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曲が終わり。三人がステージの中央へと集まっていく。ステージの締めを行わなければならない。しかしこの時、フィリオプシスは既に限界を迎えていた。
極度の緊張と激しい運動はフィリオプシスを襲う眠気を促進していたのだ。鉱石病によってもたらされた症状が今この時に牙を向いた。
──まだ、スリープモードに陥るわけには。最後までやり切らねば。
二人に、もっと多くの人に迷惑がかかる。それ以上に自身に悔いが残る。そんな感情で必死に抗うもフィリオプシスの意識は徐々に遠くなっていった。彼女が最後に聞いたのは会場のざわめき声ではなく。
「大丈夫だから」
仲間の声だった。
キララをセンターに三人は揃って深く一礼をする。それに対し再び万雷の拍手が送られ照明が落とされる。ユニット甘光のステージは終わりを迎えた。
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レクリエーションから数日。ロドスの会議室の一室では甘光が再び集合していた。
飲み物をいれた紙コップを掲げてソラがいう。
「それじゃあステージの成功を祝して!」
「「「かんぱ~い!!」」」
彼女らは机の上に大量の菓子とジュースを置いて歓談を楽しむ。今日は甘光の打ち上げ会だったのだ。
キララは携帯ゲーム機でゲームをプレイしながらポテトチップスとコーラを楽しむ。
「あ~やっぱこれなんだよね~恋しかった~」
「あんまりポテチばっかり食べてたら体型変わっちゃうよ~」
「もう維持しなくても問題ないじゃんさ~」
「リミッター解除、フィリオプシス、暴飲暴食を実行します」
「も~」
そのように会話を楽しむ中、ポテトチップスを飲むように一気食いしたフィリオプシスがキララの前にやってくるじっとキララの方を見つめる。視線に耐え切れなくなるとキララは問う。
「え~と……どしたの?ゲーム、やる?興味あんの?マジ?」
「いえそうではないのです」
「違うのか~」
期待と違うことに思わず肩を落とすキララだったが直ぐに気を取り直す。
「じゃ何?」
「礼」
その場でフィリオプシスは体を折りキララに対し礼をする。非常に整った完璧ともいえる一礼だった。だがそれを受けたキララはあっけに取られ椅子ごと後ろにひっくり返りそうになる。なった。
「いった~。え、何?何何わたしなんかやっちゃいました?え、ほんとに?」
「閉幕の時です。キララは眠りに落ちる私の身体を支え。最後の礼まで私に行わせたと、ソラから聞いています。ありがとうございます。お陰でフィリオプシスは最後までフィリオプシスをやり遂げることができました」
そこまで聞いてようやくキララは得心がいった。確かに最後の集合の際にフィリオプシスが限界が来ていることを察したキララはその触手でフィリオプシスの身体を支え、その動作を補助した。そして照明が落ちた後は観客にバレないように裏手まで運んだのだ。
だがそれは特段感謝されるようなことではないと思う。なぜなら。
「……別に、私も途中思いっきりミスしかけて助けられたんだし……おあいこじゃん。ていうか私たちはパーティなんだから当たり前ってそういう話したよね?したっけ!?」
「それでも。フィリオプシスはあの時の言葉が果たされたことが、きっと嬉しくてたまらないのです」
微笑むフィリオプシスに顔を赤く染めキララは頭を抱え悩む。
「あ~……うー……ん。どう返せばいいんだよぅ」
「どういたしまして、でいいんだよ」
「どーいたしまして」
ソラから出された助け舟に乗って場を切り抜けたキララは再びゲームに視線を落とす。そしてライブ当日のことを思い出す。
あの日のことはそれほど覚えていない。覚えているには情報の圧力が強すぎた。一斉にこちらに視線を向ける観客たち、体を揺らす音、高鳴る鼓動。ウタゲやドクターたちが自分を見てるかなんて探す余裕は全くなかった。
一応終わった後の撮影会で二人が見てたということは嫌というほど理解した。恥ずかしい。特にウタゲはアレからしきりにライブ中の写真を他のオペレーターに共有している。やはりリア充は怖ろしい生物だとキララは再認識する。
本当にこのレクリエーション会は大変だったとキララはそう思う。人付き合いスキル0の自分が始めて話す相手と組み合わせられ挙句の果てに選ばれた出し物はアイドルだ。自分のような非リア充がアイドルという時点で無理を重ねすぎている。その無理を通すために繰り返したレッスンや食事制限は本当にしんどかった。できればもうやりたくないと思う。
とはいえ、とはいえだ。悪くは……なかった。辛く、しんどい戦いだったが何も得なかったとは決して言えない。
ウタゲやドクターには本当に恥ずかしかったが、可愛いとそういってもらえた。他のオペレーターにも褒めて貰えた。こんな体験はそうそうない。未だに心が熱に浮かされている。
それに何よりも仲間として……ユニットとして活動を共にした二人だ。これほどまでに一つの物事に向って努力を重ね励まし合い、感情を素直にぶつけたのは始めてだ。人間関係はからっきしと自称するキララにとってこれは快挙といえた。正直少し自分がリア充に近づけたのではないかという錯覚すら覚えたほどだ。
だからというわけではないが。今日でこの関係が終わるということに一抹の寂しさを覚えているのは事実だ。練習はきつい。あんまり人前に出たくない。だけどもだけれどもこのまま解散すればまた距離が遠のいてしまうのだろう。それはやはり嫌なのだ。
おのずとキララは口を開いていた。
「あ、あのさ…「提案なのですが、甘光のユニット活動、続けませんか?」
キララの言葉を喰ってフィリオプシスが先んじていた。
「ライブの後からイフリータから『フィリ姉フィリ姉あの衣装オレサマも着たい』だのまた衣装を着て踊っているところを見たいと要請されておりサイレンスさんからも『貴重な運動不足解消の機会だからいいんじゃないかな』と言われているのです。フィリオプシスとしても活動の継続に意欲的なのですが皆さんいかがでしょうか」
フィリオプシスの率直な欲求にソラは手を叩き喜び同意した。
「もっちろん!あたしも一回じゃすっごいもったいないと思ってたんだ!事務所が何か言って来るかもだけど絶対説得してやるんだから!」
これで二人が同意した残るは一人。二人の視線は最後の一人へと向けられた。
仲間の期待の視線を受けたキララは思わず目を逸らしてしまう。期待が重かったのではない。自分と同じことをみなが考えていことが何だか嬉しくてむず痒く。それを素直に認めるのがなんだか悔しかったのだ。口元は気を付けないと緩んでしまう。それがバレるのが嫌で少し溜めてから話す。
「ま……まあ、皆がそんなにやりたいんだったら。私もやってもいいけど。です」
次の瞬間、キララの元に二人が殺到する。キララは少し苦しかったが少しも嫌な気分はなくされるがままに天を仰ぐ。この二人やウタゲ、ドクターと一緒なら……これから更に多くの人々と共にこうして歩んでいけるのなら、鉱石病を始めとした酷いことが一杯のこの世界も甘く希望の光りに満ちた世界に変えていけるのではないかとそう思った。
でもそれはもっと先の話。ひとまず今は。
「次のライブの計画を練ろ~!」
「「おー!」」
甘光はこれからもみなと共に歩んでいく。
これにてアイドル編終了です。
ストックが切れたので次回以降の更新はしばらく途切れますがまた書けたら投稿を再開します。