サンドウィッチとコーヒー   作:虚人

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少女の  壱

 「二十分後に正面ゲートに集合だ」そんなことを教官に言われたのは、ISの訓練が軌道に乗り出した頃だった。いつもの軍服ではなく私服を指定してこられたあたり個人的な用であることは分かった。しかし、このようなことは教官が私の指導をするようになってからはじめてのことだ。

 

「教官、おまたせしました」

 

 言われていた時間より早く来たはずだったが既に教官はいらしていた。普段着るスーツではなく、白のシャツと青いジーンズ、そしてサングラスをかけている。

 

「いや、かまわんさ。時間はまだ余裕だ」

 

 そうおっしゃられる姿はいつもとどこか違う。少し、ほんの少しだけ柔らかく見えた。そうボーっと見ていた私に気に留めることなく歩き出した教官にあわててついて行く。向かう先は方向的に駐車場か。やはり、今日は変だ。

 

「あの、教官」

 

「ん、なんだ?」

 

「今日はいったいどのような用事で?」

 

「ああ、言ってなかったか」

 

 教官は車のロックを外しながら応えてくださった。どうやら忘れてられたようだ。

 

「旧友にな、会いに行くんだ」

 

「旧友……ですか?」

 

「そうだ、学生時代のな。今こっちに来ているようで、折角だから会おうという話になったんだ」

 

「はあ……」

 

「ん、ほら乗れ」

 

「あ、はい。失礼します」

 

 促されるままに助手席に座りシートベルトをつける。そういえば、教官はこちらの運転については大丈夫なのだろうか。ちらりと見る教官の顔はどうしてか不満そうにみえる。なんだか不安だ。

 私の不安とは裏腹に車は動きだし、軍の敷地を抜けようとしていた。教官は顔パスが通る。サングラスを少し上げ確認をとらせ、すぐに一般道へと出た。

 

「それでどこに向かっているのですか?」

 

「デュッセルだ」

 

「ここからですか?」

 

「そうだ、だからこうして朝から出ている。それと今日は泊まりだ」

 

「な……。それでは訓練が」

 

「問題無い。ちゃんと調整して組んでやってきている」

 

「……」

 

 言葉がでない。ここ最近の訓練がやたらと過激だった原因はこれだったのか。なんだか疲れた気がする。のどから出るものを溜息に変える。

 

「それでどのような人物なのですか?」

 

 教官がここまでする人物だ。実に気になる。

 

「あいつか?そうだな、いたって普通なやつだな」

 

「普通、ですか?」

 

 教官の基準からの普通とは、いったいどうなのだろうか。

 

「ああ、どこまでも普通なやつだったよ。いや、やはり違うな」

 

「それは?」

 

「あいつはこんな私と、私達となんの蟠りもなく接せられたんだからな」

 

 自虐的に言う教官は、言葉とは裏腹にその表情はうれしげであった。見たことのないその人物に嫉妬してしまいそうだ。ほんの少しだが。

 

 窓の外を流れる風景を見る。いつのまにか街路をぬけ、高速に。どうやら眠っていたようだ。重くなった瞼をこする。意識をおこし、あらためて場所わ確認する。ここは?『Hilden』その地名が目に入った。だいぶ近づいてきたようだ。

 

「起きたか」

 

「はい、すみません」

 

「いや構わん。気づいた思うがヒルデンを通り過ぎる」

 

「はい、休憩は?」

 

「いらんさ」

 

 時刻は15時。ここまで一切止まらずに来たようだ。

 

「さあもう少しだ。とばすぞ」

 

 楽しげにアクセルを踏む教官。期待に綻ぶ顔はすごく幼く見えた。

 

 車は高速からおり、繁華街にはいった。そのまま進んでいくと大きな河にでた。ライン川だ。車は河川敷に入っていく。どうやら、ここが待ち合わせ場所のようだ。

 

「ここに?」

 

「ああ、そのはずだ」

 

 車から降り、まわりをみわたす教官。私も車外に出る。吹き抜ける風が心地いい。

 

「お、こっちだ!」

 

 教官の声につられ見るとうれしそうに手振っている。方向はちょうど私の正面だ。教官の向こうだ。

 

「よお織斑、久しぶりだな」

 

 耳を通る低い声。どうやら男らしい。背伸びをしてみるとやはり男がそこにいた。帽子と逆光で顔は確認できないが体つきは良いように感じられた。

 

「ああ、本当に久しぶりだ。元気そうで何よりだよ雄哉」

 

「そっちこそ元気みたいだな。いきなり会おうなんて言うから驚いたぞ」

 

「ははは、何折角ドイツに訪れた友人がいるんだ。会いたくなるのも当然だろう」

 

 ハニカミながら教官と握手するその男はどうやらユーヤという名らしい。

 

「相変わらずだな、おまえは。それで、その子は?まさかおまえの娘とか言うなよ?」

 

「まさか、そんなわけないだろ。少し待ってくれ」

 

 教官が男から離れこちらに来る。そして身をかがめ耳打ちをしてきた。

 

「ラウラ、自分の身分は隠せ。いいな?」

 

「しかし教官」

 

「しかしではない。いいか、これは命令だ」

 

「……わかりました」

 

 何故だか知らないが教官は何かを恐れている。そんな気がした。

 

「それと、愛想はよくしておけ」

 

「りょ、了解であります」

 

 身も凍る笑みとはまさにこのことだろう。冷や汗が止まらない。

 教官のあとに続き男のもとに行く。帽子に隠れる黒色の短髪、キレ長の目から覗く漆黒の瞳、教官と同じ日本人のようだ。日本語は完璧……なはず。どうしたものか、自信が無くなってきた。

 

「紹介しよう、私の教え子だ」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、です。……よろしく、お願いします」

 

 あ、愛想よくとはなんだ?ダメだわからない。

 

「僕は桜木雄哉って言うんだ。よろしくね」

 

 ニコリと笑うその顔にはまったくの悪意も害意も感じない。何というか、こういったのはもしかしたら初めてかもしれない。

 

「しかし、教え子ってことは剣道かなんか教えているのか?」

 

「いや……まあ、そんなところだ」

 

 言葉を濁す教官にユーヤは首をかしげる。こんな教官は珍しいが、この男も大概だな。ブリュンヒルデと言われている教官が教えるとしたISが一番先に浮かぶだろうに。

 

「そっか、きみはこいつの指導を受けているのか、大変だろう?」

 

「あ、いや……」

 

「ああ、いいっていいって。こいつの教え方は一癖も二癖もあるからな」

 

「え、あの?」

 

「そういえば、飯は食ったのか?」

 

 話しを聞かない!教官が睨んでくるではないか!

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

「きょ、教官の教えは素晴らしいです!一度は落ちた私に力を示してくれましたし、導いてくれました!それに---」

 

「そっか……」

 

「あ」

 

 突然頭にのせられた手に言葉が止まる。腕に遮られてよく見えないが、ユーヤは穏やかな顔で頭を撫でてくる。不思議な気持ちだ。むず痒い……が、なぜだろうか悪い気はしない。

 

「お前も昔から変わらんな」

 

「なにがだ?」

 

「子供に甘いな」

 

「素直な子は好きだからな。それに……」

 

「……」

 

「?」

 

 一瞬、二人の間の空気が変わった。それが何を意味するかわからないが、今の私が踏み込むことではない。

それは間違いないだろう。私はまだなにも教官達のことを知らないのだから。




久々の投稿。
ラウラと桜木の出会い。

これから、すこしずつ主人公の情報を公開されていくかな?

そして知らないうちに感想とかお気に入りとか……
いや、ほんとありがとうございます。
これからも放棄はしないでやりますので、よろしくお願いします。

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