赤い霧が呪術廻戦の世界へやって来るようです 作:書鳳庵カルディ
「お、何か面白いことになってるじゃん。二人が教科書読むなんて、何事?」
「にやにやしてないで硝子も手伝え! こっちはこき使われてんだよ!」
教室に戻ってきて、目に飛び込んできた問題児二人が教科書を読むという異様な光景に、硝子は口角が上がるのを抑えきれなかった。
五条の言葉が正しければ、彼らは誰かさんを手伝っているらしい。
恐らくは、あの見慣れない赤髪の女性が五条と夏油をこき使っているのだろうと、硝子は見当をつけた。
「私たちが教室を飛び出してから、色々と事件があったのさ。私も、ここまで大事になるとは思っていなかったけどね」
夏油はそう前置きして、息抜きがてら硝子に今まで何が起きたのかを説明し始める。
それで、おおよそ全ての事情を把握した彼女は、今度は口角を上げるどころか笑い始めた。
どうやら、五条が負けたというのが相当愉快だったようだ。
「はははっ、異世界からきた人に負けるなんて、五条への天罰かよ」
「うるせっ」
硝子がご機嫌な反面、五条のイライラゲージは右肩上がりである。
そこで仕方なく、ゲブラーは口を開いた。
「キリもいいし、ここで一旦休憩にしよう。夏油から聞いたと思うが、今後高専で世話になるゲブラーだ。お前は?」
「家入硝子です。このクズ共の同級生ですよ。反転術式っていう、呪力を使った治療ができるので、怪我したら呼んでください」
「そりゃまた、便利な能力だな」
と、ゲブラーと硝子が話していると教室の扉が開き、今度は夜蛾が現れた。
その手には、何枚かの書類が握られている。
「俺の方で色々考えたんだが、取り敢えずゲブラーは四級呪術師として登録することにした。術式を持っていないため、本来なら補助監督が適当だったが、本人が呪術師になりたいと強く希望した、という設定でごり押す」
「五条に勝てるぐらい強いのにですか?」
「悟に勝てるぐらい強いからこそだ。上層部にこの事実を知られて、大きな騒ぎを起こしたくない。この話も口外厳禁で頼む。それと、四級呪術師として扱うのはあくまでも書類上だけだ。実際には、一人で特級や一級の呪霊の相手をしてもらう。報告書は、信頼できる補助監督に改ざんしてもらうつもりだ」
これが、夜蛾が考え抜いた末に出した結論だった。
上層部にゲブラーの実力がバレないように、実力相応の働きをしてもらうには、この回りくどい方法が一番だったのだ。
報告書を改ざんしてもらうのは心が痛むが、背に腹は代えられない。
「もちろん、書類上はともかく、給料は相応のものを支払わせてもらう。呪術師として登録するための書類は持ってきたから、目を通しておいてくれ」
そう言われ、ゲブラーは夜蛾から書類を受け取る。
彼女はそれに目を通しつつも、少しばかり夜蛾のことを疑っていた。
というのも、都市ではこういった秘密の契約をした結果、最終的に裏切られるということが山ほどあるからだ。
しかし、この世界は都市ではない。
ゲブラーは、ここにいる人間の善性を信じることにした。
「目は通した。今のところは、この書類の内容に合意して契約しよう。給料については、また後々話し合わさせてくれ。この世界の金の価値をまだ把握できてないからな」
そう言って、ゲブラーは夜蛾の持ってきた書類にサインをする。
これでもう、彼女は表向き四級呪術師だ。
「感謝する。呪術師はいつも人手不足だ。呪術高専として、できる限りの融通は利かせる。泊まる場所に当てがない内は、ここの学生寮を使っても構わない」
「分かった。しばらくの間は、ここを拠点に活動させてもらおう。よろしく頼む」
そうして、ゲブラーは呪術師としてこの世界に溶け込むこととなった。
彼女は今までの経験と能力を生かして、存分に呪霊を祓うだろう。
いずれ、元のイカれた世界に帰るまで。