赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです 作:書鳳庵カルディ
これまで、ゲブラーは夜蛾学長に便宜を図ってもらい、呪術高専の学生寮に住んでいた。
しかし、それもそろそろ終わりにすべきだろうと、彼女は任務帰りの車に乗りながら考える。
特級呪術師として働き、五条から講師としての給料も受け取っているゲブラーには、現在それなりの額の貯金があった。
それに戸籍等の重要な書類も、この世界で生活していく上で必要だろうと、補助監督の面々に助けられながらなんとか作成できている。
これ以上迷惑をかけないためにも、ゲブラーは高専から引っ越す事を決意した。
「という事でだ。協力してくれ、伊地知。何せ私はこの世界の感覚に疎い」
「え。まぁいいですけど」
(五条さんといいゲブラーさんといい、私の事使いすぎじゃありません?)
あの後、高専の職員室に向かったゲブラーに話しかけられた伊地知は、向き合っていたパソコンから目を離して返事をした。
内心では多少の不満はあるものの、彼は決して口には出さない。
五条ほどの無茶ぶりではなく、至って単純な調べ物で済みそうなのが、伊地知にとっての救いだろう。
「それで、希望条件はどんな感じですか?」
「場所はここの近辺がいい。最低でも週に一回は、ここに来ないといけないからな。後はまともな生活環境さえあれば問題ない」
「予算のほどは?」
「これだけだ。それなりに余裕はある」
そう言って、ゲブラーは自分の預金通帳の金額を見せる。
それで、伊地知は特級呪術師は流石に稼いでいるなと思いつつ、五条悟名義の入金からそっと目を反らした。
藪をつついて蛇を出す予定は、伊地知にはない。
それから少しして、条件に見合った物件をネットでいくつか見つけた伊地知は、それらの物件の資料を印刷してゲブラーに渡した。
「時間のあるときに不動産会社に行って、これらの物件の内見に行ってみて下さい。どれか一つは気に入る物件があると思います」
「分かった、協力感謝する。次に出張があったら、何か差し入れを買ってくるよ」
その後、ゲブラーはなんやかんやで希望に合った物件を見つけ、都内のとあるマンションの一室に引っ越した。
高専から運ぶ荷物は大してなかったが、新しく家具を買い揃えるのに、ゲブラーは思いのほか苦労した。
物資の乏しい都市の裏路地で暮らしていたゲブラーにとって、現代社会は買える物の選択肢が多すぎたのだ。
それでも彼女は、諸々の買い物と手続きを全てやり遂げた。
(ここまで苦労するものだとは思わなかったな。だが、目的は果たせた)
そう考えながら、ゲブラーはソファに座って煙草に火を点ける。
最低限必要な家具や家電と本棚しかないため、部屋の中の光景はなんだか殺風景だ。
気が向いたらもう少し物を増やしてみてもいいかもしれないと、ゲブラーは思う。
(出張先の土産物でも飾るかな。この世界は都市に比べて広大で、物も文化も豊富だ。酒と煙草以外の息抜きがあってもいいだろ。あくまで気が向いたらだが)
少しして、煙草を一本吸い終わったゲブラーは本来の仕事のために、まだ内容を理解し終えていない心理学の本を読み始めた。
まだまだ、先の道のりは長そうだ。