入学初日、突如行われた雄英在籍を賭けた個性把握テスト。
そのテストを乗り越え、第一の関門を突破したと皆安心しきったまま帰りのホームルームの時間を過ごしていた。
「――話は以上だ。各自プリントには目を通しておくように」
「「「「はーい」」」」
「『はい』で結構。じゃ、解散」
生徒らの態度にため息を吐きそう言うと相澤は教卓を降り教室を後にする。
今日は入学初日で授業は行われない。そのため今後の簡単な説明と資料配布が終わると昼食を跨ぐことなく下校の時間となり、皆帰る支度を整えていた。
(俺も帰るとするかな……)
「はいはーい! 皆ちょっと聞いてくれ‼」
士も身支度を済ませ席を立ち上がろうとしたその時、金髪の男が勢いよく立ち上がった。
「俺の名前は上鳴電気! 無事皆テスト乗り越えられた訳だし…親睦を深めるためにも皆でちょっとご飯でもいかない? これから3年間共に頑張っていくためにもさ!」
「「「おおーー!!」」」
「いいねぇ上鳴!!」
「ウム、良い提案だ」
「だろぉ?我ながらグッドアイディアだぜ!」
「……」
上鳴の話に皆が賛同の意を示すも、士は我関せずと盛り上がりを見せる彼らに目を向けることなくその場を後にしようとする。そんな士の動きに気付いたのか上鳴たちと話していた緑谷が士の方へ近寄ると声をかけた。
「門矢君……もしかして帰っちゃうのかな?」
「えぇ!? 門矢君帰ってしまうん!? 色々話したいと思ってたのに……」
「そりゃないぜ門矢!」
「「そうだそうだー!!」」
緑谷の言葉に士が帰ろうとしていることに気付いたクラスの皆が声を上げる。
教室の外まであと一歩というところまで来ていた士だったがそんなブーイングの嵐を背に受け、扉に片腕をつき彼らの方に振り返ると言葉を返す。
「別に帰ったっていいだろ、他に帰った奴もいるわけだし。第一俺がいたところで何か場を盛り上げるような話の一つも出来るとは思えないけどな?」
ホームルームが終わるとすぐさま赤白の二分された髪の男と爆豪が自身を睨みつけながら帰っていったことを士は思い出しながら伝える。勿論、前者の度合いが1ならば後者は1000程度と睨みつける圧は違ったのだが。
士の冷ややかな笑みを浮かべた表情はその場にいた皆に自分たちとは異なるものを感じさせ、静寂が生まれる。入学初日に皆仲良くしようとする教室の中で一人放つ冷徹な態度に取り合わないのが当然とも思われる状況。
だがその一間もすぐに終わりを迎えた。
「ってなわけで俺は――――――」
「何言ってやがる門矢! 聞きたいことは山ほどあるぜ!」
「……なに?」
「色んな姿に変身してよぉ……なんだその個性!詳しく教えてくれぇ!」
「それには僕も興味がある! 50m走での目にも止まらぬスピードはどうやって出しているんだい? 後学のためにも是非教えて欲しい!」
「わたくしにも是非! 門矢さんからは並々ならぬものを感じますわ!」
「ぼ、僕だって前に助けてもらった時のこととか色々聞きたいし!…あと好きなヒーローとかも……ブツブツ」
「お前ら……」
紅い髪の熱血漢のような男を皮切りに皆口々にものを言い、教室は賑やかさを取り戻す。
士の持つ雰囲気は彼らのそれとは大きく異なる異質なものであるものの、臆することなく接してくる彼らの姿勢に驚きつつも流石は最高峰だと感心していた。
「なぁ良いだろ? 折角だしさぁ!」
「人は多いに越したこと無いからね! さぁ門矢もいこー!」
どうやらある程度の距離を取るためにした演技も彼らの前では意味を為さないらしい。
士の立つ扉のところまでグイグイと物理的に押し寄せてくる彼らの勢いに軽く笑みをこぼすと両手を頭上に上げ降参の姿勢を取った。
「わかったわかった……その親睦会って奴に出ればいいんだろ?」
「「「おお!!」」」
「流石門矢! そう言ってくれると思ってたぜ俺は!」
「よっし、そうと決まればすぐに場所取らないとな! 皆食べたいものとかあるか?」
「肉だな!!」
「三ツ星のステーキなどいかがでしょう?」
「お寿司!!」
「ハンバーグ!」
「フレンチ☆」
「お魚とかどうかな…?」
「ナマコ以外」
士が参加するとわかり皆が盛り上がりを見せる中、上鳴の言葉に皆が次々と答えていく。
ハンバーグや魚など一般的なものが続いていく中最後に発せられた言葉にその場にいた皆耳を疑い、その声の主の方を見る。
主の正体は士であり『別に嫌いじゃないが嫌な奴を思い出す』と士が伝えるとやや間はあったものの皆了解してくれた。
「――はい、それでお願いします。それじゃ」
「予約取れたか、上鳴?」
「そりゃもうばっちりよ! 大人数だけど丁度空いててくれて助かったぜ」
「おっし、皆取り敢えずそこまで移動しよう。自己紹介とか諸々の話はまた後でな!」
赤髪の男と上鳴、そして途中途中の移動の仕方などを飯田が指示を行いながら徒歩十数分。目的地へとたどり着いた彼らの目の前にあったのは屋根上には大きな看板が置かれ、建築物の側面上部はほとんどが透明なガラスで覆われた建物だった。
外装は明るい色で彩られており駐車場には多くの車が止まり、子ども連れも多く見られる。一言で言い表してしまうならば”ファミレス”である。
「ま、当日予約でこの人数ってなるとこういうのしかないわな」
「上鳴がわざわざ食べたいもの~とか聞くから期待したのに……」
「しょうがないだろ!? 皆の食べたいもの考えたらさぁ!!」
皆が冗談交じりで責め上鳴はそれに対し頭を抱えその場で暴れながら皆に言葉を返す。
こうなることは予想がついていたので元々皆ほとんど期待はしておらず、今は上鳴の反応を見て楽しんでいるのだ。入学初日でほとんど関りが無い中でここまでのいじりが出来るのは才能と言っても差し支えないだろう。
尚冗談でないと判断した飯田によってその場は収められ、結果としてスムーズに入店することが出来た。予約の本人確認を済ませ一同は席へと向かっていく。
「えっと5番の席はっと……ここか!」
「想像はしてたけど奥行すごいし、テーブルでかいし…最近のファミレスって凄いな……」
皆その広さや大きさに驚きながらも各々席に着く。
各自食事やソフトドリンクを注文して一段落ついたところで上鳴が軽く咳払いし、周囲を見回す。
「よっし…皆いるな。じゃ早速始めようぜ! さっきも言ったけど俺の名前は上鳴電気! 個性は『帯電』な!」
「んで俺が切島鋭児郎!個性は『硬化』! 熱いヒーロー目指してるからよろしくな!」
「私の名前は蛙吹梅雨、個性は『蛙』よ。梅雨ちゃんと呼んでね。」
「次私?私、芦戸三奈! 個性は『酸』!なんでも溶かしちゃうよ~よろしくね~!」
「次はウチかな、耳郎響香。個性は『イヤホンジャック』。耳たぶを自由に動かせて爆音流したり出来るんだ。よろしく」
「わたくし名を八百万百と申します。個性は『創造』。その名の通り色々なものを造れますわ。共に切磋琢磨していきましょう!」
「次は俺だな。俺は……」
そうして転々と自己紹介の順番が回っていく。そうしていよいよ番は士に回ってきた。
「オイラは峰田実! 個性は『もぎもぎ』! 」
「次は……門矢だな!」
「ああ」
周りからの期待の眼差しにフッと笑みをこぼすとベルトとライドブッカーを取り出しテーブルの上に並べた。
「俺の名前は門矢士。個性は……そう、『変身』だ」
「変身?」
「ああ。お前らが最初に見たマゼンタカラーの姿の他にテストの時の赤の装甲を持つ姿、出久とお茶子が覚えてるかは知らんが試験で見せた銀と黒の姿と色んな姿に変身できるのさ」
そう言って士は数えきれないほどのカードが収納されたライドブッカーからカードを取り出し机に並べて見せる。
そこにはクウガからディケイド、ディケイドからジオウまでの平成ライダーの面々が映し出されていた。それを緑谷は目を輝かせながら眺めている。
「凄い…これが門矢君の手助けをしてるサポートアイテムなんだね」
「サポートアイテム……そうだな。ま、大体そんなところだ」
「門矢君! テストで見せてくれたあの速さについて教えてくれないだろうか!」
「ああ、それは――――――」
士が飯田の問いに答えようとした時、何者かの気配を感じ通路の方に目を向ける。
そこには温かい春先には異質そのものでしかないベージュ色のコートと帽子を身に付けた男が歩いていた。
緑谷よりもやや大きく見えるその男は大勢の客で賑わい話声や食器の音で溢れる店の中でコツコツと足音を静かに響かせながら士たちの座るテーブルへと近づいていく。
帽子を深くかぶり口先しか見えないその男は目の間で立ち止まり戸惑う「失礼」と一声かけテーブルに置いてあった水の入ったコップとコーヒーの入ったコップを手に取った。
「――――――どれだけ綺麗な水だろうと墨汁一滴で黒く淀み、石油一滴で生命は死に絶える」
男は手に取った水にコーヒーの一滴を垂らす。
コーヒーの水滴は水面に落ちるとじわじわと広がり、水を薄く濁らせた。
「今やったこれだってそうだ。どれだけ綺麗な飲料水であってもコーヒーの一滴入るだけでそれは”純粋”なものではなくなるのだ」
「え……と、何の話……?」
「異質な存在は邪魔でしかない……それが単なる水であってもはたまた世界であっても。
「……お前はまさか」
男の言葉に士はそっとその場を立ち上がりテーブルを挟んで前に立つ素顔を見せないその男をじっと見つめる。店内は何事もないかのように営業する中、士の座るこのテーブルだけが異様な空気に包まれていた。
静かな睨み合いとも言えるその状況はコートを着た男が持っていたコップをテーブルに置き背を向けたことで終わりを告げる。
「ここはお前の世界ではない、消えろディケイド。もっとも己が意思で立ち去ることは最早出来ないだろうがな」
「ッ……待て‼」
「世界は再び混沌の時代を迎える。ディケイド、貴様のせいでな」
コートを着た男は士らに背を向けたままそう言い残し歩き出すと突如現れた銀幕に吸い込まれ姿を消した。流れについていけずだんまりだった緑谷らだったがその後簡単に自己紹介や会話をし終えるとその場はお開きとなり、こうして入学初日が終了するのだった。