キララはリア充にあらず   作:トリケラプラス

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アイドル活動2日目

 「それじゃあいくよ!スマイル~」

 

 『スマイルー』

 

 会議室内で三人の少女、臨時ユニットアマテラスのメンバーが向き合って笑顔を作る。始めに手本を見せたソラはプロとして申し分のない花のような笑顔を見せるも続く二人は。

 

 「キララちゃん!?顔が引き攣ってる引き攣ってる!ていうか目が凄い方向向いてるよ!?どういう感情の表情なの!?」

 

 「い、陰キャスマイル……?」

 

 羞恥と不慣れにより極東の正月に行われる福笑いのような貌になっているキララと。

 

 「フィリオプシスさんは全然表情変わってないよ!?」

 

 「エラー、この行動は非常に困難だと判断できます。」

 

 普段の無表情から一切表情が動かないフィリオプシス。

 アイドルとして必須要素ともいえる笑顔が全く作れない二人に内心頭を抱えるソラであったが直ぐに気を取り直し対策を考える。

 

 「確かに最初から笑顔を作るっていうのは難しいよね。あたしも最初の頃全然だったし。そういう時はどうしたんだったかな~。あっ」

 

 「何か思ついたの?」

 

 「うん!あたしが新人の頃にやってたことでね。家族や友達みたいな大切な人を思い出すんだ!あたしはテキサスさんを……」

 

 記憶の中の美化されたテキサスに恍惚しているソラを他所に二人はそれぞれ身近な人々を思い出そうとする。 

フィリオプシスはデータベースから大切な人にアクセスしようとした。それは記憶の薄れた家族の顔ではなくライン生命の頃から付き合いのあった二人。共に今のフィリオプシスを作り上げて来たサイレンスとこちらをフィリ姉フィリ姉と妹のようについて回る無邪気なイフリータだ。

 彼女らの顔を思い出した時。フィリオプシスは己を制御する信号に変化が起きたことを検知した。

 

 「確認を願います、フィリオプシスは今、笑えていますか?」

 

 フィリオプシスは微笑んでいた。直ぐに過ぎ去る秋のような儚さを孕んだ微笑みは幻想的な美しさを持っており。それを正面から受けたソラとキララは顔を抑え。

 

 「凄い!完璧だよフィリオプシスさん!まぶしすぎだって!」

 

 「ちょーマブイよ。……ヤバ、これあと私だけじゃん!?……ちょ、ちょっと待って!」

 

 一人取り残されたことによる焦りを得たキララは必死に大切な人に思いを馳せる。故郷の家族、ロドスに来てからの知り合い。そして、ウタゲ。親友との思い出を回想する。

あれはキララが中学に入って少し立ってからのことだった。放課後ノートを片付けようとした時に声をかけられたのだ。

 

 「ねえ。授業中に何書いてたの?ちょっと見せてよ~」

 

 「ぁ……え……見てた?」

 

 しまったとそう思った。そしてこの後キモイとかなんとか言われてクラス中に噂されるんだ。終わった……とそうマッハで諦観していたのだが相手の反応は違った。

 

 「ハハハハ何その反応~、ウケル。よく見たらアンタ可愛いじゃん。アタシ、ウタゲ。よろしく~」

 

 「へ?あ……キララ、よろしく……」

 

 思えば返って来た反応が予想よりも好意的なものだったため反動で警戒がかなり薄れたのだろう。流れでノートの端に描いていた落書きを見せることになった。

 

 「お~ウマイじゃ~ん。何、漫画家目指してんの?」

 

 「いや、これは趣味「ノート綺麗に取れてんね~。3限目の時に居眠りしてたから現国ちょっと写させてくれない?」

 

 「あ、ハイ。どうぞ」

 

 言葉を喰われたキララはおずおずとノートを差し出した。

 

 「あんがと~、そうだ写してる間暇っしょ?アタシ描いててもいいよ。なんて「じゃあ描く」

 

 「マジ?まいっか~」

 

 そうしてウタゲがノートを写し終わるまで二人で机に向っていた。しばらくするとウタゲは大きく伸びをすると傍らのキララに視線を向ける。

 

 「写し終わったよ、ありがとね。そっちは……」

 

 ノートを返しキララの手元を確認するそこに描かれていたのは。

 

 「アタシこんなに胸デカく見えてんの?マジ?」

 

 「え?ダメだった?」

 

 そこそこ上手くそして胸が若干誇張されているウタゲがいた。当時から発育のよかった彼女はキララからみると大層巨乳に映ったのだろう。ちなみに現在になるとウタゲのバストサイズはこの絵を遥かに凌駕しているのだが未だにこのネタでウタゲはキララを時折弄っている。

 それからしばらくの時が経った放課後。キララは校門で待つウタゲに駆け寄った。

 

 「ごめん……待った?」

 

 「いいよ、別に。つーか今の台詞彼氏みたいでウケんね。まーこれからデートすんのは変わりないんだけどね」

 

 「デ!?」

 

 縁遠い言葉が使われたことに激しく狼狽するキララを見てウタゲが笑っているとその背に野太い声がかけられる。

 

 「女同士でデートすんなら俺らと一緒に……へぶ!?」

 

 「エエ~!?」

 

 ウタゲは持っていた護身用の刀の鞘で声をかけて来た無粋な男の鼻っ柱を文字通り折った。これには隣にいた男も驚き。

 

 「親友ー!?おのれ何してくれと……ぐほぁー!?」

 

 ウタゲは鞘を生き残った方の男の鳩尾に叩き込んだ。二つの骸がウタゲの前に転がった。

 ウタゲは事態についていけずオロオロとしているキララを尻目に鞘を男たちに幾度も振り下ろす。

 

 「ウザッ!ウザッ!誰もアンタたちみたいな空気読めないモブ求めてないっつーのウザッ!」

 

 「う、ウタゲ……もうその辺に」

 

 「おいおいやってくれたな嬢ちゃん」

 

 声のする方向に振り返ると空気読めない男たちより輪をかけて空気が読めず、一回り年が上そうな男たちが立っていた。

 

 「そいつらは俺のしゃて「ウッザ!!」イ~!?!」

 

 「兄貴~!!」

 

 やはり鞘が叩き込まれて兄貴たちは瞬殺された。結局その後切れたウタゲに引き連れられ町の番格やヤクザ崩れを日が暮れるまで狩り続ける羽目になった。

 そんなウタゲとの思い出を元にキララは笑顔を作った。

 

 「ど、どう?」

 

 「エラー、判断に困ります」

 

 「どういう感情の表情なの……!?」

 

 「ええ……」

 

 キララの表情は先より生き生きとした。しかしながら引き攣ってもいた非常に形容しづらい表情になっていた。キララは回想を経て改めて思う。リア充って怖い生き物だ、と。

 ともあれ大切な人を思い出す作戦は半分失敗した。次の一手をどうするか。三人は頭を悩ませる。

 ソラは同じように必死に思考を巡らせるキララを見て思う。

 ──キララちゃん今も可愛いけど笑ったらもっとも可愛いと思うんだけどなぁ。

 恐らく人前で笑うという経験が少ないというのもあるのだろう。それならばもっと三人で打ち解けることを優先したほうがいいか。とそこまで考えたところである。

 

 「あ、ドクターからメッセージ。ちょっとごめん」

 

 キララの情報端末にメッセージの着信を告げる効果音が鳴った。三人は一時思考を中断してキララがメッセージを確認する。

 

 「ふんふん……や、やった……!布教成功~!!やっぱ『マグナクリムゾン』の敵も味方もTUEEEEE感ははまるよねー!うんうん……最新刊は来週でる……っと!送信!」

 

 メッセージが機嫌をよくするものだったのかキララは突然テンションを上げる。その様にソラもフィリオプシスもあっけに取られるも途中であることに気付く。

 

 「わっ、ご、ごめん。なんか……テンション上がっちゃって」

 

 「問題ありません、それよりも重要なことがあります」

 

 「重要なこと?そ、そだよね早く笑顔の作り方どうにかしなきゃ……」

 

 「それだよ!キララちゃんさっきスゴイいい笑顔になってたよ!」

 

 「え、マジ?」

 

 己が既に課題をクリアしていたことが信じられない様子のキララに対してフィリオプシスが言った。

 

 「本気と書いてマジです、フィリオプシスは先ほどドクターからのメッセージを読まれたキララさんの顔が綻ぶのを確認しました」

 

 「すっごい可愛かったよ!これならいけるね!次からドクターのことを思い出して笑顔になってみよう!」

 

 「ちょ、ちょっと凄い釈然としないんだけど……違うから!別にドクターがどうこうじゃなくて同好の士が増えたのが嬉しかっただけっていうか理解を示してくれたのが嬉しかっただけっていうか~」

 

 褒める二人にキララは頬を染めて早口の弁明を行う。これが終わればまた笑顔の特訓が再開される。だが今度は確かなコツを掴んでいるきっと上手くいくだろう。

 

 


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