赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです 作:書鳳庵カルディ
本来ならば、ゲブラーは他の呪術師たちと共に、新宿で百鬼夜行に対処する予定だった。
しかし、伊地知の報告によって乙骨が菅原道真の子孫だと知り、夏油が姿を見せない事を訝しんだ五条が、ゲブラー、狗巻、パンダの三名を呪術高専に送り込んだのだ。
それで間もなく、狗巻とパンダも真希の近くに合流してきた。
広場にて、ゲブラーと真希たち三人は、夏油と睨み合う形になる
「何事もそう思い通りにはいかないもんだね」
「ああ、お互いにな。あんたもそろそろ姿を見せたらどうだ?」
ゲブラーが夏油の傍にある塀に向かってそう言うと、その塀の裏から広場にイオリが出てくる。
どうやら、少し前からここに待機していたようだ。
「おっと、もうバレちゃってたか」
「ずっとそこにいたのか? 君がいたなら、とっくにあの猿は殺せていたのに」
「私がするのはあくまで手伝いだよ、小僧。格下を仕留めるぐらい自分でやりな。約束通り、赤い霧の相手はさせてもらうけどね」
ゲブラーを見据えて、イオリはそう言った。
あまり良くない状況に、ゲブラーは冷や汗を浮かべる。
「お前たちはなんとか夏油の相手をしろ。私はイオリの相手をする。できたらサポートはするが、期待はするな。私も余裕がない」
ゲブラーの言葉に、三人は頷いて返事をした。
夏油と一年生三人を戦わせるのは分が悪いが、イオリとやらせるよりはマシだというのがゲブラーの判断だ。
何せ、イオリを初見で相手にするのはかなり厳しい。
というのも、彼女の戦い方は少し特殊なのだ。
イオリは戦闘中、自身の戦闘体勢を切り替えて戦う。
具体的には、斬撃、貫通、打撃、防御という四つの体勢だ。
それぞれ別人のような戦い方になるため、対処の方法も変えなければならない。
その点、ゲブラーは図書館でもイオリと戦っていたので好都合だ。
「図書館の時と同じように打ち倒す」
「あの時は一対五だったけど、今回は二対四だ。同じようにはいかないよ、ゲブラー!」
そうして、ゲブラーはイオリと、一年生三人は夏油と対峙しての戦闘が始まった。
最初、イオリは腰の片手剣を抜く。
つまりは貫通体勢だ。
これを理解した上で、ゲブラーはミミックを持ちイオリに近づく。
接近してくるゲブラーに対し、イオリは洗練された片手剣の突きを何度も放った。
その突きを、ゲブラーは斬撃で一つ一つ丁寧に弾きつつ、下がるイオリを追う。
イオリとしては、ゲブラーをあまり近づけさせたくなさそうだ。
(技の洗練度は未だにイオリの方が上だ。だが、力と速さなら私の方が勝るな。近距離のぶつかり合いなら勝てるか?)
そうゲブラーが考えている内に、イオリは武器を刀に持ち替える。
今度は斬撃体勢だ。
ところが、今回イオリはゲブラーの方には向き合わず、一年生三人の方へと走る。
(クソッ、私の相手をするとか言ってた癖にこれか!)
内心でゲブラーは、イオリの行動にそう悪態をついた。
イオリの目的は分かり切っている。
一年生を守るために、無理をするゲブラーの隙を突くつもりなのだ。
それでも、ゲブラーとしては守らざるを得ない。
夏油の方に行くのも手だが、そうすると一年生たちが本当に殺されかねない。
ぎりぎりでイオリに追いついたゲブラーは、その背に素早くミミックを振り下ろす。
対して、イオリは反転して刀でその攻撃を受けた。
ややイオリの方が苦しそうではあるが、鍔迫り合いの形になる。
「結構熱心に先生をやってたみたいだね?」
「……戦いでお喋りをするつもりはない」
ちらりと後ろで戦う一年生たちを見て、話すイオリにゲブラーはそう返事をする。
特級相手にしては善戦しているが、一年生三人は見るからに苦しそうだ。
パンダの籠手はボロボロになっていて、狗巻は苦しそうに喉を抑えており。
真希は相変わらず右手だけで薙刀を持って戦っている。
対して、夏油は特級呪具の三節棍、游雲を武器庫呪霊から取り出していた。
それから、ゲブラーはイオリに猛攻を仕掛ける。
後ろの一年たちに手を出されたくないのと、距離を離されないようにするためだ。
この斬り合いによって、お互いの身体に数々の切り傷が出来る。
強いて言うならゲブラーの方が優勢だったが、またもイオリが体勢を変更する。
両手剣を持ち出した防御体勢だ。
この体勢になってからは、イオリは回避と両手剣による防御に徹する。
そんな状況が少し続いた時、猛攻による疲れから生じたゲブラーの一瞬の隙を、耐えに徹していたイオリは見事に見抜いた。
両手剣のまま、彼女は体勢を打撃体勢に移行させ、大技の発動準備をする。
その名も幻影乱舞。
周囲の敵の間を高速で駆け巡り、斬撃、打撃、刺突攻撃をそれぞれの対象に行う全体攻撃だ。
もちろん、イオリは後ろの一年生たちも幻影乱舞の対象に入れている。
ゲブラーはイオリが準備している事に気づいたが、それを止めるにはもう遅すぎた。
「不味いっ、お前ら下がれ!」
ゲブラーがそう叫んだ直後、紫色の閃光が戦場に煌めいた。