赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです 作:書鳳庵カルディ
イオリはゲブラーと一年生たちの間を高速で駆け巡り、武器を持ち替えてそれぞれに斬撃、打撃、刺突攻撃を行った。
元より、イオリと対峙していたゲブラーは、この幻影乱舞をなんとかガードする事ができる。
だが、ただでさえ苦しい夏油との戦いを強いられていた一年たちには、そんな事は不可能だ。
元々ボロボロだった一年生たちの身体は、攻撃を受ける度に紙切れのように折り曲がり、くしゃくしゃになった。
後に残ったのは、手足の一部がなくなった彼らの身体が、血まみれで倒れ伏している光景だ。
皆死んではいないが重体で、いつ命の灯が消えてもおかしくはない。
この有様に、ゲブラーは静かに感情を燃え上がらせる。
そうして、E.G.O発現の条件はついに満たされた。
身に着けていたコートは赤黒く炎のように揺らめき始め、ゲブラーの全身は黒い機械的な鎧に覆われる。
赤い霧の顕現だ。
そんなゲブラーは真っ先に、目の前にいるイオリに向かってミミックを振ろ下ろす。
イオリは両手剣でそれを受けるが、大技の直後で消耗している事もあり、見るからに押され気味だ。
しかし、彼女は一人で戦っていたわけではない。
一年生たちの相手をしなくてもよくなった夏油が、すぐさまイオリの加勢に入った。
怒りで視野が狭まっていたならば、ゲブラーはこの攻撃に反応できなかっただろうが、彼女はこれに素早く反応し、一旦バックステップで夏油とイオリから距離をとる。
ゲブラーは怒りに苛まれながらもそれに呑まれず、冷静に戦う術をよく知っている。
そこにちょうど、明らかな異常事態に気づいた乙骨がやって来た。
周囲の惨状に動揺し、初めて見るゲブラーの姿に困惑しつつも、乙骨は彼女に話しかける。
「ゲブラーさん、なんですか? どうして、こんな――」
「細かい話は後だ。仲間を助けたいなら、生き残りたいなら刀を構えろ。……敵は見えるな?」
「っ、はいっ」
にじみ出た涙を拭い、対峙する敵をはっきりと捉えた乙骨は、ゲブラーにそう返事をする。
そして、覚悟を決めた。
「来いっ、里香!!」
かくして、特級過呪怨霊・折本里香は二度目の完全顕現を果たす。
これで、こちらも向こうも特級一人に特色一人。
階級的には互角の状態だ。
「ゲブラーさん、僕に時間をください」
「何をするつもりだ?」
「友達を助けます」
「……一分間だけ一緒に戦え」
短くそう言い切ると、ゲブラーは敵に突っ込んで行く。
それを見て、乙骨もそれに追随した。
「前の話は覚えてるな?」
ゲブラーの言葉に乙骨は無言で頷き、イオリの方に向かって走る。
そして、里香をイオリに向かって真っ先に突っ込ませた。
攻撃を受けたイオリは、両手剣で防御はするが反撃を行う様子はない。
ゲブラーと同様になぜか呪霊自体は見えるようだが、呪霊に反撃を行う手段は持っていないようだ。
これならば、乙骨はイオリとなんとか渡り合えるだろう。
一方で、ゲブラーは夏油に攻撃を仕掛ける。
はっきり言って、夏油はゲブラーとあまり相性が良くない。
いくら大量に呪霊を出しても、まともな相手にならないからだ。
それがE.G.O発現状態ともなれば、夏油は間違いなく苦戦を強いられる。
ゲブラーが振るうミミックの一撃目を夏油は游雲で受けるが、その威力を殆ど殺し切れない。
游雲を持つ手は衝撃で痺れ、夏油の身体は踏ん張り切れずに後退する。
そんな状態でゲブラーの追撃を受けれるはずもなく、夏油は仕方なく大量の呪霊を出して壁にした。
巨大なコガネムシのような見た目の雑魚呪霊たちだ。
一瞬でやられはするが、最低限の壁にはなる。
追い詰められた末の行動のため、致し方ない事ではあるが、E.G.O発現状態のゲブラーにこれは悪手だ。
というのも、他のE.G.Oと同様に、ゲブラーだけが発現できるこのE.G.Oには特殊効果がある。
この状態のゲブラーは敵を倒す度に、その力を増大させるのだ。
大量のコガネムシ型の呪霊を倒した今、ゲブラーの力は最高潮である。
そんなパワーアップ状態で、ゲブラーはミミックのチャージを開始する。
対峙する夏油に余裕はなく、チャージの邪魔をされる心配はない。
「乙骨下がれ! 後は私が抑える!」
そう叫んだ後、乙骨が下がったのを確認したゲブラーは逆に前に出て、大技を発動させる。
チャージによってサイズの増大した大剣ミミックを横に振るい、範囲内の全てを薙ぎ払う全体攻撃、大切断-横だ。
ゲブラーが放ったそれは、夏油とイオリを芯で捉えた。