時はヘドロ事件から進み、厳しい寒さが続く頃。
様々な世界を旅しこの世界へとたどり着いた士はシワ一つない学生服を身に付け、とある建物の門の前に立っていた。
「これまでにも学生には何回かなったがまさか受験生になるとはな。『雄英高校入学試験』……か」
そう呟きながら手に持つ書類に目を向ける。『雄英高校入学試験』とデカデカと書かれた説明書類、もう一枚の方には『門矢士 性別:男 年齢:15』と記載されていた。
ヘドロ事件の後、この世界で割り振られた役割について調べてみたところ学生は学生でも中学の、それも高校受験を控えた受験生であるらしい。
加えて学校の教師陣からも期待や信頼が厚いようで気づいた時には数ある高校の中でも最高峰に位置する高校、雄英高校を受験することに決まっていたというわけである。
以前学生という役割が振られたことはあったものの、中学生という役割は初めてであり士もこれには笑うしかなかった。
(それにしても色んな奴がいるもんだ。これが”個性社会”ってやつか)
周囲には雄英を受験しにきた学生が多くいるが、その光景は多くの世界を旅してきた士にとっても衝撃的なものだった。その中にはおよそ中学生とは思えないような体つきの者や、頭から蔓が伸びていたり地球外生物のような見た目をしていたりと人であるかすら怪しい者までいるためだ。
それも怪人でもライダーでもなくただの一般人が、だ。
士はヘドロ事件から色々と調べ、総人口のおよそ8割が”個性”と呼ばれる特異能力を持ち、その能力によって良いようにも悪いようにも成り立っている世界であることを知り、
この日までこの世界の日常に溶け込み生活してきたのである。
様々な容姿の人々がいる世界でありながらも士がすぐに溶け込むことが出来たのは、数多の世界を旅してきた故なのかもしれない。
「さて、一枚撮ってみるか……」
「ふぎゃ!」
士が門の前で立ち止まり首から掛けるカメラに手に取りシャッターを切ろうとしたその時、背に何かがぶつかり少しよろける。
振り向くとそこには鼻を抑えてうずくまる栗色の髪の少女の姿があった。
「お前……大丈夫か?」
「ひゃひゃい……大丈夫です……」
鼻を真っ赤にし涙目になりながら少女は答える。
「俺が急に止まったせいでぶつかったんだろう。悪かったな」
「私こそ前見て歩かへんかったから……お互いさまってことで受験頑張ろー!」
「ああ」
腕をぶんぶん振り回し試験へのやる気を見せる少女と別れ、校舎の方へと向き直す。
試験開始の時が迫ってきている。写真はまたの機会に……そう思い、前へ足を踏み出そうとしたその時
「ふぎゃ!」
「今度は何だ……」
今度は後方ではなく前方で悲鳴が上がる。悲鳴の先を見るとそこには緑髪の少年が地に伏していた。士はまたもため息をつくも、その少年の下へと歩み寄る。散らばった書類の中には彼の名と思しき文字列『緑谷出久』の文字があった。
「ううっ……」
「大丈夫か、お前?」
「あ、ありがとうございます……」
目の前の少年も先ほどの少女と同じくぶつけた顔を真っ赤にし、涙目になりがらも士の言葉に応じる。士は少年へ手を差し伸べ、立ち上がらせるとティッシュを差し出し何も言わずに校舎内へと進んでいく。
「あ、あのこれ!」
「俺からの合格祈願みたいなもんだ。ヘドロの時とは随分見違えたよ」
「ヘドロの時……? 僕貴方とどこかで……」
「それよりもそれ早く鼻に充てとけ。制服が赤くなるぞ」
「え、あ……鼻血出てるからこれを……。その、ありがとう!」
少年の感謝の言葉に何も返すことなく、士は校舎へと入っていく。その姿を見て少年は初対面である筈なのにどこかで会ったかのような懐かしさに近しいものを感じていた。
「Everybody say!!Yeah!!」
場所は変わって試験説明会場。
何百といる受験生の前に立つのは逆立った金髪にサングラスを付けた男、ヒーロー・プレゼントマイク。
DJのようなコスチュームを身にする彼の声に会場は大盛り上がり…などということはなく、誰一人声を上げない静まり返った空間が展開されていた。そんな会場の空気を意にも解さずマイクは話を続ける。
「こいつは渋ィー…なら受験生のリスナー諸君に試験の概要をサクッと説明するぜ! 内容は至ってシンプルさ、ちゃんと聞いとけよ?Are you ready? Yeah!」
(それやらないと進められんのか……)
再び生まれる静寂。
マイクの叫びには若干一名しか盛り上がりを見せないままそのまま説明は進行していくのだった。
試験の概要をまとめると
・十分間の模擬市街地演習
・武器などの持ち込みは自由
・試験会場内には仮想敵がおり、それぞれ1P~3Pが割り振られている。
各々の個性で仮想敵を行動不能にし、最終ポイント数を競う。
といったところだ。
もちろん他の受験生に対する妨害行為はご法度である。
「説明はここまでだ! 理解出来たかい、リスナー諸君?」
「質問よろしいでしょうか!」
「Okay!」
「プリントには4種の敵が記載されていますが、誤載であれば最高峰の雄英として恥ずべき事態ではないですか! 我々は規範となるヒーローになるべくこの場に座しているのです!」
(ずいぶんとまぁ、真面目な奴もいたもんだ)
多くの受験生がいる中萎縮することなく発言する少年の姿を見て、それなりに芯のあるやつなんだろう……そう士が思っているとその少年は正面からグイッと後ろへと振り向き、ある少年を指さした。その指した先に居る少年はヘドロの一件、そして先ほど校門で出会った少年である緑谷だった。
「ついでにそこのちじれ毛の君!さっきからぼそぼそと…気が散る! 物見遊山のつもりならここから即刻去り給え!」
きっぱりと告げられた緑谷への指摘が小さな嘲笑を生む。可哀そうではあるが説明中かつ試験前の集中すべき時間であるし、メガネの言うことも正論だ。自業自得と言わざるを得ない。
「Okay Okay。ナイスなお便りサンキューな。最後に記載されたそいつはお邪魔虫! 倒すのは困難、仮に倒してもポイントはゼロ。うまく避けることをお勧めするぜ?」
「ご回答ありがとうございます! 失礼致しました!」
メガネの少年が着席したことで会場内に居る生徒の視線はマイクへと移る。視線を集めスポットライトの光を集めたマイクは軽く咳払いすると、後ろのスクリーンにある英単語がデカデカと表示された。
「それでは最後に我が校の校訓を受験生であるリスナー諸君に送ろう。――――――かの英雄、ナポレオン・ボナパルトは言った!
”真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者”と!
さらに向こうへ…Plus Ultra!!」
(真の英雄……人生の不幸、ねぇ。)
それは天下の最高峰雄英に挑む生徒らにかけられた激励の言葉。緊張を解きより良い気持ち・パフォーマンスが発揮できるよう告げられた言葉。しかし何か引っかかる。何の変哲もない言葉の筈がこの何の問題もない試験形態とどこか違和を生じさせているようにも思えてくる。
「とりあえず向かうしかない、か」
プレゼントマイクの説明にどこか引っかかるものを感じながら、士は指示に従い受験会場へと足を進めるのだった。
「……何だこれ」
試験会場へと到着した士は目の前にあるものに愕然とする。
士が受験したヒーロー科は雄英高校の中でも特に志望者数が多く、倍率は毎年300を超えるらしいため会場はいくつかに分かれており、士はそのうちのB会場に割り振られていた。
指定された会場に着いた士は待っていたのは測定器が並ぶトレーニング室などではなく、自分が蟻か何かになってしまったかと思えるほど巨大な扉であった。
予想外のスケールに士だけでなく、周りの受験生も呆気に取られる。
「説明によるとこの扉の先に市街地があるらしいが、この扉から察するに相当の規模だな。流石は雄英……ってやつか」
士は配布された資料で再度試験概要を確認していると、目の前の巨大な門が音を立て開き始める。
その先に広がるはごく一般的な市街地であり、試験ということを忘れたならば見知らぬ街に来たと錯覚してしまうほど精巧に造られている。
門が開ききる。
だが試験は始まらない。
開始の合図を待てども来ず、始まらない試験にしびれを切らしたのか受験生らが談笑し始める。
見渡せばほとんどの生徒が緊張の糸を切らしてしまっており、受験生が皆脱力しきったその時
「はい、スタートォ‼」
突如響く拡声器を通しての声に皆が呆然とする。
そんな光景を見てプレゼントマイクはニヤニヤしながらも言葉を紡ぐ。
「どォした⁉実戦にカウントダウンなんざ無いんだよ‼ ほら走れ走れ‼賽は投げられてんぞォ‼」
マイクの囃し立てる言葉に受験生は一目散に我先にと市街地へと駆け出していく。
そうしてスタート地点に残ったのは青ざめた顔の緑谷と士の二人だけだった。
「あわわわわ…」
「どうした? 始まったが急がなくていいのか?」
「そ、それはあなただって!」
「俺には俺のペースってもんがあるんだよ。ほら、行った行った」
「クソっ、ただでさえ出遅れてるのに余計な時間使ったぁぁぁ!!」
叫び声を上げながら遅れを取り戻そうと市街地へ緑谷が駆け出していく。
その姿を見て士は高台に立つ拡声器を持ったマイクの方を一瞥し、腰にドライバーを巻き付ける。
(十中八九、試験の様子は映像記録として残るだろう。使わなくとも試験自体は何とかなるかもしれんが……いつまでも隠しきれるものでもないな)
「変身」
【KAMEN RIDE DECADE】
白と黒、そしてマゼンタの三色のボディへと変身した士、
もといディケイドを見てテンションが上がったのかマイクが飛び跳ねる。
おそらく試験放棄者とでも思われていたのだろう。
そんなマイクの様子を横目に一枚のカードを取り出す。
「そして……こいつだ」
【KAMEN RIDE…FAIZ】Complete
ディケイドのボディに特徴的な赤のラインが走り目は翡翠から黄金色に、ボディカラーは主に銀と黒のディケイドとは全く異なる姿に変身した。
変身後士はホルダーから新たにカードを取り出す。そのカードの使用には一つ懸念点が今の士にはあった。
「このままオートバジンを出したいが……どうだ?」
士は何もない空間に向けて片腕を振り上げる。それはオーロラカーテンを呼び出す動作。彼を異なる次元へと飛ばし、異なる次元から人や物を呼び出す銀幕を呼び出し自らの愛機を呼び出そうとした。
けれどオーロラカーテンはそこに現れず、愛機であるバイクも現れることはなかった。
「やっぱり駄目か……世界の再編で何かしら狂ったか?」
ヘドロ事件以降士は何度かオーロラカーテンを使おうとした。けれど今のように目の前に現れることはなくなったのだ。世界移動の際の暗闇の渦にライダーが存在しないこの世界、オーロラカーテンの不調。ここまで長く旅をして来た士にとっても未知の事が山積みだった。
『HEY門矢‼ 試験もう始まってンだからなァ‼ Are you OK⁉』
「オーケーオーケー。今考えても仕方ない、まずは目の前のことを……な!」
不安要素は一先ず置くことにした士は試験会場へと向かいかけていく。試験開始から既にかなりの時間が経過しており、試験会場は疑似都市一区画分に及ぶ。
それに加えてヒーロー科の試験倍率は例年300倍にも上る。故に1秒のタイムロスでも大きく合格ラインから遠のくのだ。このような状況下では並みの学生は勿論、実力者であっても合格は望めないだろう。だが士にはこの状況でも合格を可能にするカードがあった。
「残った敵は4……いや6か。纏めて相手してやるよ……10秒間だけな!」
【FORM RIDE FAIZ ACCEL】
電子音とともに胸部を覆っていた装甲が外れ、赤い眼光を灯す。色調は淡泊に装甲はより軽量に。その姿こそアクセルフォームの姿だった。その姿となったディケイド目掛けて一体の仮想敵が突進する。
『標的ハッケン、ブッコロス‼』
「やれるもんならな!」
【START UP】
仮想敵の拳が振り下ろされんとしたその瞬間、仮想敵の装甲が崩れ落ちる。一瞬で地上から仮想敵の頭上に移動したディケイドの拳が仮想敵を貫いていた。その間わずかコンマ2秒。これが装甲を捨てたファイズの力だった。
スタートの合図とともに姿を変えたディケイドは赤と銀の閃光となって通りに偏在する仮想敵を次々となぎ倒していく。ディケイドが通りを駆け抜けた後には幾つもの鉄くずの塊が空に浮かんでいた。
【3、2、1……TIME OUT】
「さてと……後はチマチマやっていくかな」
アクセルフォームで倒した敵に続けてライドブッカーを剣へと変形させ、道で暴れる仮想敵を次々と切り倒していく。瞬時に一足一刀の間合いに詰め込むディケイド(ファイズ)の姿は受験生らに恐怖を植え付けたとか何とか。
時に道行く敵をなぎ倒し、時に受験生が不利な状況に陥っている時には手助けをしていく。そうして通りを何本も回っていくうちに複数敵が固まっている場所を目にした。
「「「ハイジョシマス」」」
「くっそ…囲まれた!」
試験会場内で高P敵に囲まれ成す術が無い状況。その場に士は出くわすと瞬時に飛び出し、囲まれている受験生に叫ぶ。
「その場で屈め‼」
【ATTACK RIDE…SLASH】
ディケイドの分身した剣撃は彼らを囲む数体の敵を切り刻む。
切り刻まれた仮想敵は火花を散らしながら即座に爆発した。
「あ、ありがとう!」
「礼には及ばん。俺はポイントが欲しかっただけだからな」
そう言ってディケイドは立ち去り、新たな敵の場へと向かっていく。こんな風に時には救援をしながらもディケイドは着実にポイントを稼いでいった。
これまででポイントの合計は数十を越えている。
試験終了まで時間はあるがこれで合格は確実……そう思っていた時だった。
大地が揺れ、砂煙が空へ舞い上がる。
その勢いは建物の窓を強く打ち付けガタガタと音を鳴らさせる。
建物の隙間を通して市街地に響く駆動音。
雲一つない空であるのに出来る影。
所狭しと大暴れするギミック、0P敵が現れたのだ。
その大きさは受験生が想定していたであろうものよりも大きく、全長100mはあろうその巨大さに
受験生はおろかディケイドさえも呆気にとられていた。
「いくらトップとはいえ……限度があるだろ……」
「な、なぁ……あいつなんか近づいてきてないか?」
「やべぇ……やべぇよぉぉぉ!」
耳を澄まさずとも聞こえてくるキャタピラの回る音に試験を放棄するかのように一目散に逃げ出していく。
実際0P敵であるから逃げるのが正攻法ではあるのだが、残りのP敵の半数が0P敵の後ろにいるためどうにかして切り抜けるのが得策と言える。
だが現実はそう上手くはいかないのが常だ。
サイズは今まで戦ってきた敵が玩具だと思えるほど巨大で質量差の違いは明らかだ。
試験であるため武装は解除されているとはいえ、コミック上の敵でしか見ないそのスケールに中学生である受験生らが取れる手段は結局のところ逃げの一手のみであった。
「仮面ライダーJ……奴ほどじゃないがかなりデカいな。ガキ共の試験で使わる駒にしちゃ豪華だな」
士はそう呟きながらビルの上を転々とし、0P敵が進行を続ける道に降り立つ。
そこに残っていたのは他の受験生に取り残され、先に進もうと足掻くも腰が抜けているため動けない緑谷だけだった。
「逃げなきゃ、逃げつつポイントを…!」
「残り三分!」
「後三分⁉まずいまずいまずい…!」
「落ち着け」
「いでっ⁉」
焦りに焦りが重なりパニック状態になる緑谷の頭を軽くカツンと叩き、手を差し伸べ起き上がらせる。
「あなたは……」
「もっと冷静になれ。お前なら出来ることがある筈だ……あの時みたいにな」
「あの時って……」
「残り二分を切ったぜ!
最後まで頑張れよォ!」
「っ……まだ0Pだけど冷静に……今出来ることをやるんだ!」
緑谷が試験終了間際を伝えるアナウンスを聞きすぐさまポイントを集めにいこうとしたその時、
「いてっ…」
駆動音にかき消されてしまうほど小さな、そして微かな悲痛の声が聞こえた。
緑谷とディケイドがその声の下を見るとそこには瓦礫に足を挟み身動きの取れない少女の存在があった。キャタピラの音がどんどんと大きく、影はすぐそこまで迫って来ていた。
「このままだとマズイ……!」
このままでは危険だとディケイドがその少女を助けようと動こうとしたその時、赤の閃光がディケイドの横を音も無く過ぎ去っていく。
その細くとも力強い光の先には0P敵すら飛び越した緑谷の姿があった。迷いや焦りを捨てたその少年はビルよりも高く飛び、渾身の拳を振りかざす。
「SMAAAAASH!!!!」
魂の叫びが拳となって放たれたその一撃は0P敵の頭部を大きくへこませ、仮想敵を大破させた。
機械の悲鳴のようにも聞こえる駆動の止まる音とともに、空中分解されたパーツが地上へと降り注ぎ、パーツと一緒に緑谷が頭から落下している。正に全身全霊の一撃だったということなのだろう。
「それで良いんだよお前はな」
そう言いディケイドはファイズの変身を解き、元の姿へと戻るとライドブッカーを銃に変形させ狙いを定める。緑谷に当てず、尚且つ地上にいる者に残骸が当たらないよう破壊する必要があるが…破壊に関しては得意分野のディケイドにとっては御茶の子さいさいである。
「これで…終わりだ」
【FINAL ATTACK RIDE… DE DE DE DECADE】
ディケイドと落下するパーツの間に幾つもの紋章が浮かぶカードのようなものが現れ、銃身から放たれる光線が
その紋章を貫いていく。
貫くごとに威力が増幅されていった光線は仮想敵のパーツに直撃すると共に落下する周囲のパーツを巻き込み爆発、
空中には緑谷を除いて塵一つ残らず消え失せた。
なお緑谷は落下していたものの先ほど助けようとした少女に救助されたらしくお互いに無事のようだ。
片腕と両足が変色しているのと目の前で吐いている状態が無事だと言えるのなら、ではあるが。
「試験終了ゥーー!!」
こうして士たちの入学試験が幕を閉じたのであった。