赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです 作:書鳳庵カルディ
あの後、呪術高専の術師と補助監督は会議室に集まり、今後の動きについての話と情報の共有を行っていた。
そこで、ゲブラーは自身の知る人物、イオリについての話を始める。
「イオリは、都市で紫の特色を付与された紫の涙と呼ばれるフィクサーだ。私を含めた複数名の特色フィクサーの師でもある」
「目的は? というか、どうやってこの世界に来たの? 一応、ゲブラーのいた都市の住人なんでしょ?」
「ああ。だが、イオリは傍から見れば時空を自在に移動できるような能力を持っている。どんな方法であれ、この世界に来れていてもおかしくはない。本人曰く、そこまで便利な能力じゃないらしいがな。ざっくり言えば、数多の並行世界を観測して、望めばその並行世界に行ける能力だ」
五条の質問に、ゲブラーはひとまずそう答えた。
とはいえ、イオリの能力は本人ですら説明しきれないほどに複雑だ。
正確なところは、ゲブラーも把握していない。
一方で、イオリの目的は実にはっきりとしている。
「イオリの目的は、息子に会える世界を探すことだ。何がどう繋がってるのかは知らないが、彼女は今回みたいに突拍子もない行動をして、息子に会える世界に辿り着こうとしている。ともかく、戦いが避けられないのは確かだ。イオリは数多の並行世界を見た上で、この選択をしたんだろうからな」
「どれぐらい強い?」
「今の私でよくて五分だ。昔の全盛期*1ならともかく、今の私だと気を抜いたら負ける。刀と大剣を扱う技に優れたフィクサーだ」
ゲブラーの言葉に、一同は深刻な表情を浮かべる。
特級と同じレベルの実力者となれば、対応できる人員が非常に限られてくるからだ。
現状だと、五条かゲブラーをぶつける他ないだろう。
その後は、伊地知が夏油についての説明を行い、夜蛾学長が総力戦に向けて各所に協力を要請する事を決定したところで、会議が終了した。
後日、百鬼夜行が行われる前にいつもの近接戦闘の訓練に顔を出したゲブラーは、休憩中の乙骨に話を振った。
「夏油の話、覚えてるか?」
「まぁ、はい。難しい話でしたけど」
「正直なところ、お前はどう思った?」
「……夏油さんの望む世界に、ゲブラーさんや真希さんはいないんですよね」
「そうみたいだな。あいつが言うには、私のような呪力のない猿はいらないらしいし」
「なら、僕は夏油さんには協力できないです。お世話になったゲブラーさんや、友達の真希さんを無下にするなんて事はできませんから」
「……そうか」
ゲブラーは、乙骨に迷いがないか確かめるためにこんな問答を行っていたのだが、この分なら問題なさそうだと考える。
まだ優しい方ではあるが、イオリは都市を生き抜いてきた都市の人間だ。
自分の目的を達成するためなら、人の感情を利用するなど日常茶飯事だろう。
容易く心を揺さぶられてしまっては困るのだ。
「百鬼夜行で、私たちの敵になる夏油とイオリは相当な実力者だ。基本的には逃げた方がいいだろうが、万が一戦わなければならなくなった時のために一つ言っておく。お前は恐らくイオリに相性が有利だ」
「え? どうしてですか?」
「イオリの武器は業物だが、E.G.Oじゃないんだ。呪霊には効かない可能性の方が高い。里香を前面に押し出して戦えば、最低限足止めぐらいはできるかもしれん。あくまで最後の手段だがな。基本的には、私と五条に任せておけ。間違っても自分から戦いに行こうとするなよ?」
そう言って、用が済んだゲブラーは休憩中の乙骨の下を離れて、まだ訓練中の一年の方に歩いていった。
乙骨は一人、自分ができる事を胸に刻んだ。