それはさておき、最新話をどうぞ。
トウホク村から東にあるその林。だから東の林と呼ばれるその場所に立ち入ったのは4人。
ミカゼとサイトウとナギ、そしてノグチ博士。
「ノグチ博士も来ていただいてよかったんですか?」
「もちろんだよ。村に篭りきりというのも良くないしね」
東の林くらいなら訪れる人も稀にだがいるらしい。ここに出現するポケモンの多くは穏健なタイプばかりで、ポケモンが1匹でもいれば比較的安心だ。最悪、村まで逃げ込めばそこまで追ってくるポケモンはそういない。
ましてや今はミカゼとナギが1匹ずつポケモンを持っている。
「それにボクも様子を見ておきたかったのです」
ノグチ博士の言葉に、3人とも首を傾げる。それを見たノグチ博士は誤魔化すように笑った。
「いえ、何でもありません。行きましょう」
「そうですね、ポケモンを出しておきましょう。コオルス!」
「…ポニータ」
ミカゼがコオルスを、ナギがポニータをモンスターボールから出す。出てきたポケモンたちはぶるりと身震いをすると、甲高く鳴き声をあげた。
「コォ!」
「ポニ~」
コオルスはキリっとした顔で全員の前に立ち、ポニータは楽しそうにすぐ側を飛び跳ねる。
どうやらコオルスは真面目で、ポニータは自由な性格をしているらしい。
そんなポケモンたちを見て、4人が4人とも頬が緩んだ。
「さて。じゃあ行きますか」
「そうですね」
ノグチ博士の促しに、ミカゼが頷いて答えた。それを聞いたコオルスはとことこと歩き出す。
「……」
「……」
どこか期待した沈黙を保つサイトウ。どこかぼんやりした雰囲気のまま沈黙するナギ。
「ポニ!」
そして彼女たちの周りをかっぽかっぽと歩くポニータ。
場所の問題もあるだろうが、少しだけ気が抜けたような空気も混ぜつつ一同は先に進む。
「ポケモン、いないですね」
「うん、普段から活発なポケモンがいる場所じゃないけど、やはり普段に比べて静かだね」
ミカゼがぽつりと言った言葉を拾うノグチ博士。
確かに東の林は静かな場所ではあるが、それでもこれは静か過ぎる。
(やはりアラシくんが見たという時空の歪みのせいですかね?)
ノグチ博士は頭の隅で考えつつ歩みは止めないが、1匹もポケモンを見ないのは異常ともいえた。
と、そこで先頭を行くコオルスの足が止まる。
「コォ!」
「ん? なんだアレ?」
ふと前を見れば、そこには黒色があった。晴れ渡った空に似合わない黒が眼前の空間にぽっかりと浮いている。
そしてその黒には瞳があった。爛々と輝く瞳で近寄った人間たちを見ていた。
「! ポケモンか?」
「こんなポケモン、見た事ないですねぇ…」
ミカゼが叫び、コオルスが牙を剥きだす。ノグチ博士が驚いた声を出し、ナギは傍にいたポニータの首を抱いた。
そしてサイトウは。そのポケモンと瞳を合わせると、雷が落ちたような感覚にとらわれた。
(知っている、わたしはこの子を知っている…)
じっと見つめ合うサイトウとポケモン。その雰囲気に気が付いた他の者たちはその様子を静かに見守ることにした。
そのまま数十秒、視線をかわす1人と1匹。
やがて、サイトウがほろりと涙を流した。
「……来て、くれたの?」
「マー!」
「命が尽きてもわたしに会いに、来てくれたの?」
「マ!」
サイトウはこのポケモンを知らない。知らないポケモンなのに、絆が刻まれていると気が付いてしまった。その絆に、覚えがあった。
「わたしの、ワンリキー…」
「マーシャドー!!」
覚えてはいない。けれども確信している。このポケモンはサイトウが最も心を許したポケモンであるワンリキーであると。
どんな理屈かは分からない。けれどもサイトウの元に来るにはその姿を捨ててゴーストタイプとなる必要があったのだろう。文字通り命を捨ててまで、ワンリキーはサイトウの元に来ることを選択した。
その事実に、サイトウは立ち尽くしたまま涙を流す。
「――ありがとう」
「マーシャド!!」
どんなもんだい。そう言わんばかりに胸を張るそのポケモン、マーシャドー。
そしてマーシャドーはふわふわとサイトウの傍まで行き、彼女の腰に括り付けられたモンスターボールのスイッチを押して、中に入る。
サイトウが自分の最初のパートナーと再会し、再捕獲した瞬間だった。
そのモンスターボールを胸に抱き、静かに涙を流し続けるサイトウ。そんな彼女を見つつ、目を鋭くして言葉を漏らしたのはノグチ博士。
「できれば感慨に耽らさせてあげたいけど」
その気配に気が付いたノグチ博士は、合図を出してミカゼとナギに警戒するように伝える。ノシノシという軽い音を立てながら近づいてくる存在がいる。
野生のポケモンであると気が付いたミカゼとコオルスがそちらを向けば、そこには草タイプのポケモンがいた。
「フッシ!」
「フシギダネか。ナギ、お前とポニータはサイトウについていてくれ」
「…うん、わかった」
「ポニータ!」
「あいつは俺とお前でなんとかするぞ、コオルス!」
「コォ!」
前に立つコオルス。それと相対するフシギダネ。
ポケモンバトルの緊張感に、ゴクリと唾を呑み込むミカゼ。そしてその思考を高速で回す。
(大丈夫、落ち着け。草・毒タイプのフシギダネの攻撃に、こおり・ドラゴンタイプのコオルスに有利が取れる技はないはず。それどころかほとんどの技がいまひとつだ)
「フッシ!」
フシギダネはひのこを吐いた。そしてそれはコオルスの顔面に命中する。
「コォォォ!!」
「って、えええええ!? フシギダネがひのこを吐いた!?」
「うむ、当然だね」
「なんで当然なんですかノグチ博士! フシギダネが! ひのこを吐いたんですよ!」
「フシギダネと言えばタイプは草・ほのおじゃないか」
「どこの常識ですかそれ! フシギダネは草・毒タイプでしょ!?」
「あ~、ガラル地方のヨロイ島ではそんな意外なタイプのフシギダネもいるとか聞いた気もするね」
「意外なタイプはこっちのフシギダネですからね!?」
驚きのあまりノグチ博士に喰ってかかるミカゼだが、それで現実が変わってくれる訳でもない。一通りわめいて無理矢理自分を落ち着かせたミカゼはコオルスの様子を見る。
体力がかなり削られているが、まだ戦闘不能にはなっていないようだ。
(タイプ一致の技だもんな、そりゃキツい!)
「コォ!」
(でも闘志は消えてない、なら攻撃あるのみ!)
「コオルス、たいあたり!」
ミカゼの指示を聞き、フシギダネにたいあたりを仕掛けるコオルス。素早い訳でもないフシギダネはそれをまともにくらって後ろに吹き飛ばされていく。
「まだまだ、こおりのキバ!」
続く技はタイプ一致のこおりわざ。草タイプならばつぐんが取れただろうが、このフシギダネはほのおタイプも持っている。結果、等倍でしかダメージが通らず、ギリギリで戦闘可能を維持したフシギダネ。
おかえしとばかりにフシギダネは背中からつるのムチを出し、それにほのおを纏わせた。それを振るい、ほのおのムチでコオルスを打ち据える。
「コォォォ、ォォォ……」
そのダメ押しにコオルスが力尽き、その場に崩れ落ちる。
(まだだ!)
それを見届けたミカゼは左手に構えたモンスターボールでコオルスを回収し、右手に持った空のモンスターボールを振りかぶってフシギダネに投げつける。
「行け、モンスターボール!」
「ダネ!?」
コオルスを仕留めた一瞬の油断。それを突かれたフシギダネは回避することなくモンスターボールに吸い込まれていく。
そして地面に落ちたモンスターボールは、数回グリグリと暴れた後。カチリとロックがかかった。
捕獲成功である。
「ふ~。危なかったぁ」
その場にへたりこむミカゼ。もう手持ちがおらず、負けは寸前だった。それでも逆転の一手でフシギダネを捕獲できたのだ。
これはもちろん、モンスターボールから脱出する為の体力を削ってくれたコオルスのおかげでもある。
「ありがとう、コオルス」
ミカゼの言葉に応えるように、カタリと少しだけコオルスのモンスターボールが揺れる。
それはひんしになったコオルスの、精一杯の返事だった。