破壊者はその世界で何を為す   作:ベリアロク

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第6話 力と覚悟、そして疑念

 

「自然災害、大事故…そして身勝手な敵たち。日本は理不尽で溢れている。そういうピンチを覆していく者こそがヒーローさ」

 

「そんな……」

 

「楽しく高校生活を送りたかったのならお生憎、雄英高校は君たちに苦難を与え続ける。全力で乗り越えてこい」

 

 

相澤は悪い笑みを生徒らに隠すことなく見せながら人差し指をクイクイと動かし挑発の姿勢を取る。最下位除籍という洗礼というには重すぎる苦難に生徒一同狼狽えていた。

 

 

「これでデモンストレーションはお終い、ここからが本番だ」

 

 

 

心構えなどする余裕もなく入学初日の生き残りを賭けた争い、その火蓋が切って落とされた。

 

 

 

第一種目は50m走。

妨害行為は禁止、間にハードルといった障害物もない直線をただ走るシンプルな種目である。シンプルな種目故に体力テストに長年採用されているわけだが、そこに”個性”という要素が加わることで走る姿しか見られない筈の光景は大きく変化する。

 

世界最速の男の推定タイムが5秒程度であるが……目の前の光景に士は目を疑った。

 

 

 

『3秒04』

「50mだと3速までしか入らんか…」

 

『5秒54』

「ケロ、まずまずって感じかしら」

 

『5秒51』

「1秒以上光線出すとお腹痛くなっちゃうんだよね☆」

 

 

 

「生身の人間が出す記録じゃないだろ……」

 

 

士の目の前で次々と出される記録に思わずそう呟く。四足歩行で蛙のように飛び進む者やフォームこそ人間のものであれどタイムは獣のそれに等しい者、腹からビームを出して宙を飛ぶ者と正に多種多様な光景が繰り広げられておりこの世界に来てしばらく経つも改めて記録に出されると人間業でないと驚かざるを得ない。

 

 

こいつら人間の姿をしてるだけで本当はオルフェノクなんじゃないかと疑問すら浮かんでくる。いやワームの可能性も――なんて考えていると背後から緑谷に声をかけられた。

 

 

「……君……門矢君!」

 

「緑谷か、どうした?」

 

「どうしたって……君の番だよ!」

 

 

そんなこんな考えているうちに番が回ってきたらしく緑谷の言葉を受けてスタート地点を見ると、そこには手のひらから爆破を起こしながら怒鳴る爆豪と静かに睨みつけてくる相澤の姿があった。

 

 

「そういうことだ門矢。早くスタート位置につけ」

 

「チッ、早よしろや雑魚が!」

 

 

 

「ひえ~おっかねぇ……」

 

「顔怖すぎんだろ……般若か何か?」

 

 

相澤と爆豪の姿に生徒らの多くは萎縮しその場を動けずにいた。

 

一度に走る人数は2人、そのペアが爆豪ということに面倒臭さを感じながらもこれ以上相澤に睨みつけられるのも気分が悪い。士は萎縮する彼らを尻目にしぶしぶ爆豪の隣に立つとレーン横に立つ相澤に声をかける。

 

 

「相澤」

 

「『先生』をつけろ、『先生』を……なんだ門矢」

 

「”能力”だったら何使っても良いんだよな?」

 

「ああ、妨害行為にならなければどんな力を使おうと問題無い。他に質問はあるか?」

 

「いや、後のことは大体わかった」

 

 

”個性”ではなく”能力”という言い方に相澤は何か引っ掛かるものを感じながらも答え、それを聞いた士は取り出したドライバーを腰に巻き付けゴールの方へと身体を向けた。

 

 

「待たせたな」

 

「話は終わったかよ。負ける覚悟は出来たンだったらさっさとスタートにつけや」

 

「悪かったな。覚悟出来たかどうかは……すぐにわかるさ」

 

 

士の言葉を聞き爆豪は苛立ちながらもスタートラインに手を突き、スタートの姿勢を取る。地に向けられた顔は既に勝ちを確信したかのような笑みを浮かべていた。

 

けれどその笑みはすぐに消えることとなる。

 

 

「オイてめェ……早くスタートの準備しやがれ!」

 

「まぁ落ち着けよ爆豪。ほんの一瞬だ。」

 

 

地に手をつけスタートの準備をする爆豪は一向に姿勢を作らない士に怒声を浴びせる。

士はそんな爆豪を横目に流すと腰のライドブッカーからカードを一枚取り出した。

 

 

変身。

KAMEN RIDE…DECADE

 

 

士の声と同時にカードが挿入され、周囲に幾つもの人型の影が生まれ、それが士と重なり合いマゼンタカラーの戦士が現れた。

 

 

「「「「おおおおおお‼‼」」」」

 

 

「なんだアレカッケェ‼」

 

「イカスぜ‼ アレがアイツの個性か‼」

 

「僕とキャラ被ってない?☆」

 

 

その姿に生徒らはまるでプロヒーローを見たかのように歓声を上げる。そんな盛り上がりを見せる中、爆豪と緑谷は全く違う反応を示していた。

 

 

「――――――え?あ、あれって……」

 

「な……て、てめェまさか……ヘドロの時の……ッ!!」

 

「久しぶり……といってもあの時のお前は気絶してたか。それも敵の人質になってな」

 

「ッ~~~貸しでも作った気になってんのか⁉ 良い気になってんじゃねェぞ!!」

 

 

 

士の煽りに耐えかねた爆豪が地を蹴り飛び上がると、爆破を起こしながら士に掴みかかろうとする。その攻撃を士が難なく躱そうとしたその時、突如布のようなものがうねるように爆豪の身体を縛り付け地に落とした。

 

 

「ッ……誰だ!? この……クソッ、離しやがれ!!」

 

「お前らいい加減にしろ、余計な時間を使わせるな。行動は合理的に、わかったな?」

 

「はいよ、相澤先生」

 

「誰が…ッ!?」

 

「わかった……な?」

 

 

爆豪が反抗しようとしたところを相澤はさらに締め上げる。

しばらく暴れたところで無駄だと察したか爆豪は暴れるのを止め、捕縛布が取られると士を力強く睨みつけながらも大人しくスタートの姿勢を取った。

 

そんな睨みを士は意にも介さず士は地に手をつけスタートの姿勢をつくらず、新たにカードを取り出す。

 

 

「何度も言わせるな門矢、早くスタートの姿勢を作れ」

 

「そう焦るな相澤。これで下準備は…終わりだ」

 

KAMEN RIDE…KABUTO

  CHANGE BEETLE.

 

 

変身音とともにベルトを中心にまるでタイルが裏返るかのようにマゼンタの身体は黒をベースとし、赤の装甲を身に付け頭部にカブトムシのような角を持つ姿へと変化する。

その姿には生徒らだけでなく事件や入試での映像を確認した相澤までもが驚きを隠しきれずにいた。

 

 

「姿変わった!!」

「ピンクから赤色の別の姿になりましたわね」

「おお! ヒーローっぽくてヒーローっぽくて羨ましいぜ畜生!!」

 

「ピンクじゃないマゼンタだ! ピンクには所謂イエローが入っているが、俺のはマゼンタ100%だ‼」

 

「うるせェ!早く始めんぞ!!」

 

 

ピンクというワードに過剰に反応する士を見てその余裕さに苛立ったのか爆豪がまたも怒鳴り散らす。その顔には先ほどまであった笑みはもはや影も形も無い。

 

 

(あいつがヘドロの時の奴だとしても関係ねェ! 大体姿が変わった程度で何が変わるんだってんだ! どんな姿だろうと入試の成績は俺が上、アイツは俺より下なんだ…負けるわけがねェ!!)

 

『位置について、よーい…』

 

 

士がスタートラインの前に立つことでスタートの合図を出す機械が起動する。その合図に合わせ爆豪は腰を上げ、士は手を腰に付けたライドブッカーに添えた。

 

周囲はどちらが勝つのか予想しながらも二人の勝負が始まるのを固唾を呑んで見守り、怒声が舞っていた空間が一気に静まり返る。

 

 

『ドン!』

 

「ッ!!」

 

 

機械音声とともに撃鉄が引かれるその瞬間爆豪は地を蹴り、前へと飛び出す。

 

 

「爆速…ターボ!!!」

 

 

両手を背に向け爆破を交互に繰り返していき、宙に浮いた身体は爆破の勢いで蹴り出した足は地に着くことなく前へグングン進んでいく。

一方士はスタート地点から一歩も動かず、手を添えたブッカーからカードを取り出すだけで何もしない。

あっという間に爆豪は半分の地点を経過し残り20mとなり、その顔に再び笑みが浮かぶ。

 

 

(後ろに奴の気配はしねェ!

 結局は俺が一番、モブはモブらしくしてれば良いんだよォ!)

 

 

ゴールまであと

 

15m

10m

5m…

 

 

未だ背後に士の気配すら感じないことに爆豪は勝利を確信する。

 

(やっぱり大したことねェ‼ この後の種目でも記録出して余裕に一位だ‼)

 

そう心の中で思い、爆豪は瞼を一瞬閉じる。ゴールまでの距離はもう身体一つ分も無い。視界の隅にも背後にも人の気配など感じない。爆豪は勝利を確信した。

 

 

 

【Clock Over】

 

 

けれどその一瞬の内に勝負は決することとなった。

 

 

背後で幾度と爆破を続けているにも関わらず耳まで届いたその電子音に爆豪はすぐさま瞼を開ける。そこにはスタートから一切動く気配を見せなかった士の姿があった。

 

その姿に気付くと同時に、突然周囲に砂ぼこりが舞い爆豪は視界が遮られながらも何とかゴールする。顔についた砂を手で拭い再びゴール先を見るもそこに士の姿ははっきりと在った。

 

 

「なんでてめェがここに……」

 

 

爆豪は突然の出来事に唖然としながらも言葉を捻りだし士にそう問いかける。背を向けた士はその問いに爆豪の方をチラッと見ると端的に答えた。

 

 

「なんでってお前より速く走ったからさ。……その様子じゃ俺が横を通ったことすら気づかなかったみたいだが」

 

「ッ……てめェ!」

 

 

士の言葉に触発され爆豪が士の胸倉を掴み殴りかかろうとする。

けれどその拳は士へと届くことはなく爆豪の身体は捕縛布によって縛り付けられた。

 

 

「ぐッ!?」

 

「はぁ……全くお前らのせいで前後の奴らの進み具合に差が出る。門矢、早く次行ってこい」

 

 

相澤は若干士のことを睨みつけながらここから早く立ち去れと言わんばかりに手を外に払い、士は爆豪を避けるためにも次の種目の場所へ足はやに進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

握力測定、長座体前屈などを終え種目はボール投げ。士がこれまでの種目で測定不能を叩き出し現状のトップに君臨する中、直前では栗色髪の少女が『∞』をたたき出し周囲が盛り上がりを見せる。

そんな状況の中、緑谷の番がやってきていた。緑谷は円の中に入ると深呼吸を繰り返し必死に気持ちを落ち着かせようとする。

 

 

(落ち着け、落ち着くんだ緑谷出久……オールマイトとの特訓を思い出せ!)

 

 

心を落ち着かせながら手に持つボールをグッと握る。彼はこれまでの種目で目立った成績を残せておらず、無個性でこのテストで挑んでいるといっても良い。

 

 

(このままじゃ退学は確実……やるんだ、今ここで!)

 

 

緑谷は身体に力を込めながら、手でボールを掴んだままそれを頭上へと挙げる。

浮かべるは必殺の一撃。緑谷出久が賭けるならここしかないのだから。

 

 

「はぁぁぁッ‼」

 

「……」

 

けれどそのことを相澤も予想しており、身体を犠牲にして放つ諸刃の剣とも言えるその一撃を相澤の持つ”抹消”の個性で止めようとする。

 

 

(もう一度チャンスをやって無理なら……除籍は決まりだな)

 

 

入試で見せたような人一人救って倒れるようなヒーローはいらない。あれから何も変わることが無いのなら見込みはない、と。

 

確かにオールマイトに憧れた()()の緑谷出久なら相澤のいう見込み無しの男だったかもしれない。

けれど彼にはいたのだ。

自らをその手で救ってくれた男、ディケイド()の存在が。

 

 

(彼に救ってもらえてこの場にいるんだ。彼に報いるためにも……僕が今できる最大を!!)

 

 

SMAAAAAAAAASH!!!

 

 

 

最低限で最大限を

大きく振りかぶる中限界までボールを持ち続け、腕ではなく指先一つに力が込められ放たれたその一撃はボールを空高く打ち上げる。

空気の輪を造り出し飛んで行ったそれは次第に落下し、相澤の持つ端末に『700.5m』と記録が表示された。

 

 

「相澤先生……僕、まだ動けます!」

 

「コイツ……‼」

 

 

今まで目立った記録を出さなかった緑谷が上位に入る記録を出したことで盛り上がりは更に増していく。そんな中、士は痛みに耐えながらも笑おうとする緑谷の姿を見てただフッと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがテストの結果だ。各自確認するように」

 

 

その後も種目は予定通り行われ、最終成績の発表が提示される。相澤が手元の端末から映像を生徒らの前に映し出した。

首位に表示されたのは『門矢士』の名。ほとんどの種目で単独トップかタイ記録を残していたため皆納得のいくものだった。

そして最下位は……ぶどうみたいな髪の男、峰田だった。

 

 

「……ッ」

 

「そんなオイラが……除籍なんて……」

 

「あーそれだから」

 

「「「「「⁉」」」」」

 

 

顔が太陽が沈んだ後の海のように真っ青になる峰田を始めとしたA組一同が相澤の発言に唖然とする。

 

 

「う……嘘?」

 

「そうさ。除籍処分っていうのは君たちに実力を発揮してもらうための嘘……合理的虚偽ってやつさ」

 

「「「「「えええええええええ⁉」」」」」

 

 

合理的虚偽。

最下位除籍は嘘であり、全員晴れて在籍のまま雄英高校での新生活を迎えることとなったのである。

 

 

 

 

 

生徒らがほっとした表情で教室へと帰っていく一方、校舎の裏で黄色髪の巨漢(オールマイト)は腕を組み顎に手を当て唸っていた。

 

 

「測定器は破壊し、反復横跳びは目で追えないほどのスピードを見せている。入試でわかっていた以上だ。加えて変身能力……とても一つの個性とは思えない」

 

 

まるで()()の強個性を持っているような…そこでオールマイトはある結論にたどり着く。

 

それは彼に考えすぎだと思わせるも、もしそうならばと考えると冷や汗は止まらず怒りも腹の中でグツグツと煮えたぎってくる。

 

 

「生きているのか?

 オール・フォー・ワン…!

 

 

自ら人を救わんと敵の前へと立ちはだかった彼に限ってそんなことはないと思いながらもその日その考えが頭から離れることはなかった。

 

 

 

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