キララはリア充にあらず   作:トリケラプラス

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外出2日目

    

 「やば、もう始まっちゃう。う~ん、仕方ない効率重視!」

私はかなり焦っていた。だってホライゾンハンター4の時限式クエストの始まる時間だったから。本当はもっと早くに部屋に戻ってる予定だったんだけど色々とあってこんな時間に。迷った結果自室に戻るよりも休憩室に入って素材が美味しいクエストを限界まで回ることにした。他にも人はいたけど気配を消せば大丈夫……きっと声とかかけられないって。

 ゲームを起動してクエストを受注。いざ、いざ。フィールドについた私のキャラクターは縦横無尽に駆け回りこのクエスト限定の巨大メカモンスターを狩っていく。うひょぉ~素材が美味い美味い。運営さんマジ感謝だよね~。って私がゲームに没頭していると声はかけられなかったけどなんとなく凄い視線を感じたんだ。というか体に何か当たってるような……

 気のせい気のせいと素材を集めようとするけど駄目だ。やっぱり気になる。だってどんどん圧が強くなってるもん!?気のせいじゃないよこれ!耐えかねて画面から目を離すと視線の正体は直ぐにわかった。だって。凄く見てるもん。見てるっていうか、覗き込んでるもんゲーム画面!

 覗き込んでる人は隣に座ってた女の人だ。布で最低限だけ隠したほぼ半裸のトンデモなくエッロい恰好をしてる。そのせいでおっぱいが肩のところに当たってて不味い。ウタゲの時とはボリュームと弾力が異なるけどこれはこれで……何考えてるんの私!?

 尻尾的に多分フィディアだと思うお姉さんは私が気付いたことに気付いていないようでしきりに画面の映像を眺めてる。このままじゃ居心地が悪すぎるよ。私は勇気を出して声をかけた。

 「あ……あのぉ、な、何かごよう……です、か?」

 「…………」

 ダメだ!私の声が小さすぎるのか相手の集中力が高すぎるのか全然聴こえてないっぽい。仕方ない。頑張れ私~!

 「あ、の!何かごようで!すか!?」

 よ、よかった今度は気付いてくれたみたい。おかげで休憩室にいた他の人たちの視線が一斉にこっち向いたけど……はい、陳謝。

 とにかく半裸のお姉さんは目をパチクリさせると私の顔を見て口を開いた。

 「ああ、すまない。私はエンジニア部のユーネクテスだ。お前の持っているゲーム機、の映像が気になってな。見入ってしまった。そこに写っている巨大なロボは何というものなのだ?」

 やっぱりというかユーネクテスさんはゲームに興味深々のようだ。それなら私のやることは一つ。

 「これはホライゾンハンター4っていって巨大なメカモンスターを狩ってそのパーツを奪って武器を強化して更に強いメカモンスターたちを倒していくってゲームのシリーズ最新作なんです出て来るメカモンスターはシリーズ最多の72種で新武器やステージも大量追加でBGMもめちゃアガるっていうか─」

 ここまで言って気付いた。早口めっちゃキモイなって。だって久しぶりに自分の好きな奴に触れられたから。オタクってやつはこれだからさ~。って私は心の中で自分に処刑判決を出してたんだけど向こうの反応は悪くなくて。

 「72種類!?こんなのがそんなにいるのか!?」

 ユーネクテスさんは目をキラキラさせてこっちに詰め寄ってくる。だからオッパイ当たってるって。ごめんなさい。

 「そ、そうです……顔近いです……」

 その言葉でやっと気づいてくれたのか柔らかい感触は離れた。

 「ああ、すまない。実は新しいマシーンのデザイン案に悩んでいてな。どうしたものかと思っていたところでこのメカが目に飛び込んで来たんだ」

 なるほどね。確かにホライゾンハンターのメカモンスターデザインはゲーマーの間でも秀逸ともてはやされている。そこにアイディアの元を求めるのは仕方無理からぬことかもしれない。それなら私のやることは一つだ。

 「あの……やってみます?ホラハン4」

 布教だ。マニアは常に初心者が興味を示した瞬間を見逃さない。そうして新たな人口を増やすのだ。これは義務と言ってもいい。ユーネクテスさんは驚いたみたいだけど声色は悪くなく。

 「!?いいのか!?」

 「操作わからなかったら教えますから。どぞ」

 新しいデータを作ってゲーム機を渡す。ゲーム内のムービーに逐一新鮮な驚きを見せるユーネクテスさんに私もこんな時期があったなぁって思う。操作できるようになったら一通りの基本操作を教えて進めて貰った。

 「む、武器の強化にパーツが足りないと言われたぞ」

 「あー、それはギャルペッコのパーツが必要みたい。もうちょっとしたら出てくるはず」

 「足を引きずり始めた。鹵獲タイミングはこれでいいのか?」

 「OK。よっしゃ捕獲成功ー!」

 ユーネクテスさんはみるみる内に操作が上手くなっていった。もしてもしかするとこれは凄い才能の持ち主を見つけてしまったのでは?私たちはしばらくマンツーマンでホラハン4を楽しんだ。

 「ふう、ゲームは始めてだったがこれは中々に楽しいな。ありがとう。私も買ってやるとするか」

 「本当!?やった布教成功じゃん!」

 「布教……?」

 ユーネクテスさんはよく分かってないようだがこれは喜ばしいことだった。時限クエストを棒に振った買いがあったものだ。私は久々に浮かれていた。だけど私の気分を浮かれさすのはこれだけじゃあとどまらないかった。ユーネクテスさんが情報端末を私の前に翳してくる。

 「これは?」

 「私がこれを買った後もお前に教授を頼みたくてな。連絡先を交換してくれないか?」

 「ま、マジで?」

 これは……俗に言うフレンド申請ってやつじゃあないの!?ホラハン歴7年目にしてついにリアルで協力プレイする時が来たってことなの!?

 「いやか?」

 「いやいやいやいやいやいやじゃないです!しよ!フレンド申請!」

 「フレンド申請?」

 私はユーネクテスと連絡先を交換してそれからたまにホラハン4で協力プレイするようになった。ユーネクテスの操作の腕前は最初に会った時から比べると別人のような動きでもはや私より上手いんじゃ……ってレベルだった。一狩を追えてユーネクテスがいう。

 「なあ。前から疑問だったんだが」

 『なに?』

 「どうして目の前にいるのにチャットの文字で返事をするんだ?」

 『そっちの方が雰囲気が出るから』

 「そういうものか……」

 ホントはそっちの方が気楽だからだ。最初の時は初心者布教のチャンスに舞いあがっていたけど冷静になってみるとやっぱり会話で喋るのは色々と抵抗がある。だからもう少し、もう少しだけこのままでいさせて欲しい。あ、やられた。

 「ちょっと今の攻撃理不尽だろ!?」

 「お、声が出たな」

 いつか四人プレイとかもできるのかな?なんてね。

 


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