赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです 作:書鳳庵カルディ
乙骨憂太が呪術高専に入学してから、三か月が経った頃。
いつものように、近接戦闘の講師をしていたゲブラーの訓練時間の終わり際に、五条悟はひょっこりと現れた。
主な用事として、五条は狗巻が指名された任務に乙骨もついて行くように伝えたが、何やらゲブラーにも用があるようだ。
「僕、今ちょっと忙しくてさ。さっき話した狗巻が指名された任務の引率出来ないんだよね。だから、ゲブラーが代わりに引率やってくれない?」
「追加報酬は? もう金はいらないぞ」
「五条家に伝わる過去に発生した呪いの記録の写し、なんてどう? そういうの、ゲブラー知っときたいでしょ」
「……はぁ。分かった、引き受ける。しかしお前、よくもそうポンポンと相伝の情報が出てくるな」
呆れた様子で、ゲブラーは五条にそう言った。
実はこれまでにも、五条は実家に伝わる呪い関連の情報と引き換えに、ゲブラーに個人的な仕事を任せていたりする。
多忙な五条にとって、自身を除けば最強といっても過言ではないゲブラーは、自分の仕事を丸投げできる非常にありがたい存在だった。
もっとも、今となってはゲブラーも特級になったため、予定がままならないときもあるのだが。
そうして、ゲブラーは狗巻、乙骨と共に、任務の目的地である商店街へと向かった。
「五条が言うには、狗巻だけで十分務まる任務らしい。私は基本的に手を出さないが、手に負えなさそうだったらすぐカバーに入る。安心して任務に臨むといい」
商店街、伊地知によって降ろされた帳の中で、ミミックを持ったゲブラーは狗巻と乙骨にそう話す。
この話を聞いて、二人はおおよそ安心したが、ほんの少し残念感も覚えていた。
普段は見られない、ゲブラーの実戦での戦いが見られるかもしれないと思っていたのだ。
その後、ゲブラーは予定通り、狗巻が低級の呪いの群れを呪言で祓うのを見守る。
ところが、帳が上がらず予定外の呪霊が現れたところで、彼女は自身の出番が来た事を理解した。
一行の背後に現れたのは、大きな鼻に毛むくじゃらのずんぐりとした身体を持ち、霊長類のような両足を組んで両腕を広げ、宙に浮いた奇妙な呪霊だ。
その呪霊が、何やら片手で印を組んで、狗巻と乙骨を攻撃しようとしたところで、ゲブラーは前にいた二人を両手で突き飛ばした。
「ゲブラーさん!」
「予定外の相手だ、私がやる。下がってろ」
振り返り、呪霊の姿を見定めながらゲブラーはそう話す。
一方で、頭の中では呪霊の情報をまとめていた。
(狗巻と乙骨への攻撃痕を見るに、場所を指定して押し潰すような攻撃をするみたいだな。それと、振り返るときにチラッと見えたが、片手で印を組んでいた。予備動作か? 何にせよ――)
「私を捉えるには遅すぎるな」
ゲブラーに睨まれた呪霊は、その威圧感に気圧されて、慌てて印を組み彼女に攻撃を仕掛ける。
その攻撃は、ついさっきまでゲブラーがいた場所に丸い穴を開けたが、彼女を捉えるにはあまりにも鈍すぎた。
印を組むのを見て、一瞬で呪霊に近づいたゲブラーはミミックを上から振り下ろし、呪霊を難なく真っ二つにする。
純然たるスペックの差による、容赦のない一撃だ。
「すご……」
「いや、まだだ。そんな場所にいて、私の目から逃れられるとでも思ってたのか? さっさと降りて来い、夏油」
「……まさか、ゲブラーさんがついて来るとは思ってませんでしたよ。噂でこの世界に戻って来てたのは知ってたんですがね」
商店街の屋根を支える柱に座り、ゲブラーたちの様子を見ていた夏油は、観念して地上に降りてくる。
「知り合い、なんですか?」
「ああ、だが敵だ。百を超える一般人を殺害して、呪術高専を追放されたらしいな?」
「えぇ、その通りです」
ゲブラーの言葉とその返事を聞いて、乙骨は瞠目した。
目の前の穏やかな顔をした法衣を着た男が、そのような凶悪犯罪者だとは思わなかったからだ。
今や特級同士となった二人は、この場で予想外の邂逅を果たした。