赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです 作:書鳳庵カルディ
百鬼夜行当日、真希と乙骨は休講なのにも関わらず、呪術師たちが出払っている呪術高専の教室内にいた。
お互い、やる事もなく落ち着かなかったからだ。
そこで、真希は数か月の間同級生として過ごして打ち解けた事もあり、乙骨に自身の禪院家とのしがらみを話した。
それに対する乙骨の素直な励ましの言葉に、真希は照れと喜びがない交ぜになった感情を覚える。
ところが間もなく、そんな熱い感情に冷や水を浴びせるかのような非常事態が、呪術高専に発生した。
百鬼夜行で呪術師たちを新宿と京都に引き寄せている内に、夏油が高専に帳を下ろしたのだ。
夏油の目的はただ一つ、特級過呪怨霊・折本里香の奪取だ。
異常を察知した真希と、高専に侵入した夏油は、高専のとある広場で邂逅した。
「君がいたか」
「いちゃ悪いかよ。てめぇこそなんでここにいる」
「悪いが、猿と話す時間はない」
そう言って、夏油は人間のような口とムカデのような脚を持つ、芋虫型の呪霊を出現させる。
それから続けざまに、彼は呪霊と共に真希へと襲い掛かった。
(相手は徒手で格上だ。絶対に寄らせるべきじゃない)
頭の中でそう戦いの方針を決めた真希は、薙刀を両手で構えて敵を待ち構える。
そうして、最初に右前方から突っ込んできた夏油に、真希は薙刀を軽く突き出した。
これを、夏油はサイドステップで避けるが、真希もすかさず彼を追うように薙刀を右に振る。
それに対して、夏油は前に踏み込んで薙刀の棒部分を掴もうとするが、真希は反応して薙刀は振り続けながらバックステップを行った。
その結果として、夏油の法衣の袖が僅かに切れる。
バックステップによって、真希の薙刀を握る手がブレていなければ、夏油の肌も切れていただろう。
左前方から呪霊も近づいてきていたが、下がった事によって真希にとってちょうどいい間合いにいたため、続けざまに左に振られた薙刀の餌食となった。
この一連の出来事に、夏油は思わず眉をひそめる。
猿に構っていられるほどの余裕は、彼にはなかったのだ。
これ以上時間をかけたくない夏油は、今度は大量の呪霊を出して真希を追い詰めようとする。
具体的には、ぶよぶよの肥満児のような呪霊数体に、大量の巨大な百足型の呪霊だ。
これに対して真希は、下がりながら呪霊を一体一体着実に始末していき、捌ききれなくなった場合は付近の塀の上に避難して、登ってくる呪霊を叩き落としていった。
順調に戦っていた真希だったが、夏油とてこのままやられるほど無能ではない。
彼は呪霊の裏に隠れて真希との距離を詰めると、隙を見て一瞬で飛び出した。
呪霊の処理に必死で虚を突かれた真希は、これによって夏油の接近を許してしまう。
夏油は顔面に向かって蹴りを放ち、真希はすんでのところでそれを左腕で防御した。
なんとか致命傷は回避したが、ダメージは重い。
力が入らないのか、真希の左腕はだらりと垂れ下がってしまっている。
片手では、薙刀を扱うのは少し厳しいだろう。
(クソッ、動けよ左腕! 私が終わるのはこんなところじゃねぇだろ!)
心の中で、真希は必至にそう叫ぶ。
ゲブラーとの訓練で、真希は確かに強くなった。
だがそれでも、禪院家を見返すには遠く及ばない。
呪霊操術という天賦の才を持つ夏油にも、結局は服に傷をつけただけだった。
……しかし、特級呪詛師夏油傑を、少しの間でも足止めしたというのもまた確かな事実だ。
その事実が、真希の運命を変えた。
(誰かが帳に穴を開けたな。……いや待て、この雰囲気は)
「遅かったか!」
「よく耐えたな、真希。反撃の時間だ。今度こそ、こいつをしっかりぶっ潰そうか」
帳をぶち抜き、あらゆる障害物を飛び越えて、最短距離で夏油と真希の間に現れたゲブラーは、力強く敵を見据えてそう言った。