赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです   作:書鳳庵カルディ

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第31話 記述、心理学

「二度目の出張、お疲れ様ゲブラー。今回は結構長かったわね」

 

 一度目の時と同様に、図書館の言語の階に帰還したゲブラーを、アンジェラはそう言って出迎えた。

 見慣れた景色に、ゲブラーは自分が思いのほか安堵しているのを感じつつも、アンジェラに返事をする。

 

「ああ、長い出張だったな。こっちの世界では何日経った?」

「三十日ぐらいね」

「それなら、前回と同じ状況か。私が本の中の世界で過ごしたのは大体十か月ぐらいだから、今回も向こうの世界では十倍の速度で時間が流れていたと考えれば、まぁ辻褄は合う」

 

 ゲブラーの言葉に、アンジェラは小さく頷いて賛同を示した。

 まだ試行回数は二回だけで、イマイチ信憑性には欠けるが、ひとまずはこの法則を信じておいてもいいだろうという判断だ。

 

「そういえば、私がまとめた本はもう読んだのか?」

「ええ、じっくり読ませてもらったわ。あの世界は、本当に私たちの世界とは何もかもが違うのね。理想の世界とは言えないけれど、比べ物にならないぐらいマシな世界。元々ある程度は本を読んで把握していたけれど、曲がりなりにも人々が協力し合っていて、ちゃんと歴史が残っているだなんて驚いたわ」

 

 アンジェラの言葉からも分かる通り、実は都市にはまともな歴史が残っていない。

 誰もがその日を生き残るのに必死だからか、後世に残された資料が少なく、歴史を調べようとする者もいないのだ。

 都市で昔の話といえば、大抵の場合は口伝である。

 

 都市を支配している頭ならば、何かしら記録を持っているのかもしれないが、言っても詮無きことだ。

 

「そうだな。そのおかげか、向こうの世界は様々な技術や学問が発展していた。おまけにどの知識も体系化されていたから、私でも色々と学べたよ。詳しい事は言われた通りまた本にまとめるから、それを後で読めばいい」

「ええ、そうさせてもらうわ。……それはそうとして、少しの間E.G.Oが入っている本を貸してもらってもいいかしら」

「ん? 大丈夫だが何をするんだ?」

「あなたが幻想体の力を借りられるようにするわ。今まで、図書館内で接待をしてきたのと同じようにね」

 

 アンジェラの言う図書館内での接待とは、図書館にやってきたゲストと司書の戦闘のことだ。

 その戦闘でゲブラーは、他の司書たちと同じように、図書館の本の中で眠っている幻想体という名の化け物の力を借りて戦っていた。

 

 向こうの世界でも、あの力が使えればかなり心強いだろう。

 

「それは助かるな。正直なところ、今の私はあの世界でずば抜けて最強とは言えなかった」

「そうみたいね。表向きは平和な世界なのに、あなたは随分物騒な人たちと関わってるみたいだから世話が焼けるわ。ともかく、私は帰ってこの本に幻想体のページを足してくるから、その作業が終わるまでは待っていてちょうだい」

 

 ゲブラーがE.G.Oが入った本を渡すと、アンジェラはそんな事を言ってさっさとどこかに行ってしまった。

 素直じゃないアンジェラの物言いに、ゲブラーは苦笑を浮かべる。

 

「さて、私も自分の仕事をするとするか。アンジェラも頑張ってるみたいだしな」

 

 かくして、ゲブラーは自分の仕事である学んだ知識を本にまとめる作業に移っていく。

 そうして出来た本のどれかが、きっといつかはアンジェラの役に立ち、都市を変えるきっかけになるはずだ。

 

 少なくとも、ゲブラーはそう信じている。

 

 ++++++

 

 あれから、ゲブラーは呪術世界の法則、社会についての本に追記をしつつ、心理学についての本も新たにまとめ上げた。

 しかし、彼女はまだ都市を変えるための情報が足りているとは思っていない。

 

 ゲブラーは頭の中で、あの世界でロボトミー手術と呼ばれた研究を思い出す。

 何の因果か、かつて自分が働いていた会社と同じ名前をしていたあの研究は、脳の一部を切除して人間を壊してしまう倫理観に反するものだった。

 

 無論、あの研究を都市で使おうとは思わないが、あの研究を産んだ脳科学という分野は、都市の人々を変えるヒントになる可能性が十分にあるだろう。

 今回、ゲブラーは主にそれについて調べるために、呪術廻戦の本の中へと入るつもりだ。

 

 アンジェラによって手が加えられた、E.G.Oと幻想体の力が封じられた本を携えて、ゲブラーは三度世界を渡る。

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