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ロドス内部には当然のことながら娯楽施設も完備されている。甘光のメンバーたちが今いる場所もその一つ。カラオケルームだ。三人は歌唱トレーニングの一環としてここに来ていた。
今はちょうどキララが歌い終わったところだ。採点システムに表示される点数は92点。かなりの高得点だ。
歌い終わり額の汗を拭うキララに二人が拍手を送る。
「賞賛します、フィリオプシスの身体がリズムを刻みました」
「キララ歌上手なんだね!さっきのこぶしとか凄い良かった」
「ま、まあね。ヒトカラとか結構行ってたから……あ、今の妖怪船上のオライオンのオープニングね。チェックしといて!っと次は……」
キララは次の歌い手へとマイクを渡すために曲の目録を確認しようとする。その前に歌い手が挙手する。
「喉起動、フィリオプシスの番です。それでは一曲お付き合い願います」
流れて来た清廉なメロディラインはフィリオプシスの印象と声によく合ったものだった。一分のミスなのない音程にところどころで加えられていくテクニックに次々と点数は加算され最終的に到達した点数は。
100点。言うまでもなく満点である。
歌い終わったフィリオプシスが一礼すると残りの二人は拍手と共に感嘆の声をあげる。
「ヤッバ。パーフェクトじゃん。音ゲーもそうだけどこんなのできる奴いるんだ……」
「え、ちょっと凄すぎない!?私もこんな点数とったことないんだけど!こ……これは現役プロとして負けてられないかも……よーし、やるぞ~」
勢い勇んで次なる曲に挑むアイドル。聴く人の感情を揺さぶる可憐な歌声に採点機械は……。
99点。淡々と点数を刻んだ。
「負けた~!!」
ソラは勢いよく頭を抱えしゃがみ込むとそのまま次の歌い手であるキララにマイクを渡した。
「ま、まあ所詮機械の採点だし……」
「優越、フィリオプシス、勝利を収めました。勝てば官軍です」
「フィリオプシス!?」
その後も4時間に渡って彼女らは歌い尽くした。途中フィリオプシスが眠りについたが二人は何も言わずに宿舎までおぶって帰ったという。
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「だぁーっかれた~!もう無理!ギブ。スタミナなくなったわ。閉店閉店~」
鏡張りのレッスンルームのフロアで汗に濡れたキララがフロアに尻もちをつく。するとその首元にひんやりとした感触が当たりキララはビクリと肩を振るわせる。振り返ればソラが缶ジュースを押し当てている。
「お疲れ~。はい、オラ・オーラ」
「サンク~ス」
プルタブを引っ張り開けるとプシュっという炭酸特有の音が鳴る。キララは数拍待ってから缶に口を付けた。
「んぁ~これこれ~ついでにポテチでもあったら最高なんだけどな~」
「アイドルにポテトチップスは天敵!本番までは我慢我慢!」
「ハイハイ」
キララは半分程飲みきると触手で缶を床へと置く。
「や~全然振り付けのパターン覚えらんないわ。死にゲーのパターン覚えるほうがよっぽど楽だって。どんだけの無理ゲーよコレ……」
「キララの場合は触手がある分やることが多いからね難しいと思うよ~」
「あ~、めんどい。触手代わってくれ~」
キララはこれ以上の運動を拒否するように背中から床へと倒れ込み手足と触手を放り投げた。そしてこの部屋で寝転がっているもう一人を横目に見る。
「フィリオプシスは何か速攻で振りつけ覚えちゃったよね。記憶力良すぎか!」
「あはは、凄いよね~。ちょっと……いやかなり運動不足なのが難だけど体力つければいいパフォーマンスできるよもちろんキララもね」
「だるいけど……まあ、がんばる」
キララとソラはそのまま好きな音楽について話に花を咲かせる。するとタイマーの音が鳴った。休憩時間の終わりだ。ソラが立ち上がり、それに続いてゆっくりとキララが気だるげそうに身を起こす。
「さ、第二セット始めますか!」
「もーちょっと休憩したかったな~。けどしゃーない。まずはフィリオプシスを起こそうか」
「起きてくれるかな?」
「どーだろ」
そういいつつフィリオプシスの元までやってくると彼女の寝顔が良く見える。
「……Zzzzz……スリープモード継続中……Zzzzz……再起動までにあと五分かかります」
フィリオプシスの鮮明な寝言に二人は顔を見合わせ同時に疑問を口にする。
「「寝てるん……だよね?」」
寝言の宣言通りフィリオプシスは五分後に起床し。十全なパフォーマンスを発揮する。それに負けじと二人も奮起し。一日で彼女たちのパフォーマンスは大きく向上した。