破壊者はその世界で何を為す   作:ベリアロク

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第4話 英雄問答

 

 

「……ん、もう朝か」

 

 

窓から差し込む明かりに気づき、被っていた布を払いのけ立ち上がる。

小鳥のさえずりが微かに聞こえる程度の静かな朝。

雄英入試から2週ほど経った今、士はトラブルも何もない平和な日常を過ごしていた。

 

 

「入試の結果がそろそろ届いてもおかしくないと思うんだが……まだ来ないか」

 

 

士は自室にかけられた暦を見てそう呟く。実技試験及び筆記試験を無事終え、士を待つのは合否を知らせる書類だけであるのだが、本来伝えられていた配送予定日は既に過ぎていた。

 

 

「まぁ届かないものを待ってても仕方ない。ガキらしく街探検ってのも暇つぶし程度にはなるだろう」

 

 

この世界では年がら年中場所を問わず事件が起きる。大方配送途中で敵の事件にでも巻き込まれたのだろうと考え、遅い朝食でも取ろうと台所の方へ歩き出すと時同じくして呼び鈴の音が鳴った。

 

 

「誰だ? 宅配予定に申請した時間とはだいぶ違うが……」

 

 

来るような客人もこの世界にはいない士は不審に思いながらも玄関へと歩みを進める。

一体何なんだと扉の覗き穴から向こう側を見ると、そこにはボサボサの黒髪の男と金髪で奇抜な髪型と裏腹に頬は骸骨のようにやせ細っている男が立っていた。両者ともスーツは着ているものの、それが却って士の不信感を煽る中士はゆっくりと扉を開けた。

 

 

 

「お前が門矢士だな?」

 

「おいおい……人に尋ねる時にはまず自分からって習わなかったか?」

 

「なんだと?」

 

 

士の態度に黒髪の男が睨みつけ、士もまたジロリと見返す。玄関先で初対面にも拘わらず良くない雰囲気になっていることを察してか、隣の金髪の男が二人の間に割って入る。

 

 

「事前の連絡もなくすまなかった少年! 私たちは雄英の関係者、今日は試験の合否の連絡にちょっとした話をしに来たのさ」

 

 

男らは名刺を取り出し士に渡す。二人のどちらのものも偽造や偽物といったものではなく、雄英高校の印がしっかりと記された確かなものだった。

 

 

「私たち……ってことはアンタもか」

 

「そういうことだ」

 

「……入る高校間違えたか」

 

「さ、さぁ! 中に入れてくれるかい門矢少年!」

 

「断る」

 

「そう言わずに……ネ? 良いだろう? 頼むよ門矢少年」

 

(入れないと合否すら伝えてくれなそうだな。)

 

「……はぁ、勝手にしろ」

 

 

正直目の前の二人を家の中に入れるのは気が乗らない士であったが、ため息一つ吐くと二人を中に招き入れた。

 

 

「ありがとう門矢少年! 恩に着るよ!」

 

「そこにでも座っててくれ。大したもんはないがお茶くらいは出してやる」

 

「いやいや助かるよ! お恥ずかしい話喉がからっからでね! ありがたくいただくよ」

 

 

リビングにあるテーブルに淹れた茶を運び、士も椅子に座る。男たちは出された茶を一口すすると軽く咳払いし士の方を向き話し始めた。

 

 

「まずは自己紹介からだな。私は八木俊典、隣の彼は相澤消太君だ。先ほど伝えたように私たちは雄英高校に務めている。」

 

「さっきは失礼した。今日は本来なら書類で伝えるところちょっとした話があったから直接お前の家に来たってわけだ。事前の連絡なくて悪かったと思っている」

 

「別に暇してたから問題ない。それで話って?」

 

「ウム! ではまず、君が最も気になるであろう試験の結果について伝えよう!

 君の試験結果だがぁ…………!!

 

 

 

「結果から言ってしまえば合格だ。筆記は問題なし、実技試験の(ヴィラン)ポイント数も相当優秀だ。出遅れてさえなければ一位だって狙えただろう」

 

「別に一位は狙ってなかったからな。問題ない」

 

 

八木がグググと身体を縮ませエンターテイナーの如く大きなアクションで結果発表をしようとするもその甲斐虚しく相澤はあっさり結果を述べる。相澤の行動と士のテンションに八木はしばらく開いた口が塞がらなかった。

 

 

「あ、あれ……盛り上げて発表しようと思ったのに二人とも淡泊だね……受験の結果って結構大事じゃない?」

 

「結果伝えるのにわざわざ盛り上げる必要なんてないでしょう。そもそも俺一人で良かったのにあなたがわざわざ同行するっていうから朝の業務先延ばしにして来てるんじゃないですか。お忙しいあなたのせいで俺のスケジュールはもう無茶苦茶ですよ」

 

「それに関しては本当に申し訳ない…」

 

「まぁ僕も了承したことですし、今更どうしようもないことです。今はこれから合理的に動くことを考えましょう。 救出(レスキュー)ポイントと例の件のお話、頼みましたよ八木さん」

 

「ああ! 任せてくれたまえ相澤君!」

 

「……話は着いたか? 」

 

「門矢少年も待たしてすまないね。 話の続きをしていこう」

 

 

そう言い八木は再度咳ばらいをし話を始める。

 

 

「まず一つが救出(レスキュー)ポイント!実技試験の説明では敵ポイントしか明らかにされていなかったが雄英が見るは受験生の戦闘力のみに非ず!他の生徒の援護などの行為も評価対象だったのさ。このポイントで皆の順位は変動した。勿論君もね」

 

「それで? その救出ポイントは俺の合否にも影響は出るのか?」

 

「そうさ! 君の救出ポイントだがぁ……‼」

 

「もういいですから八木さん」

 

 

またも勿体ぶろうとしたのか身体を縮こませるも相澤の睨みによってそれは阻止される。

相澤の睨みによって落ち込む八木から説明を変わり相澤は話を続けた。

 

 

 

「門矢、お前は他の受験者の援護を数度行ったことに加え0P敵の残骸を消し飛ばし周囲に被害が出ないようにしたことが評価された。敵ポイントだけでも上位だったが救出ポイントも加えて……次席合格だ。おめでとう」

 

「そりゃどうも。

 次席ってことは上が一人居るんだな?」

 

「ああ君も見たことはある筈だ。話したことがあるかは知らないが……その少年はとある事件に大きく関わっているんだ」

 

 

落ち込みから復活したのか八木が会話に参加する。同時に八木は手元の電子端末を操作するとテーブルの上に置かれたディスプレイにある画像が映し出される。それは士が変身したディケイドの姿であった。

 

 

「今回の主席を取った少年はある事件で人質となったのだが……単刀直入に言おう。

 君がこの写真に写る仮面ライダーディケイドだね?」

 

「入試の時の動向は映像としてしっかりと記録されている。言い逃れは出来ないぞ」

 

 

雄英高校の入試はその受験生の数に対応すべく全会場で映像として記録されている。当然士がディケイドに変身し、戦った姿もまた記録されていることも士自身が良く分かっていた。

 

 

「ああ、そうだ。何か問題でもあるか?」

 

 

目の前の二人が出す雰囲気が先ほどとは全く異なった真剣なものへと変化する中、士は変わらぬ調子で答える。リビングは発言によって物音一つ立たない静寂に包まれる。

その静寂を壊すかのように八木がゆっくりと口を開いた。

 

 

「ならわかるだろう、門矢少年。許可なく”個性”を使用することは禁じられているということを」

 

 

全人口の8割が特異能力を得て、警察や軍事権力といった抑止力が軒並み意味をなさなくなったこの世界において平和な世界をつくるため新たな抑止として生まれたもの……それが個性の無断使用の禁止である。

そのことを士はこの世界にたどり着いて暫くして知り、雄英に進学する以上ヘドロ事件のことをいつか問題として突きつけられることを予期していた。士は冷静に答えていく。

 

 

「ああ、わかるさ。だがそこで俺が飛び出なければ被害はもっと甚大なものになっていた。違うか?」

 

「それは結果論だ。お前があの場で敵とはいえ人を傷つけたことに変わりはない。正義の味方を気取っての行動だったなら……お前がヒーローになることを俺は認めない」

 

「正義の味方、か。正義の味方を演じるのも悪くはないかもしれないな……」

 

「……」

 

 

相澤が士のことを力強く睨みつける。

その目は先ほどまでの活力を見せない姿からは決して出せないであろう熱意がこもったものだった。

 

きっとこいつもヒーローなんだろうと士は思いながら士は席を立ち上がると、八木達に背を向けゆっくりと後ろへ歩き出す。

 

 

「お前、まさか逃げる気か?」

 

「少年…!」

 

 

士が無言のまま取った行動に八木達は椅子から勢いよく立ちあがる。

それと同じくして士は歩みを止め、八木達の方へと振り返る。

 

 

「けどな、俺は正義の為に戦うんじゃない。俺は、()()()…人間の自由の為に戦うんだ。今までも、そしてこれからもそのことだけは変わらないんだよ」

 

 

幾つもの世界を巡り、その都度役割が変わるとしてもそのことだけは変わらない。

人々の自由を、笑顔を守る。それこそが仮面ライダーの信念であり、門矢士の信念なのだ。

 

相澤の熱意のこもった目に士は笑みを浮かべながらもそれ以上の熱意を込めた目を向ける。誰も言葉を発することなく時だけが過ぎていく。時計の秒針がジリジリと動く音だけが部屋に響く。

 

 

「……そうか」

 

 

そんな空気は気が抜けるかのような相澤のため息で終わりを迎えた。

 

 

「な、相澤君! 私の言う通りになっただろう?」

 

「……そうですね。

 全く、賭けにもほどがありますよ。」

 

「賭けだって? 一体何の話をしてるんだ?」

 

 

士が預かり知らない話に疑問を呈すると、八木は己の胸に拳をトントンと当てて笑って見せた。

 

 

「なぁに、君がただの自警団(ヴィジランテ)では無いという賭けをしてただけさ。実のところあのヘドロの敵は私のミスで犯行を許してしまってね。あの時君が助けに出てくれなればどうなっていたことか…本当にありがとう」

 

 

そう言って八木は士に深く頭を下げる。

その光景を士が黙って見ていると今度は相澤が口を開いた。

 

 

「実際この人のミスで市民が危険にさらされた訳だが、それを個性の使用許可なく止めに入ったお前の行為はお咎め無しというわけにはいかなかったんだ。けどこの人が自分のミスだと言ってお前を庇ってくれたおかげでお前は大した処罰もなく今居れるんだよ」

 

「そうか……」

 

「おかげで君との関係性を追求されてちょっと大変だったけどネ HAHA……」

 

 

八木がその時の光景を思い出したのか笑うもその顔には影が差しており、やせ細った頬の影響もあり余計に疲れて見えたのだった。

 

 

「さて! そろそろお暇させてもらおうかな!」

 

「ええ、新学期目前で仕事は山ほどありますからね。ちゃんと書類には目を通しておいてくださいよ」

 

「うっ……も、勿論さ! ではな門矢少年! 雄英で会おう!」

 

 

そう言って八木は残った茶をグイッと一気飲みをし、少々むせながら相澤とともに駆け足で部屋を出ていった。

忙しい客だと士は思いながらコップを片付け、入学に向けての準備を少しずつ始めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ……無理言ってすまなかったね、相澤君」

 

 

士の家を後にし、路地を二人は歩く。空にはもう日が高く昇っていた。

 

 

「もう気にしてないですよ。それより門矢にまた会おうとは伝えてましたけど、次会う時はきっと『八木さん』ではなく『()()()()()()』ですよ。」

 

「あ、そうだね……」

 

 

 

最高のヒーローはである彼はナチュラルボーンヒーローであり、性格までもがナチュラルなのである。後日士が雄英教師陣を調べ『八木』という名が見つからなかったのは言うまでもない。

 

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