荒れ狂う渦を抜け、新たな世界へと転がり出る。暗闇には一筋もなかった陽の光があの暗闇から脱したことを証明していた。
「痛たた……どうやら賭けには勝ったみたいだな」
陽の光で程よく温まったコンクリートに手を付き士は立ち上がる。士の立つこの場所はどこかの屋上らしく開放的な空間に吹く心地よい風が頬を撫でる。オーロラカーテンを潜り抜け、暗闇を抜けた士を待っていたのはジオウの世界とあまり変わらない都市の風景だった。
「街並みはジオウの世界とあまり変わらない……変な暗闇を越えた先にしては拍子抜けだな」
周囲を見渡しても特徴的な建物は何一つ見つからない。過去に幾つもの世界を旅してきたが世界を移動する度年代が大きく変化したり、大きな風車がシンボルのタワーがあるなど毎回風景は一変するのである。人通りはあるも静かな路地で士は本当に世界を移動できたのか疑心を抱き立ち止まっていたその時、そんな疑問をかき消すかのように突如爆音が街に響き渡った。建物の間から黒煙が空へと上がって行く。
「風景変わらずとも災難在りってか。ついて早々トラブルが起きるのはいつものこったな」
「おい何してる! ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ! 近頃の若いのはなんでこう……」
「おっと、かっかせず寛大に生きた方が長生きするぞ爺さん。じゃ」
「あっ……オイ待て‼」
老人に一瞥をくれることなく士は黒煙が上がっている路地へと向かうため、階段を駆け下り建物を出て道路を駆けていく。人通りの無い狭い道路を駆け抜ける間にも爆音は都市空間に鳴り響く。
大勢の人が野次馬のように固まる場へとたどり着いた士は黒煙の下で起こる光景を目にした。そこに広がっていたのは燃え盛る炎、逃げ惑う人々、そして黒く淀んだヘドロの塊。そしてそのヘドロに掴まった少年の抵抗
ヘドロの塊はどうやら生きているらしくヘドロの中に目や口が大きく開かれ、それが浮かべる笑みは背筋をぞっとさせるほど不気味なものだった。
「あれがこの世界の怪人か? 殿様のとこの奴ともまた違うし……今は助ける方が先決だな」
謎は謎のまま、一先ずは捕まっている少年を救おうと士は野次馬の間を通り抜け前へ出ようとする。けれど野次馬たちの中から伸びる手が何故か見ず知らずの士の服を掴み前に進もうとする士の動きを止めた。
「危険だ、下がりなさい!」
「あー、俺なら心配無いんで離してもらえるとありがたいんだが」
「何を言っているんだ君は⁉
「何が出来るってそりゃあ……待て学生だって? 俺は学生なんて年じゃ……」
野次馬の一人に言葉に違和を感じ士は自身の服装を見直す。士が身に付けていた服は大人らしさを感じさせる黒のスーツではなくなっており、同じ黒でも青春を感じさせる学ランであり今の姿は少々大人びた背の高い学生にしか見えなかった。士は世界を移動する毎にその世界で役割が与えられるのだが、この世界においての士の役割は学生であるらしい。
「あー、これはだな……」
「いいから下がってなさい!すぐに
「ヒーロー?」
「そうさ、俺たちの暮らしを守る存在……ヒーローがな」
「ヒーローたちが来たぞぉ!!」
「噂をすればだ! 青二才は下がった下がった!!」
野次馬の最後尾へと突き飛ばされながらも聞き慣れない単語を疑問に思う中、野次馬の一人がそう叫ぶと悲鳴や動揺の声が一瞬で消え、周囲が歓声で湧きたつ。その声に答えるかのように奇抜な服装をした者たちが颯爽と現れた。
「パンチングヒーロー・デステゴロ、参上!」
「バックドラフト現着!」
多くの者が名乗りを上げながら登場しある者はけが人の救助を、ある者は建物の消火を行う。そうしたヒーローと呼ばれる人々の活動でどんどん周囲への被害が縮小していき、観衆はより盛り上がっていく。
(まるでスポーツでも見てるみたいだ……まぁライダーが職業の世界もあったしこの世界もそんな感じなのかもな)
士はそんなスポーツの試合を見るかのような野次馬らの態度に違和を感じながらもこのまま無事終わるなら良い、そう考えていた。けれど物事はそう上手くはいかないらしく、ヒーロー達は最初の威勢はどこへやら周囲の対処しかせず元凶であるヘドロの塊の男に手を付けないでいた。
「わ、私二車線以上じゃなきゃ無理! メインは誰かにあげる!」
「爆炎系は我の苦手のする所…今回の所は他に譲ってやろう!」
「そりゃどうも!こっちは消火で手一杯だっての!」
「ベトベトで掴めねぇし、良い個性の子どもが暴れて抵抗してる!」
「おかげでここら一帯地雷原さ。手が出せない…っやべぇ!」
「アッヒャッヒャッ!今回の隠れ蓑はジャックポットだァ!!」
「クソ、相性の良いヒーローが来るまで耐えるしかねぇ! あの子には気の毒だが…すぐに誰か来る筈だ!」
多くのヒーローが到着したにもかかわらず、ヘドロの男が相も変わらす暴れる様子を見て観衆の歓声は次第に止んでいき動揺の声がポツポツと現れ始める。
「なんか……やばくね?」
「ヒーローなんで棒立ちなんだよ……これじゃ来た意味ねぇじゃんか」
「中学生が捕まってんだとよ。手が出せないのも仕方ないさ」
「可愛そうに……でもきっと誰かが助けてくれるから頑張るのよ!」
(どうやら劣勢らしいが……さて、どうしたものか)
この世界ではヒーローと呼ばれる者が人々を守るらしいが…仮面ライダーの立ち位置がわからない。
何よりこの世界の仕組みがわからないのだ。最悪指名手配だの何されても構わないが変身する姿を見られるのはマズイ気がする。
ならばどうするべきか……そう士が悩んでいたその時、右隣にいた緑髪の学生服を着た少年が野次馬の間をすり抜け前へと飛び出ていった。
ヒーローはおろか観衆までもがその行動に驚く中、少年はそのままヘドロへと一心不乱に突き進んでいく。
「馬鹿野郎ーっ!止まれ、止まれぇ!!」
「あんのガキィ…」
「デク……?」
「せぇいっ!」
緑髪の男が背負っていたバッグの中身をヘドロへとぶちまける。
中に入っていた物の一つがヘドロの男の目に直撃し、ヘドロの男は悲痛の声と共に上体を大きく上ずらせる。その反動かヘドロに捕らわれていた少年の顔が表へと飛び出した。
「ゲホッ……ゲホッ……!! ……んでッ来やがっ、た、デク……」
「っそれは……
君が、助けを求める顔をしてたから……‼」
緑髪の少年の、敵を目の前に恐怖を感じて半泣きになりながらも振り絞られた言葉。決して大きくない身体から発せられた弱弱しくも勇気の籠ったその言葉は敵との距離は大きく離れていても士には芯ある言葉としてはっきりと届いていた。
「もう少しなんだから……邪魔するなァ!!」
「無駄死にだッ!! 自殺志願かよォー!!」
ヒーローたちが慌てて敵の下へと向かうがその時にはもう遅く、少年の下にヘドロの鉄槌が下される。爆炎を伴ったその攻撃は周囲の瓦礫を吹き飛ばし、瞬きする内に辺り一面を黒煙で満たした。
飛ばされた瓦礫の破片が無残にも飛び散り、ヒーローらの下で砕けた。
「クソっ……!!」
「あれじゃ生きてるわけがねェ!! 馬鹿野郎が!!」
ヒーロー・野次馬ともに遂に死人が出たと思われた。この爆風の先にはヘドロしか残っていないのだと。けれど爆破の後に立ち昇る黒煙の中に二人の影が浮かび上がっていた。
「ぐっ…⁉」
「お前中々根性がある奴だな。そこらにいる奴らよりヒーローしてたよ」
「何ィ?」
爆発の間際、士が少年と敵との間に割り込み命を刈り取るはずだった攻撃は士の映し出した
「お前、一体何の個性だ!どうして俺の攻撃を受けて傷一つ受けていない‼」
「個性っていうのがよくわからんが…俺の能力は中々便利でな。こうしてすぐさま割り込むことも攻撃に対する盾にすることも出来るのさ。」
「こんの…どいつもこいつも邪魔しやがってぇ‼」
ヘドロの男が叫びとともに癇癪を起した子どものように周囲を爆破させ暴れまわる。そんな中でも士は至って冷静にヘドロ男の様子を眺め続け、銀幕を張り続けヘドロ男の攻撃を必要に応じ受け止める。周囲は黒煙で包まれ、外の様子は何も見ることが出来ないが騒ぎ声が聞こえてこない辺りこちらに来られるようなこともないだろう。ならもはやリスクは無いに等しい。
「ハァッ…ハァッ…」
「どうした、ヘドロの踊りはもう終幕か?なら今度はこちらがやらせてもらおう。」
そう言って士は特徴的なベルトを腰に巻き付ける。それは男性が一般的につけるようなものではなく、門矢士を世界の破壊者たらしめるもの。
そしてバックルから自身の仮面を付けた姿が映る一枚のカードを取り出す。それは門矢士のもう一つの姿と言っても差し支えないものであり、彼の用いる自分自身のカードだった。
「煙で周りからは見えない…これで気兼ねなく出来るってもんだ。礼を言うよヘドロ男」
「あ、あなたは一体…」
腰が引けながらも目をそらさない少年に士は今まで何千何百と問いかけられたその問いに今までも、そしてこれからも変わらない答えを返す。
「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ! 変身‼」
【KAMEN RIDE DECADE】
ドライバーにカードを差し込みサイドハンドルを押し込む。
するとドライバーから電子音声のようなものが流れると同時に
士と少年の周りに幾つものモノクロの影が現れ、影は士へと重なり色を帯び装甲を造り出す。左肩から右胸にかけて斜め十字線が刻まれており装甲はマゼンタカラー、顔には翡翠の色をした大きな目に幾つものプレートが埋め込まれている。この場にいる多くのヒーローを並べても奇抜かつ特異なその姿こそ世界の破壊者を表す姿であり、人々を守る仮面ライダーの姿なのである。
「さてと……とっとと終わらせるとするか」
「姿が変わった程度で何だ!俺の身体は流動的、普通の攻撃なんて効かないんだよ‼」
「それはわざわざご忠告どうも。さっきのヒーローとやらは手こずってたようだが…」
実力のあるヒーローでさえ相手じゃないと自信に溢れ大笑いするヘドロの男にディケイドはゆっくりと近づいていき、拳を放つ。
その瞬間ヘドロの男の身体の一部が吹き飛び、ヘドロの男の顔が苦痛の色で染まる。本来流動的であるヘドロの身体をその拳はからめとられることなく、却って吹き飛ばした。
「生憎と俺は普通じゃなくてな。そこらの奴らとは一味違うぜ?」
「ッィィ⁉この、コノ、このォ!」
「あんまり暴れるなって…の!」
痛みからみだらに爆破を放ち暴れだすヘドロに対し、ディケイドは腰に付けられたカードの保管場所であるライドブッカーを銃へと変形させすぐさま数発撃ちこむ。先ほどとは違いヘドロは吹き飛ばないものの銃弾は確実にダメージを与え、ヘドロの男は新たな痛みから動きを止め、思わず人質となっていた少年を吐き出した。
「ゴフッ…ゲホッゲホッ…」
「かっちゃん!」
「デク…てめぇ…」
「悪いが感動の再会は後だ。緑髪のお前、そいつ連れて離れてろ。今からこいつをぶっ飛ばす」
「は、はい!」
緑髪の少年は人質の抵抗によりやや手こずったものの無事人質だった少年を背負い、士の指示通りにその場を離れていく。そうして煙が周りにうずまく中に残されたのはディケイドとヘドロ男の二人のみとなった。
「さて、辞世の句を詠む暇くらいならやるが…どうする?」
「コロス!絶対殺す!殺してやるゥゥゥゥ‼」
そんなディケイドの言葉に対し耳を一ミリすら貸すことなく、ヘドロの男は目は血走り口からは涎を溢れさせるただの獣となり一直線にディケイドへと突き進んでいく。そんな殺意を持ったヘドロを見ながらディケイドはカードを一枚取り出し、ドライバーへと挿入した。
「そうかよ…じゃあな!」
【FINAL ATTACK RIDE…DE DE DE DECADE】
カードの読み込みとともに剣の形となったライドブッカーの剣先が紅く光を放つ。
その武器を携えたディケイドは猛進するヘドロの握撃の猛攻を躱し、振り向きざまに剣先が何十にも分身した真紅の剣撃を叩き込む。その攻撃はヘドロの身体を微塵に切り刻み、男の意識を周囲の黒煙とともに吹き飛ばしたのだった。
黒煙が晴れ青空が顔を出す。
観衆は状況が次第に理解し始め、歓声が沸き立った。
「「「「「「おおおおおおおォォォォ!!!」」」」」」
「何あれ新しいヒーロー!?」
「今まで見たことないけどすっげぇ強いんだな!」
「カッコイイー!」
ヒーローたちが苦戦した敵が倒されたことを聞きつけてか、野次馬の数がどんどん増えていき一種のお祭り騒ぎとなっている。
当のディケイドにはその賛辞など受け取るつもりもなく、これ以上野次馬が増える前に退散しようとしていた。
(これ以上騒ぎになっても面倒だ。早いとこ退散しよう)
「全く……君が危険を侵す必要は全くなかったんだ!」
「……ん?」
退散するためにオーロラカーテンを出そうとしたその時、ある会話が耳に入る。
それは先ほど人質となった少年を助けるべく捨て身で飛び出した緑髪の少年に対する説教だった。
「そうだとも! 君のあの行動は無茶で無謀なものでしかなかった! あのまま待っていれば対処可能なヒーローが来ていたんだ!」
「君が命を張る必要はどこにも……」
「まぁ待てヒーローさん方」
少年とヒーローの間に士が割って入る。
「君は……敵を倒してくれたヒーローだな。素晴らしい活躍だったよ! ここらじゃ見ない顔だが……どこの事務所だい?」
「そんなこと今はどうでもいいだろ。それよりもちょっとした疑問を俺は持ってるんだが……」
目の前のヒーローの言葉を一蹴し、少年を説教していたヒーローらはあっけにとられる。
そんな様子を横目に見ながら士は周囲の様子を見渡す。そこには近くで他のヒーローが到着するまで待つことしかしていなかった者らがファンか何かにチヤホヤされている姿が散見された。
「お前らは自分が不得意だからという理由で人質が苦しむ様をただ見る事しかしなかった。けどこいつはどうだ? こいつは無謀であっても人質を救うためにその身を投げ売ったんだ。
一体どっちがヒーローなんだろうな?」
「な、何を言うんだ。そんなもの仕方ないだろう! 何より彼の取った行動は無謀なただの自殺行為でしかなかったんだ!」
「そうだそうだ」と後ろに控えるヒーローらが賛同する。
彼らの言い分は至極当然なもの。己が実力を弁え、人質に万が一のことがないよう増援を待つことに徹しただけ。世間一般では正論だろう。けれど士にはそうは思えなかった。
「そうか? 確かにこいつの行動は無謀だったし命知らずなものだった。人質を危険に晒してしまうことになっていたかもしれない。……けどな」
ディケイドはヒーローの言葉を肯定しつつもある男の姿を思い返す。大切なもののため一人孤独に戦い続けてきた黒き男の姿であった。
「こいつはその身を犠牲にしてでも、勝ち目がなくとも誰かを助けるために動いたんだ。あの場で誰よりもヒーローだった……肩書なんて関係無しにそう思うよ」
「……」
「解決したのは結果論だがこいつの行動で解決したのもまた事実だ。なんで命張った奴が非難されて、張らなかった奴が賞賛されてるのか……俺が言いたかったのはそれだけだ。後は好きにしろ」
「…ま、待ってください!」
そう言い残し士は面倒な問題が発生する前にその場から退散しようとするその時、緑髪の少年から声をかけられる。
「どうした」
「えっと……そのー……」
「ったく、少しは落ちついて話せ」
「すみません!」
何を話そうか慌てているのか目が泳いでいるのが見てわかるほどである出久の様子を見て士は先ほどまでの芯の通った目は何だったんだとため息を吐く。
数秒して内容が固まったのかまっすぐな目でこちらを向き、言葉を発した。
「助けてくれてありがとうございました! あなたがいなかったら僕は今頃きっと……」
「別に気にする必要はない。気まぐれみたいなもんだからな」
「それでもです! 本当にありがとうございました!」
「……そうか。時間無いしそろそろ行くぞ」
「あの、もう一つだけ……あなたのヒーロー名はなんて言うのでしょうか?
僕ヒーローついては詳しいつもりなんですけど、あなたについては全く知らなくて……」
出久の言葉に一瞬ポカンとするも自分の名前を教えていないことに気づき、自身の名前を告げる。
あくまで仮面を付けた姿の名ではあるのだが。
「俺はディケイド。仮面ライダーディケイドだ。」
今まで忌む名として、或いは信頼すべき名として呼ばれてきたその名を告げ、
ディケイドはオーロラカーテンを通りその場を去っていくのだった。
「ディケイド……か。また凄いのが出て来たね」
野次馬の中から平和の象徴たる熱き視線を受けながら。
これが仮面ライダーディケイドこと門矢士とナンバーワンヒーローを目指す緑谷出久の出会い。
そしてここから運命の歯車は回り始めるのだった。
リメイク前もそうだけど2話長すぎるね……仕方ないか。
感想評価等は勿論、アドバイスも待ってます(言葉は優しくお願いネ)