赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです   作:書鳳庵カルディ

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第29話 結末

 土煙が晴れた時、辺りにはもはや夏油とイオリの姿はなかった。

 ただ、乙骨だけが広場に倒れ伏している。

 

 それを確認したゲブラーは、急いで逃げた夏油を追いかけようとするが、足に力が入らない。

 彼女の身体はボロボロで、もう限界を迎えていたのだ。

 これまでゲブラーを支えてきた赤い霧のE.G.Oも、既に解除されてしまっている。

 

 それでも、ゲブラーは不屈の精神で立ち上がろうとするが、それに待ったをかける者が現れた。

 

「そんな身体で何しようとしてるんだよ!」

「……真希か。私は夏油を追いかけるつもりだ。ここで逃がしたら、また私たちの前に立ちはだかるだろうからな」

「いい加減悟も来てるはずだ。そんなに急ぐ事ねぇって」

「高菜!」

 

 命の危機から回復してやって来た真希、パンダ、狗巻の説得に、ゲブラーは少し逡巡した後、ため息を一つ吐いてから膝をついた。

 それを見て、一年生三人はほっとした表情を浮かべる。

 

 ゲブラーとて、無茶をしている自覚はあった。

 五条に任せられるなら、それに越した事はないだろう。

 

 それから少しして、気絶していた乙骨もようやく目を覚ました。

 次々に乙骨へ声をかける一年生三人を、ゲブラーは複雑な気持ちで見守る。

 乙骨が、自身を生贄にした事を知っているからだ。

 

 一年たちの会話がひと段落したところで、ゲブラーも乙骨に声をかけた。

 

「よくやった。お前は宣言通り、しっかり友達を助けたわけだ。それに比べて私は、お前を助けられなかった」

「そんな事ありません! 僕がみんなを助けられたのは、ゲブラーさんが敵の相手をして、僕を助けてくれたおかげじゃないですか!」

「だが、お前が最後に追い詰められた責任は私にもある。……それで、呪霊と一緒に逝くだなんて約束をしたらどうなるんだ、乙骨」

 

 ゲブラーのこの言葉に、乙骨は「えーっと……」と言葉をにごし、一年生三人はギョッとした顔をする。

 

「お前それ死ぬって事じゃねーか! 何考えてんだ馬鹿!」

「ごめん。でも、そうするしかなかったから」

 

 真希が叫ぶのをよそに、乙骨は申し訳なさそうな顔をして、里香の方に近づいて行く。

 約束を果たす時が遂に来たのだ。

 ところが、里香は乙骨を冥土に連れて行きはしなかった。

 

 それどころか、逆に里香の方の姿が一瞬で変化する。

 その姿はまさに、人間だった頃の折本里香そのものだった。

 

「おめでとう。解呪成功だね」

 

 そう言ってパチパチと手を叩きながら、目に巻いていた包帯を外した五条は、崩れた塀の向こうからこちらに歩いて来る。

 

「来てたんだな、五条。夏油はどうした?」

「あいつはちゃんと片付けたから安心していいよ。残念ながら、あのイオリって人は見つからなかったけどね。まぁ、それはさておいて、今はちょっと乙骨の話をしようか」

 

 そう言われて、ゲブラーは乙骨と里香の方に視線を向ける。

 それから、五条は事の真相を話し始めた。

 

 乙骨が日本三大怨霊の一人、菅原道真の子孫であった事。

 里香が呪霊になったのは、乙骨が彼女に呪いをかけたせいだったという事。

 そして、主従関係が破棄された今、その呪いの解呪は完了したという事。

 

 全てを知って、これまでの全ての悲劇が自分のせいだと思って、乙骨は頭を抱えて泣いた。

 しかし、里香は呪霊として乙骨の傍にいた六年間が、生きている時よりも幸せだったと言って、乙骨の呪いを穏やかに肯定する。

 

 そんな二人のやり取りを今度、ゲブラーは心底穏やかな気持ちで見守れた。

 やり取りを終えて、里香があの世に行ってしまったのは少し残念だが、これはこれで真っ当な結末だろう。

 

 ゲブラーは、都市で悲劇に見舞われた数々の男女を思い浮かべながら、心の中で二人を祝福した。

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