テンプレオリ主VS勝手に恨まれた可哀そうな馬VSダークライ 作:ハロルド作並
恥ずかしいので匿名投稿する私を許してください
まず思い浮かぶのは純白という言葉。そしてその次に広大と言う言葉すら足りない大きな大きな広場。自分の視界に映る全ての景色は真っ白しかない空間であった。
そしてその巨大な純白の空間には二つの異物があった。
自分自身と、目の前にいる人?がそれだ。
何故疑問符をつけたというと、自分には目の前の人物が人であると確信を持てなかったからである。
だってそうだろう?
目の前にいる人物は、首から下は紛れもない人に見えるが、首から上―――頭部は、人の物ではなく、どう見ても馬の頭部をしていたからだ。それも、ドンキや百貨店においてある、馬の頭部のマスクのようなものを被っているわけではない。どう見ても、本物の馬の頭部が人の首の上に鎮座してあるのだ。
「やあ、よく来たね。君を待っていたよ」
目の前の馬男?が自分に声をかけて来る。その風貌からは似つかわしくない深い知性と威厳が備わった声だ。
「いきなりこのような場所にいる事に戸惑っているのだろう?大丈夫ちゃんと説明はするからね。どうか心落ち着かせて、僕の話を聞いてほしい」
馬男は困惑する自分の姿を見て、優しく、それでいて深く落ち着いた声で自分に語り掛ける。その声に、自分は頷き、目の前の馬男の言葉を聞くことにした。
「ふむ。落ち着いているね。いや、実に結構な事だ。君以外の人物達はこの状況になると、殆どの者たちは慌てふためくからね。いや、人としてその反応の方が正しいとは思うが、僕としては君の態度の方が好ましく思うよ―――おっとすまない。話が逸れているな。本題に入ろう。まず結論から言うと、君は死んだんだ」
馬男は微笑みながら、とんでもない発言をした。
自分が―――死んだ?なぜ?どうして?
「何故君が死んだか―――。事故死なのか病死なのか自殺なのか他殺なのかは僕にはわからない。そして悪いが興味もない。ただ確かなのは君は死んだ。そして今魂だけの存在となった君を僕がこの現世と幽世の隙間に呼び出して話をしているのさ。ああ、自己紹介が遅れたね。この話の展開で僕の正体を薄々感づいているかもしれないが、僕は神だ」
馬男は自らの正体を神と言った。何てことだ。神様は馬面ならぬ、馬頭だったのか。
「もっとも。僕は君が想像するような全知全能の神様ではないけどね」
それはどういう意味だ?
「八百万の神々。全ての物質に神が宿っている―――とまでは流石に言えないがね。神も様々居てね。神はそれぞれ何かを司る存在なんだ。農業の神。淫欲の神。賄いの神。戦争の神。薬の神。植物の神とかね。そして、ほら。僕の顔を見れば一目瞭然だろ?僕が司るのは馬だ」
馬頭の神はひひんと鳴き声を上げて、自分の馬面を撫でた。
「君は今後、僕以外の神と会うこともなかろう。なので他の神と僕を区別する必要もあるまい。僕の事は神さまとでも呼んでくれ。さて、僕の正体も判明したことだし、君をこの幽世の間に呼んだ理由を話そう―――ウマ娘だよ」
ウマ娘?
「そうさ、ウマ娘だ。君もプレイしていたのは知っているよ」
ウマ娘―――正式名称はウマ娘プリティダービー。
日本に実在していた名馬達を美少女に擬人化させた、ある意味日本らしいコンセプトのソーシャルネットゲームだ。だが、登場人物の魅力ももちろんの事、育成ゲームとしての面白さやアニメや漫画、舞台と幅広く伝わり、今では日本を代表するサブカルチャーの一つとなっている。
自分は元から競馬好きだった父親の影響もあり、子供のころから馬や競馬が好きだった。自分の好きな名馬達が登場するウマ娘も当然の如く、プレイしていたが―――自分をこの場に呼びよせた理由とまるで繋がらなかったが馬神は自分の困惑など知らんとばかりに話を続けた。
「ウマ娘―――あれは実に素晴らしいものだ。ウマ娘が世に出たことで、日本での競馬―――強いては馬達の知名度が以前の何十倍――いや、何百倍に増えたといっても過言ではないよ」
馬神は上機嫌に話をする。
「僕たち神も人間たちと同じように役職のようなものがあってね。最高神を大企業の社長とするならば、僕は良くて平社員さ。役職を上げるには、神が司るものに対する信仰や熱意を上げなくちゃいけないんだ。正直少し前までは、その熱意も頭打ちだったんだ。だけど、ウマ娘が登場してから、人間たちの馬に対する、信仰や熱意が圧倒的に増えている。おかげで僕は人間でいう所の係長―――いや、課長職の役職を得られる所までこれたんだ」
本当にウマ娘様々だよ。と馬神は拝んでいる。
「今日本では、ウマ娘ブームが非常に熱い。僕としてはそのブームをもっと盛り上げたいんだ。それこそ、ドラゴンボールやワンピースのように世界に轟くサブカルチャーになってほしい。だから少しでもどの手助けをしたくて君の魂を呼んだんだよ」
どういうことだ?馬神に問いかける。
馬神はその馬面をにたりと笑い―――
「なぁに。簡単な事さ。君に―――新たなウマ娘のモデルとなる馬に転生してもらおうと思ってるのさ」
衝撃の言葉を発した。
「君も知っての通りだけど、ウマ娘は基本的に昔の名馬から選ばれる。今は2022年だが、2010年以降に生まれた馬達の中で、ウマ娘となれたのはたった2頭だ。仮に君を今の時代の馬に転生させたとして、ウマ娘となるには更なる時間がかかるだろ?ならば過去だ。君を過去の時代の馬に転生させる。そして君が活躍をすれば、ウマ娘がリリースされる時代に君は存在することになる」
馬に転生させるだなんて…ましてや過去に自分を飛ばすなんて、そんな事が本当にできるのか?
「できるよ。以前は無理だったけど、神としての神格が上がった今の僕ならできる事さ。ただ、都合よくは無理なんだ」
都合よくはできないとはどういう意味か?
「過去を自分の都合の良く改変できるのは、それこそ人間の言う所の社長クラス―――最高神クラスの方々さ。例を上げるとするならば…君に意図的にディープインパクトの素質を持たせて、意図的な時代に転生させる等は無理だけど、君に何らかの馬の素質を持たせて、1974年から2013年の間のどこかの年代に転生させる事は出来る」
転生したときの馬の基本能力はこちらが指定できない。そして転生する年代は1974年から2013年の間のどこかということか。
「その通り。どんな馬の能力が授かるかは完全な運任せ。まぁ、君たちが大好きなガチャさ。人生――いや、馬生を賭けたリセマラ不可の一回限りのね。そして1974年から2013年と決められているのは、2022年3月現在で、名前が判明している史実のウマ娘は75人。その中で最も古い年代のウマ娘と最も新しい年代のウマ娘の生誕の年だ」
最も古い年代と最も新しい年代。
マルゼンスキーとサトノダイヤモンドのことか。
「ご名答。理解が早くて助かるよ。僕としては、ウマ娘としての数が多い1980年代から2000年位の間で転生してほしいんだが、僕の力では1974年から2013年のどこかが限界なのさ。これ以上指定をしちゃうと、上の神達に天罰を食らってしまう」
中間管理職のつらい所だね。早くもっと役職を上げたいよ。と、馬頭の神はため息を吐いた。
「さて。ここまで話したけど、この先の詳しい説明をする前に、君に尋ねなければならない。今回の過去の時代に馬として転生する提案を受けるか否か」
………………この話を断ったらどうなるのか教えてほしい。
「簡単な話だ。君は消滅する。通常、輪廻転生ってのは生前によっぽどの徳を積んだか。もしくは歴史を動かしたような偉人達のみが行える特権なんだ。彼らは死後、自然と輪廻転生の輪に加わる。それ以外の人間が転生する場合は、神が自分の都合で転生させる時だけさ。今回のようにね。君が断るというなら僕はそれでもかまわない。こういうのは無理強いをさせても、碌な結果にならないのは理解している。競馬に精通し、ウマ娘をプレイしていた故人なんて幾らでもいるからね。君が断るならまた新しく探すだけさ」
馬神は軽く肩をすくめながら答える。
「それと君がこの話を受けて、後に君をモデルとしたウマ娘が作成された場合、その功績をもって僕は君をウマ娘へと転生させよう。失敗した場合は、その後の輪廻転生は無しになり、馬としての命を終えたならば、君という存在は消滅するだろう」
自らの消滅―――。輪廻転生をするならばともかく、この提案を断ったら転生することなく、自分という存在は跡形もなく消える。そんな事には耐えられない。馬神に転生することを了承する。
「―――そうかい。それはよかった。それじゃあこれを使って説明を続けようか」
安心したように笑みをこぼしながら、馬神は自分にスマホを渡してきた。
「そのスマホの電源を入れてくれ。そしたら1つアプリがあるだろ?それを起動してくれ」
馬神の言葉にしたがい、スマホの電源を入れ、1つだけあるアプリを起動する。
来世から始まる素敵な馬ライフ。
目指せ‼ウマ娘へと至る道を‼
………………アプリを起動すると、そんなタイトルが出てきた。何も突っ込みまい。
「起動したね?項目が幾つかあるけど、殆どの説明は、素質ガチャのことさ。大事な事だからよく聞いてほしい」
馬神も自分の手元のスマホを見ながら説明を始めた。
「素質ガチャで決まるのは、素質元になる馬とランクだ」
素質元の馬とランク?
「君が馬に転生するにあたり、1974年から2013年生誕で重賞を獲得した史実の馬の素質をコピーする。ただし、現在発表されているウマ娘のモデルの馬は除外されるけどね。最強世代と言われた2009年生産馬でいうと、ゴールドシップは除外されるが、ジェンティルドンナやジャスタウェイなどは選ばれる可能性がある。ちなみに2009年生誕の馬が素質馬と選ばれても、2009年に転生するわけではない。あくまで素質馬が選出されるだけだからね。それと受け継がれるのは素質のみだ。容貌や毛並みは受け継がれない」
「次にランクの話をしよう。ランクはR・SR・SSR・URに分かれている。君にはいう必要はないとは思うが、Rランクが1番能力が低く、URランクが1番能力が高い。排出率はRランクが1番高く、URランクは1番低い。まぁガチャの常識だよね。これが各ランクの排出率と内容だ」
R = 60% GⅢ勝利馬以上確定
SR = 35% GⅡ勝利馬以上確定
SSR = 4.5% GⅠ勝利馬以上確定
UR = 0.4%以上 GⅠ複勝利馬以上確定
感想は排出率は厳し目といった所か。リセマラ無しの1回限りのガチャ。最低でも、SRは欲しい所だ。
だけど…あれ?この排出率何か違和感を感じないか?
「ランクの違いを説明するね」
馬神の言葉に慌てて話を聞く姿勢を取る。
「先ほど素質馬の話をしたんだが、仮に君が素質馬でジャスタウェイを当てたとしよう。そのジャスタウェイはランクによって性能が異なる。具体的にはこれだ」
R = 素質馬の80%
SR = 素質馬の90%
SSR = 素質馬の100%
UR = 素質馬の110%
「同じジャスタウェイでも最低ランクのRと最高ランクのURでは基本性能が30%も違うことになる」
30%の差。それは凄まじ過ぎる差だ。サラブレットとして絶望的な数字である。
「また、ランクが高いほど、怪我や病気に対して強くなるし、容姿――いわゆるグッドルッキングホースになる可能性が高い」
何たる格差社会。何が何でもRランクだけは避けたい。だが、排出率的にRランクが一番可能性が高いのだ。これは辛い来世になる可能性が高い。
「だが、低ランクにも1つメリットがある。人間性だ」
ガチャの格差に嘆いている自分に馬神は謎の言葉を発した。
人間性?
「人間性。ランクが高くなればなるほど、人間性は薄れていく。生来の馬の気性に染まるとでも言えばいいかな。一つ尋ねるけど、人間がサラブレットに転生した場合、明らかにレースで有利になることがある。それは何だと思う?」
それは勿論、人間としての頭脳を持ったまま馬に転生できることであろう。作戦の内容、調教師の狙い、騎手の咄嗟の判断。それらに即対応できるのが大きな強みだ。
「ご明察。やはり察しが良くて助かる。人間の頭脳をもったままレースを走る。これはとんでもないアドバンテージさ。大抵の馬が苦手とするゲートだって平気になるしね。そしてそのアドバンテージは高ランクになればなるほど薄れていく。馬生来の気質に染まって、人間としての判断が出来なくなるのさ。仮に気性難で有名だったステイゴールドがSSR以上で当たったら大変だよ?気性難のオンパレードで、下手したらレースに参加することすら難しくなる可能性もある。まあ、その分凄く強い素質馬にはなるんだけどね」
「それにね。ウマ娘になるには必ずしも強い馬である必要はない。ウマ娘にはそれを体現してる存在がいるよね?」
ハルウララ。負け続けてもひたすらに走り続けた地方の星。彼女は弱い馬であった。だが、皮肉にも負け続けたことにより脚光を浴びた異端の名馬。
「そう。Rクラスならば人間性は100%近く残る。それで人間たちに愛想よくしたり、人間が好むエピソードなんかを作れば、レースの外で人気が出て、脚光を浴びる可能性もあるってことさ」
なるほど。自分の最大の目標はレースに勝つことではなく、自らをモデルとしたウマ娘が制作されることだ。勿論強い馬の方がウマ娘になりやすいのは確かだが、それだけが全てではない。
高ランクを期待しつつも、仮にRクラスが出てしまい、重賞制覇等が難しい状況となれば、人間たちの心に刺さるエピソード作りに邁進しよう。
「そしてこれが最後の説明だ。URクラスの説明となる。URクラスは最上位クラスだけあって、言うまでもなく素質はトップクラスだ。しかも排出される素質馬はG1複勝馬のみ。GⅠ複勝馬の120%の素質。これだけでもやばいけど、まだ続きがある―――時代制限の排除だ」
時代制限の…排除?
「時代制限の排除だ。RクラスからSSRクラスまでは、1974年から2013年生産馬という制限があったが、URはこれがなくなる。URが出た場合、現代までに日本競馬で活躍し、GⅠ複勝の栄誉を果たした全ての馬が選ばれる可能性がある。それこそ古の三冠馬セントライトやシンザン。名牝クリフジやヒサトモ。最も新しき三冠馬コントレイルやGⅠ最多勝利を更新した、九冠馬アーモンドアイとかね」
日本競馬において、馬自身を記念レースとしたのは、セントライト・シンザン・ディープインパクトの三頭のみ。馬自身が記念とレースとなった偉大なる名馬。クリフジやヒサトモも伝説ともいえる逸話を持つ名牝である。
しかし疑問がある。初代と二代目の三冠馬という偉大な記録を作ったセントライトやシンザンだが、仮に現在に蘇ったとしても、かつてのように活躍できるのであろうか?競馬は常に進化し続けている。調教方法、血統、馬場の変化。彼らが活躍した時代から大きく進化しづけているのだ。そんな中、古くに活躍した彼らであっても、時代に取り残されるのではないだろうか。
「君の心配は競馬を知る者としては最もだね。かつての伝説の名馬は、今現在の環境では活躍できないのか。安心してくれ。それはない。彼らという存在は伝説だ。伝説は常に輝き続ける。それが現代、未来であっても永劫に」
馬顔を真摯にし、馬神は伝説の名馬の実力を保証してきた。そこまで言うならば安心できる。
「ただ先ほども話したが、クラスが上がれば上がるほど、人間性を失う。URクラスともなると猶更ね。仮にURクラスで気性難の馬が選ばれると気性が激しすぎて、競走馬になれない可能性も出てくる。この事も念頭に入れてくれ」
高ランクにもデメリットはある。しかしそれでも、素質馬の110%の基本性能は魅力的だ。
「これで僕からの説明は以上となる。ご清聴感謝します」
馬神はぺこりとお辞儀する。
これで馬神からの説明は終わり。だが、何か自分は気になることがあったのではないか…。なんだったか…。
「では、お待ちかねの時間に行こうか。君の運命を決めるガチャの時間だ。手元のスマホにもう一つ新しいアプリが追加されている。起動したまえ」
脳裏に浮かびそうになった疑問がその言葉にかき消される。
ついに行うのか。自分の運命を決めるガチャを。
手元のスマホに新たに追加されていたアプリを起動する。
ドキドキ素質ガチャ!!
示せ!君のウマソウルを!!
……………………僕は絶対に突っ込まないからな。
「ガチャ演出を楽しむのもガチャ醍醐味だ。ガチャ演出の説明もしておこうか。ガチャが始まると、一冊の本とそれに挟まる栞が出てくる。その本の表紙や栞の色によって、クラスがわかるようになっている。つまりは、ウマ娘のサポカガチャと同じになっている。ただ排出ランクの数が違うから色は変わるけどね」
馬神は説明しながら指を立てていき、説明を続けた。
「Rクラスならば銅色、SRクラスならば銀色、SSRクラスならば金色、そしてURクラスならば虹色となる。ランクが判明した後に君の素質馬が判明する…と、もう説明するべきことはない。さあ!自らの手で掴みたまえ!運命を!!」
馬神の言葉にアプリのガチャの画面を…自らの来世を決めるガチャを始めた。
スマホの画面いっぱいに一冊の本が現れた。本の表紙と栞の色は――――――銅色。
「ふむ…Rランクか…。残念だが仕方がない―――?」
銅色であった栞の色が変わる。銅から銀へ。
「おお!昇格だね!これで君はSRランク確定―――?」
銀色へと変わった栞の変化はまだ止まらなかった。次は銀から金へ。
「おおおお!?SSRランクまで昇格だ!!これは凄いことだよ!SSRなら君の来世は期待できる―――?」
自分の来世は明るい。そんな感想を抱かせてくれた黄金に輝く栞。
黄金に輝く栞は、虹色の未来を暗示するかのように虹色へ。
「うそだぁぁぁぁぁ!!昇格でRランクからURランクなんて初めて見たよぉぉっぉぉぉぉ!!??」
馬神の興奮に満ち溢れた叫び声が響く。自分も勿論この結果には驚いた。
「URランクなら、GⅠ複勝馬の素質110%だ!!!これはもう勝ったも同然だよ!!いよいよだ!!いよいよ君の来世の素質馬が判明するぞ!!」
馬神の言葉に、ごくりと喉をならす。いよいよだ…いよいよ自分の来世の素質がわかる!
………しかし長い。本の表紙と栞は虹色に輝くのみだ。中々に長い。素質馬の発表はまだだろうか?
馬神もその待ち時間の長さに疑問を抱いたようだ。
「……あれ?おかしいなぁ…。中々発表までいかないね…。こんないい所で神サーバが落ちたかな―――?」
次の瞬間―――本は弾けて消えた。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!?な、なんだぁぁぁぁ!!??」
馬神が驚愕の声を上げる。
弾けて消えた本は黒い塊となり、純白の空間を黒へと塗りつぶした。見渡す限りまで純白だった空間は漆黒へとかわる。まるでブラックホールに飲み込まれたかのように。
「ま、まさか…こ、これは…!!??」
漆黒の空間に一つの光が灯る。ゴルフボールほどの大きさの光は連鎖的に増えていき、自分の周りに幾つもの光が集まった。まるで大きな星だ。漆黒の空間が宇宙空間に見え、輝く光は星のようだ。
「し、信じられない……!!こ、これは間違いなく…!!」
ふと気付く、光る星の中には何か文字が揺らめいている。
その事に気づいた自分は試しに目の前にあった光の星を除いてみると…。
「LRランクの確定演出だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
そこには『偉大なる焔マンノウォー』という世界的な名馬の名前が見えた。
「信じられない!!!!LRランクを引けるなんて君は前世でどんだけの徳を積んだんだい!!??君の前々世はお釈迦さまやキリスト様だったのかい!!!!????」
馬神の興奮を隠しきれない叫びがあたりに響く。
落ち着け。そんなわけがあるか。そしてLRガチャとは何なのか?
「え、え、LRランクはURランクの更に上のランクだ!!LRランクは素質馬の基本性能が120%となり、対象の素質馬は、URランクまでの日本という制約を外し、世界の伝説的名馬が選ばれる!!!」
世界の伝説的名馬。確かに自分が見た光の一つには「マンノウォー」の名前が刻まれていた。アメリカ合衆国が誇る伝説的名馬。
「マンノウォー!!セクレタリアト!!キンチェム!!ネイティブダンサー!!ダンシングブレーヴ!!ラムタラ!!そういった世界の伝説的名馬の中の1頭が君の素質馬になるんだよ!!??」
世界の競馬を知る者達なら誰しもが耳にしたことがある伝説的名馬の名前。
そんな世界の名馬が自分の来世の素質馬となるのだ。しかも基本能力は120%という破格の数字で。
しかし馬神は何故LRランクの説明をしなかったのであろうか。
「で、出ないと思ったんだよ!!!だって、LRランクの排出率は0.00001%だよ!!!???出る方がおかしすぎるんだよ!!!!はっきり言って僕はチートを疑ってるよ!!!!!」
そうか。排出率を見た時の違和感はこれか。
URランクの排出率は0.4%以上。0.5%で排出率は100%となるのに、何故この表記だったのかが違和感だったのか。
R = 60%
SR = 35%
SSR = 4.5%
UR = 0.49999%
LR = 0.00001%
厳密には排出率は、これが正しかった。しかし何だこの確率は。こんなガチャの排出率狂ってるとしか言えないぞ。
「仕方がないじゃないか!!世界的名馬もガチャシステムに組み込むと、僕の神格ではこれが精いっぱいだったんだよ!!!でもロマンを求めて入れてみた僕を褒め称えてくれよ!!!!そのおかげで君の来世は安泰なんだからぁぁぁぁ!!!!」
周囲に散らばっていた星々が一つになり巨大な星となる。それはまるで太陽のようであった。
「決まる決まる決まる!!!君の来世が決まるよ!!さぁ初代ビッグレッドか!?それとも二代目!?いやいやハンガリーの奇跡か!?踊る勇者をもう一度日本で見られるのか!?それとも神の馬が来るのか!!??」
馬神の言葉に呼応するように巨大な太陽は一つの文字を浮かび上がらせた。
『煮えたぎる蒸気機関車セントサイモン』
……………………………………………………………………おい。
「……………………………………………………………………め、名馬でよかったね」
イギリス競馬。
古来から世界最先端と畏敬をうけるイギリス競馬。
イギリス競馬会にはその長い歴史の中で数々の名馬を誕生させてきた。
そんな中で特に世界に誇れる名馬が2頭いる。
18世紀を代表する世界的名馬。エクリプス。
唯一抜きん出て並ぶ者なしという格言をもつサラブレットの祖ともいえる存在。
そして19世紀を代表する世界的名馬がセントサイモン。
その圧倒的な実力と、種馬としても世界を塗り替えたイギリスが世界に誇る名馬。
両馬とも圧倒的な実力と超大型種馬ともいえる、イギリス競馬が誇る名馬。だが両馬には共通したある一つの欠点があった。
それは気性である。セントサイモンは常にイレコんでおり、厩務員を常に殺そうと攻撃するとんでもない気性の持ち主だった。煮えたぎる蒸気機関車とはセントサイモンの騎手が表現した言葉である。比較対象が生き物でないとは凄まじ過ぎる。超天才とキチガイは紙一重。これを体現したのがセントサイモンなのだ。
今現在、現存するサラブレットには全てセントサイモンの血が流れているといわれている。そして気性難の馬が現れるたびに、こう言えるのだ。
ああ、この気性難の元凶はセントサイモンだと。
ここで馬神の説明を思い出してみよう。
『クラスが上がれば上がるほど、人間性を失う。URクラスともなると猶更ね。仮にURクラスで気性難の馬が選ばれると気性が激しすぎて、競走馬になれない可能性も出てくる。この事も念頭に入れてくれ』
URクラスの気性難の馬でも、競走馬になれない可能性もあるのだ。
では、LRクラスの伝説的気性難の馬の組み合わせではどうなるのか?
競走馬になれない気性難のサラブレットの未来なんてあれしか思い浮かばない。
「―――――――ええと。うん……あれだ。お肉にならないように頑張ってね!」
頼むからリセマラさせてくれ。
2003年3月25日。
北海道のとある小さな零細牧場に一頭の馬が生まれた。
背中が短いという特徴的な馬体を持っていたが、尾花栗毛の美しい毛並み。大きな瞳に端正な顔立ち。まるで神に選ばれたかのような美しい仔馬だった。これは美しい馬だ。誘導馬としても食っていけるぞ。と生産者たちは喜んだ。
だがその美しい瞳に人として理性が少しだけ。そして煮えたぎるような狂気があったのをまだ生産者たちは知らなかった。
私は馬だ。だがそこらの馬とは一味も二味も違う。私は神といっても過言ではない。
なぜならば、私には前世があるのだ。
私の前世は馬であった。聞いて驚け。
イギリスという当時世界最先端の競馬界で最強を誇った名馬―――セントサイモンなのである。
当時の人間どもは私を褒め称え、畏れた。セントサイモンこそは神の馬である。セントサイモンこそが世界一であると誰もが、信じていた。
だが、今はどうだ?私が死んでから数えきれない馬達が生まれては死んでいった。
そんな中セントサイモンこそが最強だと皆は思っているのか?
答えは否。
否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否!!!!!!!!!!!
誰もが私を過去の馬だと思っている!!!!私が死んだ後に、私よりも強い馬がいたと信じている!!!!!
ふざけるな!!!!私は最強なのだ!!!この地球が誕生してから最も偉大な馬!!!最も強い馬!!!!それが私セントサイモンなのだ!!!!!!!!!
マンノウォー?セクレタリアト?ネイティブダンサー?ダンシングブレーヴ?ラムタラ?
偉大なる私が没した後に誕生した馬どもなど、私の敵ではない!!!!全ては塵芥なのだ!!!!
だが嘆かわしいかな。
愚かな人間どもは、実際に競争させなければどちらが強いか理解できない哀れな生き物なのだ。
嘆かわしいかな人間どもよ。だがお前たちは幸運だ。
今生において、私の最強を証明できる当て馬がいるのだ。
その馬は私の前年の…奇しくも私と同じ誕生日だったはずだ。
極東の島国において、近代競馬の結晶などと言われていた馬がいるのだ。
何故私に未来ともいえる知識があるのかはわからない。
まるで、セントサイモンから今生に生まれ変わったのではなく、別な存在から今生に生まれ変わったのでは?と誤認してしまう時すらある。
まあ、今はそんなことはどうでもいい。
今はその近代競馬の結晶などと言われる馬の事だ。
そいつと私は歳が1つ違う。ゆえに同じレースを走れるのは限りがあるだろう。お互いの状況によっては一度も同じレースを走ることはできないかもしれない。
だが、必ず走る。
そして証明する。誰が最強なのかを。完膚なきまでに私が勝利しよう。これは勝利が決まっている英雄譚である。この極東に。そして世界に私の名前と共に勝利の凱歌を響かせよう。
くくくくく…………ははははははははは………………はぁぁはっはっははははは!!!!!!!!!
…………ところでママンよ。ミルクおいちいのでもっとくだちゃい。
転生オリ主。テンプレ転生して馬に。前世が人間であることをすっかり忘れて、セントサイモンの転生だと信じている。そもそも競走馬になれるかもわからない身の上ということは知らない。
馬神。のちに排出詐欺と訴えられるかもしない。
勝手に恨まれた可哀そうな馬。いったい何インパクトさんなんだ…!