ゆえに、特注で作らざるを得なかったようだが、その分しっかりとフィットしているようだ。

 

(真希の方は……問題なさそうだな。格下相手というもあるだろうが、立ち回りがだいぶ安定してる。乙骨はまだまだだが、初心者だからな。武器の扱いもままならないのに、立ち回りの話をするわけにもいかないか)

 

 もう一方の、真希と乙骨の訓練を見て、ゲブラーは頭の中でそう考えをまとめた。

 

 真希は薙刀代わりに長い棒を、乙骨は刀代わりに竹刀を使っているのだが、真希はリーチを生かして戦い、乙骨を絶対に近寄らせない。

 乙骨が距離の詰め方を分かっていないのもあるが、自分の懐に敵を入らせない薙刀らしい戦い方に、真希が慣れてきたのも十分に感じられる。

 

 そんな風に、訓練を主導するゲブラーの隣に、五条はふらりと現れた。

 

「どう? 皆どんな感じ?」

「乙骨はまだ分からんが、概ね順調だな。特に、私に影響されたのか真希からは相当な熱意を感じる。……お前、こうなるのを分かっててこの仕事頼んだだろ」

「まぁね。生徒思いのいい先生でしょ?」

 

 いつも通りの軽薄な調子でそう言う五条に、ゲブラーはもはや安心感すら覚える。

 

 ゲブラーにとって、乙骨憂太の入学は、ほんの些細なイベントに過ぎなかった。

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