どうかお楽しみいただけると幸いです。
000話
ジパング地方。
そこはヒスイ地方やガラル地方などと交流を持つ。
大きく4つの村があり、西にキョウト村。東にエド村。キョウト村の南にシコク村。そしてエド村の北にトウホク村がある。
近年、発見されて開発されたモンスターボールも普及したばかりであり、浸透はしていない。故にヒスイ地方の人々と同じように、ポケモンも大きく恐れる者が多い。
もちろん、ポケモンを友とする者も、また居る。
トウホク村に住む少年と青年の間の年頃のアラシという者も、ポケモンを友とする者だった。
もぞりと布団が動き、中肉中背の男性が眠そうな目を擦りながら体を起こす。
それと同時、彼の傍で丸まっていたポケモンが顔を上げる。どうやらポケモンも目を覚ましたらしい。
「おはよう、コオルス」
「コォ」
ジパング地方に生息する
このコオルスは目を覚ましたアラシが最近保護したポケモンである。アラシはポケモンを恐れずまたポケモンに好かれるタイプであった為に、怪我をしたポケモンや友好的なポケモンの世話を仕事としている。
コオルスに朝食の果物を渡し、その間にアラシは身支度を整える。寝巻を脱ぎ、布団を畳み、朝食の果物をほおばり、モコモコとした着物を着る。
「さあ、行くか」
「コオ!」
とっとと朝食を食べ終わり、部屋の中を走り回っていたコオルスに声をかけた。待ちわびたかのように応えるコオルス。
そんなコオルスににこりと笑い、懐にしまったモンスターボールを確かめて外に出るアラシ。
晴れ渡った空の下、白銀の大地がアラシとコオルスの視界に飛び込んでくる。トウホク村は寒く、一年の大半が雪と氷に覆われている。だからこそ、こんな光景にもすっかり慣れてしまった。
ザクザクと音を立てながらアラシは目的地へと向かう。そんなに遠くないそこに、あっさりと辿り着いた。
アラシが来たのはポケモンを飼育している牧場だ。人に友好的なポケモンを世話をする場所で、気が合った人にポケモンを譲ることもある。何せポケモンを持たない人間がポケモンに襲われれば大事は必至である。できれば多くの村人にパートナーとしてポケモンを連れて貰いたいのが村としての意向なのだ。もちろん、それでもポケモンを怖がる者が多いのが実情であるのだが。
「おはよう、ノグチ博士」
「ああ、アラシ君。おはよう。
コオルスも人間にすっかり気を許したみたいですね」
牧場の責任者、ポケモン博士のノグチ。だいぶ歳を重ねた男であり、博士と呼ばれているが研究などはしておらず、牧場のポケモンの世話が仕事である。それでもポケモンに気を許される事が多い柔和な雰囲気を持つ男性で、ポケモンのことならまず彼に相談するべきという認識を持たれることから博士と呼ばれているのだ。
そんなノグチ博士はコオルスを見て目尻を下げる。怪我をしたところをアラシに連れられて村に来たときは警戒心を剥き出しにしていたが、今はすっかり人間に気を許している。
まあ、実は一度アラシにしつけを受けたのだが。まだ大人になりきっていないのに、アラシは本当に強いのだ。もしかしたらジパング地方で一番強いのではないかとも噂されていて、エド村に居を持つイシン団やキョウト村のシンセン団にも一目置かれている程である。
そんなアラシは苦笑してノグチに口を開く。
「オレには完全になついてないですけどね。やっぱりコイツのパートナーはきっと他に居ますよ」
「普通の視点で見れば、君にも十分になついているように見えるけどね」
「否定はしません。けど、分かるでしょ?」
「言いたいことはね。けれども分からない、と答えておこうかな」
そう言って笑い合うアラシとノグチ博士。そんな2人をコオルスはきょとんと見上げていた。
「それで、特に問題がなければ見回りに行きますけど?」
「ああ、そうだ。ちょっと小耳に挟んだ話があるんだ」
村の周囲を見回り、安全を確認するのはアラシの大事な仕事だ。村の人々の何か違和感を感じたら近づかず、ノグチ博士に相談することが多い。ポケモンが関わっていたら危険だからだ。そしてノグチ博士がその情報をアラシに渡すというのも一種のルーチンである。
「最近この村に行商に来た、イチョウ商会の、ええと……」
「ウォロさん」
「ああ、そう。ウォロさん。そのウォロさんが東の林の雰囲気がおかしかったとか」
ノグチ博士からの情報に片眉を動かす事で返事をするアラシ。
ウォロも地方から地方を歩き回る行商人であり、ポケモンと共に行動をしているという。そんな彼が違和を感じたというならば調べる価値は高い。アラシはそう判断した。
「じゃあ、行ってきます」
「気を付けてなぁ」
「コォ!」
アラシの傍にいたコオルスが元気よく返事をし、歩き出したアラシについていった。
そのまま歩く事30分程、東の林はそんなに遠い場所にはない。辿り着いた時、アラシは乾いた唇を無意識になめていた。
「…………」
「グルルル」
コオルスも異常を感じているのか、低いうなり声をあげながら周囲を警戒している。
端的に静か過ぎる。大嵐の前のようなその雰囲気に、緊張が際限なく高まっていく。アラシの手には既にモンスターボールが握られていた。いつ何が起きてもいいように、だ。まだポケモンを出さないのは、もしも敵対するナニカがいた場合、ソレを必要以上に刺激しない為だ。コオルスがいる以上、最低限の警戒はできている。
そのまま警戒しつつ、ゆっくり歩いて林の様子を見て回る。風こそは流れているが、虫や鳥やポケモンの気配が全くない。自然に生きている彼らはこの異常を感じて既に逃げ出しているのだろう。
「――は?」
「グ」
そしてその原因は、至極あっさりアラシの目に飛び込んできた。林の中にぽっかりと開いた広場。そこに異常があったのだ。
だが、その異常を説明するのは難しい。何がある、という訳ではない。だが、何かがおかしいのだ。ぐにゅぐにゅと、黒や光が捻じ曲がって交わって、狂っている。
時間や空間が、歪んでいる。アラシがなんとなくそう思った瞬間に、その時空の歪みが裂けていく。
「!!」
音もなく割れた歪みは、その中から人間を吐き出した。その数、3人。少年が1人に、少女が2人。目を閉じた少年少女はそのまま地面に転がり、動かない。時空の歪みも人間を生み出すことが目的だったかのように、あっさりと消え去っていった。
まるで最初から異常がなかったかのような空気が流れる。それを否定するのは、地面に転がったまま意識がない3人の少年少女。
「どうしろって言うんだ、これは……」
途方に暮れたアラシの呟きが風に流れて、消えた。
予行演習はこれでいいのですか、ギラティナ?
では本番です。ヒスイ地方にてディアルガとパルキアを狂わせ、アルセウスを目指すのです。