二人、手を合わせ。畦道。   作:プルウィア応援委員会

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百合営業の生涯

「昨日、ちゃんと休んだ?」

「うん。久しぶりに、何もしなかった」

「それならいーけど」

 

 一日置いて、月曜日。その夕方。

 事務所に集まった私達は、更衣室のベンチに座っていた。

 

 何とも言えない空気。

 土曜日のことで全てが解消された……と自惚れるのは、やっぱり無理がある。瀬里奈側が解決したのに私がいつまでもうじうじしていちゃ意味が無い事はわかっていつつも、うん、謝った方が……謝るべきだと諭す自分がいる。

 

 この罅は。

 

 いずれ私達の関係性に、大きな溝を作るぞ、と。

 

「トトリ」

「え、あ。あ、なに?」

「何動揺してんの? そろそろ時間」

「あー、ああ。うん。今行くよ、ハコビ」

 

 Vの方の名前で呼ばれるとは思っていなかったから、少しどもってしまった。

 時計を見れば、確かに入りまでもう時間が無い。

 

 配信開始の数十分前からはV名で呼び合うことにはしている。普段は互いに本名で呼び合っているから、それが咄嗟に出てしまわないようにするための意識改造。その点、スタッフさん達はずっとV名呼びをしてくれている。その方が仕事と日常のスイッチの切り替えがしやすいから。

 

 ……今は、配信に集中しよう。

 けれど、彼女のプライベートに踏み込むつもりも無いから……謝る場所って、どこならいいんだろう。

 

「それと、トトリ」

「ん……なに?」

「私、また怒るだろうし、イライラした感じ出しちゃうとは思うけど……気にしないでいーから。ごめんね、この前のこと」

「……え」

 

 え。

 なんでハコビが謝るんだろう、という気持ちもありつつ、それよりも。

 

「……ハコビ、どうしたの? 素直過ぎて怖い」

「一昨日の配信の後、素直に謝る機会があっただけ。それで、なんか謝りやすくなった。それだけだけど。とゆーか、なにそれ。私が素直に謝ったら悪い?」

「いや悪いとかじゃないけど……怖い。ハコビ、ツンデレキャラだし……。配信中にまで素直ハコビになったらどうしよう。プロレス仕掛けづらい」

「ツンデレキャラって……結構しつれーな事言ってる自覚ある?」

「えー? ツンデレ好きだけどね、私」

 

 段々配信の時の空気になっていく。

 私もハコビも、終わる時はパキっと終われる方だけど、始めるときはこうやってグラデーション気味に成っていくタイプだから。

 ……謝るタイミング、逃しちゃったけど。

 

 今はこれで。

 

 

 

 

「振り返り配信でーす」

「この前のライブの振り返り配信……だけど、実はもう四日前なのよね」

「金土日って挟んだからねー」

 

 だから、興奮冷めやらぬ、なんて状態ではない。

 私達の前にはモニタが、配信に映っているのは、真っ白な空間に巨大な映像パネルが。

 そこに映るはライブのダイジェスト。全編無料だから全編映しても構わない……んだけど、再生数の集中のために元アーカイブへの誘導を作る。版権の関係上流せない曲もあるから、兼ねてのこと、だけど。

 

 で、今回の配信は珍しくハコビも座っている。透明な椅子に、だけど。私は床。しかもあぐら。

 

「そういえばさ、ハコビ。ここ、出てくるときちょっと足もつれてたよね」

「……言わなきゃバレなかったことを」

「あはは、ライブ後リプにはっ付けられてたよ。私が気付くんだから、ファンも気付くってー」

 

 駄弁りながらアーカイブを見る。

 特にアクシデントとかトラブルが起きる事はない。本当にただ見るだけだ。たまにコメントを拾って、たまに動画を止めて、この時の裏事情なんかを話して。

 

 私達は歌メインのVTuberだから、歌の上手さにはあんまり言及しない。セトリのエモさとかはちょっと拾うけど、上手なことは前提だ。

 逆にダンスとか、二人の息の合っているところとか、見つめ合ってのアイコンタクト、手を絡めたり背を預けたり、なんて部分はちゃんと拾う。歌メインといえど、百合営業もメインなのだから、そこの手は抜かない。

 曲もデュエットばかりだし、ソロ曲も二人用に譜割して歌ったりする。割合はかっこいい系三割可愛い系六割、ソロで好きなの一割といったところ。

 

 二人とも曲の好みに可愛い曲は入っていない。ハコビがギリ失恋系バラードが好きなくらいか。私はもうゴリゴリのロックとかヴィジュアル系とか、果てはデスメタルとか変な所行くと雅楽とか。変な所行きすぎた。

 だから運営さんが選んだ可愛い系を二人でちゃんと覚えて、そういう意味で曲に対しての思い入れや経験値がほぼ同等だから、苦楽を共にできるというべきか。

 

 正直なところ、二人とも恋愛の経験値というもの自体が無い。

 いやハコビがどうかは深く聞いたことは無いんだけど、それっぽい事を言っていたのでそうなんだと思う。

 

 どうなんだろう、とは。

 思う。

 

 恋愛系の歌への感情移入ができない私達は、ちゃんと表現というものができているのか。

 

「トトリさ、ここ感情入り過ぎてこっちの肩抱いて来たの覚えてる?」

「え゛……ほんとだ」

「ここ、アドリブというか、トトリが勝手にやったのよ。リハの時は普通に踊ってたから、びっくりしちゃって」

「いやー、感情溢れるとどーしてもね」

 

 アーカイブ、自分で見返したはずなのに、全然視界に入ってなかった。

 記憶になかったというか、言われるまで特別なコトだと思わなかったというか。

 

 うわ、恥ずかしい。

 しかもがっつり恋愛系の歌。可愛い感じじゃなく、ちょっとりしっとり目の。

 

 これじゃあ、本当に本気、みたいで。

 

「そしてこの温度差ね」

「いやぁ、こんだけ気持ち入った後だし。ハードロック、聞く機会ないでしょ?」

「無いわ……。半分以上何歌ってるか聞き取れないし」

「歌詞出てるじゃん?」

「出てても頭に入ってこない」

 

 それは残念。

 

 さて、ライブは佳境へと差し掛かる。

 そこまで長いライブじゃないし、最初から最後までクライマックスではあったけれど──まぁ一番の盛り上がりはここ。

 

 プルウィアのオリジナル曲、『瑞と昊と』。

 

「……もうこの辺りのハコビ体力切れてるのにさ、足とかちゃんと上がってて、偉いよねー」

「偉いって何よ。ちゃんと練習したし。通し練習、何度も何度もやったでしょ」

「だから偉いんだって。本番で練習通りに体力持たせるの、結構難しいじゃん? さっきの私みたいに気持ち入り過ぎて余分な体力使っちゃうし、緊張もあるし。私は余裕あるけど、ハコビはいつもカツカツだったからさ、凄いな、偉いなって」

「……保護者目線なのムカつく」

 

 私がソロ歌ってる時は酸素吸うくらいぜーぜーしてたクセに、強がるなぁ。

 

「お疲れ様。よく頑張りました」

「お互い様でしょ。トトリが馬鹿元気だったから、こっちも勇気づけられたわけだし」

「馬鹿元気とは」

「元気馬鹿でもいーけど? 練習の時もリハ入りリハ中リハ終わり、ライブ始まってから最後の最後までずーっと声のトーン変わらないし息切れもしてないし。化け物でしょ、フツーに」

「照れるなぁ」

「褒めてない……コトも、ないけど」

 

 コメントに「イチャイチャのせいで曲が聞こえん」とか「今盛り上がってるから静かにして」とかが溢れる。曲聞きたいならアーカイブに行けー!

 

 そんな感じで、振り返り配信は終わり。

 あとは。

 

「明日は普通に動画上がりまーす。それで、えー、あさっては?」

「明後日も動画。その次が外部コラボ」

「その後また配信でー。……えーと、あとで予定表出すから、それ見て」

「自分たちの予定くらい把握しといてよ」

「運営さんが優秀過ぎて私はダラけてるくらいがちょうどいいのだ」

 

 んじゃーねー、なんて軽い感じで。

 配信は、終わり。時間にして一時間くらいの短い配信。

 

 終了。

 

 

 

 スタッフさんによる配信終了が再三確認されて、ようやく気を抜く。

 

「ふぅ。疲れた」

「何が」

「いや、疲れるよ。こういうダラダラ配信は余計なコト言いそうになるし」

「……そう?」

「そう」

 

 更衣室へ入って、着替えをしながら。

 今日は特にアクシデントもなかったためか、いつもよりかは機嫌のいい瀬里奈と"おしゃべり"をする。

 

「九時か……」

「あ、電車大丈夫?」

「終電まではまだ余裕ある」

「良かった」

 

 まぁ逃してもタクシーとかで帰るか、なんなら私が一度家まで行って車取って来るのもアリなんだけど。乗ってくれるかどうかは別として。

 

「……悠陽さ」

「うん」

「この後、ちょっと時間ある?」

「え……え、うん。あるけど」

 

 びっくりした。

 配信後、収録後はゲームやってるかどこかへ連絡返してるか、あるいはパッパと帰っちゃう瀬里奈が、そんなことを言ってくるなんて。

 え、なんだろう。わくわくする。

 

「カラオケ。三十分だけ付き合ってくれない?」

「……カラオケ?」

 

 直感する。

 これ、私がわくわくするようなことじゃない……。

 

 

 

 

 

「うん、やっぱり。さっきアーカイブ見直した時、ここの音程変だと思ってたのよ。何が変なのかずっとわからなかったんだけど、パートが重なっちゃってる」

「あー……よくやるヤツ。でもライブ感あってよくない?」

「よくない。今回のは無料だから良かったけど、次のライブは有料だし。お金払ってくれてるんだから、完璧なもの見せないと」

「ファンはライブオンリーアレンジとか好きだと思うけどなー」

 

 カラオケで行われるは、音程をしっかり見れるモードでの、練習。

 デュエット曲のサビ、二人のパートが重なる部分で、私の熱が入り過ぎて瀬里奈のパートに入っちゃったっぽい所。

 その後、私に引き摺られる形で瀬里奈のパートもごっちゃになってる。確かにここはハモりが綺麗な所で、それがなくなっていると単調に聞こえなくもない。

 聞こえなくもない、くらいだ。曲の歌割をちゃんと理解している私達だからこそ気付く事であって、リスナーさんにわかる事じゃなあない気もする。

 

「ここ、ちゃんと歌って、それで今日は終わり。いい?」

「はいはい」

「……じゃ、行くけど」

 

 曲が始まる。

 三十分の予約だ、そうリテイク回数は重ねられない。

 

 というかまぁ、一回で十分だ。

 

 十分、だけど。

 

 ……。

 

「ちょっと、悠陽? 今のトコ言ってたんだけど、意識してなかったの?」

「え、あ。ごめん。ボーっとしてた」

「……もっかい歌いなおしね」

 

 我侭。

 もうちょっとだけ、もうちょっとだけ。

 限界ぎりぎりまで──この時間を。

 

 

 

 

 

「そして結局二時間、と」

「……えーと、いやほら、私は聞いたよ? 終電大丈夫、って」

「大丈夫じゃなかったけど、大丈夫じゃなかったのよ、歌の方が!」

「ああ叫ばない叫ばない……夜だから、夜だから」

 

 いや。

 反省はしている。最初はちょっとした悪戯だったんだけど、途中から熱が入って、今度はガリガリ外すようになっちゃって。

 あ、でも一応言い訳すると、カラオケ用の歌い方をすれば音程は合わせられるんだ。カラオケの音程診断はボイトレとかとは違うから。

 でも、それじゃあライブ感はない。ライブっぽく全力で歌った上で合わせないと意味なくない? とミニ悠陽ちゃんが囁いてきて、その。

 

 当然だけど、ライブで叫びたてるような歌い方に音程が合うはずもなく。

 デュエット曲、しっとり曲にもどんどん熱が入って行って……完璧になったのは二時間後でした。

 

「はぁ、仕方ない。タクシー捕まえるか……」

「あ、あのさ、良ければ送ってくよ。私の家近いし」

「いいわ、別に。悠陽だって疲れてるでしょ」

「大丈夫大丈夫! あ、でもここに瀬里奈置いてくわけにはいかないから、一緒にウチまで来てくれる?」

 

 それは、確実な下心。

 家に呼びたい、とかじゃない。それはまぁもうちょっと先で良い。

 

 ただ、もう少し話したい。

 それだけの――それだけのこと。

 

「……わかった。じゃ、お願いするわ」

「うん!」

 

 初めはお金目的だった。百合営業。

 

 ……うーん。

 どうやら……本当に。

 

 久しぶりの、自分からの、主体的な行動は……下心からでした。

 

 

 

 

「イイトコ住んでんのね……」

「あ、うん。一人暮らしするなら最低限はこれだ、って……」

「これが、最低限……!」

 

 車のキーを取るために家に帰らねばならず、瀬里奈を一階に置いておくのも忍びなかったので、こうして上げて。

 

 なんかすごい目で見られている。

 

「……私、悠陽を最初見た時さ、アンタの印象言ったの覚えてる?」

「あ、うん。『超お嬢様っぽい』、だよね」

「私の直感は間違って無かった」

 

 あはは、と笑い流す。

 ……家に招いたのは、失敗だったかな。

 これから……瀬里奈も、私をお金持ちの娘、と見るようになるんだろうか。

 

「何してるの? キー、探すんじゃないの?」

「あ……うん。あ、えと、お茶とかいる?」

「いいって、そんな気遣いしなくて。送ってもらうだけでも悪いのに、そこまで求めてない」

「そ、っか」

 

 そうだ。瀬里奈からしたら、こんな場所に長居したくはないだろうし。

 さっさとキーを取ってきて、瀬里奈を送って行こう。

 

「……アンタさ」

「うん」

「なんでVになろうと思ったワケ?」

 

 ……それは、珍しい。瀬里奈にしては本当に珍しい、踏み込んだ質問。

 プルウィアの募集から集まって、特に互いの詮索をするわけでもなく始まったこのユニットは、百合営業だのなんだのをしつつも、お互いの事は事務所でのソレしか知らない、という冷めきった仲だった。

 互いに不可侵。仕事の話以外、プライベートじゃ連絡さえ取らない。

 

 それが。

 

「変わってみたかったから……かな」

「……ふぅん」

 

 ここで、瀬里奈は? と。

 そう聞けたら良かったんだけど……でも、止めた。

 

 何かのっぴきならない事情が帰ってきて、帰りの車の中がお通夜ムードになるのが怖かったから。

 

 でも、あろうことか、意外に。

 

「私は、お金が必要だったのと……歌が好きで、でも自分の容姿に自信が無かったから」

「え、あ、いや、言わなくてもいいのに」

「何言ってんの。悠陽に言わせておいてこっちが言わないとか、暴君じゃん」

 

 それはそうなんだけど。

 

「だって、瀬里奈、そういう事話したがらないじゃん。あ、あと瀬里奈別に容姿とか、気にすること無いと思うよ。可愛いって思うし……」

「ぷっ、ナニソレ。口説いてんの?」

「そ、そうじゃなくて」

「今日の悠陽、いつにもましてキレがないけど。カラオケの時も、いつもだったら一発でできたでしょ? やっぱ疲れてるんじゃない?」

 

 それは下心があっての話で。

 

「……あー、どっちも悪いけど、疲れてるアンタに運転させるの危ないし、悪いしさ。……その、あんまりこういうの頼むべきじゃないとは思うんだけど……」

「な……なに?」

 

 何を言われるんだろう、と。

 身構えて。

 

「……今日、泊まらせてくれない?」

 

 ──それは、願っても無い願い出だった。

 

 

 

 

 

「パジャマ、サイズいけそう?」

「問題ない」

「良かった。じゃあお風呂溜めたから……」

「え、シャワーでいいのに」

「溜めちゃったから! あ、私ご飯作ってるから、入ってて」

「ご飯……。え、悠陽って配信の後食べるの?」

「食べないの!?」

 

 思わず叫んでしまった。

 

「ちょ、そんなにびっくりすること? っていうか夜なんだから叫ばないでよ」

「防音だからそれは大丈夫……。え、ホントに? 毎日食べてないの?」

「だって配信前にコンビニとかでご飯買って食べちゃうし」

「あ……ああ、夕飯を食べないわけじゃないんだ」

「そりゃね。食べないと倒れちゃうし」

 

 よ、良かった。

 流石にね。これだけやってて夜食べてないとか、倒れちゃうし。

 

「じゃあ、食べない?」

「疲れるだろうし作んなくていいってこと」

「ん-、でも私食べるし、一応作るよ。要らなかったら明日私が食べる」

「……じゃ、お風呂貰うから」

「うん。あ、下着」

「……コンビニで買ってくる。お風呂、先入ってて」

 

 それも、流石にね。

 

 

 

 

 瀬里奈がいない間に軽い夜食を作る。まぁ時間が時間なのであっさり系。

 鶏のお出汁とサラダチキン、ほうれん草とトマト、博多醬油に刻みレモンとお塩少々。それを煮て、茹でたお素麵を入れて、はい完成。

 

 パパっと簡単且つ彩りもあってお腹にも溜まる、けど胸焼けする程じゃない煮。

 

 瀬里奈の分は瀬里奈がお風呂から出たら素麵を入れたらいいし。

 

 ……いや、瀬里奈がこういう提案してくるなんて思ってもみなかったなぁ。

 お泊り会……ってほどじゃないけど、ウチに泊まるなんて、プライベートもプライベートだし。まぁ、私の疲労を気にして、ではあるんだけど……。

 

 それも、だよね。

 やっぱり特別、気にしてくれている。私のコンディションを。

 この前の落ち込んでるって勘違いされた時もだけど、瀬里奈は……なんか、ちょっと過保護気味?

 

「ん、美味し」

 

 今までそうだとは思って無かった。意識してなかったけど、自分の主体性を見失ってからは……彼女の行動力とでもいうべき部分が顕著に感じられる。

 私にはないそれ。今日だって自分の都合で瀬里奈を付き合わせて、自分の下心で家に招き入れて……っていうと、いかがわしく聞こえるけど。最初はちゃんと送るつもりだったし。

 

 ……でも、やっぱり。

 こっちから謝るとか、こっちから瀬里奈を心配するとか……できてない。

 凄いなぁ、憧れるなぁ、なんて。

 言うだけ言って、どうせ私はやらない。今日見せた主体性だって、下心由来だし。

 

 なんか。

 

「偉いなぁ、瀬里奈」

 

 ──その時丁度、ケータイが鳴る。

 肩を躍らせて画面を見れば、瀬里奈の三文字。

 

「え、あ、なに? お財布忘れたとか?」

『アンタじゃないんだから、そんなことしない』

「いやこの前やったじゃん」

『……いーから。オートロック外してよ』

「あ、そっか」

 

 そうだった。

 

『それと、お酒買って来たから』

「え。え、飲むの?」

『別にいいでしょ? 明日も明後日も動画投稿だけなんだし』

「……うん」

『あれ、アンタ飲めない子だっけ?』

「ううん、結構飲むよ。でも、お料理お酒に合うのじゃない……」

『そんなの気にしないから。ほら、部屋の前着いたから、ドア開けて』

「あ、うん」

 

 ふらふらと立ち上がり、ドアを開ける。

 

 そこには当然、スマホを耳に当てた瀬里奈の姿が。

 手に持つビニール袋には、衣料品と、缶のお酒が……よ、四本?

 

「なに?」

「……結構飲む気?」

「別に、飲み切れなかったら置いてくから。お風呂もご飯も貰って泊めてもらって、何にも返さないっていうのは私が嫌なだけ」

「……」

「なによ」

「いや……行動原理が瀬里奈だなぁ、って」

 

 互いに踏み込まない私達だけど。

 

 ちょっとずつは、わかってきてる感があって……いいな。

 

「私まだお風呂入ってないから、抜かないでね」

「なんでよ。先入っててって言ったのに」

「ご飯先食べてたから。あ、テーブルにあるの私の食べかけだから、ダメだよ」

「念押されなくてもわかるわかる」

 

 よし、じゃあお酒も入れて、もうちょっと深く……。

 

 踏み込んだりしないよう、気を付けよう。

 

 踏み入り過ぎて、関係を壊すのだけは……怖いから。

 

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